毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で11回目。
ところが、今年は新型コロナウィルスの世界的な流行により、授賞式はオンラインで行われるようになった。極めて異常な事態である。この記事トップの画像も例年とは違う画像を掲載している。
けれども、コロナが流行しようがしまいが、ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに変わりはない。どうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきで始めたのが「とね日記賞」である。
「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。
名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。
メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。
今年は次の賞を発表する。
- 物理学賞
物理学の教科書、専門書から選考。
- 数学賞
数学の教科書、専門書から選考。
- 教養書賞
一般向け書籍から分野別に選考。
- ブルーバックス賞
講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。
- 洋書賞
洋書の教科書、専門書、科学教養書から選考。
- 新人賞
書籍出版デビューを果たした方が書いた本から選考。
- 文学賞
ジャンルを問わない小説、文学書から選考。
- アカデミー賞
今年観た映画の中からよかったものを選考。
- テレビドラマ賞
テレビドラマの中からよかったものを選考。
- クリスマス賞
クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。
この1年で読んだ本は15冊で、次のような本である。通算434冊~448冊目。今年最大の事件はもちろん「新型コロナウィルス」だ。僕もすっかり生活パターンの調子が狂い、例年に比べて読書量が半分にも達しなかった。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)
434/4次元以上の空間が見える: 小笠英志
435/一般相対性理論の直観的方法: 長沼伸一郎
436/カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン・スチュアート
437/極低温の世界 (1982年) : 長岡洋介
438/時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮
439/時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫
440/量子とはなんだろう 宇宙を支配する究極のしくみ: 松浦壮
441/スッキリわかるJava入門 第3版 (スッキリシリーズ)
442/神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ
443/時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一
444/初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン
445/すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ
446/Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli(すごい物理学講義)
447/解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル
448/L'ordre du temps: Carlo Rovelli(時間は存在しない)
今年の科学ニュースを象徴するキーワードは「日本学術会議」である。安倍政権のころに始まった政府による同会議への人事介入は、菅政権になってからその内情を露呈し、科学だけでなく日本の学問、研究全体に大きな影を投げかけている。ブログやツイッターでの発信をすることで、今後も僕は日本の学問、科学の自由な活動を支援するために、微力ながら貢献していきたい。これまでに書いた記事では「サイエンス誌:日本の新首相、日本学術会議(SCJ)との戦いを選択」と、その関連記事をお読みいただきたい。
また、個人的な関心事として今年を象徴するのは「時間」だった。8月8日にはNHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」で、小学1年生の女の子が「どうして時間は動く(流れる)のですか?」と質問して、回答を担当された先生方を困らせていた。その様子は「【文字起こし】小学生に「時間が動く理由」を聞かれてめちゃくちゃ困るおじさんとおじさん」というまとめ記事で読むことができる。僕も時間の謎に関する本を何冊か読み、メルマガの「週間とね日記マガジン」で8月から11回に渡って解説記事を書いている。
とにかく今年の関心事は「時間づくし」だった。それは以下に発表する「とね日記賞」の各分野の授賞に色濃く反映される結果となった。
それでは2020年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)
* 物理学賞
「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン」
