ゆらぎつつゆく

添島揺之歌集。ツイッター感覚で毎日つぶやきます。色調主義とコラボ。

都会の夏の夜

2018-01-27 03:05:38 | 資料


また中也に興味を持った。


 
月は空にメダルのように、
街角に建物はオルガンのように、
遊び疲れた男どち唱いながらに帰ってゆく。  
――イカムネ・カラアがまがっている――

その脣は胠ききって
その心は何か悲しい。
頭が暗い土塊になって、
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。

商用のことや祖先のことや
忘れているというではないが、
都会の夏の夜の更――

死んだ火薬と深くして
眼に外燈の滲みいれば
ただもうラアラア唱ってゆくのだ。



飼いならされた男というのは悲しい。

荒ぶる心を鼠のように丸めて心の奥に押し込み、
羊のように生きていかねばならない。

いずれ何か暗いものに食われていくのがわかっていながら何もできない。

男になれないのではない。なろうとしないのだ。

堕落になれきった人間は、終末願望を歌いながら、文明の与える刹那の愉楽にいつまでも浸っている。


政治家が悪いといひて飲む酒にやらぬ男は腐りゆくかな    揺之






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あき風の

2018-01-19 03:05:46 | 資料

The autumn wind,
Gusting, reveals the underside
Of trailing creepers’ leaves;
Catching a glimpse into your turncoat heart
How bitter I do feel!

あき風の吹き裏がへす葛の葉のうらみても猶うらめしき哉    平貞文


あき風の吹き裏がへす葛の葉の、までは「うらみ」を呼ぶ序詞だ。
枕詞もあるが、こういう場合は序詞になる。
どういう風に訳してあるか興味を持った。

秋風
一陣の風が葛の葉の裏側を見せる
そのように君の裏切りの心を垣間見た
なんと苦いのだろう!

訳せばこういうところか。おもしろい。
秋風は心変わりをにおわせる。葉の裏を見るようにその心変わりを見る。
原文の技巧の成分が抜けて率直な男の恨みになっている。


花心散らむちぎりもみぬ人の行く末おもふわがうらみかな    揺之







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草の穂は

2018-01-14 03:09:33 | 資料

宮沢賢治に興味を持ってみた。

草の穂はみちにかぶさりわが靴はつめたき露にみたされにけり    宮沢賢治


なんということはない歌のように見えるが、読後に鮮やかな感覚が残る。

実際、冷たい露に満たされた靴を履いていた時の感覚がよみがえる。それはさわやかなほどだ。

言葉だけではない。作家が感じた霊魂の感動が染みわたっているのだ。

露に濡れた靴を感じた作者が、そののちに空をも見るような動作さえ思い浮かぶ。この人はこれから試練の道に踏み込んでいくのだ。

作者の大きさを感じる作である。


露むすぶ荒野の草を分けつつもゆふべの空に照る星を見る    揺之




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一つのメルヘン

2018-01-08 03:05:42 | 資料


中原中也に興味を持ってみた。


秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。

陽といっても、まるで硅石か何かのようで、
非常な個体の粉末のようで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもいるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくっきりとした
影を落としているのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……



現象を観察する作者の心が切ない
光を粉末だと感じる感性は痛い
二度とない経験をはがれて失踪した何かを
永遠に追いかけている幼児のような心だ

かきたてられる


石くれに光は照りて幻想の花咲き出でてこてふはよりぬ    揺之






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遊びをせんとや

2017-12-27 03:05:47 | 資料

遊びをせんとや生まれけむ
戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声聞けば
わが身さへこそ揺るがるれ

     梁塵秘抄


よく聞く詩句だが、出典はここにあった。

人間は遊びや戯れをするためにうまれてきたのだろうか。
いや決してそうではない。
だが遊ぶ子供の声を聞くと、わたしでさえ自然に引き込まれてしまうことよ。

遊ぶということは、酒や女で遊ぶことではあるまい。
おのれの手足をはちきれるほど動かして、気の合う友達と一緒に何かをやることなのだ。

そういう本当の遊びの原型が、子供の中に見える。
人間は時にそれに引かれ、子供のように遊んでしまうのだろう。


遊びせむわらはのもてるまろき石玉のごときに黒光りせり    揺之






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百千鳥

2017-12-26 03:05:32 | 資料

Many tiny birds
Sing in springtime:
All is
Renewed, yet
I am grown older.

