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「AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)」
内容紹介:
隆盛期と冬の時代を繰り返してきた人工知能はいま第三次ブームを迎えた。AI研究の飛躍を支えるのはディープラーニングと呼ばれる手法だ。
大量のデータの特徴を高い精度で捉えて、これをデータに生かす方法で、音声認識や画像解析で応用が始まっている。一方、人間の能力を超えたAIが、人の生活を激変させる「シンギュラリティ」も現実味を帯びてきた。
本書では、1950年代にコンピューターチェスを提唱したシャノン、人工知能の父ミンスキー、日常生活の中でのロボットの可能性を述べたビル・ゲイツなどの執筆記事を主軸に、IBMのワトソンの実力分析や、韓国のプロ棋士イ・セドルを破ったAlphaGoの強さの秘密など、最新の話題を加え、AI研究の軌跡と未来を描く。
2016年11月刊行、127ページ。
理数系書籍のレビュー記事は本書で353冊目。
「Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能」、「日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流」に続き、本書を読んでみた。まえがきも含めて、記事それぞれの簡単な内容紹介と感想を書いておこう。
詳細はこちらである。大半の記事はダウンロードで購入できる。
AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)
http://www.nikkei-science.com/page/sci_book/bessatu/51216.html
まえがき:逃げなかった水--ブームの先の未来へ
本書を編集した竹内郁夫先生による「まえがき」だ。現在に至るまでのAIの歴史を概説した後、本書に掲載されている記事を順に紹介している。記事の数が多いので、お目当ての記事やお宝記事をあらかじめおさえておくとよいだろう。まえがきは無料で「このページ」に公開されている。
論争--機械はものを考えるか-- NO: プログラムは記号でしかない
AIは物を考えることができるかという問いに対して「No」の立場から論証している。あまりピンとこなかった。「考える」ということの定義が不確かだから、そもそも問いとして成り立たないのではないかという気がする。「中国語の翻訳」ができたからといって中国語をAIが理解したとは思えないというのは納得できた。Google翻訳は外国語への翻訳ができるからといって、言語を理解しているとか、考えているとかは言えないと思う。
論争--機械はものを考えるか--YES: 統合化が心をつくる
AIは物を考えることができるかという問いに対して「No」の立場から論証している。AIが脳を
模倣し、処理を並列化したりニューラル・ネットワークを使用すれば「考える」ことができるようになる可能性は否定できないという主張。これもどうもピンとこなかった。「考える」ということの定義が不明確である限り、この論争は不毛だと思った。
人工知能の意識を測る
AIは意識を持つことができるか?という高度な問いかけであるが、内容はたいしたことがなかった。意識を持っているかどうかの判定基準として、花瓶がパソコンモニターの前に置かれている写真をAIに見せて、それを変だと言うかどうかによって、意識をもっているかどうかを判定すればよいという説明。花瓶ではなくキーボードが置かれているのが普通だからである。この判定を行うには厖大な背景知識と知識の間のつながりを理解している必要がある。高度な問いに対して肩透かしをくらった気持ちになった。この問を真剣に考えなければならない未来はかなり先のことだと思う。
ロボットは地球を受け継ぐか
医療技術の発展により人間の平均寿命は延びる。しかし生物としての死は避けられないことで、どんなに医療技術が発展しても人間はせいぜい120歳までしか生きられないことがDNAに組み込まれているそうだ。さて、その先に何があるのか?それは脳も含めて身体の器官を人工物に置き換えて延命するのである。あまりにも先の未来の話なので、おそらく僕が生きている間には実現しないだろう。軽く読み流すだけにさせていただいた。
スーパーAI恐るべし?
