とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者

2019年09月08日 15時00分00秒 | 物理学、数学
龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者

内容紹介:
本書は、一般ゲージ場理論完成の役割を担った物理学者 内山龍雄について、16人の関係者と4篇の本人による文章を通して、その全貌を掘り出していきます。

口絵に挿まれた本人のポートレートと持ち物(茶碗や置物)の写真、スケッチのほか、カバー・表紙の風景画や自筆原稿などを通して、内山龍雄の人間像をより身近に理解できるだけでなく、日本の物理学史の一断面をたどることもできる貴重な記録になっています。

内山龍雄の絶筆エッセイ「迷想記」や一般ゲージ場理論完成までの道のりを綴った「痛恨の記」も収録。

2019年8月30日刊行、220ページ。

内山先生について:
内山龍雄(うちやま りょうゆう): ウィキペディア
1916‐1990年。理論物理学者。静岡県静岡市生まれ。1940年(昭和15)に大阪帝国大学理学部物理学科を卒業後、同大の助手、講師、助教授を経て、1955年(昭和30)に教授。1954年にプリンストン高等研究所の研究員として渡米した。1978年から1980年まで大阪大学理学部長を務め、1980年退官後、大阪大学名誉教授。1980年に帝塚山大学教授、1982年より1988年まで帝塚山大学学長を務めた。1954年ごろには一般ゲージ理論を完成させていたが、論文発表が1954年に定式化された楊振寧(ようしんねい)とミルズRobert L. Mills(1927―1999)によるヤン‐ミルズ理論(非可換ゲージ理論)よりも遅れたため、ノーベル賞を逃した。一般ゲージ理論は、電弱統一理論やクォーク理論に応用され、素粒子での標準的な理論となっている。一般ゲージ理論を通じて、一般相対性理論や場の理論を広めるのに寄与した。

内山先生の著書を検索: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で425冊目。(主に理工系の人が読む本だから理数系書籍としておく。)

内山先生を存じ上げないにもかかわらず、懐かしく、温かい気持ちになる読書体験になった。地元の書店で本書を手にしたのは奇しくも先生の命日(8月30日)だった。

本書の刊行を知ったきっかけは7月に「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」を読んでいたときのこと。関連項目を検索していると目に飛び込んできたのが「龍雄先生の冒険」だ。内山龍雄先生のことだとすぐ気がついたが、ネット上に先生に関する情報は少ない。先生の訳書「アインシュタイン選集2」を2008年に読み、恥ずかしながら一般相対論の研究をされた一流の研究者だという印象しか持っていなかった。そして「一般相対性理論 (物理学選書 15) : 内山龍雄」と「一般ゲージ場論序説 (岩波オンデマンドブックス): 内山龍雄」(単行本)を購入し、積読状態が現在に至るまで続いている。そして先生が訳されたワイルの「空間・時間・物質 (ちくま学芸文庫)」は上巻の中ほどで挫折したまま、パウリの「相対性理論(ちくま学芸文庫)」は積読状態だ。

本を読むときには人物像を気にするものだから、たいてい画像検索をしている。(内山先生を画像検索)現在では最初に表示されるプロフィール写真が一枚だけで、残りの写真はすべて他の方のものばかりである。この写真はこのページを見るとわかるように、2010年以降に掲載されたものだ。2008年頃に検索したときは先生のお顔を見ることができなかった。僕にとって内山先生の人物像は謎だったのである。

本書の紹介

本書の巻頭には1964年に先生が「Gravity Research Foundation賞」を受賞された頃の白黒写真が1枚、そして帝塚山大学で学長をされていた1982年頃のカラー写真が2枚掲載されている。厳しさと優しさ、そしてちょっと意地悪そうというのが第一印象である。本書は関係者の回想録、思い出話を集めたものだから、僕の印象は合っているのだろうか?そのような気持ちで読み始めた。読み終えたところ「熱血漢」、「情熱的」、「豪放磊落」、「寂しがり屋」、「繊細な気遣いとサービス精神を発揮する方」という印象が付け加えられ、「意地悪そう」は「いたずら好き」に変わった。ひとことで言うと「天才のジャイアン」である。「内山」という内気そうな姓とは真逆で、「龍雄」というお名前がぴったりだ。

