「アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン」
内容紹介:
相対論など数々の独創的な理論を生み出した天才が、生い立ちと思考の源泉、研究態度を語った唯一の自伝。貴重写真多数収録。新訳オリジナル。
===
「想定外に当たっていたね」。アインシュタインの理論を、現代の物理学者はおおむねそう評価する。実験機器と実験法の進歩につれ、ただの予想かと見えた理論が次々に実証されてきたからだ。独創の極致ともいえる理論を彼は、いったいどうやって生み出したのか? 幼少期から執筆時までの約70年間を振り返り、何をどう考えてきたのかを語り尽くす、アインシュタイン唯一の自伝。生い立ちと哲学、19世紀物理学とその批判、量子論とブラウン運動、特殊相対論、一般相対論、量子力学に疑義を呈した真意、統一場理論への思いが浮き彫りになる。貴重な写真を多数収録。達意の新訳による文庫オリジナル。
2022年3月14日刊行、173ページ。
著者について:
アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein): ウィキペディア
1879-1955年。ドイツのウルムに生まれ、スイスのチューリヒ工科大学(現ETH)を卒業。1914-33年はドイツのベルリンに住み、1932-44年はアメリカのプリンストン高等研究所教授。スイス特許局時代の1905年に三大論文(光量子仮説、ブラウン運動、特殊相対論)を発表し、光量子仮説の論文により1921年度のノーベル物理学賞を受賞。
翻訳者について:
渡辺 正(わたなべ・ただし)
1948年鳥取県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。同大学教授を経て名誉教授。著書に『高校で教わりたかった化学』『「地球温暖化」狂騒曲」』、訳書に『教養の化学』『フォン・ノイマンの生涯』『元素創造』ほか多数。
理数系書籍のレビュー記事は本書で476冊目。
奇しくもアインシュタイン博士の生誕143年の誕生日にこの本は発売された。地元の書店で見つけて購入。ほとんど数式が書かれていないので物理や数学が苦手な方でも読むことができる。アインシュタイン博士ご本人が書いた本というのは少ないのだ。貴重な一冊といえよう。
内容紹介には「自伝」だと書かれているが、タイトルのとおりこれは「回顧録」と呼ぶほうが正しい。さらに正確さを求めるのであれば「物理学研究者としての経験をつづった回顧録」なのである。自伝っぽいところは幼少期の自然科学への目覚めから、10代半ばまでの数学、特に幾何学と微分積分学への目覚めあたりまでで、その後は博士が研究者になる以前から前期量子論へ至るまでの物理学史の解説をした本という方が正確だ。
つまり、章立てを見てわかるようにニュートン力学、マクスウェルの電磁気学、古典統計力学、前期量子論というアインシュタイン博士を取り巻く理論物理学の発展を解説しながら、それぞれに見られる思想や概念の変遷を抽出し、より深い考察を与えながら進んでいくというスタイルである。次にご自身のブラウン運動の研究、特殊および一般相対論の着想がどのようなものだったか、1921年のノーベル賞受賞につながる光量子仮説、さらに量子論についての考え(肯定的な面、否定的な面)へと話は進む。最後に統一場理論という博士が完成できなかった理論の考察と予想が解説されている。
以下が本書の章立てである。
アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
3 量子論の芽生え期
4 ブラウン運動とミクロの世界
5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき
博士がこの回顧録を書き始めたのは1946年、67歳のときである。前年にプリンストン高等研究所の教授職を退任し、広島・長崎に落とされた原爆の惨状に心を痛めていた時期のことである。ご自身の死を予感されたわけではないのだろうが、そろそろ研究者としての人生を振り返ってみたいと思われたのかもしれない。
博士の生涯を詳しく知りたいのであれば、本書ではなく伝記として書かれた「神は老獪にして…-アインシュタインの人と学問」(紹介記事)を読むのがいちばんよい。しかし、博士ご本人の言葉を直接受け取ることができる本書の価値は、他の人が書いた伝記には代えがたいものがある。
本書のもうひとつの魅力は翻訳者による「やや長い訳者あとがき」だ。アインシュタイン博士による回想録の部分は本書102ページまでで、略年譜をはさんで115~173ページ目はすべて訳者あとがきが占めている。ここには本書の原書や翻訳にあたって注意した点、回想録の解説、アインシュタイン博士と翻訳者との間のつながりなど興味深い話が語られている。そして何よりありがたかったのは、これまで見たことがなかったアインシュタイン博士の写真が盛り込まれていることである。
回顧録の部分はページ数が少ないうえ、簡潔過ぎる箇所があるため物足りなさを感じた。しかしアインシュタイン博士がそれ以上書かなかったのだからそれは仕方がない。「やや長い訳者あとがき」を付けたおかげで「売れる本」、「買う価値がある本」に仕上がったのだと僕は思った。
ニュートン力学から電磁気学、前期量子論に至るアインシュタイン博士による解説は、簡潔なうえ、他書には見られない独創性がある。ぜひお読みになってほしい。
合わせて読みたい本:
本書を入口とするならば、次のような本を合わせて読んでみたい。「奇跡の年」の論文はすべて気になるし、プランクのエネルギー量子の発見に至る原論文は古典物理から量子物理への転換を果たすうえで、自然科学史の中で特に貴重な論文だ。いくつかの段階を経て「ε = hν」にたどり着いたことはこの連投ツイートで紹介したことがある。
「アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文:アルベルト・アインシュタイン」