AIが進化して人類の良きパートナーになるかどうか?そのためにAIに求められる「AI三原則」を提唱している記事。AIが人類を滅ぼす存在にはなってはならないという意見に僕は賛成するが、物事の発展は「原則」のような制限をつけても、守られないことがわかりきっている。たとえば「ロボット三原則」は理想だと思うが、現実には殺人ロボットが開発されているのだし。問題はそれがロボットやAIが完全に自立したときだ。
人工知能の可能性を信じグランドチャレンジを主導:松原仁
松原仁先生がこれまでされてきた研究を紹介する記事。コンピュータ将棋、AI小説、ロボカップなど。とても楽しく読むことができた。
チューリングの忘れられた研究
本書のお宝記事の1つめ。これまであまり知られていなかったが、アラン・チューリングは「B型組織マシン」というニューラル・ネットワークの論文を書いていたこと、「ハイパー計算」という画期的な分野で革新的な概念を生み出していたことが紹介されている。この記事はとても興奮した。天才は100年後を見通しているのだ。
あなたの好み探します:実力高まる人工知能
検索エンジンや推奨エンジンをより知的で的確なものにするために、機械学習の手法を利用する技術の紹介記事。「過剰適合問題」を解決するために「正則化」と呼ばれる手法を使ってモデルの複雑化を抑えるという。実用に則した内容なので参考になった。j
爆発的に進化するディープラーニング
ディープラーニングによるパターン認識技術の解説が大半を占める。将来の技術の例として最後に「再帰型ニューラルネットワーク」が紹介される。大変参考になった。しかし概要だけではつかめない。より具体的なことを他の本で学んでみたいと思った。
チェスを指す機械
本書のお宝記事の2つめ。1950年にクロード・シャノンが書いた記事の翻訳である。チェスをする機械はどのようにして実現すればよいのか。短い記事ながらとても具体的に天才のアイデアが語られている。とても面白かった。やはり天才の先見の明は凡人をはるかに凌いでいる。
コンピュータはチェス名人に勝てるか
1990年の日経サイエンスの記事の転載。この時点で世界チェスチャンピオンのカスパロフはIBMの「ディープブルー」に敗北していた。この記事ではディープブルーの前に開発された「ディープソート」の開発やアルゴリズム、そして「ディープブルー」でどのような改善がなされたのかをソフト、ハード両面から解説している。AIチェスに関心のある人にはうれしい内容である。
どうして囲碁はこんなに急に強くなったのか?
DeepZenというAI囲碁ソフト開発チームの代表、加藤英樹先生による記事。囲碁名人のイ・セドル九段にAlphaGoが勝利した後に書かれたものだ。したがってAlphaGo Zeroのことは書かれていない。この記事ではAlphaGoがどのような経緯で開発され、どのようなアルゴリズムを採用しているかが詳しく解説されている。チェスや将棋のAIと囲碁のAIは何が違うのかということが具体的にわかってよかった。実際の対局の盤面を使って解説しているが、囲碁のルールを知らないからよくわかなない部分が残った。囲碁の初歩的なルールを学んでみようかどうか迷っている。この記事読んでから「日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流」に掲載されている加藤先生の記事でAlphaGo MasterとAlphaGo Zeroの解説をお読みになるとよいだろう。
ここまできた機械翻訳
機械翻訳の手法の歴史を概説した後、現在取り組まれている統計的な手法を採用した機械翻訳システムを解説している。この分野を僕は詳しく知っているので、ざっと読み流すにとどめた。
発見するコンピューター:論文の山から宝を探す
論文検索、テキストマイニングの最新技術の紹介記事。生物学の論文を例に解説していた。医学や医療、生物学、薬学、化学など固有名詞が厖大な分野では、威力を発揮すると思った。反面、物理学や数学には利用価値があまりないのではという気がした。
自分で推論する未来型ウェブ
現在のウェブの仕様にコンピュータ向けのデータやページを追加することで、セマンティックウェブに変えることができる。具体的にはXMLやRDFで「意味を埋め込む」ことになる。ウェブページの検索はより的確かつ便利に使えるようになるのだろう。「言うは易し」だと僕は思った。意味を埋め込むのは手間がかかる。どのようにすれば効率的に意味を付加できるのだろう?そのような疑問が残った。
ウェブサイエンスの誕生
「ウェブサイエンス」という新しい学問領域の紹介記事。ウェブページやSNS、ブログなど多様なサービスが生まれ、利便性の向上とプライバシーやセキュリティの問題が生じた。ウェブの特性が生じるしくみと社会のためにどのよに利用あるいは抑制できるかをこの記事は具体例をあげて探求している。内容が少し古いと感じたのだが、案の定2009年に書かれた記事の転載だった。
