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冬のソナタに恋をして

発覚②



バスはユジンを乗せてゆるやかに南怡島に向かっていた。今日もバスの中は人がまばらだった。ユジンは迷うことなく一番後ろの右側に座り、今も変わらない春川の景色に目を細めた。チラリと横の席を見ると、チュンサンが照れたような笑顔で自分を見ているような気がした。不思議と今日はチュンサンが近く感じられる。ユジンはそっとバスの窓を開けて、冬の空気を吸い込んだ。春の匂いもほんのり感じられて、心が和むのだった。

その頃サンヒョクは真剣な顔で車を走らせながら、電話をしていた。
「チェリン?」
「サンヒョク。どうしたの?」
「あのさ、これから聞くことにちゃんと答えてね。」
サンヒョクの声はいつになく真剣だった。チェリンはオフィスのデスクで雑誌をめくっていた手を止めて、けげんな顔をした。
「チェリン、ミニョンさんにはフランスで会ったんだよね?」
「うん、急にどうしたの?」
「ミニョンさんはアメリカ生まれのアメリカ育ちだろ?」
「そうだけど、いったいどうしちゃったの?」
「それじゃあ、やっぱりミニョンさんはチュンサンと何の関係もないんだよね?」
「もぅっ、あなたまでどうしちゃったのよ?!」
「あなたまで?いったいどういうこと?」
「ああ、この前ね、ミニョンさんにもチュンサンについて聞かれたの。だからサンヒョクまで言うわけって思ったのよ。」
それを聞いてサンヒョクの顔色が変わった。
「そうか。ミニョンさんがチュンサンのことを聞いてきたのか。ありがとうチェリン。もう切るよ。」
サンヒョクは電話を切って考えた。自分が思っている以上にミニョンは真実に近づいているのかもしれない。頭の奥で警報が鳴り響いた。サンヒョクはアクセルを踏んで、車を急がせるのだった。

チェリンは謎の言葉を残して急に切られた電話を見つめていた。ミニョンの動揺、サンヒョクの切羽詰まった声、何かが起こっている。今すぐに確かめなければ、チェリンは心の声に従って、コートを着込むとオフィスを後にした。どこに行くのかというチンスクの声がしたが、チェリンは気もそぞろに足を早めた。
チェリンが急いだ先は、ミニョンのオフィスであるマルシアンだった。チェリンはミニョンとの面会を願い出たものの、受付の女性は申し訳なさそうに、所在はわからない、スキー場には行っていない、と話すばかりだった。チェリンは露骨にがっかりした顔をしてマルシアンを後にした。

サンヒョクは春川第一高校に着くと、すぐにカガメ(ゴリラ先生)を探した。自分は一線を越えようとしている、と脇の下が汗ばむのを感じた。カガメに挨拶もそこそこに職員室から連れ出して、資料室へと急いだ。カガメは仕事中に連れ出されてご機嫌ナナメだった。
「全く、卒業した奴らはどいつもこいつもけしからん。一生懸命指導して一人前にしてやっても、誰一人結婚式に呼ばないときてる。全く恩知らずな奴らだ。」
「先生、そんなことないです。ユジンと僕との結婚式は急に決まったんです。ぜひ来てください。」
カガメはだいぶ気分が良くなったようでにこりと微笑んだ。
「そうそう、そうこなくちゃなあ。ははは。」
2人は資料室の前で立ち止まった。今なら引き返せると思いながらも、意を決してサンヒョクは口を開いた。
「先生、本当に見てもいいんですよね?」
「本当は本人か家族以外には見せちゃいけないって知ってるだろ。」
「もちろん知ってます。ありがとうございます。」
カガメは満足そうにうなづいてまた歩き出した。こんなことは学年1番の優等生で父親が大学教授のキムサンヒョクでなければ許さなかったであろう、そんな考えが脳裏を掠めた。

二人が資料室に入ると、事務員が調べたい生徒の名前を聞いてきた。サンヒョクが「カンジュンサンです」と繰り返し伝えると、事務員は驚いた顔をして振り返った。
「カンジュンサン?」
そしてじろじろとサンヒョクを見てから、すぐに棚から資料を取り出した。カガメが
「いやに早いじゃないか」
とびっくりして事務員を見つめている。
「ええ、実はさっきもこの記録を見たいという人が来てたんです」
今度はサンヒョクが驚く番だった。
「誰ですか?」
「若い男性でした。でも本人か家族でないと駄目な規則になってるんで見せませんでしたけど。それでも、住所だけでもいいからって言われましてそれだけは教えたんです。」
サンヒョクの顔はみるみる曇っていった。イミニョンがここに来たことは間違いなさそうだった。そして、事務員から渡された書類を見て心が沈んでいった。そこには『母親:カンミヒ』と書かれていた。父親の欄は空白だった。
やはりイミニョンはカンジュンサンだったのだ。

