「波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯」
内容紹介:
原著者Louis de Broglie氏ハ人ノ知ル如ク物質ノ波動的半面ヲ理論的見地ヨリ予見シタ仏国ノ独創的天才デアル。彼ガ己ノ拓イタ物理学ノ新分野ノ基本的部分ニ就テ懇切ニ説述セル此ノ高名ナル一著ヲ本邦ニ紹介スル事ノ許サレタルハ訳者ニ取ツテ大イナル喜デアル。本著ハ正シク新力学ニ於ケル輝ケル古典トモ謂ウベク之ヲ読了セズシテハ今日ノ量子論ヘノ入門ハ拒マレテ居ルトサヘ称サレテ居ル。(譯者附記より抜粋)
1934年(昭和9年)11月刊行、344ページ。(原著は1930年刊行)
著者について:
ルイ・ドゥ・ブロイ:ウィキペディアの記事
1892年8月15日 - 1987年3月19日
フランスの理論物理学者。博士論文で仮説として提唱したド・ブロイ波(物質波=電子の波動性)は、当時こそ孤立していたが、後にシュレディンガーによる波動方程式として結実し、量子力学の礎となった。
ルイ・ドゥ・ブロイ博士の著書: Amazonで検索
譯者について:
渡邊慧(わたなべさとし): ウィキペディアの記事
1910-1993年。東京帝国大学理学部卒。渡欧してド・ブロイ、ハイゼンベルク、ニールス・ボーアらに師事・親交した世界的理論物理学者。著書に『時間の歴史』『知るということ』他がある。
「第59回 神田古本まつり」でたまたま見つけ、たった400円で買った本。ずいぶん古いなと思いながら著者を確認してびっくり。背表紙には量子力学創成期の理論物理学者の名前が金色の文字で光っていた。物質波(ド・ブロイ波)提唱の功績により1929年にノーベル物理学賞を受賞したルイ・ド・ブロイ博士による著作。翻訳のもとになった原著は翌年の1930年に刊行されている。
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そして訳者を見てさらにびっくり。ド・ブロイ、ハイゼンベルク、ボーアに、師事・親交した量子力学の輝ける巨星、渡邊慧博士である。1910年生まれだから24歳のときにこの日本語版を刊行したことになる。ウィキペディアには「1933年、フランス政府留学生として渡仏、パリでド・ブロイに師事し、熱力学の第二法則と波動力学の研究を始める。」と書かれている。博士の著書はこのブログでも6年前に「時:渡辺慧」を紹介させていただいた。
値段が値段だけにお宝本なのかは自信がないが、レア本であることには違いない。国会図書館にはもちろんあるが、この本を所蔵している大学は少なそうだ。アマゾンには中古本としても登録されていないから、いつものように書名にリンクをつけることもできない。古書として流通していないようだから、相場価格が決まりにくいのだと思われる。
量子力学発展史のおさらいをしておこう。次のような順番で初期の発見がなされた。
- トムソンによる電子の発見(1897年)
- プランクによるエネルギー量子の発見(1900年)
- アインシュタインによる光量子(光子)の発見(1905年)
- ド・ブロイによる物質波(電子の波動性)の提唱(1924年)
- ハイゼンベルクによる行列力学(量子の粒子性)の提唱(1925年)
- シュレディンガーによる波動方程式(量子の波動性)の提唱(1926年)
- ハイゼンベルクによる不確定性原理の提唱(1927年)
- ディラックによるディラック方程式の提唱、陽電子の予言(1928年):参考記事
- アンダーソンによる陽電子の発見(1932年)
このように本書は科学史上とても重要な本だ。肖像写真、目次、訳者あとがきのあたりを載せておこう。
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そしてノーベル物理学賞受賞の理由となった物質波(ド・ブロイ波)についての記述は、64~65ページあたりに書かれている。物質波とは、つまり電子の波動性のことである。βの文字があることからわかるように、相対論的な取り扱いもされているようだ。
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ド・ブロイ波をあらわす式(λ:ド・ブロイ波の波長)
翻訳のもとになった原書は「Introduction à l'étude de la mécanique ondulatoire」で1930年刊行である。フランスと米国のアマゾン、フランスのeBayから購入可能だ。原書のPDFファイルはこのページからダウンロードできる。英語に翻訳した本のPDFファイルはこのページから閲覧、ダウンロードできる。原書および英語版はどちらも著作権が切れているので公開や配布が自由にできる。
