

ミニョンはまずは母親のミヒに電話を入れて、がらんとした部屋をうれしそうに眺めていた。するとそこにユジンがやってきた。ユジンは今までにないほど明るい表情をしていた。高校生のときのユジンを彷彿とさせるような、ハツラツさを見せていた。
「玄関開けっ放しよ。」
「迷わなかった?」
「うん。大丈夫。これ、引っ越し祝いのプレゼント。」
ユジンはセンスの良い置物を渡した。
「ありがとう。君が初めてのお客さんだよ。」

「あら、それは光栄ね。すごく広くていい部屋!」
ユジンが部屋に入ってくると、ミニョンは満足そうに言った。
「ミニョンだった時、家は必要ないと持ってたけど、今は家があって本当にうれしいんだ」
「でも、何にもないのね。いくら一人暮らしでも、家具は必要でしょ?プロに任せてね。わたしがセンスの良い部屋にしてあげるから」
自信満々に話すユジンにミニョンが嬉しそうに答えた。
「僕はこのままでもいいよ。だって愛する人の心が一番いい家なんだろ?家具なんてなくてもいいさ。心があるんだから。」

室内をうろうろ見て歩いていたユジンは驚いたように振り返ってにっこりと笑った。ミニョンとしてチュンサンに会って何回目かの時、仕事の現場で、ミニョンにサンヒョクとの新居はどんな感じがいいのか?と質問されたときに、ユジンが返した答えだったのだ。

そうは言っても、ユジンはミニョンと一緒にてきぱきと家具を決めて、いろいろなものが納品される日がやってきた。業者が次々と荷物を運んでくる中で、二人も張り切って荷物を整理していた。その中の一つに大型の油絵が運ばれてきた。その絵は白樺のような小道が描かれており、白いコートと赤い帽子を被った二人が、背を向けて森を眺めているというものだった。
「わあ、大きな絵ね。」
「うん、僕が描いたんだ。」
ユジンはびっくりして絵を眺めた。ミニョンはとても多才なのだな、と思ったが、同時にその絵がまるで南怡島のメタセコイヤ並木のようでもあり、二人はミニョンと自分のようにも見えるなぁとも感じていた。赤い帽子をかぶったのがユジンで、白いコートがミニョンだろうか。

二人は一緒に絵を飾ったり、ダイニングテーブルを移動させたり、ソファにクッションを並べたりした。ユジンがクッションをソファに並べていると、ミニョンが一つ一つクッションを渡してくれた。そしてクッションを渡すふりをして、ふざけてユジンの手をつかんだ。ユジンはもうっというようにミニョンをにらんだが、ミニョンがあまりに幸せそうなので、思わず微笑むのだった。

引っ越し業者が作業を終えると、ユジンはミニョンのために紅茶を入れて、二人はあの絵の前に座って一休みをした。リビングには4人掛けの白いソファが置かれ、紺色のクッションがきれいに並べられていた。壁には小舟が湖に浮かぶ油絵が飾られて、ダイニングには大きなテーブルと、椅子が六脚用意された。これでマンションが家らしくなった。ユジンはゆっくりと高校時代の話をしはじめた。担任の先生がカガメル(ゴリラ)というあだ名だったこと、カガメルが二人で授業をさぼった罰に焼却炉当番をさせたこと、、、。クイズ形式でいちいち質問されるけれど、ミニョンは何一つ答えられなかった。そのうちユジンは、
「私は優等生だったけど、あなたは不良だったわ」と言い出した。

ミニョンは僕が覚えてないのをいいことに、適当なこと言ってる、と言って二人はくすくすと笑った。その時ユジンが言った。
「大晦日の日に私があなたに貸したものを覚えている?」
「ミトン!」
ミニョンは即答した。すると、ユジンの顔がパッと明るくなった。ついにミニョンはチュンサンの記憶を取り戻したのだ。しかし、ミニョンはユジンが以前そのエピソードを話していたことを覚えていただけだった。ユジンの顔は一気に暗くなり、悲しそうにでも懐かしそうに話し始めた。
「チュンサンがね、ミトンを返すほかにも、大みそかの日に話したいことがあるって言ってたの。何だったのかな」

思い出に浸りながら独り言のようにつぶやくユジンを見ていると、ミニョンはたまらなく切なくなってきた。早く、チュンサンとしての記憶を取り戻したいのだが、なかなかそうもいかない。本当にいつか記憶を取り戻せるのだろうか。ミニョンは涙ぐむユジンを見るたびに、悲しくて悲しくて胸が張り裂けそうだった。二人の間に沈黙が広がっていった。