授賞理由: 現代物理学の難問 - 一般相対性理論と量子力学の矛盾を解決するための仮説は超弦理論だけではない。そのもうひとつの仮説がループ量子重力理論である。しかしながら、この理論は超弦理論に比べて研究者が少ないため専門的に学ぼうとするには、いくつか刊行されている英語の教科書に頼らざるを得ない。唯一日本語に翻訳されているのがこの教科書である。翻訳してくださった樺沢先生(@adx50150)には感謝、感謝である。とはいえ「初級講座」と銘打っているので、数式の導出はほとんど省かれている。その反面、どのようにこの理論が発展してきたか、どのような成果が得られたか、どのようなことが未解決であるかを、理論の発展史に沿いながら理解することができる。これがまさに僕がとりあえず知りたかったことなのだ。図版と文章だけの教養書から一歩踏み出すのに最適な本だった。そして、この本を通じ時空が創発するからくりをこの理論が説明していることを確認した。「時間」は、昨年「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」を読んで以来、僕が継続的に考察を深めているテーマである。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50940e09a28985e4f8256de5faebe1d0
* 数学賞
「カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン・スチュアート」
授賞理由: 素晴らしい本である。決定論に従う古典力学、数値的な決定論から複雑で予測不可能な未来がもたらされる。それはなぜなのか?未来が決まっていないことは量子力学の不確定性原理以外に、古典力学の中にもあった。本書は科学教養書、ポピュラーサイエンスの本であるが、数式を使った解説がいくつもあるので専門書として授賞することにした。昨年2月に読んだ「天体力学のパイオニアたち 上: F.ディアク、R.ホームズ」以来、カオス理論への興味はますます深まっている。今後は、複雑系、フラクタル理論などさらに深く学んでみたい。もしかすると新型コロナウィルスの感染拡大の研究にも使える理論なのかもしれないと思った。感染症の数理には統計学や微分方程式だけでは解決できない何かが必要である。その鍵は、時間軸に沿った複雑な現象を、どのようにしてモデル化、視覚化し計算可能なものに落とし込むかを研究することから始まる。カオス理論は物理学をはじめ、さまざまな領域に応用されている数学、数理科学である。数学賞として授賞させていただいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
カオス的世界像―非定形の理論から複雑系の科学へ: イアン・スチュアート
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4ace135356ba99a1cb549bbbf073a591
* 教養書賞(物理学部門)
「すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」
授賞理由: 姉妹書「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」よりも前に刊行された本で、時間に関する概念の変遷を主軸にして、古代ギリシャ科学から現代の最新の宇宙論までをカバーした本、ループ量子重力理論を解説した本である。第7章に「時間は存在しない」ことの解説がある。この章の詳細は、その後に刊行された姉妹書のほうをお読みになるとよい。講談社ブルーバックス、これまでの物理学入門書とはまったく違う語り口で物理学の世界に入門するために、とてもよい本だと思った。原題は「La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli(現実は見えているとおりではない)」である。英語版の「Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli(すごい物理学講義)」のほうも読んでおいた。著者のカルロ・ロヴェッリ博士は、今年の物理学賞を授賞した「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン」のガムビーニ博士と同じくループ量子重力理論研究の第一人者のお一人だ。古代ギリシャ科学に造詣が深いロヴェッリ博士の本を通じて、僕は大数学者アルキメデスの偉大な業績を再認識することになった。それが、次に発表する教養書賞(数学部門)の授賞につながる本を読むきっかけになったのである。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/93767d1f796efe646e13b54905a445cf
* 教養書賞(数学部門)
「解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル」
授賞理由: 今年いちばんワクワクしながら読んだポピュラーサイエンス書である。カルロ・ロヴェッリ博士の著作を通じて、古代ギリシャの大数学者アルキメデスの偉大な業績を再認識することになった。本書は1906年に発見されたアルキメデスの「C写本」を入手するまでの経緯、現代科学技術を使ってこれまで読むことができなかった内容を復元するまでの経緯、その内容を解説したドキュメンタリー的な本である。2000年の時間を超えて、彼の業績に新たな発見がもたらされつつある。アルキメデスの著作は、活版印刷された本を17世紀のガリレイやニュートン、ライプニッツが読み、彼らに大きな影響を与えた。特にニュートン、ライプニッツによる微分・積分の発明はアルキメデスの著作を読まなければ不可能だったはずだ。ニュートンがケプラーの3法則を証明し、万有引力の法則を提示した『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』も書かれることはなかったと思われる。古代ギリシャ数学は幾何学を使った証明で成り立っている。ユークリッドを基礎数学に例えれば、アルキメデスの幾何学は応用数学と言ってよい。そして、平面図形や立体図形の体積や重心を求める問題には、図形の「重さ」を考えに入れて証明をするというアプローチをとっている。物理の問題を数学的に解くという「数理物理学」の先駆けという意義付けができるのだ。次はより専門的な本でアルキメデスの数学を学んでみたい。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。紹介記事に埋め込んである15分の動画だけでもぜひご覧いただきたい。