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Amazon.fr: 開く
Amazon.com: 開く
eBay.fr: 検索する
ちなみにこの原書が刊行された1930年の時点でド・ブロイは38歳、渡邊慧は20歳、湯川秀樹は23歳、朝永振一郎は24歳、伏見康治は21歳、坂田昌一は19歳、南部陽一郎は9歳、小柴昌俊は4歳、寺田寅彦は52歳である。
1967年に収録されたド・ブロイ博士のインタビュー動画
Interview with Louis de Broglie, 1967 (French with English Subtitles)
関連記事:
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
量子力学史(自然選書): 天野清
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a742e5490485206851f5c76290d9a058
内容紹介:
原著者Louis de Broglie氏ハ人ノ知ル如ク物質ノ波動的半面ヲ理論的見地ヨリ予見シタ仏国ノ独創的天才デアル。彼ガ己ノ拓イタ物理学ノ新分野ノ基本的部分ニ就テ懇切ニ説述セル此ノ高名ナル一著ヲ本邦ニ紹介スル事ノ許サレタルハ訳者ニ取ツテ大イナル喜デアル。本著ハ正シク新力学ニ於ケル輝ケル古典トモ謂ウベク之ヲ読了セズシテハ今日ノ量子論ヘノ入門ハ拒マレテ居ルトサヘ称サレテ居ル。(譯者附記より抜粋)
1934年(昭和9年)11月刊行、344ページ。(原著は1930年刊行)
著者について:
ルイ・ドゥ・ブロイ:ウィキペディアの記事
1892年8月15日 - 1987年3月19日
フランスの理論物理学者。博士論文で仮説として提唱したド・ブロイ波(物質波=電子の波動性)は、当時こそ孤立していたが、後にシュレディンガーによる波動方程式として結実し、量子力学の礎となった。
ルイ・ドゥ・ブロイ博士の著書: Amazonで検索
譯者について:
渡邊慧(わたなべさとし): ウィキペディアの記事
1910-1993年。東京帝国大学理学部卒。渡欧してド・ブロイ、ハイゼンベルク、ニールス・ボーアらに師事・親交した世界的理論物理学者。著書に『時間の歴史』『知るということ』他がある。
「第59回 神田古本まつり」でたまたま見つけ、たった400円で買った本。ずいぶん古いなと思いながら著者を確認してびっくり。背表紙には量子力学創成期の理論物理学者の名前が金色の文字で光っていた。物質波(ド・ブロイ波)提唱の功績により1929年にノーベル物理学賞を受賞したルイ・ド・ブロイ博士による著作。翻訳のもとになった原著は翌年の1930年に刊行されている。
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そして訳者を見てさらにびっくり。ド・ブロイ、ハイゼンベルク、ボーアに、師事・親交した量子力学の輝ける巨星、渡邊慧博士である。1910年生まれだから24歳のときにこの日本語版を刊行したことになる。ウィキペディアには「1933年、フランス政府留学生として渡仏、パリでド・ブロイに師事し、熱力学の第二法則と波動力学の研究を始める。」と書かれている。博士の著書はこのブログでも6年前に「時:渡辺慧」を紹介させていただいた。
値段が値段だけにお宝本なのかは自信がないが、レア本であることには違いない。国会図書館にはもちろんあるが、この本を所蔵している大学は少なそうだ。アマゾンには中古本としても登録されていないから、いつものように書名にリンクをつけることもできない。古書として流通していないようだから、相場価格が決まりにくいのだと思われる。
量子力学発展史のおさらいをしておこう。次のような順番で初期の発見がなされた。
- トムソンによる電子の発見(1897年)
- プランクによるエネルギー量子の発見(1900年)
- アインシュタインによる光量子(光子)の発見(1905年)
- ド・ブロイによる物質波(電子の波動性)の提唱(1924年)
- ハイゼンベルクによる行列力学(量子の粒子性)の提唱(1925年)
- シュレディンガーによる波動方程式(量子の波動性)の提唱(1926年)
- ハイゼンベルクによる不確定性原理の提唱(1927年)