IBM Watsonの歩み:クイズ番組への挑戦からコグニティブ・コンピューティングへ
本書のために書き下ろされた新しい記事である。IBMのWatsonがクイズ番組で人間に勝利したのは2011年である。ワトソンがどのようにして実現されたのかが詳しく解説されている。その当時僕はこのAIの意義が理解できていなかった。Watsonのような技術をコグニティブコンピューティングというのだそうだ。ナレッジベースの進化形ということだろう。この技術が医療に応用されることで、癌の検査や治療の選択肢を医師に提供するシステムとして活用されている。2011年当時の手法は、現在個別にはかなりの部分がディープラーニングなど最近の手法に代替されるようになっているそうだ。
ホームロボット時代の夜明け
ホームロボットというと、まず「ルンバ」を思い浮かべるのだが、今後IoTの普及にともなって、さまざまなロボットが登場するのだと思う。この記事によれば現在のロボット産業は30年前のパソコン業界が抱えていたのと同じ課題に直面しているそうだ。つまり共通の標準とプラットフォームが欠けているから、マシン制作をいちから始めないといけない。ロボット用のOSやプログラミング言語、分散処理技術が開発されるのだとこの記事には書かれている。どうなのだろう?と僕は思った。ロボットの目的はそれぞれ違うのだから、共通のOSはともかく、共通の言語などを決めることができるのだろうか?そのような疑問が残った。
心を持つロボット
この記事は読むに値しなかった。生と死を経験しない機械が感情をもつと認めてはならないという根本的な思想を僕は持っているからだ。老人ホームで高齢者を癒すPepperやぬいぐるみロボットがいることは受け入れられるし、感情をもっているように偽装することは可能だと思う。高齢になって判断力が衰えるとそのように思い込みやすい。人間の判断力など五十歩百歩なのだから、AIが高度に発達すれば普通の人間でも感情を持っていると信じてしまうだろう。しかし、それを感情だと認めてはならないというのが僕の考えだ。現実の人間は予想通りに感情をあらわすときもあれば、予想を裏切る感情をあらわすこともある。それは人生経験や考え方で違ってくる。そして個性や人生経験を人工知能に埋め込んだとしても、ロボットが表現するものを感情と認めてはならないと僕は思うのだ。
仮にAIに「人格」を持たせたいのであれば、感情のうち都合のよいところだけ切り取って済ませるわけにはいかない。羞恥、虚栄、不安や恐怖、嫉妬や怒り、憎しみ、恨み、殺意までネガティブな感情も必須であり、ポジティブな感情とワンセットだ。どれも欠かせるわけにはいかないと思うのだ。
余談:大原麗子さんや壇蜜さんを完璧に模倣するアンドロイドができたら、僕は買ってしまうだろうが、だとしても「彼女」たちに感情が備わっていると認めないと思う。少なくとも最初のうちは。
余談2:みんながみんな、お気に入りのアンドロイドを連れて歩くようなことになったら、社会はぐちゃぐちゃ、人間関係は混乱の極みになることだろう。また有名歌手のライブなどはアンドロイドでいつでも代用できるし、若き日のビートルズのライブだって手軽に体験できる。CDを聴いたり、VRで楽しむのと大差ない。また、エリック・クラプトンから毎週ギターのプライベート・レッスンを日本語で受けることも可能だ。最初のうちは嬉しいだろうが、そのうち飽きてくるに違いない。つまり貴重な体験として得られる喜びがなくなってしまうのだ。望みを叶えていく先には退屈な世界が待っているような気がする。
研究するロボット
「学者」として機能するAIは実現するのだろうか?とてつもない話である。せいぜい、人間の学者が研究を進めるための補助として活用するのが関の山だろうなと思った。50年先でも無理だと思う。しかし100年、200年先はわからない。僕は生きていないだろうから、考えるのはやめようと思った。
関連記事:
日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2acba888748409964bbc2b13f4163437
Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能
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「AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)」
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まえがき:逃げなかった水--ブームの先の未来へ
論争--機械はものを考えるか
- NO: プログラムは記号でしかない
- YES: 統合化が心をつくる
人工知能の意識を測る
ロボットは地球を受け継ぐか
スーパーAI恐るべし?
