読書とかいろいろ日記

読書日記を中心に、日々のあれこれを綴ります。

第304号 『出星前夜』

2008年08月24日 | メルマガお奨め本
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週刊 お奨め本
2008年8月24日発行 第304号
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『出星前夜』 飯嶋和一
¥2,000+税 小学館 2008/8/4発行
ISBN978-4-09-386207-3
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飯嶋和一は寡作な作家である。
そしてまた孤高の作家である。
歴史小説の巨人という称号が奉られている。
骨太の作品が評価され、しかし直木賞を含む数々の賞を辞退している。

読者は待って待って…待ちかねるだけに、新作の報に狂喜する。
期待は裏切られない。
待っただけの価値がある。

その視線は弱きものへと向けられる。
蹂躙され、虐げられ、抵抗の手段も持たず、その意志すら奪われ、ひたすらに耐
えて従うだけの貧しき者たちが、真っ先に切り捨てられる。

島原半島には、最後のキリシタン大名有馬晴信の日野江城跡がある。半島南部の
南目と呼ばれる地には、棄教した元キリシタンたちが住む。
晴信の後継直純は、保身のため積極的にキリシタン弾圧をすすめた。南目の村人
たちは、幕府検地による表高の倍以上、信じがたい石盛りを割り当てられ、年貢
を納めさせられている。天変地異と台風、そして旱魃は、死ぬ思いの努力もすべ
て吹き飛ばした。飢餓が村を襲い、子どもから病に倒れた。

長崎の医師外崎恵舟は、南目の有家村の庄屋甚右衛門に懇願され、有家へ診察に
出向いた。そこで見たものは飢餓に苦しむ村。そして村人の苦しみなど意に介さ
ず、年貢を取り立てることしか頭にない役人たちの姿。

村人を救うどころか、代官所は恵舟を追い払った。絶望だけが残る村。
数え十九の鍬之介は、イスパニア人の血を引き、一見して異国人の面立ちのため
寿安と呼ばれている。
元キリシタンの南目の人々は、「最後まで耐え忍ぶ者は救われる」とのマタイの福
音書の教えに従い、ひたすら耐え忍んできた。けれど、子どもたちが死んでいく。
子どもたちには罪はない。抵抗しないことで、子どもたちを死に追いやる共犯で
ある大人たちを見限り、寿安は森のなかの教会堂跡に立てこもった。そして…。

齢十九の若者が起こした騒動は、甚右衛門の奔走で収まったかに見えたが、城代
家老たちの不手際と権力争いは、村人たちにいったん与えた希望をとりあげ、さ
らなる絶望へと追いやった。
ここに来て、甚右衛門は悟った。ただ耐え忍んでも無駄だと。

領民が飢餓に苦しむような悪政を改めさせるために、立ち上がった蜂起の筈だっ
た。けれど、人は弱い。蜂起衆は城下で乱暴狼藉をはたらき、暴走を始める。
人の強さと知性を信じていた寿安は、略奪と殺戮に興奮する人びとの姿に絶望す
る…。

寿安、恵舟、ついに立ち上がった甚右衛門こと元水軍衆名将の鬼塚監物。この三
人を軸に、物語は語られる。
三人の共通点は、無私の奉仕。望みは人を救うことだけ。けれど進む先はインヘ
ルノ(地獄)。

討伐軍の手際の悪さが、戦を長引かせ、単なる一揆ではなく内戦とまで位置づけ
られることに、ひいては蜂起衆の皆殺しへとつながる。
最後の最後、総攻撃の段階で、いまだ足並み揃わず抜け駆けを狙う幕府軍の体た
らく。

かそけき希望の糸を紡ぐ。
寿安星が夜空に瞬く。


ぜひ、飯嶋和一の他の著作も併せてご一読ください。
特に、『黄金旅風』は、時代的に『出星前夜』の前期にあたりますので、こちらを
先にお読みになりますと、時代をつかみやすいかと。


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『出星前夜』 飯嶋和一
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『黄金旅風』 飯嶋和一
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