とね日記

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量子力学を学ぶための解析力学入門: 高橋康著

2009年04月29日 18時23分50秒 | 物理学、数学

今日紹介するのは高橋康先生著の「量子力学を学ぶための解析力学入門」だ。「悪魔の妄想」というrikunoraさんの物理学サイトの「ラグランジアンに意味は無い」という記事に触発されて買った本。

解析力学にについては以前「解析力学 (久保謙一著、裳華房)」という記事で久保謙一先生の著書を紹介したので2冊目となる。後者のほうがより初学者向けの本なので、はじめて解析力学を勉強される方は久保先生の本をお勧めする。説明が平易で浅いぶん、具体的な力学の問題に解析力学の手法を適用して説明することに多くページを割いているからだ。

その反面こちらの高橋先生の本はラグランジアンやハミルトニアン変分原理正準変換と母関数など解析力学で学ぶ偏微分で表わされた方程式をいじくりまわして見せることによって、より深い考察を読者に提示してくれる。しかし量子力学を学ぶ準備を目的としているので網羅的に解説している本ではないことは注意すべきである。

とかく解析力学の入門書では「それを使って解ける力学の問題」だけ紹介されるものだから、つまり成功例だけ示されるものだから僕はラグランジアンやハミルトニアンがあたかも「万能ツール」であるかのように誤解していたのだ。実はそうではないことをこの高橋先生の本で知ることになった。

こういうわけで久保先生の本と高橋先生の本を両方買っても無駄にはならない。対象読者と解説の目的、方向性がかなり違っているからだ。

はじめて勉強する者にとって解析力学は難しく感じるだろう。解析力学とは力学の運動方程式の一般化、体系化、定石化のプロセスであり、物理現象そのものに直結していないからだ。ニュートン力学で解こうとすると複雑で面倒な数式計算は一般化された座標や運動量を変数とすることで美しく、簡潔な方程式からあっさり解けてしまう。これが解析力学のひとつの効用である。

そのぶん抽象化された解析力学の物理量や関数の数式展開は具体的なイメージで考えたいという自然な欲求に従っている限りなかなか理解できないのである。物理学を勉強する人がはじめて体験する「解脱」が解析力学なのだと僕は思った。もちろん解脱から得られる収穫は大きい。それは物理現象の運動方程式の奥に隠れている自然法則の普遍的で本質的な原理を探求する旅の始まりだからだ。

このような数式だらけの本であるが、しぶとくじっくり読み込んだので僕は90%くらい理解できたと思う。理解できる本というのは読んでいて実に楽しいものだ。何に感動するかは人それぞれだが、この本の中で僕は以下のくだりにハッとさせられたり、「へぇ、なるほど」と納得させられたりした。

- 運動方程式と対称性と両方の知識を含んでいるのがLagrangianでありHamiltonianである。(103ページ)

- ある時間の変換を伴わない無限小変換に対するLagrangianの変化は、物理量 (∂L/∂q'i)δqi≡εNの時間的変化に等しい。(106ページ) 注意:「q'」は一般化座標qの時間微分とする。

- 運動方程式の不変性と物理量の保存則の間には、直接の関係はない。(115ページ)


Webで解析力学を学んでみたいという方は「EMANの物理学」の中の「EMANの解析力学」のセクションがだいぶ充実してきたのでこちらをお勧めする。


解析力学は力学や量子力学に使われるだけでなく、電磁気学、量子場の理論や素粒子物理学にも応用される。この意味で次のような本書の姉妹書を高橋先生はお書きになっているのでこちらもお勧めだ。いずれこのブログでも紹介するだろう。本書も含めて以下に掲載しておく。


量子力学を学ぶための解析力学入門


量子場を学ぶための解析力学入門


古典場から量子場への道



関連記事:

量子場を学ぶための場の解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e5ebbd29d17ffac8ce95d0ca8cc5e099

古典場から量子場への道: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9315c8336e6b582d7e8a7af63640bdc8


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量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 目次

第1章:Euler-LagrangeおよびHamiltonの方程式
はじめに
Newtonの運動方程式
Euler-Lagrangeの方程式
Hamiltonの方程式

第2章:Hamiltonの原理(変分原理)
はじめに
作用積分
Euler-Lagrangeの方程式の導出
Hamiltonの原理

第3章:正準形式の理論
はじめに
Hamiltonian
正準運動方程式

第4章:正準変換
はじめに
変分原理と正準方程式
正準変数の変換
恒等変換
無限小変換

第5章:Poisson括弧
Poisson括弧の定義
Poisson括弧と正準変換
Poisson括弧の不変変換に対する正準性
Poisson括弧の性質
正準方程式
Poisson括弧と無限小変換

