とね日記

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高校数学でわかる線形代数:竹内淳

2017年12月20日 19時39分24秒 | 物理学、数学
高校数学でわかる線形代数:竹内淳」(Kindle版)行列の基礎から固有値まで

内容紹介:
線形代数が得意になる本

必ずマスターしておきたい基礎数学
連立1次方程式の解法の工夫から始まった行列は、ベクトルや行列式とともに線形代数へと発展しました。線形代数は、微分・積分と並んで、物理学や工学さらには経済学などできわめて重要な実用数学で、理系や経済学の学生の基礎科目になっています。本書は、この線形代数をできるだけ易しく解説するとともにその応用例として、量子力学との関わりを見てみます。

線形代数は主に「行列」や「ベクトル」を扱う数学で、行列はもともと連立1次方程式を解く工夫から始まりました。小学生でも解ける連立1次方程式にもかかわらず、敢えてその解き方を一般化することで、「役に立つ数学」の中のたいへん重要な分野へと発展しました。例えば、量子力学や計量経済学を学ぼうとすれば、線形代数の知識は不可欠です。微分・積分と並んで、理系や経済学の学生なら必ず習得しなくてはならない線形代数を、本書は高校数学程度の知識を前提に、わかりやすく解説します。

2010年11月刊行、232ページ。

著者略歴:
竹内淳:ホームページ: http://www.f.waseda.jp/atacke/
1960年徳島県生まれ。1985年大阪大学基礎工学研究科博士前期課程修了。理学博士。富士通研究所研究員、マックス・プランク固体研究所客員研究員などを経て、1997年早稲田大学理工学部助教授、2002年より教授。専門は、半導体物理学。

竹内先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で350冊目。

先日「改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平」を紹介したばかりだが、大村先生の本は「高校数学から大学数学への橋渡し」、今回紹介する竹内先生のは「高校数学を終えた人が大学の数学を容易に学ぶため」の本である。

また、竹内先生の本では複素数を成分とする行列(複素行列)も解説されていて、固有値や固有ベクトル、トレース、ランク(階数)、シュミットの直交化法、行列の対角化なども学ぶことができる。さらに、この本では行列が量子力学でどのように使われているかを学ぶことができるのだ。

どちらにも共通して言えるのは、単にわかりやすく学べるということだけでなく「どのように役立つか」がわかり、これはもしかするとすごいことにつながるのかもしれないと「空想を膨らませる」ことができ、読んでいるうちにワクワクしてくるという大きなおまけがついていることなのだ。

勉強に対するモチベーションが上がらないとか、やる気スイッチが入らないとかいう人をよく見かける。でも僕は少し違うと思うのだ。もともとやる気を持っている人なんていない。ちょっとかじってみて面白いとか、スゴイとか思うから興味が生まれ、その先がどうなるのか気になってくるというのが本当のところだろう。やる気スイッチというのは知らず知らずのうちに入ってしまうものなのだ。

大村先生や竹内先生の本を僕がお勧めするのは「読んでいるうちにワクワクしてくる」とか、「へぇ、なるほどなぁ。」と読者を感心、感動させるすべに長けていること、読者の気持ちを汲んでお書きになっているからである。やる気スイッチが自然に入り、次を読んでみたくなるのだ。2~3冊読むうちに「やる気スイッチ」などという言葉は忘れてしまうことだろう。

章立ては次のとおりだ。

第1章 行列は方程式を解くためのツール
第2章 単位行列と逆行列
第3章 行列式の登場
第4章 行列の数値計算
第5章 空間とベクトルの不思議な関係
第6章 固有値問題ってなに?
第7章 複素数を含む行列
第8章 量子力学との関わり

第1章から第3章までは基本中の基本。大学の授業で落ちこぼれてしまった人には大いに助けとなることだろう。計算演習では全く学べない部分を手に取るように教えてくれる。そして竹内先生の本のユニークなところは、数学者の伝記を含めてくださっていることだ。いつ頃、誰が行列や行列式を「発明」したのか、その数学者がどのような人生を送ったのかを知れば、一休みした気分になれるし、無味乾燥に思える計算にも味わいがでてくる。

第4章ではガウスの消去法による逆行列の計算手順を学ぶ。筆算だけでなくExcelを使った方法も解説されているので、行列の計算はコンピュータを使えば面倒ではないことが実感できる。

