「湯川秀樹 量子力学序説」
内容紹介:
本書は湯川秀樹『量子力学序説』改訂増補版、新装版を底本として現代表記に改め、出来る限り原著を忠実に再現しながらも湯川の加筆訂正も参考に適宜修正を加え、新たに組み直した新版である。底本は絶版となって久しく、現役の量子物理の研究者ですら見たことのない教科書であるが、その内容は現代の読者にとっても相応しいものとなっている。量子力学の概念を把握しておきたい学生におすすめする。
初版は量子力学の黎明期に若き湯川が京都帝国大学と大阪帝国大学で教鞭をとった際の経験をもとに執筆された。京都帝国大学で湯川はこの教科書にチョークでしるしをつけ、書き込みながら授業を行っていた。本書の構成は湯川が独自に考え出したものであり、改訂増補版から第8章が追加された。量子力学が出来上がってきた時代に、誰がどのように考えて新しい理論作りに挑戦していったかが、手に取るように分かるのも興味深い。
湯川は序文に、
「量子力学は今日、物理学のみならず化学においても、もっとも基礎的な地位を占める理論体系である。さらにそれは工学の諸分科や、生物学・生理学・心理学ないしは哲学にまでも重大な影響を及ぼしつつある。本書はこれらの点に鑑み、一方では物理学を専攻しようする学生に対する量子力学の入門書であるとともに、他方ではこの方面の問題に関心を有するもつ広い範囲の人達にも読んで頂くつもりで、この理論の本筋だけを平易に述べたものである」
と記している。湯川の執筆から長い年月が過ぎても、生命には解明されない謎が多数残されている。そしてその解明には量子力学の導入が力になるに違いない時代となった。AIが全ての分野で全盛期を迎えている今、確率統計的な考えを把握するためにも、量子力学を基礎から丁寧に執筆している本書を読み込むことは、時代を超えて現代に学ぶ学生の確かな知と力となるだろう。付録は比較的多く、量子力学を学ぶにあたって予備知識として必要な、古典物理学および古典量子論の概要も収録されている。
2021年7月15日刊行、422ページ
著者:
湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)
大阪大学湯川記念室HP: https://www-yukawa.phys.sci.osaka-u.ac.jp/
理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてI」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてI」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。
湯川先生の著書: 書籍版 Kindle版
大阪大学総合学術博物館湯川記念室
湯川秀樹『量子力学序説』復刊編集委員会
土岐 博(とき・ひろし)
藤村行俊(ふじむら・ゆきとし)
橋本幸士(はしもと・こうじ)
大阪大学湯川記念室は湯川博士の大阪大学での研究を顕彰するべく、1953年に設立された。湯川博士に関する史料保存のほか、新しい学問を目指す人々に向けてさまざまな活動を行っている。
量子力学のまったく新しいタイプの教科書として刊行された本を「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」として記事にしたが、この本を読んだ後に古いタイプの教科書も読んで比べてみようと思っていた。どの教科書にするか迷っているうちに恰好の本が刊行された。それが今回は発売情報として紹介する「湯川秀樹 量子力学序説」という復刻本だ。
この教科書の初版が刊行されたのは1947年(昭和22年)である。この本を僕はたまたま14年前の7月に入手していた。戦後わずか2年後に刊行されただけに紙質はとても悪い。写真は「量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本」という記事でご覧いただける。
このほか古い教科書では、この他1934年(昭和9年)11月に刊行された(原著は1930年刊行)も3年前に入手している。写真は「波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯」という記事でご覧いただける。
現代までに刊行されてきた教科書は、その構成の大半がこれらのとても古い教科書の時代に骨子が出来上がっていて、その内容を踏襲している。先日刊行された「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」は、この伝統的な常識を覆したのだ。