第6章:位相空間
はじめに
位相空間
Liouvilleの定理
非圧縮性流体

第7章:Lagrangianの対称性と物理量の定義
はじめに
Lagrangianの多様性
物理量とLagrangianの対称性
時間変化を含む変換に伴うNoetherの恒等式
注意とまとめ

付録:
Lagrangeの未定係数法
Legendre変換
場の理論への拡張
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
解析力学は落とし穴が多いですよね。 (EROICA)
2009-04-29 22:38:12
 とねさん、お久しぶり。EROICAです。

 解析力学は、初めて学ぶ者にとって、学びにくいものですよね。

 私は、最初にその存在を知ったのは、裳華房の物理学選書の「場の理論」を読んでいたときで、その後、親友から質問をされて、調べ始めました。

 物理学では、正準変換というものを、数学では、接触変換というのだとか、色々なことをゴチャゴチャに頭に入れていたのを覚えています。

 解析力学を語るとき、ランダウの「力学」とアーノルドの「古典力学の数学的方法」は、外せないでしょう。

 どちらも、読んで、100%理解出来る本ではありませんが・・・

 とねさんも頑張ってますね。私も見習わないと。

 それでは。
返信する
同感 (rikunora)
2009-04-29 22:47:26
こんばんわ。
本を購入、とのコメントがあってからわずか2週間、すごい集中力ですね!
上のとねさんの感想、まったく同感です。
失礼ながら「これ、俺が書いた感想なのでは?」と錯覚するくらい。
私の解析力学についての経歴は、こんな風です。
昔、「物理入門コース2 解析力学」という本で、意味もわからず計算方法だけ覚える。
一夜漬けだったので、すっかり忘れる。
その後、量子力学や統計力学で当然のようにハミルトニアンが出てくるので、やっぱり意味が知りたくなった。
そこで「量子力学を学ぶための」という表題の、この本を買う。
いままでわからなかった、意図や効能みたいなものが見えてきて、かなり満足。
WEB上だと「EMANの物理学」が良かった。
・・・どことなく似たような経緯をたどってないですか?
返信する
EROICAさんへ (とね)
2009-04-29 23:03:14
お久しぶりです!
コメントいただきありがとうございます。

EROICAさんは「ランダウファン」ですしね。僕も書店でちらちら眺めていますが、あともう少しで手が届きそうです。(射程に入ってきました。)

物理学の本は自分の理解レベルが60%以下になると読み進むのが大変です。高いレベルの本ばかりに挑戦していると消化不良でストレスが溜まりますから、理解できるレベルの本と高度な本を交互に読み進んでいくことにしました。僕は器用ではないのでEROICAさんのように複数の本を同時進行させて読めないのです。(笑)

ところで高橋先生の残りの2冊を並べて、どちらから先に読もうか考え込んでいるところです。

ゴールデンウィークは自分の時間がたくさんとれるので大いに楽しみましょう!
返信する
rikunoraさんへ (とね)
2009-04-29 23:16:57
こんにちは。コメントありがとうございます。

> 失礼ながら「これ、俺が書いた感想なのでは?」
> と錯覚するくらい。

えっ、そうなんですか?(笑)
物理学書のレビュー記事って、EMANさんのように数式付きで詳しく解説するのはすごい手間がかかるし、数式無しだとなかなか難しいし、読者に誰を想定していいのかいつも混乱してきます。

先日喫茶店でこの本を読んでいたら隣の席に座っていたおじさんが興味を持たれたようで「何の本読んでるの?」と話しかけられました。相手の前提知識がわからないわけですから、どのレベルでお答えしようかと頭はフル回転。とりあえず10秒ほどで答えられる回答に対してその方の食いつきがよいようだったら1分ほどの回答を補足しようかと思ったわけです。僕の用意した回答はこんなものでした。

10秒回答: 大学2年生くらいの物理を専攻している学生が勉強する教科書の副読本です。

1分回答:解析力学というのは高校で習うニュートン力学というのを一般化して簡潔で、美しい方程式に構築しなおすものです。

そのおじさんは興味を持ったみたいで、目次を見たいと言ってきました。

僕のほうのブログの記事って、これの延長で理系の大学生になったばかりの人を想定して書くようにしています。

> ・・・どことなく似たような経緯をたどって
> ないですか?

EMANの物理学の功績って大きいですよね!
僕たちは「EMANチルドレン」なのですかね?(笑)
返信する

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