人工知能の可能性を信じグランドチャレンジを主導:松原仁
チューリングの
忘れられた研究
あなたの好み探します:実力高まる人工知能
爆発的に進化するディープラーニング
チェスを指す機械
コンピュータはチェス名人に勝てるか
どうして囲碁はこんなに急に強くなったのか?
ここまできた機械翻訳
発見するコンピューター:論文の山から宝を探す
自分で推論する未来型ウェブ
ウェブサイエンスの誕生
IBM Watsonの歩み:クイズ番組への挑戦からコグニティブ・コンピューティングへ
ホームロボット時代の夜明け
心を持つロボット
研究するロボット
内容紹介:
隆盛期と冬の時代を繰り返してきた人工知能はいま第三次ブームを迎えた。AI研究の飛躍を支えるのはディープラーニングと呼ばれる手法だ。
大量のデータの特徴を高い精度で捉えて、これをデータに生かす方法で、音声認識や画像解析で応用が始まっている。一方、人間の能力を超えたAIが、人の生活を激変させる「シンギュラリティ」も現実味を帯びてきた。
本書では、1950年代にコンピューターチェスを提唱したシャノン、人工知能の父ミンスキー、日常生活の中でのロボットの可能性を述べたビル・ゲイツなどの執筆記事を主軸に、IBMのワトソンの実力分析や、韓国のプロ棋士イ・セドルを破ったAlphaGoの強さの秘密など、最新の話題を加え、AI研究の軌跡と未来を描く。
2016年11月刊行、127ページ。
理数系書籍のレビュー記事は本書で353冊目。
「Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能」、「日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流」に続き、本書を読んでみた。まえがきも含めて、記事それぞれの簡単な内容紹介と感想を書いておこう。
詳細はこちらである。大半の記事はダウンロードで購入できる。
AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)
http://www.nikkei-science.com/page/sci_book/bessatu/51216.html
まえがき:逃げなかった水--ブームの先の未来へ
本書を編集した竹内郁夫先生による「まえがき」だ。現在に至るまでのAIの歴史を概説した後、本書に掲載されている記事を順に紹介している。記事の数が多いので、お目当ての記事やお宝記事をあらかじめおさえておくとよいだろう。まえがきは無料で「このページ」に公開されている。
論争--機械はものを考えるか-- NO: プログラムは記号でしかない
AIは物を考えることができるかという問いに対して「No」の立場から論証している。あまりピンとこなかった。「考える」ということの定義が不確かだから、そもそも問いとして成り立たないのではないかという気がする。「中国語の翻訳」ができたからといって中国語をAIが理解したとは思えないというのは納得できた。Google翻訳は外国語への翻訳ができるからといって、言語を理解しているとか、考えているとかは言えないと思う。
論争--機械はものを考えるか--YES: 統合化が心をつくる
AIは物を考えることができるかという問いに対して「No」の立場から論証している。AIが脳を
模倣し、処理を並列化したりニューラル・ネットワークを使用すれば「考える」ことができるようになる可能性は否定できないという主張。これもどうもピンとこなかった。「考える」ということの定義が不明確である限り、この論争は不毛だと思った。
人工知能の意識を測る
