サンヒョクとユジンはユジンの実家を辞去して、ドライブを楽しんでいた。ユジンはすっかり気分を害しており、無表情のままぼんやりと外を眺めていた。サンヒョクは墓前に結婚の報告をしたことと、ユジンの母親に結婚資金を渡せたことですっかり気分がよくなって、にこにこして話していた。ユジンが無口になってしまったことはあまり気にしていなかった。
「ユジン、怒った?ユジンてば、本当に怒ったの?」
ユジンは仕方なく話し始めた。
「いいえ、ただ、、、」
「ただ?なんだよ」
「あなたは温かくて優しい人なのに、別人に見えることがあるの。なんでも相談もなく一人で決めてしまって、時々私はどうしたらよいかわからなくなるの、、、。
しかし、ユジンの気持ちはサンヒョクには届かないようだった。サンヒョクは何でもないというように笑った。
「大丈夫。僕を信じてついてくればいいんだよ。」
ユジンは何を言っても通じないと諦めて、あきれたように笑うしかなかった。
「やあ、今日は気分がいいなあ。ユジン、久しぶりにドライブしようよ。ユジン地図を出して。」
サンヒョクはさらにご機嫌になって鼻歌でも歌い出しそうな顔つきをしていた。ユジンはダッシュボードの中をガサゴソと探した。すると地図や書類の間に、カンミヒのピアノコンサートのパンフレットが無造作に入っていた。ユジンはドキッとして手に取って固まってしまった。
「ああ、それか。この前仕事で行ったんだよ。10年ぶりに凱旋帰国したらしい。」
「ピアニストなのね」
ユジンはパンフレットをまじまじと見つめながら思わずつぶやいた。
「何が?知り合い?」
サンヒョクが不思議そうに言った。
「ああ、イミニョンさんのお母さんなのよ、、、。」
ユジンは仕方なしに話した。
するとサンヒョクの顔色が見る見るうちに変わっていった。サンヒョクは慌てた様子で車を路肩に止めた。あまりの急ブレーキにユジンは何事かとびっくりしてしまい、運転するサンヒョクの顔を覗き込む。
「サンヒョク?!」
「今なんて?イミニョンさんのお母さんがカンミヒだって?彼女は母親なのか?」
「うん、、、」
「本当なのか?」
サンヒョクの顔は怖いくらい真剣だ。
「、、、前に会ったの。」
ユジンはためらいながら言った。偶然とは言えミニョンの親に会ったと聞いて、いきさつを知らないサンヒョクがまた嫉妬するのを恐れたのだ。彼は怒ってショックを受けているのだろうか。しかし、サンヒョクは別の意味で衝撃を受けており、ユジンの懸念には気づかなかった。彼女の言葉を聞いて、それならユジンの勘違いではないのだとサンヒョクは悟り、動けなくなった。頭の中で父親の声が響いた。
『10年前にカンジュンサンという子が、私を訪ねてきたんだ。その子が君の息子かもしれないと思ったんだ』
すべてのパズルがカチッとはまった音がした。カンミヒの息子かもしれないカンジュンサンが父を訪ねてきた。そして、カンミヒの息子であるイミニョン、、、。答えは一つしかない。サンヒョクは今すぐそれが事実かを確認しなければと思った。しかし、ユジンにはそのことを知られてはいけない。絶対に。絶対に。
「ユジン、そういえば今から中学の同級生に会いに行くんだった。ちょっと行ってくるね。」
サンヒョクはそういうと、猛スピードで車をUターンさせた。ユジンを家の近くでおろして、うちで待っているように、と告げて行ってしまった。ユジンはサンヒョクの慌てぶりに呆然としながら、彼を見送るしかなかった。最近のサンヒョクは思い付いては一人で暴走している。何も聞かずに放っておいたほうが良いだろうと考えていた。自分の事も怒ってないようだし、嫉妬にかられているようでもないので、ほっとしていた。ぼんやりしていると、南怡島に向かうバスが走ってくるのが見えた。ユジンは家に帰らずに、バスに乗ってブラリと散歩を楽しむことにした。