第5章からが特に重要だ。工学部ではとかく省略されがちな複素ベクトルや複素行列の線形代数が解説される。(ここが面白いのにもったいない。)特に125ページから始まる「ベクトル空間」の概念に注意してほしい。ここから空間が抽象化されていることに気が付いてほしいのだ。

第4章までにでてくる空間は2次元であっても、3次元であっても私たちが視覚的に思い浮かべられる空間に対応している。ところが125ページ目から始まるベクトル空間は「ベクトルの定義を満たす空間」のことであり、「定義を満たすものはすべて空間と考えてしまおう。」ということになっているからだ。その1例として複素ベクトル空間や複素行列が紹介されているのである。

複素数は a+bi であらわされるから、1次元空間(つまり複素数の直線)であっても2次元平面(ガウス平面)の拡がりをもっている。これが2次元複素空間になると、空間をあらわすための拡がりは2倍になるから互いに直交する4本の直線を座標軸とする拡がりになるのだ。すなわち4次元実数空間。つまり、この時点で複素ベクトル空間や複素行列は幾何学的に私たちがイメージできないものになっている。抽象的という言葉は適切ではないが、このように視覚的にイメージできない世界で、ベクトルや空間のもつ性質を解き明かしていこうというのが第5章から始まる内容なのだ。

そのような複素数の世界で、連立方程式はどのような解をもつのか、どのように解いていけばよいのかを第6章の「固有値問題」として学ぶのである。

そして第7章では複素行列の特殊な例として「エルミート行列」と「ユニタリー行列」について学ぶ。この2つの行列は量子力学を成り立たせている数理構造には欠かせない。複素数というこの世のものとは思えない数であらわされる量子力学の基礎方程式が、どのようなしくみで実数であらわされる私たちの世界を成り立たせているかという秘密に直結しているのである。第7章はこの2つの行列を数学として学ぶ。

最後の第8章で、ようやく量子力学の話が紹介される。電子は波でもあり、同時に粒子でもあるという説明は、これまでに読んだ科学教養書で知っていることと思う。けれどもそれをイメージできる人はいないはずだ。また、原子核の周りの電子のエネルギーがとびとびの値しかとらないということも教養書レベルで得られる知識である。第7章までに学んできたベクトルと行列の知識を総動員すると、これら2つの量子的現象が説明できるのである。ベクトルや行列がどのように量子力学で使われるかが理解できれば、あなたはきっと「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」も読みたくなるに違いない。

本書の中で初学者がいちばんワクワクするところをあげておこう。それは第8章(188ページ)に書かれている「波動関数の規格化条件」の数式である。



これは波動関数Φとその共役関数の積を-∞から+∞まで積分せよという意味だ。この計算は電子の存在確率の全体を1に合わせるためのもので、これを「規格化」(1に合わせること)と呼んでいる。ここで積分変数の x は「空間の中での位置」をあらわす変数である。

x を-∞から+∞まで積分するというのは、宇宙の果てから宇宙の反対側の果てまで電子の存在確率を足し合わせよと言っているのと同じなのだ。

初学者は「えっ、波動関数って宇宙全体に広がっているの!」、「宇宙全体で足し合わせるの?」、「宇宙の大きさは無限大なの?」と驚いてしまうわけである。何気なく書かれた数式がとんでもない意味であることに気が付いたとき、「もっと知りたい!学びたい!」という気持ちが一気に高まるのだ。

また線形代数は量子コンピュータを理解するために必須な科目のひとつである。詳細は「量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために」という記事をお読みいただきたい。


ところで第8章の量子力学の部分を本書から抜いて、数学だけの本にしたら面白さが残るのかどうか気になっている方がいると思う。つまり「線形代数は何の役に立つのか?」がわからず、計算手順だけを説明するつまらない本になってしまうのではないかという懸念である。特に前半の基礎的な計算の章と固有値の解説が気になる。

この点に関して、僕は心配ご無用と言っておきたい。解説される計算の内容自体は一般的な教科書と同じだ。けれども本書を魅力的なものにしているポイントは2つある。

1)竹内先生の言葉による解説が簡潔かつ適切であること。無味乾燥な計算手順の意味が読者に伝わり、なぜそのような計算をするか確認しながら先へ進めるように書かれている。

2)計算や説明が「お見事!」と言えるほど要領よく書かれていること。コンパクトで薄い本なので自然にそうなるわけだが、読者は計算の途中で息切れせず、ひとつひとつ理解してく喜びを感じることができる。「手短かであるのに省略していない」ところに竹内先生の技量を感じる。

