
掲載画像:趣味で物理学
この「趣味で物理学」は物理マニアなら知る人ぞ知る「EMANの物理学」中の「力学」と「電磁気学」の部分を本として出版したものだ。
著者の広江氏は会社員で文字通り物理学を趣味としている。同じ会社員として彼のようなサイトを作れればなと思っていた。僕にしてみると憧れ的な存在で以前からこのサイトのファンだった。
本の内容はほぼそのままサイトから読める。
力学や電磁気学は「古典物理」で高校や大学で勉強する。いまさらニュートン力学を勉強するのもなと思ったのだが読み始めてみるとなかなか面白い。
高校の物理で疑問に思ってもそのまま放ったらかしになっていた「力や運動量、エネルギー、質量などの本質」や「何が自然法則の根幹をなしているのか」ということを素人なりにニュートンの運動方程式(F=ma)をいじり回しながら追求していくのだ。
古典力学という範囲で数々の物理法則を統一してみようという試みを、数式の展開のみでチャレンジしていく意欲的な本である。高校の範囲の物理がこれほどまでの広がりをもって語られるとは予想だにしていなかった。
語り口も軽快で、それでいて謙虚さを忘れていないのがにくいと思った。
電磁気学はマクスウェルの4つの方程式でほとんどすべてを説明できる。広江氏はこの基礎方程式をどんどん変形して、普通の電磁波の伝わるイメージにとどまらず、光の速度で運動する電子がつくる電場や磁場の様子さえ見せてくれるのだ。
電磁波は目に見えるものではないから、初心者にはこの分野では何が実在するもので、何が説明のための概念として導入されたものかということがわかりにくい。
電磁気学ではベクトルポテンシャルという概念を導入すると方程式がすっきりしてわかりやすいのだが、最終的にはあたかもベクトルポテンシャルや電気力線が実在するのでは、というレベルに到達する。自分で不思議に思ったことは放っておかず、納得がいくまで式をいじりまわしながら追及していくというのが彼のスタイルだ。
特に電磁波にエネルギーや運動量があるということをマクスウェルの方程式からだけ導出したのをみたときすごいと思った。もちろんこれは先人たちが既にやってのけた仕事だが、広江氏の説明のほうがはるかに説得力がある。彼の謙虚さの中には「それでも僕が自分で解明してやるんだ!」という意気込みが感じられる。
本書は「力学」と「電磁気学」を述べたものだが広江氏の視点はそれらにまたがる本質を追求しようとする「統一理論」だ。電磁波から運動量やエネルギー、電場や磁場の要素から構成される応力テンソルなど、力学的な法則を導いているところに理論派としての主義を通している。
自然法則に哲学や神の存在、精神論などを持ち込むことを僕は好まない。しかしそれらを可能な限り排除しつつ、法則を追求する果てに得られる方程式があまりに整然としていたり普遍的であったりすると、この世界の理性や創造主のもくろみのようなものを感じられるようになる。
力学や電磁気学のような古典物理だけでも、そして学者であろうと素人であろうとこのような自然法則の神秘を感じることができるのだということを広江氏は本書で自ら読者に示している。
「ファインマン物理学」にせよこの「趣味で物理学」にせよ著者が楽しみながら書いている本は読者にちゃんと伝わるものだ。
ところでネットで得られる情報をわざわざ本から読むことには次のようなメリットがある。
1)読む場所を選ばない。
2)本のほうがちゃんとした数式の活字を使っているので式が見やすい。
3)「前書き」や「後書き」にネットには掲載されていない出版の背景が書いてある。
4)本の売り上げで著者に恩返しできる。
本家「EMANの物理学」ではこの「力学」、「電磁気学」の後「解析力学」、「熱力学」、「相対性理論」、「量子力学」と続いている。
なお、この本は網羅的に説明した「教科書」ではないので、一通り教科書や一般書で該当の分野の勉強をしてから読むとよい。
「EMANの物理学」はたった1人の個人が書いているサイトだが、複数の人が書いている「物理のかぎしっぽ」というサイトも有名である。