解読! アルキメデス写本: リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aba2a2674ac2cb8c79ead88f65a2eb6e
* ブルーバックス賞
これら3冊に授賞することにした。
「時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮」
「時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫」
「時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一」
授賞理由: 今年の関心事は、とにかく「時間」なのである。そしてたまたま講談社ブルーバックスから近年刊行されていたのがこの3冊だった。なぜ立て続けに同じテーマの本を出したのだろう?意図的だったのか、たまたまだったのかはわからないが、3冊の違いが気になって仕方がなかった。読んで紹介しておけば、これから読もうとする人の参考にもなるだろう。どれもKindle版がでているから立て続けにクリックしてしまった。内容には一部重複があるが、それぞれの先生方の解説のしかた、語り口はまったく違う。優劣をつけるのは不可能だ。3冊とも読んでみるとよいだろう。特に3冊目の高水先生の本は、時間の逆行について解説してあり、後に授賞するアカデミー賞の映画のテーマに直結する。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体: 松浦壮
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/30e586091ba9dda356e9a0d2d3a0e815
時間はどこから来て、なぜ流れるのか? : 吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bc8d145f76b637ece8d2de8eaa7e81d
時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて: 高水裕一
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c14a3269ad7ef2f8f11702ef584e7d3c
* 洋書賞
「L'ordre du temps: Carlo Rovelli(時間は存在しない)」
授賞理由: これも「時間」がテーマの本である。同じ本を3カ国語で読むという「ロゼッタストーン外国語学習法」を実践するために読んだ「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」というベストセラーの仏訳である。フランス語版の前に英語版の「The Order of Time: Carlo Rovelli(時間は存在しない)」も読んでいる。本書では時間とは何か?時間の概念はどのように変容していったか?そして時間はもともと存在しなかった、時間はどのように生まれ、私たちが認識しているのかについて、深い考察をもたらしてくれる。ベストセラーになるだけのことはあると感銘を受けた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。(日本語版、英語版の紹介記事のほうをお読みになるのもよいだろう。)
L'ordre du temps: Carlo Rovelli(時間は存在しない)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3179036e31b41c237ea9f0aca2b9a43e
* 新人賞
未読の本には授賞しないのがルールであるが、話題になった本なので今年は例外的にルールを破ってこの本に授賞することにした。
「一般ゲージ理論と共変解析力学: 中嶋慧、松尾衛」
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授賞理由: ツイッターで相互フォローしていただいている中嶋慧氏(@subarusatosi)の出版デビュー作である。姉妹書「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く」をお書きになった松尾衛先生(@mamorumatsuo)との共著。今後の研究、執筆を応援する意味で授賞させていただいた。刊行直後、大きな話題をさらった。それは、日ごろのツイートでよく目にする中嶋氏の本がついに完成したという驚きであり、難解な物理学書であるにもかかわらず売れ行きが好調だったことがブームに拍車をかけた。ざっと眺めた(読んだとはとても書けない)ところ、僕には難し過ぎるようだ。一般の科学ファンの多くは、この本で紹介している理論の位置づけが現代物理学のどこにあるのか理解できないのではないかと思った。一般ゲージ場の「一般」と共変解析力学の「共変」とは、ともに一般相対性理論そのもの、一般相対性理論に要求される条件を意味している。中嶋氏には、文章だけで本書が解説している理論の意味、現代物理学上での位置づけ、本書の流れを一般の読者に向けて文章だけで解説する「お助け本」、「ガイドブック」のような本を執筆していだだければと、僕は淡い期待を持つに至った。この理論を解説する科学教養書は皆無だから、きっと売れるに違いないと思う。