AIは意識を持つことができるか?という高度な問いかけであるが、内容はたいしたことがなかった。意識を持っているかどうかの判定基準として、花瓶がパソコンモニターの前に置かれている写真をAIに見せて、それを変だと言うかどうかによって、意識をもっているかどうかを判定すればよいという説明。花瓶ではなくキーボードが置かれているのが普通だからである。この判定を行うには厖大な背景知識と知識の間のつながりを理解している必要がある。高度な問いに対して肩透かしをくらった気持ちになった。この問を真剣に考えなければならない未来はかなり先のことだと思う。
ロボットは地球を受け継ぐか
医療技術の発展により人間の平均寿命は延びる。しかし生物としての死は避けられないことで、どんなに医療技術が発展しても人間はせいぜい120歳までしか生きられないことがDNAに組み込まれているそうだ。さて、その先に何があるのか?それは脳も含めて身体の器官を人工物に置き換えて延命するのである。あまりにも先の未来の話なので、おそらく僕が生きている間には実現しないだろう。軽く読み流すだけにさせていただいた。
スーパーAI恐るべし?
AIが進化して人類の良きパートナーになるかどうか?そのためにAIに求められる「AI三原則」を提唱している記事。AIが人類を滅ぼす存在にはなってはならないという意見に僕は賛成するが、物事の発展は「原則」のような制限をつけても、守られないことがわかりきっている。たとえば「ロボット三原則」は理想だと思うが、現実には殺人ロボットが開発されているのだし。問題はそれがロボットやAIが完全に自立したときだ。
人工知能の可能性を信じグランドチャレンジを主導:松原仁
松原仁先生がこれまでされてきた研究を紹介する記事。コンピュータ将棋、AI小説、ロボカップなど。とても楽しく読むことができた。
チューリングの忘れられた研究
本書のお宝記事の1つめ。これまであまり知られていなかったが、アラン・チューリングは「B型組織マシン」というニューラル・ネットワークの論文を書いていたこと、「ハイパー計算」という画期的な分野で革新的な概念を生み出していたことが紹介されている。この記事はとても興奮した。天才は100年後を見通しているのだ。
あなたの好み探します:実力高まる人工知能
検索エンジンや推奨エンジンをより知的で的確なものにするために、機械学習の手法を利用する技術の紹介記事。「過剰適合問題」を解決するために「正則化」と呼ばれる手法を使ってモデルの複雑化を抑えるという。実用に則した内容なので参考になった。j
爆発的に進化するディープラーニング
ディープラーニングによるパターン認識技術の解説が大半を占める。将来の技術の例として最後に「再帰型ニューラルネットワーク」が紹介される。大変参考になった。しかし概要だけではつかめない。より具体的なことを他の本で学んでみたいと思った。
チェスを指す機械
本書のお宝記事の2つめ。1950年にクロード・シャノンが書いた記事の翻訳である。チェスをする機械はどのようにして実現すればよいのか。短い記事ながらとても具体的に天才のアイデアが語られている。とても面白かった。やはり天才の先見の明は凡人をはるかに凌いでいる。
コンピュータはチェス名人に勝てるか
1990年の日経サイエンスの記事の転載。この時点で世界チェスチャンピオンのカスパロフはIBMの「ディープブルー」に敗北していた。この記事ではディープブルーの前に開発された「ディープソート」の開発やアルゴリズム、そして「ディープブルー」でどのような改善がなされたのかをソフト、ハード両面から解説している。AIチェスに関心のある人にはうれしい内容である。
どうして囲碁はこんなに急に強くなったのか?