百千鳥さへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく    よみ人しらず



ひとはよくこういう感慨を味わう。それは外国人も同じだろう。

年毎に春はすべてが若やいで見えるが、今年の自分は去年の自分ではない。

少しずつ老いていく自分がいる。

悲しいことのようで、何か美しい恵みがある気もするのだ。

去年と比べれば、心が深くなっている自分がいるからだ。


さくらばなこぞに見し夢ふりかへり千歳の春の心をぞ知る    揺之





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後世百人一首

2017-12-22 03:08:29 | 資料


明治以降の歌から、よいと思うものを選んでみた。百人もいるわけがないが、近現代の歌人にも珠玉がひとつもなかったわけではない。



玉髄のかけらひろへど山裾の紺におびえてためらふこゝろ    宮沢賢治

すきかへす人こそなけれ敷嶋のうたのあらす田あれにあれしを    樋口一葉

薄月に君が名を呼ぶ清水かげ小百合ゆすれてしら露ちりぬ    山川登美子

春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕    北原白秋

やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに    石川啄木

母君よ涙のごひて見給へなわれはもはやも病ひ癒えたり    中原中也



今見つかるのはこれくらいであろうか。年代が下がるほど少なくなる。
平成の今はほとんど皆無である。

これからの世代に期待したいと思う。


手を添へてゆかむ岸辺をとほく見てわがことをなすいうれいの昼    揺之





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いかならん

2017-12-17 03:05:57 | 資料

How deep
Amongst the crags
Should I make my home? That
The pains of this world
Not make it to my ears…


いかならんいはほの中にすまばかは世の憂きことの聞えこざらむ    よみ人しらず


この憂き世に住む人の苦しみは、国を問わずに同じだろう。

岩の中にでも住んでしまえば、嫌なことも聞かずにすむだろうかと。

そんなことを考えたことのない人間は珍しいに違いない。

Amongstはamongの文語体だ。外国人には響きがいいのだろう。古語というのは人間を不思議な気分に引き寄せる。

昔はこんなにぎすぎすしていなかったと。時を経ていくうちに人は思うのだ。


ひさかたの月のいはほはとほかりてすむものぼるもならずただ見る    揺之






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たかが女の髪ひとすぢ

2017-12-15 03:06:23 | 資料



このカテゴリには英訳短歌や現代短歌、その他の詩文などとりあげる。

今日はキャロルの詩である。


「たかが女の髪ひとすぢ」捨つべし!
 人の世の激流に浮べるうたかたなり
気づかふなかれ! 入り日浴びて
 洋々と流れゆく大河を見よ!

さにあらず! 時へたるこの一句に
 低き苦しみの叫び聞えずや?
誇りたかき男の涙こらへて
 ひとり悶ゆる声の響かずや?


原文はもっと長いが、これだけでたくさんだ。詩というのは長文を許すだけに、時に饒舌になりすぎることがある。それもまたおもしろいのだが。

要するに、あんな女のことなど考えるな、男はもっと大志をいだくべきなのだ!などという男のいじけた青二才根性を、たたきつけたものだろう。

昔からこんなことで、若造は悩んできたのだ。

大人になれば、こういうのはあきらめがついてくる。

男の人生は女で決まるものだと、負けを認める気にもなれるのだ。


わぎもこの鉢に入れたる野苺の酸きをかみつつ陽だまりに寝る    揺之






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もがみ河

2017-12-11 03:06:19 | 資料

On the River Mogami
Going upstream and down
Are the rice-boats;
Not a grain of truth –
Only this moonlight is the cause…

もがみ河のぼればくだるいな舟のいなにはあらずこの月ばかり    よみ人しらず


「もがみ河のぼればくだるいな舟の」までは「いな」を導く序詞だが、絶妙に訳してあるようだ。

Grain は穀物という意味もあり、ごく少量という意味もある。

Not a grain of truth には「穀物じゃない」という意味と「そんなのは微量も真実じゃない」という意味も生じる。

自分の愛を断るのは真実ではない。ただ月の光だけが理由なのだと。

なかなかに切ない。


稲舟のいなといへぬに月の日にならむ日になどあはむといへり    揺之





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