紹介記事は書いていないため、本書のサポートページと中嶋慧さんのページ、本書を読む前に読んでおくとよい姉妹書の紹介記事を載せておく。
一般ゲージ理論と共変解析力学(MMATSUO.COM)
https://mmatsuo.com/cam/
中嶋 慧(さとし)のページ
http://physnakajima.html.xdomain.jp/
相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b0d1802a96037c9f99d92848b042e30a
* 文学賞
「潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫」
授賞理由: 今年は昭和の天才作家、三島由紀夫の没後50年である。自衛隊市谷駐屯地でおこした三島事件について、僕はこれまでに「昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介」と「三島由紀夫事件 50年目の証言―警察と自衛隊は何を知っていたか: 西法太郎」の紹介記事を書いているが、これらは文学賞ににはふさわしくない。「金閣寺」、「仮面の告白」という代表作は、すでに読んだことがあるので三島の文才を堪能できる「潮騒」を読んでみた。没後50年ということで新潮文庫は三島の小説は、新しいイラストに表紙を変更している。日本語版に続き、英語訳も読んでおいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
潮騒(新潮文庫): 三島由紀夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b669465d590800dce4558ba7fa1aeb04
The Sound of Waves(潮騒): Yukio Mishima
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4af6155f90a90a1547ee93cc4e78ec63
* アカデミー賞
アカデミー賞の授賞も「時間」を作品に活かした映画になった。これは時間の逆行や遅延を巧みに取り込んだクリストファー・ノーラン監督の作品。新型コロナウィルスで大打撃を受けた映画界、映画館を復活させようと、ノーラン監督はこの作品に期待をかけていた。大成功である。日本公開の2日目に池袋の映画館で友達と観た。時間だけでなく熱力学の第2法則、反粒子など物理学の素養が要求されるために難解なのだと誤解していたが、実際に見たところこの映画の難解さは、順行する時間と逆行する時間が同じシーンに混在したり、シーンとシーンのつながり、時間を行き来することによる出来事の因果関係の複雑さなど、ストーリーを理解するのがとても難しいことに気がついた。DVDやBlue-rayディスクは、来年1月8日に発売される。
映画『TENET テネット(2020)』
予告編動画を埋め込んだ紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
映画『TENET テネット(2020)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5dd254586815f8d834cf15f00daca235
今年は日本映画界に悲しいニュースが飛び込んできた。2016年ガンを公表されてからも映画を撮り続けてきた大林宣彦監督が4年間の闘病の末に、4月10日に逝去された。追悼させていただきたいと思い、映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』を観てブログ記事として紹介させていただいた。長岡空襲、新潟県中越地震を乗り越え復興した長岡市民のために制作した心にしみる映画である。平和を願い続け、若者にその大切さを訴え続けた大林監督に対し、謹んでご冥福をお祈りします。
映画『この空の花 -長岡花火物語(2011)』大林宣彦監督
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4abaf7d78c34adc8706f63ebac8a616
* テレビドラマ賞
新型コロナウィルスはテレビドラマにも大きな影響を与えた。4月7日から5月6日まで続いた緊急事態宣言によって撮影が中断し、4月クールのドラマは大打撃を受けた。7月クール、10月クールも完全には回復しきっていない。それは1月クールのドラマの本数に比べて4月以降の本数が少ないことからわかると思う。NHKの大河ドラマ『麒麟がくる』も撮影が1か月に渡り中断し、最終回を年を越した2021年2月7日に放送するという異例の事態となった。
苦境にありながら、各テレビ局は過去に放送したドラマを再放送したり、ドラマ出演者による特別番組を組むなど、工夫をこらしていた。緊急事態宣言解除後は、撮影が再開し徐々に新ドラマを楽しめるようになった。日曜劇場『半沢直樹』の新シリーズは、前シリーズより格段にパワーアップして、僕も毎週楽しく観ていた。また、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』ではコロナ禍を逆手にとって、Withコロナの生活をドラマに取り込み、出演者はマスクをつけて演じている。また『危険なビーナス』、『七人の秘書』も毎週観ている。
今年は観ることができたドラマの本数が少なかったわけだが、いちばん心に残るドラマに授賞することにした。それは日本テレビで放送されている『35歳の少女』である。このドラマは自転車での事故で植物状態になった主人公の10歳の少女、望美(柴咲コウ)が25年後に意識を回復したという設定。身体は35歳でも心と知識は10歳のままである。このドラマは母親(鈴木保奈美)との衝突と仲直りを繰り返しながら失った25年間を取り戻していくという話である。
