女は男次第、男は女次第

　繁華街のホームセンターへ行って、キッチン用品のコーナーで品物を見ている時、近くにいる男女のカップルの口論が、耳に入ってきた。
　声を張り上げてはいないが、どちらも険悪な口調である。　
「勝手なことばかり言うくせに」
　と、男性の声。
「ふざけんじゃないよ。あんたこそ勝手なんだ」
　と、女性の声。　
「もう、好きにしろ。おれは知らないぞ」
「ふざけやがって」
　周囲を気にしたような低い声だが、そんなやりとり。
　私は、ビックリした。男女が交互に口にしているセリフだが、まるで男同士のセリフみたいだ。
　特に、女の声で「ふざけんじゃないよ」と言う凄みのある声と口調に、私は驚愕させられた。
　チラッと見ると、３０歳前後ぐらいのカップルで、ごく普通の平均的な服装や髪型である。サラリーマンとＯＬか共稼ぎ夫婦という感じ。
　男性が持つ店内カゴの中には、生活必需品が、あふれてこぼれそうなほど入っている。
　夫婦なのか、同棲している恋人同士なのか。どちらにしても、一緒に暮らしている男女のムードがあった。
　どんなに大恋愛しても、どんなに性的な相性が良くても、男女が一緒に暮らすということは、いろいろな不満が起こるのも無理のないことかもしれない。
　けれど、逆に、大恋愛して性的な相性が良ければ、その延長上に現実生活があるのだから、考え方の違いやヤキモチや小さな喧嘩はあっても、険悪な口論なんてしないかもしれない。
　そのカップルの、男性をそのようにしたのは、その女性であり、その女性に乱暴な言葉を口にさせるのは、その男性と言えるような気がする。
　男は女次第、女は男次第である。女を可愛らしくさせるのは男であり、男を男らしくさせるのは女。ベッドの中でも外でも――と、私は思う。