「熱輻射論講義:マックス・プランク」
相対性理論についてもご本人による解説がいちばん確かである。
「相対性理論:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
「相対論の意味:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
大正時代に日本にいらしたアインシュタイン博士。それがどのようなものだったかを知るには、この本がいちばんよいだろう。
「アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務」
「アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務」
「博士の日本滞在はこの本がいちばんよいだろう」と上で紹介したが、その滞在を博士ご本人がどのように感じていらっしゃったかは、次の本で知ることができる。また、ロシアによるウクライナ侵攻を考える上で、博士がお書きになった「ひとはなぜ戦争をするのか」も読んでおきたい1冊だ。
「アインシュタインの旅行日記:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
「ひとはなぜ戦争をするのか:アルベルト・アインシュタイン、ジグムント・フロイト」(Kindle版)
関連記事:
神は老獪にして…: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881
アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4e64de68cf38281792de9a34fc249ad5
だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f1e91e296d8d83ff2759c2de190be57
アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b
アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
「アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン」
アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
3 量子論の芽生え期
4 ブラウン運動とミクロの世界
5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき
内容紹介:
相対論など数々の独創的な理論を生み出した天才が、生い立ちと思考の源泉、研究態度を語った唯一の自伝。貴重写真多数収録。新訳オリジナル。
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「想定外に当たっていたね」。アインシュタインの理論を、現代の物理学者はおおむねそう評価する。実験機器と実験法の進歩につれ、ただの予想かと見えた理論が次々に実証されてきたからだ。独創の極致ともいえる理論を彼は、いったいどうやって生み出したのか? 幼少期から執筆時までの約70年間を振り返り、何をどう考えてきたのかを語り尽くす、アインシュタイン唯一の自伝。生い立ちと哲学、19世紀物理学とその批判、量子論とブラウン運動、特殊相対論、一般相対論、量子力学に疑義を呈した真意、統一場理論への思いが浮き彫りになる。貴重な写真を多数収録。達意の新訳による文庫オリジナル。
2022年3月14日刊行、173ページ。
著者について:
アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein): ウィキペディア
1879-1955年。ドイツのウルムに生まれ、スイスのチューリヒ工科大学(現ETH)を卒業。1914-33年はドイツのベルリンに住み、1932-44年はアメリカのプリンストン高等研究所教授。スイス特許局時代の1905年に三大論文(光量子仮説、ブラウン運動、特殊相対論)を発表し、光量子仮説の論文により1921年度のノーベル物理学賞を受賞。
翻訳者について:
渡辺 正(わたなべ・ただし)
1948年鳥取県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。同大学教授を経て名誉教授。著書に『高校で教わりたかった化学』『「地球温暖化」狂騒曲」』、訳書に『教養の化学』『フォン・ノイマンの生涯』『元素創造』ほか多数。
理数系書籍のレビュー記事は本書で476冊目。
奇しくもアインシュタイン博士の生誕143年の誕生日にこの本は発売された。地元の書店で見つけて購入。ほとんど数式が書かれていないので物理や数学が苦手な方でも読むことができる。アインシュタイン博士ご本人が書いた本というのは少ないのだ。貴重な一冊といえよう。
内容紹介には「自伝」だと書かれているが、タイトルのとおりこれは「回顧録」と呼ぶほうが正しい。さらに正確さを求めるのであれば「物理学研究者としての経験をつづった回顧録」なのである。自伝っぽいところは幼少期の自然科学への目覚めから、10代半ばまでの数学、特に幾何学と微分積分学への目覚めあたりまでで、その後は博士が研究者になる以前から前期量子論へ至るまでの物理学史の解説をした本という方が正確だ。
つまり、章立てを見てわかるようにニュートン力学、マクスウェルの電磁気学、古典統計力学、前期量子論というアインシュタイン博士を取り巻く理論物理学の発展を解説しながら、それぞれに見られる思想や概念の変遷を抽出し、より深い考察を与えながら進んでいくというスタイルである。次にご自身のブラウン運動の研究、特殊および一般相対論の着想がどのようなものだったか、1921年のノーベル賞受賞につながる光量子仮説、さらに量子論についての考え(肯定的な面、否定的な面)へと話は進む。最後に統一場理論という博士が完成できなかった理論の考察と予想が解説されている。