先生がお生まれになったのは1916年、一般相対性理論が発表されたのが1915年から1916年にかけてである。1906年生まれの朝永振一郎先生より10歳年下、1918年生まれのファインマン先生とほぼ同世代の物理学者だ。もしご存命であれば、今年103歳をお迎えになっていたはずだ。

本書に寄稿されているのは、主に先生の教え子、そして長年秘書をされていた方などだ。教え子といっても、すでに定年退官された方がほとんどで、お名前から「大御所」の先生方、錚々たる顔ぶれだとわかる。そのような先生方がお若い頃、内山先生から怒鳴られたり、叱られたりしながら学生生活、研究生活をされていたのだ。寄稿されているのは、謝恩会で話されるようなことである。

本書は窮理舎から刊行された。この出版社の本を購入するのは初めてだった。ホームページとツイッターアカウントとは次のとおりだ。「窮理(きゅうり)」とは、物事の道理・法則をきわめるという意味の用語、自然科学、物理学のことである。

窮理舎
ホームページ: https://kyuurisha.com/
ツイッター: @kyuurisha

本書の構成は次のとおり。

まえがき
内山龍雄先生の略歴
先生と犬印の缶づめ

第1話~第80話

耳に残る先生の怒鳴り声

さらば、お嬢さま学校
大学教育管見
痛恨の記
迷想記--統一場理論に誘われて--

さようなら内山先生

著作論文一覧
略年譜
執筆者紹介

読後の感想

80話の逸話集の前半には「笑える話」が多い。僕の笑いのツボを直撃したのは、次の話だった。

第18話:熱血派教授
第20話:車は運転したし、されど車は大事にて使いたくなし
第26話:仰げば尊し
第38話:美人秘書
第39話:ぼくらの宇宙探検

あと、全体的に先生が「家内には内緒なのだが」とおっしゃり、奥様に内緒にしていることを教え子や同僚に口止めする逸話がいくつかあったのが可笑しかった。恐妻家ということではなく、「奥様への気遣い」と「知られたくない」というお気持ちの中間だったのだろうと想像しながら読んだ。

「第57話:先生の書かれた教科書の序文から」には理系の学生向けの相対論の教科書「相対性理論(岩波書店)」(「岩波新書の相対性理論入門」のほうではない)の序文に「もし本書を読んでも、これが理解できないようなら、もはや相対性理論を学ぶことはあきらめるべきであろう。」という有名な一節が書かれている。この逸話の中で先生は「最近の学生が自分に合わせて本を選ぶお手軽な勉強法はだめで、難しくても本物の本を何度も何度も読んで最後まで読み進め。」とおっしゃっている。「学生に寄り添って書かれたわかりやすい本」ばかりブログで紹介している僕には耳が痛い逸話だった。

学生紛争は僕の小学低学年の頃のことで、うっすらとした記憶しかないが、当時の雰囲気がよく伝わってきたし、教室に立てこもる学生たちに体当たりしていく内山先生のお姿が目に浮かぶようだった。

僕が懐かしいと感じたのは、先生が帝塚山大学の学長をされていた頃のことで、それは僕が東京理科大生だった時期と重なるからだ。当時の学生気質、大学のレベルを実感として知っていたこと、それ以前の時代の国立大学の学生に比べると質的にも軟弱化していたこと、当時の女子大、俗にお嬢さま学校と呼ばれる大学の女子学生がどのようだったかを知っているだけに、内山先生のお気持ちがよく理解できたからだ。「ぶりっ子」という言葉が当時からあったのだということと(元祖ぶりっ子の松田聖子さんを思い出しながら)、30年以上前の学友たちの姿を思い出していた。女子大の授業での私語の多さ、教室に異性がいると女子学生は襟を正すという先生のお考えは、当時でも今でも僕にはよく理解できる。

また、ユリ・ゲラー、サッチャー首相、土井たか子さんらが登場する逸話を通じて、僕は内山先生と同じ時代の空気を共有することができた。小学生のとき僕も真剣にスプーンをこすっていた。