このようなわけで、「面白い」という表現が適切かどうかはわからないが、数学の部分だけについても本書は飽きることなく読める本なのだ。


本書のサポートページは次のアドレスで公開されている。正誤表のほか、ガウスの消去法で使うExcelシートをダウンロードすることができる。

高校数学でわかる線形代数サポートページ
http://easyscience.webnode.jp/高校数学でわかる線形代数/

線形代数は囲碁や将棋の名人を倒したソフトや最近話題になっている「ディープラーニング(深層学習)」に必須な基礎数学なので学ぶ人が増えている。ぜひ、本書で線形代数を好きになり、竹内先生の著書の魅力に気付いてほしい。


本書を読み終え、さらに深く学んでみたい方は「線形代数学入門のための教科書談義」の記事で紹介している教科書をお読みになるとよいだろう。


関連記事:

高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5b7f5f84c50f24d93b23d6e07c9cb73d

改訂版 行列とベクトルのはなし: 大村平
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/71c73f4258b48518957d5995d96f81ad

線形代数学入門のための教科書談義
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d2ac30c9f5f620ad703304d710ed90b

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7


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高校数学でわかる線形代数:竹内淳」(Kindle版)行列の基礎から固有値まで



はじめに

第1章 行列は方程式を解くためのツール
- 「線形」とは、どんな意味だろう?
- 算数の鶴亀算を行列で書くと
- 普通の方程式の解き方: 消去法
- 拡大係数行列を使った方程式の解き方
- 小行列: 行列の中の小さな行列
- 階数
- 階数と解の重要な関係
- 階数と方程式の関係
- 解は1組か? あるいは無数に存在するか?

第2章 単位行列と逆行列
- 単位行列
- 逆行列
- 逆行列と方程式の関係
- 行の基本変形を使った逆行列の求め方
- 行の基本変形は行列のかけ算で表せる
- 行の基本変形を行列のかけ算に置き換える
- 複数の行の基本変形を1つの行列にまとめよう

第3章 行列式の登場
- 行列と同じくらい大事な式?
- 行列式を考案したのは日本人!
- 若き関孝和
- サラス
- 行列式の性質
- 行列式のかけ算の行列式
- 江戸時代の数学書と遺題継承
- 算聖・関孝和
- 正則な行列の逆行列は?
- 余因子行列とは
- 転置行列の行列式は同じ
- 正則であるための条件
- クラメールの公式
- ライプニッツとクラメール
- 自明でない解を持つ条件
- 終結式と行列式
- 2次方程式の終結式
- シルベスター

第4章 行列の数値計算
- クラメールの公式はほとんど使われていない?
- ガウスの消去法
- 表計算ソフトで行列を計算してみよう!
- 行列のかけ算
- ガウスの消去法の計算
- ガウスの消去法を使った逆行列の導出
- 数値計算の世界での一歩

第5章 空間とベクトルの不思議な関係
- ベクトルとスカラー
- 3次元での1次従属とは?
- 別の基底の取り方
- シュミットの直交化法
- 1次独立かどうかを明らかにする行列式
- ベクトル空間
- 方程式と1次従属の関係

第6章 固有値問題ってなに?
- 固有値問題
- 固有値問題の実例
- 行列の対角化
- 異なる固有値に属する固有ベクトルは1次独立である
- 行列の固有値が重解だった場合
- 3次の正方行列が重解を持つ場合
- 対角化が可能であるかどうかの見分け方
- 相似な行列
- 相似な行列のさらにおもしろい性質

第7章 複素数を含む行列
- 複素数とは
- 複素数を座標に表示する方法
- 複素数=複素数のとき複素共役も等号が成り立つ
- 複素数の内積とは
- 共役転置行列
- エルミート行列
- エルミート
- エルミート行列の固有値は必ず実数になる
- エルミート行列の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する
- エルミート行列はユニタリ行列を使って対角化できる

第8章 量子力学との関わり
- 行列と量子力学
- シュレディンガー方程式
- 物理量の求め方
- ブラケット表示
- シュレディンガー方程式の解の例
- 規格化条件
- 電子のエネルギーを求める
- エルミート演算子
- エルミート演算子の固有値は実数である
- エルミート演算子の固有値の固有関数は直交する
- 演算子の行列表現
- エルミート行列へ

付録
おわりに
参考文献
さくいん
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