喫煙を考える

「喫煙」という行為について共に考えましょう。
タバコで苦しむのは、喫煙者本人だけではありません。

第13回日本禁煙学会学術総会で口演発表しました

2019-11-18 20:29:22 | 喫煙を考える

11月3日(日)・4日(月)に、第13回日本禁煙学会学術総会が山形市で開催されました。
観光客の立場から観光地(主に自然遺産と文化遺産)の禁煙化促進について
一般演題に登録したところ口演で採択され、3日に発表しました。


以下、一部に提供者への配慮から変更したものを除いて
当日の発表で使用したスライドを解説つきで掲出します。
ただし、各スライドの解説は、より詳しい説明をつけ
禁煙化を進めた際の当ブログ記事のリンクを貼るなどしたため
当日の発表のままではないことを、予めお断りします。









私は、山と仏教彫刻が好きで、登山と仏像探訪を趣味としています。



山歩きをしていると、山火事の跡の痛々しい光景を目にしたり
山林の再生が捗々しくない場所もあったりします。
林野庁によれば、日本の林野火災のほとんどは人為的原因で起きており
落雷など自然現象によるものは稀であるという結果が出ています。
写真は、尾瀬の沼尻(ぬしり)休憩所が火事になった時の物です。
山岳地帯での出火は、消防車が入れず、水の供給源も乏しいため消火が困難で
出火を予防するために山小屋では屋内の禁煙化が進んできました。



山岳地帯では出火を防止するため、山小屋の禁煙化は比較的早く進みました。
写真の金峰山小屋も吾妻小舎も屋内は禁煙で、屋外に灰皿は置いていません。
とくに尾瀬は早くから禁煙の対策がとられ、山小屋だけでなく
木道上での歩行喫煙は禁止されており、山の鼻から竜宮までは禁煙区間になっています。



一方で、屋内は禁煙でも、屋外に灰皿が設置されている山小屋もまだまだ多いのが現状です。
北アルプスの白馬鑓温泉小屋は、受付窓口と食堂入口の間に大きな灰皿が設置され
この前を通らないと食堂やテラスには行けません。
出火防止の観点しかなく、受動喫煙防止という観点がないのでしょう。
白馬鑓温泉小屋で灰皿の利用状況を観察していると
喫煙する複数の従業員が、かなり頻繁に利用していることがわかりました。
宿泊者の利用は大変少なく、これは予想外でした。



同じ白馬村の山小屋でも、村営猿倉荘では、新支配人の赴任をきっかけに
タバコによる出火防止・受動喫煙防止・ゴミ処理問題について従業員間で話し合い
設置していた灰皿(橙色の◯の位置にあった)を、今年に入って撤去しました。
灰皿を撤去して、従業員間で問題になっていた1~5についても解決し
お客から言われていた4と5に関しても解決。
お客との間で問題も起きていないそうです。
山岳地帯のタバコによる問題が、灰皿の設置ではなく撤去で解決したことを
村営猿倉荘の事例は見事に示しており、他の施設への情報提供も有効と考えます。



では、文化遺産である神社や寺院などの状況はどうでしょうか。
文化遺産の焼失が、人々の心に計り知れない衝撃を与えることを
10月31日に起きた首里城の火災や
4月のノートルダム大聖堂の火災で痛感した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本国内では、法隆寺金堂の火災がきっかけになって文化財保護法が制定されました。
境内で開催された弘法市のタバコの不始末による火災も
過去に教王護国寺(東寺)で起き、食堂が焼失。
本尊の千手観音菩薩立像や四天王像が著しく損傷しました。



多くの文化遺産でも、自然遺産と同様に、出火防止という観点でのタバコ対策のみで
受動喫煙防止という観点が進まないままに、現在に至っています。
観光地という特性を見込んだタバコ企業の働きかけもあるのか
神社や仏閣にはタバコ企業の寄贈と見られる灰皿も多く置かれています。
世界遺産登録の施設や、修学旅行や遠足で子供たちが訪れる施設とて例外ではなく
たいていは、休憩舎やベンチ付近、トイレ付近に灰皿が設置されています。
しかし、設置した灰皿を利用した喫煙によって環境タバコ煙が生じれば
行きたいと思った施設に行くことも、そこで休憩することも
トイレを利用することもできない、即効性の急性症状を起こす方もいます。
SNSには、灰皿があることで参拝に困難を来す方の嘆きも散見されます。
受動喫煙の害は、遅効性の蓄積する害だけではありません。
目に見えた症状がでない場合でも、害はすべての人に及んでいるのです。
そこで、趣味の仏像探訪の機会を利用し、文化遺産の禁煙化を試みてきました。