DeepZenというAI囲碁ソフト開発チームの代表、加藤英樹先生による記事。囲碁名人のイ・セドル九段にAlphaGoが勝利した後に書かれたものだ。したがってAlphaGo Zeroのことは書かれていない。この記事ではAlphaGoがどのような経緯で開発され、どのようなアルゴリズムを採用しているかが詳しく解説されている。チェスや将棋のAIと囲碁のAIは何が違うのかということが具体的にわかってよかった。実際の対局の盤面を使って解説しているが、囲碁のルールを知らないからよくわかなない部分が残った。囲碁の初歩的なルールを学んでみようかどうか迷っている。この記事読んでから「日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流」に掲載されている加藤先生の記事でAlphaGo MasterとAlphaGo Zeroの解説をお読みになるとよいだろう。
ここまできた機械翻訳
機械翻訳の手法の歴史を概説した後、現在取り組まれている統計的な手法を採用した機械翻訳システムを解説している。この分野を僕は詳しく知っているので、ざっと読み流すにとどめた。
発見するコンピューター:論文の山から宝を探す
論文検索、テキストマイニングの最新技術の紹介記事。生物学の論文を例に解説していた。医学や医療、生物学、薬学、化学など固有名詞が厖大な分野では、威力を発揮すると思った。反面、物理学や数学には利用価値があまりないのではという気がした。
自分で推論する未来型ウェブ
現在のウェブの仕様にコンピュータ向けのデータやページを追加することで、セマンティックウェブに変えることができる。具体的にはXMLやRDFで「意味を埋め込む」ことになる。ウェブページの検索はより的確かつ便利に使えるようになるのだろう。「言うは易し」だと僕は思った。意味を埋め込むのは手間がかかる。どのようにすれば効率的に意味を付加できるのだろう?そのような疑問が残った。
ウェブサイエンスの誕生
「ウェブサイエンス」という新しい学問領域の紹介記事。ウェブページやSNS、ブログなど多様なサービスが生まれ、利便性の向上とプライバシーやセキュリティの問題が生じた。ウェブの特性が生じるしくみと社会のためにどのよに利用あるいは抑制できるかをこの記事は具体例をあげて探求している。内容が少し古いと感じたのだが、案の定2009年に書かれた記事の転載だった。
IBM Watsonの歩み:クイズ番組への挑戦からコグニティブ・コンピューティングへ
本書のために書き下ろされた新しい記事である。IBMのWatsonがクイズ番組で人間に勝利したのは2011年である。ワトソンがどのようにして実現されたのかが詳しく解説されている。その当時僕はこのAIの意義が理解できていなかった。Watsonのような技術をコグニティブコンピューティングというのだそうだ。ナレッジベースの進化形ということだろう。この技術が医療に応用されることで、癌の検査や治療の選択肢を医師に提供するシステムとして活用されている。2011年当時の手法は、現在個別にはかなりの部分がディープラーニングなど最近の手法に代替されるようになっているそうだ。
ホームロボット時代の夜明け
ホームロボットというと、まず「ルンバ」を思い浮かべるのだが、今後IoTの普及にともなって、さまざまなロボットが登場するのだと思う。この記事によれば現在のロボット産業は30年前のパソコン業界が抱えていたのと同じ課題に直面しているそうだ。つまり共通の標準とプラットフォームが欠けているから、マシン制作をいちから始めないといけない。ロボット用のOSやプログラミング言語、分散処理技術が開発されるのだとこの記事には書かれている。どうなのだろう?と僕は思った。ロボットの目的はそれぞれ違うのだから、共通のOSはともかく、共通の言語などを決めることができるのだろうか?そのような疑問が残った。
