英国王立協会、ニュートンが4次元時空の着想を得ていたことを発表
BBC: 2018年4月1日
英国王立協会は、万有引力の発見で知られるアイザック・ニュートン卿の291回目の命日にあたる3月31日に記者会見を行い、アインシュタインの4次元時空の着想を、彼より200年以上も前にニュートン卿が得ていた可能性が非常に高いという前代未聞の発表をした。
もしこれが事実であれば、ニュートンが絶対時間、絶対空間をもとに理論を展開していたという300年近く続いた物理学の定説が覆されることになる。さらに1905年にアルバート・アインシュタインが発表した特殊相対性理論に関しても、もとはニュートンの着想であったかもしれないという可能性がでてくる。
記者会見で王立協会がまず提示したのは、ニュートンの著書『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』の第3版に見られる2つの図版だ。ラテン語の原本は博物館に所蔵され修復中であるため、会見では1846年刊行の英語版の写し(公開されている閲覧ページ)が配布された。
配布資料1
王立協会によると、これは「ミンコフスキー時空」のアイデアをニュートンがもっていたことを示すという。さらに次の写しが配布され、「ローレンツ変換」の計算も行われていたようだと発表担当者はやや興奮気味に語った。
配布資料2
配布された図版は、それぞれ英語版の次のページに見られるものだという。
配布資料3: 拡大
配布資料4: 拡大
古典力学は微積分を使って解くのが今では当たり前だ。そしてニュートンはライプニッツと並んで微積分の発明者である。それにもかかわらず『プリンキピア』には数式がまったく使われていない。証明はすべて幾何学を使って行われているのだ。仮に彼が微積分など数式を使って出版しても、当時はニュートンやほんの一部の学者しか微積分を理解できなかった。だから、できるだけ多くの人が読めるように、知識人の教養科目の幾何学を使ってニュートンは『プリンキピア』を書いたのである。
「ミンコフスキー時空」や「ローレンツ変換」は、アインシュタインの特殊相対性理論から導かれるもので、時間と空間が一体となった4次元時空という概念の理解を助けるために、しばしば使われる。次のように図示するのが一般的だ。画像はウィキペディアの「特殊相対性理論」のページから引用させていただいた。
ミンコフスキー時空
ローレンツ変換
アインシュタインの特殊相対性理論は「時空の幾何学」と呼ばれ、「ミンコフスキー時空」や「ローレンツ変換」の図でその特徴を視覚的にあらわすことができる。『プリンキピア』がユークリッド幾何学を採用したことで、4次元時空をニュートンが着想するきっかけになったことは容易に想像できる。さらにニュートンは光の速度が有限であることを知っており、木星の衛星の観測を通じて速度の測定まで行なっていた。光速度不変の原理は特殊相対性理論の原点である。
とはいえ根拠として示された図版は、たまたま「ミンコフスキー時空」や「ローレンツ変換」の説明図と似ているだけという可能性が拭いきれない。科学担当の記者が次のように問いただした。
「前後の英文を読むと、最初の図版は「希薄な媒質内を等しい直径をもつ円柱と球体が同じ速度で動くとき、円柱と球体が受ける抵抗を計算する。」という問題を解説するために使用されているものですし、2番目の図版は「双曲線上を動く物体において、双曲線の焦点に向かう求心力の法則を求める。」という問題の解説図のように読み取れます。4次元時空とは関係ないのではないでしょうか?」
この問いただしに対して王立協会の発表担当官は、不快感をにじませながら次のように回答した。
「あなたはいったいどこの記者ですか?たしかにおっしゃるとおり、図版を引用したページは4次元時空について述べている箇所ではありません。しかし、大切なのは図版そのものです。まさにこの図を描いたという行為によって、彼は4次元時空を現在受け入れられている姿と同じ形で着想するに至ったのです。」
「まさに」や「本当に」という言葉を発したとき、担当官の声は少しだけ震えていた。
「それでは、もっと確実な証拠をお見せしましょう。」発表担当官は30分間の休憩を伝え、記者会見場から出て行った。
30分後、発表担当官はもうひとり別の発表担当官と一緒に記者会見場に姿をあらわした。新たに登場した担当官は上司らしく、先ほど話した担当官は何も言わずに会見場を見渡している。
二人目の発表担当官が新たに配布したのは、次の資料だった。アイザック・ニュートンがプリンキピア第3版を刊行後にラテン語で書いた著作物の一部である。第3版刊行の5年後に第4版として刊行されるはずだったが、ニュートンの死によって刊行には至らず、試し刷りされたものが一部見つかったのだという。この貴重な資料は記者会見で初めて公開されることになった。現在、英語に翻訳中とのこと。
配布資料5: 拡大
「これが今回あらたに見つかったものです。ご覧のとおり、どうみてもミンコフスキー時空ですよね。」担当官は語気を強めて言った。
会見場にどよめきが走った。これはものすごい発見だ。記者のうち何人かが急いで会見場から出て行った。
「発表資料の詳細は本日夕方までにメールで各社にお送りします。本日はありがとうございました。」
発表担当官二人が席を立とうとすると、さきほど質問した記者が次のように発言した。
「あの、先ほど質問させていただいた者ですが、どうもこの資料おかしくありませんか?ラテン語で書かれた部分と図版の濃さが違うように見えるのですが。これは本当にニュートンの時代に印刷されたオリジナルの文書でしょうか?」
担当官の顔が引きつった。部下のほうは「どうしよう...」という表情で隣で固まっている上司を横目で見ている。上司の担当官はこわばった表情のまま、ゆっくりと次のように答えた。
「あなたは、この資料が偽物だと疑っているわけですね。まがりなりにも王立協会が発表している以上、これはほとんど公文書と同じ扱いを受ける資料ですよ。極東のどこかの国の文書改ざん問題と一緒にしないでいただきたい!」
吐き捨てるようにそう言って、王立協会の発表担当官は記者会見場から退出した。彼らの後ろ姿には悔しさがにじんでいるように見えた。
少したってから、会場に残された記者のうちのひとりが叫んだ。
「あ、明日はエイプリルフールじゃないですか!それに日曜だから、きっと王立協会が我々の都合を忖度して1日前倒しで嘘ニュースを発表したに違いないですね!」
記者たちは妙な具合に納得して解散した。新たに発見された「幻の第4版」の真偽は、その後も明らかにされることはなく、そしてこの事件に対して責任追及が行われることもなく騒動は幕引きとなった。
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