そのころミニョンは事務員に聞いた住所をもとにカンジュンサンの家について車から降りた。そこは住宅街の一角で、家は細い路地の奥のため、だいぶ手前で車を止めて歩かなければならなかった。チュンサンの家はツタの絡まった石垣に囲まれた古い平屋だった。表札はかかっておらずだれも住んでいないようだった。緑色の門を開けてそっと中に入る。不思議なことに門にも玄関にもかぎはかかっておらず、まるでミニョンが入ってくるのを何年も待っていたようだった。ミニョンは庭の木立や家屋をきょろきょろと見渡した。物音ひとつしない静けさに、異次元の世界に迷い込んだ気分になる。

思い切ってそっと玄関のドアを開けてみた。長い間誰も住んでいない独特のにおいが鼻を衝く。まず目に入ったのはカバーをかけられたソファーだった。勉強机に小さなタンス。一応声をかけようか迷ったが、静かに中に入ってみた。奥にふたが開きっぱなしのピアノが1台置いてある。ミニョンは静かにピアノに近づいた。そしてそっと鍵盤を押してみた。


その時だった。誰かがそっと入ってくる気配がした。ミニョンは今の持ち主が来たのだろうと慌てて振り向いて驚愕した。入ってきたのは母親のカンミヒだったのだ。
「母さん?!」
ミヒはミニョン以上に驚いて自分の顔を見ていた。その表情にはすべての真実が刻まれていた。
「ミ、ミニョン?!」
ミニョンは家を飛び出した。頭は混乱して気持ちはバラバラになりそうだった。今は母親の顔を見たくもなかった。無我夢中で車に乗り込み走らせた。できるだけ母親と家、自分の知らない過去から逃げ出したかったのだ。そんなミニョンをミヒは必死で追いかけた。
「チュンサン、チュンサン!」
もう一つの名前で息子を読んでいることも気が付かないほどミヒは取り乱していた。しかし、ミヒの鼻先でミニョンは車をスタートさせると、その姿はあっという間に見えなくなったのだった。
 

コメント一覧

kirakira0611
@hinata_bocco さま、お久しぶりです♪
ありがとうございました😊
元気ですか?
またよろしくお願いします。
kirakira0611
@samsamhappy さま、ありがとうございます😊
わたしと同じような経験をお持ちなんですね。
大変でしたね。なかなか出るのは難しいですよね。
統合失調症ですよね。
たぶんこれは遅くとも30までに発症するような記憶がありましたが違うかもしれないです。
仕事も家庭も煮詰まってるので、心が折れないようにしないといけないですよね。
ありがとうございました❤️
kirakira0611
@behonestasmyself さま、ありがとうございます😊
お久しぶりです。
意外な展開でしたか?
わたしはここまでくるのに長すぎやろ⁉️と思ってました。
ありがとうございました❤️
Unknown
意外な展開です…
真相は一体…と気になって仕方がないのですが、キラキラさんのストーリーが面白いので何も調べずに続きを楽しみにしてます。
ご無理なさいませんように。
samsamhappy
おはようございます😃
毒親登場(笑)
ミニョンの車が通りを塞いで止まってるのに
ミヒは気づかなかったのでしょうか?
スターは忙しくて息子の車なんて知らないのかも知れませんが、でもあの別荘でも見てるはず(笑)
また、変な所に引っかかってすみません。
こんな大雑把な作りの韓国ドラマにハマって20年にもなります。

色々、決断するのは難しいですよね。
私は子育ても終わって、家を出ようと
○十万かけて、とある資格をとり
大事な荷物を箱に詰め仕事と家を探そうとした事もありました。まだ箱に入ったままのものもありますが、物理的に困難で現在は諦めに似た境地です。
私自身、ストレスが身体に不具合となって出やすいタイプで、オステオパシーで見抜かれました💦
キラキラさんはご自身が福祉のプロですから
何でもおわかりと思います。
お一人で抱え込まず、相談して家庭内の負の連鎖⁈を断ち切って、安心して治療と子育てとお仕事ができる環境日が来る事を祈ります。