とはいえ、湯川先生の時代、1947年にそれを求めるのはまったく無理な話。量子情報理論はおろか古典情報理論を生み出したクロード・シャノンが「通信の数学的理論:クロード・E. シャノン、ワレン・ ウィーバー」のもとになった論文を発表したのは1948年のことであり、ベルの不等式を考案したジョン・スチュワート・ベルは、1948年にクイーンズ大学を実験物理学で卒業したばかりで、彼がその不等式を発表したのは"On the Einstein-Podolsky-Rosen Paradox(EPRパラドックスについて)"という題の論文で、1964年のことである。量子テレポーテーション(量子j情報通信)の詳細な論文は、チャールズ・ベネットらによって湯川先生の没後10年以上たった1993年に発表された。
つまり1947年の時点で量子情報理論は「卵」として眠っていた。(卵以前の精子と卵子だったのかもしれない。)だから、波動関数の収縮や観測問題など初期の量子力学の謎は解決されておらず、この状況は現代の教科書や科学教養書に至るまでそのままになっていた。
このようなわけで、僕は堀田先生の教科書と湯川先生の教科書を両方とも読んで、古いタイプの教科書はどこがいけなかったのかを身をもって体験し、整理してみようと思っている。
『量子力学序説』は1947年(昭和22年2月5日発行)の初版のあと、1954年に改訂増補版(昭和29年6月15日発行)が刊行され、湯川はその序文で「調べてみると、まだ不満な点が幾つも残っているが、取敢えず吸う箇所の誤植を訂正し、44ページの説明の足りない所を補うことにした外、本文の最後に相対論的電子論に関する一章を付け加えた」(底本ママ)と書いている。その後1971年(昭和46年4月30日発行)に新装版が刊行されt、これは増補改訂版で補われた箇所が補われていない。本書はこれらの増補改訂版と新装版を底本とし、増補改訂版で補われた44ページの追加と第8章を再録した。
そのため、今回復刻した本の章立ては次のとおり。詳細目次は、橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。
第1章 量子論の発達
第2章 波動力学の概観
第3章 行列力学の方法
第4章 量子力学の基礎概念
第5章 一般理論
第6章 摂動論および衝突論
第7章 多体問題および輻射論
第8章 相対論的電子論
付録I 古典力学摘要
付録II 古典電気力学摘要
付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
付録IV 直交関数系
付録V ベクトル空間
付録VI 量子力学の参考書
付録VII 術語一覧
湯川先生のライバルの朝永先生も、1951年と1953年に量子力学の教科書のI、とIIを刊行されている。以下はその後刊行された新装版だ。もちろん堀田先生の教科書が刊行された今では「古いタイプ」の教科書である。初学者にとっては湯川先生の教科書よりも読みやすく書かれていると僕は思う。
「量子力学 I:朝永振一郎」(紹介記事)
「量子力学 II:朝永振一郎」(紹介記事)
「角運動量とスピン―『量子力学』補巻:朝永振一郎」(紹介記事)
「スピンはめぐる―成熟期の量子力学 新版:朝永振一郎」(紹介記事)
なお、堀田先生は古いタイプの教科書に書かれていがちな前期量子論について、次のようにツイートされている。
「前期量子論はまるで大河ドラマを観るような面白さがありますが、一方で、波動関数の理解が物質波から確率波、部分的に量子場へとつながって、概念の混乱が激しいのです。それを今回は思い切って整理をし、最小限の論理に必要がないものは削りました。」
関連記事:
量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf5b874acf0b81d58d4bf8d8e66c6adf
波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/189f204f732ab835fb9baf720302a39d
発売情報: ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/19193db48c2ca3c17c9422d1827de6d4
量子力学 I 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7a2a6fb8e53c35ae78ee655ab68d8219
量子力学 II 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9
「湯川秀樹 量子力学序説」