つまり、テレビドラマ賞も「時間」が重要な題材になったのである。
『35歳の少女』
『35歳の少女』公式ページ
https://www.ntv.co.jp/shojo35/
今年は、俳優の三浦春馬さん、芦名星さん、竹内結子さん、藤木孝さんの4人が、普通ではない亡くなり方をされた。映画界、テレビドラマ界にはとてもつらい年になってしまった。ここにあらためてご冥福をお祈りしたいと思う。
* クリスマス賞
そしてクリスマス賞はミヒャエル・エンデの『モモ』に授賞することにした。この児童書はテレビドラマ賞を授賞した『35歳の少女』の中で取り上げられている。自転車での事故で植物状態になった主人公の10歳の少女、望美(柴咲コウ)が事故に遭う前にクラスメイトの結人(坂口健太郎)から借りていたのがミヒャエル・エンデの『モモ』だった。時間泥棒がテーマの本なのでドラマで取り上げられたのは、そのためである。25年ぶりに35歳の結人と再会した望美は、借りっぱなしになっていた本を返すことになる。
この本は、コロナ禍で見直され、今年の初めくらいから『モモ』ブームが起きているのである。その理由は、このニュースの動画をご覧いただくとその理由がわかる。
コロナでなぜ人気?児童文学の名作 ミヒャエル・エンデ(著)「モモ」
(by 2020.9.23(水)NHK「おはよう日本」) 再生時間:5分18秒
本の紹介記事は、こちらでお読みいただきたい。
モモ: ミヒャエル・エンデ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3760861392f8a08a2d6224227092cfe4
というわけで、クリスマス賞も「時間」に関わる授賞となった。
日本語版は以下の3つの装丁のものが買えるほか、Kindle版でも読むことができる。ドラマで使われていたのは単行本である。
「モモ(単行本): ミヒャエル・エンデ」(文庫版)(愛蔵版)(Kindle版)
日本語版の章立てはこのページで確認いただける。
クリスマスには、もっと他の本を贈りたいという方は、過去の「とね日記賞」のクリスマス賞を参考にしていただきたい。僕のイチ押しは2015年にクリスマス賞を授賞した「アリスとキャロルのパズルランド 不思議の国の謎解きブック」である。
* ノーベル物理学賞、化学賞
今年のノーベル物理学賞、化学賞は次の記事で紹介している。
2020年 ノーベル物理学賞はペンローズ博士、ゲンツェル博士、ゲーズ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/379d0faef6100f33e962cbee08b1e4a7
2020年 ノーベル化学賞はシャルパンティエ博士、ダウドナ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf11e4584bfd9e575b3b835720bb04ee
物理学賞の発表で使用された2番目のスライドで、ブラックホールの外と内では空間と時間の役割が入れ替わることが説明されたが、これに興味を持った方がいると思う。
ブラックホールの外と内を説明。時間が流れるのは事象の地平面までである。
事象の地平面(Event Horizon)をはさんでブラックホールの外と内で空間(Space)と時間(Time)の役割が入れ替わる。(解説)外の空間では、自由に空間を行き来できるが、時間を操ることが出来ない。事象の地平面内では、空間を行き来が出来ないが、時間を制御できる。なお、ブラックホールの中心が特異点(Singularity)である。
(拡大)
その詳しい解説は、次の本の第III章「ブラック・ホールの時空構造」に書かれている。ただし、この本は名著であるものの、初版は1973年刊行、そしてこの新装版は2003年刊行と、とても古い本なので現在では誤りだとわかっている理論も書かれている。お読みになる方はご注意いただきたい。(簡単かつ手短かな解説でよければ、このページの「揺らぎは時間と空間の区別さえ崩壊させる」という節に書かれている。)
「新装版 相対論的宇宙論―ブラックホール・宇宙・超宇宙」(Kindle版)
今年のとね日記賞は、「時間づくし」だったので、あえて補足させていただいた。状況によっては時間と空間の区別が崩壊することがあり得ることを覚えておいてほしい。
最後になりますが、本日受賞される先生方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!
関連記事:
過去の「とね日記賞」一覧: 開く
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この本に載ってたブラックホールが他の宇宙に通じるワームホールになってる事を示すペンローズ図を自分で確かめたいと思ったのが「場の古典論」を読んだ動機だったんですよねー。
仕事で使うという理由もあったんですが、相対論を勉強したついでに帯電ブラックホール解も求めてペンローズ図への座標変換も求めたのは仕事と関係ないのは明らかです。
「場の古典論」を選んだのは、たまたま会社の図書に旧版があっただけなので、結構難しいと言われてることも知らなかったし、これを計算した時はペンローズ図という名称すら知らなかった。
僕は迷路にハマったこともあって9ケ月かかったから、会社の同僚がスキーの骨折で 1ケ月足らずの入院中にマスターしたのには負けてます。
コメントをいただいたのに気がつくのが遅くなり失礼いたしました。
「相対論的宇宙論―ブラックホール・宇宙・超宇宙」は、hirotaさんが「場の古典論」を読むきっかけになった本なのですね。僕がペンローズ博士のことを知ったのは、科学雑誌のNewtonが創刊された80年代だったと思います。
> 会社の同僚がスキーの骨折で 1ケ月足らずの入院中にマスターしたのには負けてます。
そのようなことも覚えていらっしゃったとは。ww
hirotaさんならではのオチなのかと思いました。