ゆらぎつつゆく

添島揺之歌集。ツイッター感覚で毎日つぶやきます。色調主義とコラボ。

連山の

2018-06-27 03:25:04 | 資料

連山の雪にほやかに空はれてすがるむれたりひかるこのはな    宮沢賢治


すがるは古語辞典によれば、ジガバチの古称、鹿の別称とあるが、おそらく前者だろう。

遠景と近景の交差する中で、花が光を放つというのが印象的に深い。

遠くの山は白い雪をまだかぶっている。しかし花に、おそらく小さなハチが群れている。

浅い春の喜びが、美しくにじみ出ている。


春あさきひかりしたひて花によるしろさあかるきてふてふの風    揺之





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古新聞!

2018-06-25 03:28:26 | 資料

今日は啄木である。


古新聞!
おやここにおれの歌の事を賞めて書いてあり、
二三行なれど。


報いの少なすぎた彼の人生のおいては、この程度のことが光だったのか。

本物はこういう仕打ちを受ける時代だった。今もそうだが。

何もかもが嘘に流れていく世の中で、本物の詩人が生きていくのは至難の業なのだ。


平気にてうそいつはりをいふ人の長きわらひを見つつ苦しむ    揺之





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狐のわざ

2018-06-22 03:20:18 | 資料

今日は島崎藤村をあげてみる。


狐のわざ

庭にかくるる小狐の
人なきときに夜いでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ

恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾心


ういういしい恋の思いが伝わってくる。

つゆのふさ、という五は艶をおびてみずみずしい。

若年の心におよびいでぬ妄想を呼びそうだ。


はつこひのあはくみだれし夢をとき君をとはむといでし朝かな    揺之






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雪炎

2018-06-20 03:29:09 | 資料


土手の片蔭に雪が残ってゐる、雪の上を月が照らしてゐる。
月にも色はない、雪にも色はない。
月の光と、雪の息とが縺れ合って、冷たい陽炎が立つ。
ちらちらとまぶしい、白いやうな、青いやうな、紅いやうな繊い炎が燃ゆる。
北国に行くと、雪の炎の間から白い女の顔が見えるさうだ。


河井酔茗の詩である。

雪が炎のようであるとは鋭い感性だ。

どちらもたしかに触ると痛い。

女の顔が見えるというは、人間の奥の深い記憶に根差したものであろう。


白雪のもゆる影にも指さしてあつきといひし冬の朝かな    揺之





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悲しき朝

2018-06-15 03:27:27 | 資料


河瀬の音が山に来る、
春の光は、石のようだ。
筧の水は、物語る
白髪の嫗にさも肖てる。
雲母の口して歌ったよ、
背ろに倒れ、歌ったよ、
心は涸れて皺枯れて、
巌の上の、綱渡り。
知れざる炎、空にゆき!
響の雨は、濡れ冠る!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
われかにかくに手を拍く……


今日は中也である。
春の光が石のようだということばに心惹かれる。

思い浮かぶのは風もない静かな風景だ。
こおりついたような春の朝だ。
それは容易に自分を受け入れてくれない世界の、冷たさでもあるだろう。
鳥の声すら詩人には聞こえないのか。
その絶望の深さはどのくらいだろう。


朝は来てとりさへなかぬさとやまをあふぎて浴むるしづかなひかり    揺之






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ちぎれ雲

2018-06-14 03:23:36 | 資料

今日は賢治である。


ちぎれ雲ちいさき紺の甲虫のせなかにうつる山かひのそら    宮沢賢治


「ちいさき」は古文では「ちひさき」であろう。資料の編集者が間違ったのかもしれないが、わたしはこれを賢治自身の表現ととりたい。

「ちひさき」とするより、「ちいさき」がより甲虫の小ささ、愛らしさを感じさせる。小さな甲虫の背に映る、大きな山間の空。

古いものにこだわりながら、新しい時代を呼ぶ風に、人類の希望を見出そうとしていた賢治の高き願いも感じるのである。


ゆきすぎて振り向く風をあふぐ身の目にも映らむ明日の大空    揺之





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木々みだれ

2018-06-06 03:29:37 | 資料

今日は賢治の歌である。


木々みだれかゞやく上に天雲のみなぎりわたる六月の峡


初夏の緑の風景が鮮やかによみがえる。澄んだ空気の匂いさえ感じるほどだ。

命のみなぎる世界にいる賢治の存在感を強く感じる。感性の主体が大きい。

緑の山を素手でまるのままつかむかのような作である。


高く鳴く鳥の声刺すそらあふぎ呼ぶものを知る初夏の風    揺之






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愁ひ来て

2018-05-25 06:26:55 | 資料

愁ひ来て
丘にのぼれば
名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実


今日は啄木である。

「啄めり」は「ついばめり」と読み、「茨」は「ばら」と読む。

何げない言葉の感覚がこころよい。それはこの作家の心が整っているからである。

憂愁がくれば、丘に登ってみたくなる。そこで名も知らぬ鳥が赤いばらのみをついばんでいる。

作者の心がにじんでくるように自分にしみてくる。

隣に行って、ともにその憂いを感じてみたいとさえ思う。


高空の鳥の憂ひは知らずとも君見る夢のしづけさは知る    揺之






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水あさぎ

2018-05-17 03:55:22 | 資料

水あさぎ空ひろびろし吾が父よここは牢獄にあらざりにけり    北原白秋


「牢獄」とかいて「ひとや」とルビをふる。

昨日の歌と違って、器に水が満ちるように、作家の情感が歌に満ちている。

本当の人間が、自分の心で詠った歌というのはこういうものなのだ。

白秋は、啄木と比べれば卓越した歌人と呼べないが、それだけのことをしている者と言える。


我が父よきぬに我が名を染め抜きて青空に振るわれを見たまへ    揺之






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恋ひ恋ひて

2018-05-15 03:38:12 | 資料

恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば    大伴坂上郎女


万葉集からとったので、資料に入れた。

万葉人は恋に率直だ。技巧に凝るということをあまりしない。

それもよいことだが、現代人にはこのような恋はもうちょっと無理だろう。いろいろなことがわかりすぎている。

恋をして、会えるときくらい、やさしいことばをかけてください、これからも長く続けていきたいと思うならば。

せっかく恋しい男に会えたのに、思うようにいいことを言ってもらえなかったのだろう。これを詠まれた男がどんな顔をしたか、想像してみた。


わがいもの袖にこもりし菊の香にゑひてつかのま言を忘れぬ    揺之




コメント (6)
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