*口演発表時、スライド上部の水色のベタ塗り部分に
 事前に提供者の承諾を得たうえで、SNSの発信内容を掲載していました。
 しかし、当ブログに常時掲載することによって
 提供者に影響や負担が及ぶことを考慮し、
発信内容を伏せることにしました。



こちらは、兵庫県小野市にある、快慶作の仏像がある浄土寺です。



訪問時、浄土寺の参道脇の公衆トイレ前は喫煙所になっていました。



小野市のホームページや観光情報を見ると
小野市が浄土寺を文化遺産かつ観光地として重要視していることがよくわかりました。
そこで、小野市に対して、念願だった浄土寺訪問の感激とお礼とともに
法律や条例を根拠に、公衆トイレ前の灰皿撤去と管理者に対する受動喫煙の害の啓発
浄土寺付近一帯を禁煙区域として指定する要望を出しました。



その結果、公衆トイレ前の灰皿が撤去されただけでなく
もともと小野市火災予防条例で禁煙に指定されていた境内のほかに
浄土寺周辺道路も、喫煙し、若しくは裸火を使用し
また災予防上危険な物品を持ち込んではならない場所として、新たに指定
されたのです。
この事例も、文化遺産を文化財の保護と安全な観光地という両面から
そして、火災防止と受動喫煙防止という双方の観点から対策を講じた好事例であり
文化遺産を抱える観光地・自治体への情報提供に有効と考えます。



第13回日本禁煙学会学術総会の開催地山形県内では
寒河江市にある本山慈恩寺の境内禁煙化に取り組みました。



昨年の慈恩寺訪問の際には、ご住職に境内の灰皿のことをお話しできたものの
灰皿が1.5mほど移動されただけで、状況の改善には至りませんでした。



帰宅してから寒河江市のホームページを調べてみると
慈恩寺振興課という「課」があることを発見しました。
「課」があるということは、市が慈恩寺を重要視しているということでもあります。
そこで、寒河江市長・慈恩寺振興課・健康福祉課宛てに
慈恩寺境内の禁煙化、そして浄土寺の事例のように周辺道路の禁煙化を要望しました。
寒河江市では、本山慈恩寺のご住職と話し合いを重ねてくださり
灰皿は撤去され、境内が完全禁煙になりました。



そして、こちらは世界遺産に登録されている奈良市の東大寺です。
東大寺にはたくさんの観光客のほか、修学旅行や遠足で多くの子供たちが訪れています。



これまで、東大寺大仏殿回廊西側の公衆トイレには灰皿が置かれていて
早朝や夜間を除いては、いつも大勢の人がタバコを吸っており
大仏殿拝観で整列している生徒や、写生会で絵を描いている生徒たちが
環境タバコ煙に曝されている
光景を見るたびに、心を痛めてきました。
関係各所に働きかけたものの、この灰皿はなかなか撤去に至りませんでした。
しかし、趣味もたまには役立つもの、また、ご縁というのはありがたいもので
東大寺地蔵会の折に、長老様とお話しする機会を得たのです。
この時は、灰皿のことが喉元まで出かかりましたが
ぐっと堪えて共通の知人の話題だけにとどめ
後日、改めてお手紙で灰皿撤去のお願いをしたのでした。



長老様にお手紙を出してしばらくして後、灰皿の撤去をツイッターで知りました。
東大寺の境内は禁煙になり、トイレには境内全域禁煙の掲示が貼られたのでした。
5月に東大寺に行った時には、トイレ前でタバコを吸う人を見かけることはありませんでした。
周辺にタバコの臭いは漂っておらず、子供たちが行列を作って回廊前に並んでも
園地で写生をしても、お弁当を食べても、タバコの害を被ることはなくなったのです。