心を持つロボット
この記事は読むに値しなかった。生と死を経験しない機械が感情をもつと認めてはならないという根本的な思想を僕は持っているからだ。老人ホームで高齢者を癒すPepperやぬいぐるみロボットがいることは受け入れられるし、感情をもっているように偽装することは可能だと思う。高齢になって判断力が衰えるとそのように思い込みやすい。人間の判断力など五十歩百歩なのだから、AIが高度に発達すれば普通の人間でも感情を持っていると信じてしまうだろう。しかし、それを感情だと認めてはならないというのが僕の考えだ。現実の人間は予想通りに感情をあらわすときもあれば、予想を裏切る感情をあらわすこともある。それは人生経験や考え方で違ってくる。そして個性や人生経験を人工知能に埋め込んだとしても、ロボットが表現するものを感情と認めてはならないと僕は思うのだ。
仮にAIに「人格」を持たせたいのであれば、感情のうち都合のよいところだけ切り取って済ませるわけにはいかない。羞恥、虚栄、不安や恐怖、嫉妬や怒り、憎しみ、恨み、殺意までネガティブな感情も必須であり、ポジティブな感情とワンセットだ。どれも欠かせるわけにはいかないと思うのだ。
余談:大原麗子さんや壇蜜さんを完璧に模倣するアンドロイドができたら、僕は買ってしまうだろうが、だとしても「彼女」たちに感情が備わっていると認めないと思う。少なくとも最初のうちは。
余談2:みんながみんな、お気に入りのアンドロイドを連れて歩くようなことになったら、社会はぐちゃぐちゃ、人間関係は混乱の極みになることだろう。また有名歌手のライブなどはアンドロイドでいつでも代用できるし、若き日のビートルズのライブだって手軽に体験できる。CDを聴いたり、VRで楽しむのと大差ない。また、エリック・クラプトンから毎週ギターのプライベート・レッスンを日本語で受けることも可能だ。最初のうちは嬉しいだろうが、そのうち飽きてくるに違いない。つまり貴重な体験として得られる喜びがなくなってしまうのだ。望みを叶えていく先には退屈な世界が待っているような気がする。
研究するロボット
「学者」として機能するAIは実現するのだろうか?とてつもない話である。せいぜい、人間の学者が研究を進めるための補助として活用するのが関の山だろうなと思った。50年先でも無理だと思う。しかし100年、200年先はわからない。僕は生きていないだろうから、考えるのはやめようと思った。
関連記事:
日経サイエンス 2018年2月号 特集:AIの新潮流
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2acba888748409964bbc2b13f4163437
Newton(ニュートン) 2018年 01 月号: ゼロからわかる人工知能
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「AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)」
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まえがき:逃げなかった水--ブームの先の未来へ
論争--機械はものを考えるか
- NO: プログラムは記号でしかない
- YES: 統合化が心をつくる
人工知能の意識を測る
ロボットは地球を受け継ぐか
スーパーAI恐るべし?
人工知能の可能性を信じグランドチャレンジを主導:松原仁
チューリングの
忘れられた研究
あなたの好み探します:実力高まる人工知能
爆発的に進化するディープラーニング
チェスを指す機械
コンピュータはチェス名人に勝てるか
どうして囲碁はこんなに急に強くなったのか?