僕が在学していた東京理科大学にも、授業中にチョークを投げつける先生はいた。その先生は履いていたスリッパを学生に投げつけたり、嫌気がさして退出する学生を走って追いかけたこともあった。あれが熱血漢だったとは思えないが、内山先生がチョークを投げつけた話を読んで、その先生のことを思い出した。教授と学生が体を張って向き合えていたのは昔のこと。古き良き時代の話である。いまの大学でそんなことをする先生がいたら、SNSで炎上するのは間違いない。このあたりは僕の胸が熱くなるツボだ。本書にはこのように「ほろっとする話」が満載である。

担当教官の伏見康治先生(1909年-2008年)から与えられた課題を「くだらないテーマ」とお考えになったり、ついに超えることができなかったディラックに対して「啖呵を切ってやりたかった」と最期のお気持ちをお話しになるなど、お若い頃から晩年まで本業の世界でチャレンジ精神を持ちづけていらっしゃったことに、心を打たれた。そのお気持ちは本書最後のほうに先生による「痛恨の記」、「迷想記」など4編の文章としてもお読みいただける。

本書は内山先生のお人柄、教え子や先生を知る方々による貴重な記録である。高校生、大学生にも読んでいただきたい。

本書の評判: ツイッターで検索してみる


著書と訳書

先生の著書・訳書はたくさんあるが、ここには代表的な教科書を載せておこう。僕もいずれ読破してみたい。

相対性理論 (物理テキストシリーズ 8):内山龍雄
一般相対性理論 (物理学選書 15) : 内山龍雄
一般ゲージ場論序説 (岩波オンデマンドブックス): 内山龍雄」(単行本
  

内山先生の著書を検索: 書籍版 Kindle版


関連記事:

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e


メルマガを書いています。(目次一覧


応援クリックをお願いします。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 

 

 

龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者


まえがき
内山龍雄先生の略歴
先生と犬印の缶づめ

第1話:周りはバカばかり
第2話:無礼者
第3話:再々試験
第4話:内山先生の精神年齢
第5話:一日貸本屋
第6話:大将の隣は二等兵
第7話:食後の食事
第8話:お饅頭
第9話:オーイ、うまくやっとるか
第10話:大雨の日の遠足
第11話:雷をよぶ男
第12話:犬印の缶づめ
第13話:犬印の缶づめ
第14話:ちょっとこっちが少ないかな?
第15話:ダイヤモンド
第16話:カメラ
第17話:鍵穴覗き
第18話:熱血漢教授
第19話:N極が見えるぞ
第20話:車は運転したし、されど車は大事にて使いたくなし
第21話:授業風景
第22話:よい研究をするには、まず肉を食え
第23話:コロキウム風景
第24話:推薦状?反推薦状?
第25話:電話で誰かが喧嘩していますよ
第26話:仰げば尊し
第27話:声の大きさ
第28話:陶芸
第29話:銀行振込
第30話:馬が消えた
第31話:君この問題をすぐ解きたまえ
第32話:武士に二言なし
第33話:ユリ・ゲラー
第34話:お好きな食べ物
第35話:先生が翻訳された本の序文から
第36話:先生、やっと目が覚めました
第37話:女を諦めるか
第38話:美人秘書
第39話:ぼくらの宇宙探検
第40話:女子大の先生
第41話:量子力学と一般相対性理論とでは、どちらがお好き?
第42話:対偶は真?
第43話:ぶりっこになれ
第44話:物理屋には、岩波新書の『相対性理論入門』は難しい?
第45話:Going my way
第46話:超空間
第47話:目には目を歯には歯を
第48話:カメラ
第49話:運転免許講習
第50話:刑務所
第51話:無礼者2
第52話:内山先生の大声
第53話:先生の特技
第54話:忘年会
第55話:車のこと
第56話:バーベキューのこと
第57話:先生の書かれた教科書の序文から
第58話:大学紛争のころ
第59話:講義風景
第60話:四年生ゼミ
第61話:拾円硬貨収集のこと
第62話:コロキウム風景2
第63話:論争の果て
第64話:論文投稿を遅らせた後悔
第65話:一般相対論の基礎
第66話:叱られて成長する
第67話:お礼
第68話:グッドランナー
第69話:遅いぞ早く上がってこい
第70話:内山先生って愛されているんだねえ
第71話:重力のゲージ理論
第72話:内山先生の人となり
第73話:可笑しな詫び方
第74話:先生と大鵬と力道山
第75話:先生と豚まん
第76話:談話室
第77話:松江の内山先生
第78話:≪龍雄先生復活す!!≫
第79話:心残りな事
第80話:最後に望まれた絵画 モネの睡蓮