以下が本書の章立てである。
アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
3 量子論の芽生え期
4 ブラウン運動とミクロの世界
5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき
博士がこの回顧録を書き始めたのは1946年、67歳のときである。前年にプリンストン高等研究所の教授職を退任し、広島・長崎に落とされた原爆の惨状に心を痛めていた時期のことである。ご自身の死を予感されたわけではないのだろうが、そろそろ研究者としての人生を振り返ってみたいと思われたのかもしれない。
博士の生涯を詳しく知りたいのであれば、本書ではなく伝記として書かれた「神は老獪にして…-アインシュタインの人と学問」(紹介記事)を読むのがいちばんよい。しかし、博士ご本人の言葉を直接受け取ることができる本書の価値は、他の人が書いた伝記には代えがたいものがある。
本書のもうひとつの魅力は翻訳者による「やや長い訳者あとがき」だ。アインシュタイン博士による回想録の部分は本書102ページまでで、略年譜をはさんで115~173ページ目はすべて訳者あとがきが占めている。ここには本書の原書や翻訳にあたって注意した点、回想録の解説、アインシュタイン博士と翻訳者との間のつながりなど興味深い話が語られている。そして何よりありがたかったのは、これまで見たことがなかったアインシュタイン博士の写真が盛り込まれていることである。
回顧録の部分はページ数が少ないうえ、簡潔過ぎる箇所があるため物足りなさを感じた。しかしアインシュタイン博士がそれ以上書かなかったのだからそれは仕方がない。「やや長い訳者あとがき」を付けたおかげで「売れる本」、「買う価値がある本」に仕上がったのだと僕は思った。
ニュートン力学から電磁気学、前期量子論に至るアインシュタイン博士による解説は、簡潔なうえ、他書には見られない独創性がある。ぜひお読みになってほしい。
合わせて読みたい本:
本書を入口とするならば、次のような本を合わせて読んでみたい。「奇跡の年」の論文はすべて気になるし、プランクのエネルギー量子の発見に至る原論文は古典物理から量子物理への転換を果たすうえで、自然科学史の中で特に貴重な論文だ。いくつかの段階を経て「ε = hν」にたどり着いたことはこの連投ツイートで紹介したことがある。
「アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文:アルベルト・アインシュタイン」
「熱輻射論講義:マックス・プランク」
相対性理論についてもご本人による解説がいちばん確かである。
「相対性理論:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
「相対論の意味:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
大正時代に日本にいらしたアインシュタイン博士。それがどのようなものだったかを知るには、この本がいちばんよいだろう。
「アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務」
「アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務」
「博士の日本滞在はこの本がいちばんよいだろう」と上で紹介したが、その滞在を博士ご本人がどのように感じていらっしゃったかは、次の本で知ることができる。また、ロシアによるウクライナ侵攻を考える上で、博士がお書きになった「ひとはなぜ戦争をするのか」も読んでおきたい1冊だ。
「アインシュタインの旅行日記:アルベルト・アインシュタイン」(Kindle版)
「ひとはなぜ戦争をするのか:アルベルト・アインシュタイン、ジグムント・フロイト」(Kindle版)
関連記事:
神は老獪にして…: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d9258ed7a2d52173116ccd6e61ba0881
アインシュタインここに生きる: アブラハム・パイス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4e64de68cf38281792de9a34fc249ad5
だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f1e91e296d8d83ff2759c2de190be57
アインシュタインの反乱と量子コンピュータ: 佐藤文隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fa38724ad6881636cdff2903ee14a5b
アインシュタイン選集 1 ―特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集 2 ―一般相対性理論および統一場理論―
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
「アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン」
アインシュタイン回顧録
1 助走の時代
2 ニュートン力学、マクスウェルの電磁気学
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5 相対論(相対性理論)の着想
6 相対論の一般化
7 量子論への思い
8 統一場理論の遠望
アインシュタイン略年譜
やや長い訳者あとがき