ここまできた機械翻訳
発見するコンピューター:論文の山から宝を探す
自分で推論する未来型ウェブ
ウェブサイエンスの誕生
IBM Watsonの歩み:クイズ番組への挑戦からコグニティブ・コンピューティングへ
ホームロボット時代の夜明け
心を持つロボット
研究するロボット
ニューラルネットも脳の最底次機能を真似しただけで、シィンギュラリティなんて無理としか思えません。
現AIが壁に当たってから、次のブームに期待しようかな。
「ごり押し」という形容のしかたは言い得て妙だと思います。
ニューラルネット、ディープラーニングのしくみには僕は興味をもっていますが、特定の分野に制限したうえでの成果を素晴らしく思っている程度です。将棋や囲碁や、医療分野のことですね。
シンギュラリティは僕も信じていません。それを議論する価値がでてくるのは、機械翻訳がまともになってからだと思います。
しかし、気を付けなければならないと思うのは、世の中がお金で動いているという事実です。人工知能搭載の電気カミソリなど、何でもかんでも人工知能に任せれば解決という風潮がビジネスや社会に生まれつつあることです。結果オーライで物事が進んだとき、シンギュラリティではないにしても社会や国家にどのような影響を与えるのか慎重に見極めていく必要があると思うのです。この点に関してはいつか記事を書いてみたいと思っています。
社会不安は現在でも蔓延してる加害側に立ちたがる人間の弱者攻撃を増幅し、すべてを歪める偽情報にもAIが利用されて醜い世の中になりそうです。
僕もhirotaさんと同じように考えています。人間の仕事をAIやロボットが奪っていくのでしょう。日本では移民による労働力補充よりも、AIやロボットの導入のほうが進むと思います。
「人工知能」という言葉自体に「万能」や「神」のイメージがつきまといますから、反論したりする余地はほとんどなくなってしまいます。
ビジネスや経済を優先するのはとても大切です。けれどもビジネスや経済を担ったり、関与したりする「人間」が生活できない社会になってしまっては本末転倒です。社会が変化していくのは当たり前ですが、もっとゆるやかであってほしいですね。
大阪万博の頃、科学技術は明るい未来を約束しているように感じましたが、生活は便利になったものの社会不安が高まることになりました。昨今のAIブームを見るとき、当時と同じ盲目的な未来技術信仰の空気を感じています。
人工知能って、人のための知能なんですか?
それとも、真理の追究ですか?
ロボットの真理って人の真理ですか?
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
> 人工知能って、人のための知能なんですか?
> それとも、真理の追究ですか?
> ロボットの真理って人の真理ですか?
深いですね。。。人のための知能として開発されるものが、人を排除することにつながるわけですし。シンギュラリティを心配するよりはるか前の段階で直面する大きな課題だと思います。
コラム構造はミクロな分業構造みたいなものですが、もっと大きな分業構造の視覚野とか言語野とかも必要があっての構造のはずで、たとえば色や形の概念は視覚連合野に存在してるそうです。
まあ、そういう情報は認識する部位に一番存在してるから別の所に持つ意味などないでしょうが。
そういった機能構造なしでゴリ押ししても大した成果が得られるとは思いません。
真のAIが完成するには脳の機能が解明される必要があると思いますが、その時はAIも出来るでしょうが脳の情報の直接転写あるいは複数の脳の共同思考も可能ではないでしょうか。
AIが人類を越えるシンギュラリティの前に人類の思考ネットワークが超知性になってしまう逆シンギュラリティが起きてしまうかも知れません。
中途半端な思考ネットが発狂して人類絶滅の方が起こりそうですが。
脳の解明は今世紀中の予定みたいですから人類も今世紀限りかな?
脳のコラム構造とはこれのことですね。
人間の脳活動を世界で初めて高精度でイメージングすることに成功
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20011019/besshi.html
調べてみたところ、こういう研究をされている方がいました。37番目のスライドからコラム構造がでてきます。
人工知能研究のための視覚情報処理
https://www.slideshare.net/KokiNakamura/ss-50460481
この記事で紹介した日経サイエンスの別冊ですが、全体を通して読むと、シンギュラリティなんてまだまだという気がします。今世紀中といってもおそらく私たちはあの世で生活しているでしょうしね。
> 中途半端な思考ネットが発狂して人類絶滅の方が起こりそうですが。
その可能性は大いにありえそうです。キューバ危機では、ギリギリのところで第3次世界大戦を回避しましたが、中途半端な思考ネットだと食い止められないでしょう。人類絶滅の責任もブラックボックスの中ということですね。
逆に元気がなくなるような思考は、機械に成り下がる人類っていうのもあるんでしょうね
機械は元気を手に入れれるんでしょうか?
> 猪木じゃないけど、「元気ですか?1,2,3ダー」が正解じゃないかと
???
> 機械は元気を手に入れれるんでしょうか?
Pepperは元気だと思いますよ。