上のスライドは、観光客としての禁煙化促進の主なポイントです。
これまで、自然遺産にせよ文化遺産にせよ、出火防止の観点のみが重要視されてきましたが
それだけではすべての人を迎え入れることができる場所にはなりません。
受動喫煙対策を行い、すべての人を迎え入れる場所にするためには
灰皿の設置では解決せず、灰皿をなくすことで解決すると訴えていく必要があります。

その際に重要なのは、その観光地で
1.何があったか(事実)
2.どれほど来たかったか(渇望)
3.実際に訪れてどれほどうれしかったか(本望)
4.どれほど残念だったか(失望)
5.どうしてほしいか(要望)
6.また来たいか(希望)
7.期待しているか(待望)
を、要望の際にしっかりと伝えることです。
さらに
(1)記録を写真・メモ等で残す →  事実の記録、(5)での活用
(2)その場の働きかけで印象を残す → 後日の要望の際に思い出してもらえる
(3)要望を出す → 上記1~7を丁寧で率直な言葉で伝える
(4)自治体の協力を仰ぐ → 自治体は、言われなければ問題がないものと考えている
(5)現地の状況を写真で提示 → 写真で変わることもある
(6)類似点のある成功例の紹介 → 先例・成功例があることでの安心感
(7)地元の知り合いに協力を仰ぐ → 地元の人の当事者意識を盛り上げる
(1)~(7)の方法を、状況を見ながら、ほどよい距離感を保ちつつ
気長に行うことが重要だと考えます。



観光客の立場は、一時的な関わりであるがゆえに現地との関係性は悪化しにくく
私個人の禁煙化促進の活動においては、禁煙化の成功率が高いと実感しています。
おそらく、観光客として要望を出す側の、その土地・その場所に対する愛情
__また行きたい、良い所だった、期待しているよ__
という思いに触れることで、要望を受け止める側が
要望者を観光地の支援者・協力者として見てくれることが多いのだと思います。
必ずしも好意的な回答を得られることばかりではありませんが
なにかの機会で再訪する際の布石だと、良い方向で考えることにしています。
そして、たとえ満額回答でない場合でも、多少なりとも環境が改善された時は
協力してくださった皆さんや関係各所に
「必ずまた行きます」
という言葉とともにお礼を伝えることによって
今後も継続してその地を見守る意思表示をすることもできます。


最後に、1枚の写真をご覧ください。

これは、ある寺院の境内での光景です。
灰皿が近くに置かれたベンチに座り、子供たちがお弁当を食べています。
このような環境を子供たちに残してきたのは誰でしょうか。
大人として、子供たちにこのような環境を残してしまっている責任を痛感します。
出火防止・受動喫煙防止は観光地の環境保全と人身の安全に直結する問題です。
観光客という立場は、観光地と良好な関係を保ちつつ
再訪の期待を込めて働きかけることが可能です。
その立場をおおいに活用し、全ての人が訪れることができる場所へと
各地の環境を変えていきたいと考えています。
子供たちに残してしまった、写真のような悲しい環境をなくしていきましょう。





口演発表後、とげぬき地蔵尊高岩寺来馬明規住職と、座長の森田純二医師から
コメントを頂戴しましたので、概略を掲載します。

来馬住職
「お寺に灰皿があるのは、仏教の堕落です。
 これまで、タバコは火災の原因になるということ、そればかりが主張されて
 そのためには灰皿を置かなければならない、というのがタバコ会社の常套句でした。
 しかし、文化財が燃えたとしても、文化財でしかないんです。
 仏教が、お寺が、命を守らないで、何を守るというのでしょう。」

森田医師
「私も四国にいますから、八十八箇所の霊場をお遍路さんで回ると
 いろんな所にタバコ会社が灰皿を置いている。
 お寺に灰皿を置かないように説明するのだけれど
 『せっかくもらったんだから』といって、なかなか片づけてくれない。
 でも、気がついたら、灰皿を置くことはいけないことだと
 これからも粘り強く、一つ一つ、働きかけていくようにします」


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