カサンドラとかパニックとか…このまま統合○○にでもなってしまわないか心配🥲身体が悲鳴を上げた今、ご自身を助けてあげてください。

また、余計な事を言っていたらごめんなさい。
その時はスルーしてください。
hinata_bocco
うれしい😆。。。けど ご無理なきようにm(_ _)m

いよいよ、佳境ですなあ(・∀・)
kirakira0611
@usagimini さま、ありがとうございます😊
お久しぶりです。
そうなんですね。ミニョン、チュンサンて叫んでるんですねー。
わたし、吹き替えバージョンでみたので、聞き落としてますね。
写真で使っていたyoutubeがなくなってしまい、残念です。地味に困ってます(笑)
またぼちぼち再開します。
ありがとうございました❤️
usagimini
こんばんは。復帰されてうれしいですが。ご無理のないように。
この場面のミヒの動揺が面白いですね。
この時、「ミニョガ」「チュンサカ」って言ってますよね。
「ユジナ」「チェリナ」「チンスキ」親しいと、語尾の音(おん)で呼び方があるみたいですね。
あの家は、普通の民家を借りてロケしたとか。
久しぶりにうれしくて、とめどもなく書いてしまってすみません。
kirakira0611
@atsuko-kura さま、ありがとうございます😊
はいっ、ぼちぼちにしますね。
またよろしくお願いします。
atsuko-kura
楽しみにしていますが、決してご無理のないようにお願いしますね。
ボチボチで.....。
ドラマも見ましたが、ドラマよりも文章の方が好きなので嬉しいです。
kirakira0611
@breezemaster さま、おはようございます😃
コメントありがとうございます。
先日ひっそり書いたのをアップしました。
どこまで書いたのかも忘れてしまうほどに久しぶりです、、、。
またよろしくお願いします。
breezemaster
おはようございます^^
今は、個人情報の保護にうるさい時代になりました。
日本でも昔なら、有ったことかもですが、父が大学の先生って
言う肩書きは、ものを言いますよね^^;
そして、ミヒが、チュンサンと呼んでしまう
冬ソナで大きな転機を迎える瞬間、
そうだそうだと思い出させていただきました。

体調管理、お仕事、家庭、お忙しいと思います。
kirakiraさん、無理せず、またお時間ある時に、次回作
作ってくださいね
kirakira0611
@hananoana1005 さま、お久しぶりです♪
ありがとうございます😊
やっと12話後半です。ここから目線がユジンからミニョンに変わっていくところがこのドラマの面白いところだと思います。後半はミニョンの自分探しと過去への旅ですね。
ぼちぼちよろしくお願いしますね♪
hananoana1005
こんばんは😃🌃
冬のソナタの復活ですね‼️👍
キラキラさんの冬ソナは格別です❗️
表現されている通り脇に汗する場面ですね❗️結末が判っていてもドキドキしますね。
楽しみにしています。
ボチボチ更新なさってくださいね。
kirakira0611
@ajioka1025 さま、ありがとうございます😊
嬉しいです。
またぼちぼちよろしくお願いします。
ajioka1025
kirakiraさま
冬のソナタ、待ってました❗🤗
ゆっくり、ぼちぼち、無理のない範囲で投稿くださいね😉
陰ながら応援しています♡
kirakira0611
@sisyo さま、お久しぶりですー。
コメントありがとうございます😊
そうそう、職場がすごくギスギスしてます。
確かにパワハラはダメですね。
そしてアスペルガー未診断の彼女もなんて言うんでしょう。始末書レベルではすまないことをするんです。例えば会社のパソコンで買い物をしたり、マッチングアプリをやったり。常識的にやっちゃいけないことを沢山、、、。全く罪の意識なくやるんです。上司もマズイし彼女もマズイ、、、。職場が楽しくないです。
転職も良いかもしれませんね。
ありがとうございます😊
みっこさんは元気でいてくださいね‼️
kirakira0611
けいこさま、お久しぶりです。
コメントありがとうございます😊
とにかく嬉しいです。
ぼちぼち頑張ります。
楽しいブログを楽しみにしてますねー。
kirakira0611
@charlotte622 さま、お久しぶりです。コメントいつも嬉しいです。
正直アップしたのも忘れてました。わたし、ヤバイですねー。
そうなんですよね。同一人物だったんですよ。ここまで長かったですね笑
まだ12話が3回あります。
だまだ長い話になります。
ぼちぼち更新しますね。
ありがとうございました😊
けいこ
更新ありがとうございます。
当時の、夢中になって見ていた頃を思い出してます。ロケ地に行って冬ソナの世界に友だちと浸ったことも!!

大変な中 本当にありがとうございます。
charlotte622
今晩は。お久しぶりの冬のソナタですね。嬉しいです❤️無理をされないように、ボチボチ更新してくださいね。
エーッ、ミニョンはチュンサンなんですか⁉️同一人物なんですか⁉️どういうことでしょうーーーわからないんですけど‼️チュンサンは事故死したのではなかったのですか⁉️佳境に入ってきましたねえ〜‼️
杏子
sisyo
kirakiraさん✨
お久しぶりです😊
冬ソナ復活しましたね🙌
記事を拝読して心配していました💓
職場でパワハラとは。
今でも
悪しき風習が根付いている
残念な職場ですね。
条件とタイミングに問題なければ
せっかく取った資格を
思う存分活かせる環境に
転職するのもありだと思います。
公私ともに
自分を追い詰める事なく
ゆっくりやっていってね✨
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