- ディラックによるディラック方程式の提唱、陽電子の予言(1928年):参考記事
- アンダーソンによる陽電子の発見(1932年)
このように本書は科学史上とても重要な本だ。肖像写真、目次、訳者あとがきのあたりを載せておこう。
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そしてノーベル物理学賞受賞の理由となった物質波(ド・ブロイ波)についての記述は、64~65ページあたりに書かれている。物質波とは、つまり電子の波動性のことである。βの文字があることからわかるように、相対論的な取り扱いもされているようだ。
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ド・ブロイ波をあらわす式(λ:ド・ブロイ波の波長)
翻訳のもとになった原書は「Introduction à l'étude de la mécanique ondulatoire」で1930年刊行である。フランスと米国のアマゾン、フランスのeBayから購入可能だ。原書のPDFファイルはこのページからダウンロードできる。英語に翻訳した本のPDFファイルはこのページから閲覧、ダウンロードできる。原書および英語版はどちらも著作権が切れているので公開や配布が自由にできる。
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ちなみにこの原書が刊行された1930年の時点でド・ブロイは38歳、渡邊慧は20歳、湯川秀樹は23歳、朝永振一郎は24歳、伏見康治は21歳、坂田昌一は19歳、南部陽一郎は9歳、小柴昌俊は4歳、寺田寅彦は52歳である。
1967年に収録されたド・ブロイ博士のインタビュー動画
Interview with Louis de Broglie, 1967 (French with English Subtitles)
関連記事:
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
量子力学史(自然選書): 天野清
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a742e5490485206851f5c76290d9a058
はい、ド・ブロイ先生のお話のスピードは普通ですね。ていねいにお話になるところは、貴族らしい礼節を感じました。
彼の著書『物質と光』(岩波文庫)は読んでおりませんが、アマゾンのレビューを読んだところ、物理学のド素人の方が訳されたことがすぐわかりました。草稿段階で物理学科の学生にチェックしてもらっていれば、このように変な訳語にならなくてすんだのにと思いました。行列のelementを「元素」と訳してしまうのは致命的なミスです。アマゾンのこのレビューを書かれた方の指摘はすべてごもっともだと思います。
翻訳をされた河野与一先生は1984年にお亡くなりになっているようですので、こういう場合、新訳を出すためのプロセスは、どうなるのか僕にはよくわかりません。岩波書店の判断、決定だけで新訳を出版することは可能だとは思うのですが。
アマゾンコムでは彼の著書『物質と光』(岩波文庫)の訳を改訂した新訳が欲しいとありましたね。物理のわかる人が訳した新訳があったほうがいいということでしょうか。
彼のノーベル賞受賞講演は量子力学の講義の準備のために訳書を読んだことがありますが、この部分ではそれほどひどいとは感じませんでした。
もっとも本の全体を読んだわけではないので、新訳が必要だという意見はたぶんあたっているのでしょう。
個人的にはド・ブロイは好きなタイプの学者なのですが、電子の波動説の以後はあまり世界的な評価は芳しくないようですね。
好きな理由は、あまり議論好きではないこととか、難しい数学を使わないとかいった点です。
量子論に関した学者では、Diracが一番最後まで生きていましたが、de Brolglieはそれに次ぐ長命でした。
コメントありがとうございます。
もしやと思ってYouTubeを検索したら見つかりました。75歳のときの録画です。
当時は寿命も短かったでしょうし、ご高齢にもかかわらず滑舌がしっかりしています。
ディラック先生のカラー動画もYouTubeにありますが、科学史上の偉人の動画がカラーで観れるのは貴重ですね。
英語の字幕も表示できますから、フランス語が聞き取れないところの補助に使ってみてください。
何回か聞き返したいですね。L. de Broglieの肉声をとねさんのブログで聞くことができるとは感激でした。