耳に残る先生の怒鳴り声

さらば、お嬢さま学校
大学教育管見
痛恨の記
迷想記--統一場理論に誘われて--

さようなら内山先生

著作論文一覧
略年譜
執筆者紹介

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« QED: The Strange Theory of ... | トップ | 時間は存在しない: カルロ・... »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (清水秀高)
2019-09-11 13:14:23
こんにちは

内山氏に関する思い出は、主に2つあります。

先ず、約30年前に彼の岩波の相対性理論を趣味で読もうとして挫折したことです。これを読んでも解らなければ諦めろの言葉に従い、天才アインシュタインの発想が素人の凡人に判るはずないと、一旦諦めました。その後、相対性理論関係の本を4冊ほど読み、その他の物理や数学の知識も昔よりは増えたおかげで、今では、彼の本の主旨は理解できるようになったかと思います。でも、初めて読んだ時の雲をつかむような別世界観は今でも忘れられません。

もう1つ、阪大で博士論文の審査員が内山氏だったという阪大卒の方から、内山氏のことを聞いたことがあることです。
彼が言うには、講義での内山氏は神ががっていて何も見ないで黒板に数式をすらすら書いていったそうです。また湯川秀樹の講義で湯川の間違いを指摘したこともあったそうです。また、内山氏は、湯川の所属している大学のことを脳が汚染されている大学と言ったり、湯川の晩年の研究を凡庸と公言したり結構喧嘩売ってたみたいです。ちなみに、上記の私の知人は湯川とも面識があったようで、湯川が国からの予算取りに苦労していたとのことです。この国はノーベル賞学者が研究費に困る国だったのかと唖然としましたが。

内山氏は、破天荒で面白い人だと思いますので、貴殿が今回推奨された本を読んでみたいと思います。
返信する
清水様 (とね)
2019-09-11 20:39:50
清水様

コメントありがとうございます。
現在ではやさしめの(それでも難しいですが)相対性理論の本が何種類も刊行されていますが、岩波の相対性理論が出たときはどうだったのかな?と思います。

学び続けることで一度挫折した本を理解できるようになるのは嬉しいですね。僕も見習いたいと思います。

湯川先生に喧嘩を売るなんて、とても自信がないとできることではありません。惜しくもノーベル賞を逃してしまいましたが、本当に惜しいと思います。
返信する
そういえば (hirota)
2019-09-12 19:55:07
湯川先生の素領域理論はハイゼンベルグの原物質理論よりも無理筋とか、あちこちで聞いたような。
みんなダメと思ってたようですね。
返信する
Re: そういえば (とね)
2019-09-12 20:56:57
hirotaさんへ

中間子理論はホームランでしたが、湯川先生の素領域理論は不発だったのですよね。この理論は物理学とは関係ない形で完成されてしまったようですが。。。

"魂の構造が説明できる"素領域理論とは? 物理学者・保江邦夫教授に取材! 臨死体験も説明可能!
https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201512_ka/

返信する
これまた (hirota)
2019-09-12 21:48:29
もはやニセ科学からも落ちこぼれてますね。
返信する
Re: これまた (とね)
2019-09-12 22:03:57
hirotaさんへ

そうなんですよ。「数理物理学方法序説(日本評論社)」を書いていた頃はふつうだったのですが、その後なぜ、このような方向に行ってしまわれたのか不思議に思うのです。ただし、現在も先生のコアなファン、信奉者は少なからずいますので、ネット上での書き方には注意を払っています。

数理物理学方法序説(日本評論社):保江邦夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5b711f83f0c78de8c26b1ee1661be18d
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

物理学、数学」カテゴリの最新記事