「今ユジンと東海に来てる。明日の夜、こっちに来てほしいんだ。頼む。」
サンヒョクは何をやっているんだともいわず、なぜとも聞かず、ただこう言った。
「わかった。行くよ」
チュンサンはサンヒョクが理由を問う事なく、引き受けてくれたことを深く感謝するのだった。
「悪いな」
「ところで君はどうだ?大丈夫か?」
「大丈夫、、、うん。大丈夫だと思う」
チュンサンの全く大丈夫でなさそうな答えに、サンヒョクは一つため息をついた。
「サンヒョク、もう一つ頼みがあるんだ。」
「いいよ。なんでも言ってくれ」
「この前、ユジンと記念写真を撮ったんだ。そのことは何にも知らなくて、ユジンの家に写真を送るように手配してしまった。そろそろつく頃だと思う。悪いけど、それを彼女が目にする前に回収して捨ててほしいんだ。」
「チュンサン?!」
「僕との思い出になるようなものは何一つ残したくない。煙のように消えたいんだ。頼む。」
「、、、ああ。じゃあ明日」
サンヒョクはしばらくの沈黙の後、了承した。ソウルの空も今日は快晴だったが、サンヒョクの心は晴れなかった。これから二人は最も辛い夜を過ごすことになる、いくらかつてのライバルで憎んだ男であっても、喜ぶ気にはまったくなれなかった。
チュンサンは電話を切ってしばらくぼんやりしていた。すると背後からそっとユジンが近寄ってきた。ユジンは不思議そうにどこに電話をしたのか聞いてきたが、チュンサンは会社だと適当に濁すのだった。
「ユジン、どこに出かけてたの?」
「ちょっと買い物にね」
「拾ったお金で?」
ユジンは得意そうにうなづくと、ポケットからインスタントカメラを取り出して見せた。
「これ、去年の夏から私たちへのプレゼント。この冬を忘れないで。」
ユジンは嬉しそうに笑って見せたが、チュンサンの顔はますますこわばった。
「ここでたっくさん思い出を作ろう。このくらいたーくさん」
ユジンは両手を思い切り振り回して無邪気に笑っている。チュンサンはうっすらと微笑むのが精いっぱいだった。
『思い出になるようなものは何一つ残したくないのに』
そう思ったけれど、「ねっ?」と顔を覗き込むユジンにつられてうなづいてしまった。ユジンはさらに続けた。手に握りしめたものをはいっと渡されたのだ。
「これは私からのプレゼント。」
そっと手を広げてみると、そこには表を貼り合わせた2枚のコインが置かれていた。
「映画みたいにコインを貼り合わせてみたの。こうすれば運命なんて怖くないから。どっちに投げても結婚するっていう答えしか出ないもの。これで運命を味方につけたでしょ?」
得意そうに明るい顔で笑うユジンを、チュンサンは静かに見つめていた。そして「そうだな」とつぶやくのが精いっぱいだった。チュンサンはインスタントカメラを手にすると、ユジンの姿をたくさん撮った。
ユジンはピースしたり変なポーズをとっておどけて見せる。しかし、しばらくたつと「なんで私ばっかり撮るの?チュンサンも撮ってあげる」と無理やりカメラを向けられた。どうしても写真に写りたくないチュンサンは、必死に抵抗したが、ユジンは「笑った方が素敵よ」とカメラを向けた。