目次: 橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。
序
改訂増補版序
凡例
第1章 量子論の発達
- 物質と電気の素量性
- 作用量子の発見
- 光の粒子性
- 原子の構造
- 対応原理と量子代数
- 物質の波動性
- 量子力学の成立と発展
第2章 波動力学の概観
- Schrödingerの方法
- 中心運動の量子化
- 非周期運動の量子化
- 古典論との対応
第3章 行列力学の方法
- Heisenbergの理論
- 角運動量とスピン
第4章 量子力学の基礎概念
- 物理量の固有値と平均値
- 微視的現象の特質
第5章 一般理論
- 量子力学的状態の表示
- 物理量の表現
- 変換理論
- 力学的法則
- 観測の問題
第6章 摂動論および衝突論
- 摂動論
- 衝突の理論
第7章 多体問題および輻射論
- 多電子問題
- 対応的輻射論
- 輻射の量子化
第8章 相対論的電子論
- Diracの波動方程式
- Diracの電子の諸性質
付録I 古典力学摘要
- LagrangeおよびHamiltonの運動方程式
- 変換理論
- 多重周期運動
- 衝突現象
付録II 古典電気力学摘要
- 電子論の基本法則
- 電子と輻射の相互作用
付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
- Bolzmann統計
- 熱輻射の理論
- 原子構造の理論
付録IV 直交関数系
- 固有値問題によって定義された直行関数系
- 固有関数の一般的性質
付録V ベクトル空間
- n次元のベクトル空間
- Hilbert空間
付録VI 量子力学の参考書
付録VII 術語一覧
索引
復刊あとがき
内容紹介:
本書は湯川秀樹『量子力学序説』改訂増補版、新装版を底本として現代表記に改め、出来る限り原著を忠実に再現しながらも湯川の加筆訂正も参考に適宜修正を加え、新たに組み直した新版である。底本は絶版となって久しく、現役の量子物理の研究者ですら見たことのない教科書であるが、その内容は現代の読者にとっても相応しいものとなっている。量子力学の概念を把握しておきたい学生におすすめする。
初版は量子力学の黎明期に若き湯川が京都帝国大学と大阪帝国大学で教鞭をとった際の経験をもとに執筆された。京都帝国大学で湯川はこの教科書にチョークでしるしをつけ、書き込みながら授業を行っていた。本書の構成は湯川が独自に考え出したものであり、改訂増補版から第8章が追加された。量子力学が出来上がってきた時代に、誰がどのように考えて新しい理論作りに挑戦していったかが、手に取るように分かるのも興味深い。
湯川は序文に、
「量子力学は今日、物理学のみならず化学においても、もっとも基礎的な地位を占める理論体系である。さらにそれは工学の諸分科や、生物学・生理学・心理学ないしは哲学にまでも重大な影響を及ぼしつつある。本書はこれらの点に鑑み、一方では物理学を専攻しようする学生に対する量子力学の入門書であるとともに、他方ではこの方面の問題に関心を有するもつ広い範囲の人達にも読んで頂くつもりで、この理論の本筋だけを平易に述べたものである」
と記している。湯川の執筆から長い年月が過ぎても、生命には解明されない謎が多数残されている。そしてその解明には量子力学の導入が力になるに違いない時代となった。AIが全ての分野で全盛期を迎えている今、確率統計的な考えを把握するためにも、量子力学を基礎から丁寧に執筆している本書を読み込むことは、時代を超えて現代に学ぶ学生の確かな知と力となるだろう。付録は比較的多く、量子力学を学ぶにあたって予備知識として必要な、古典物理学および古典量子論の概要も収録されている。
2021年7月15日刊行、422ページ
著者:
湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)
大阪大学湯川記念室HP: https://www-yukawa.phys.sci.osaka-u.ac.jp/
理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてI」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてI」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。
湯川先生の著書: 書籍版 Kindle版
大阪大学総合学術博物館湯川記念室
湯川秀樹『量子力学序説』復刊編集委員会
土岐 博(とき・ひろし)
藤村行俊(ふじむら・ゆきとし)
橋本幸士(はしもと・こうじ)
大阪大学湯川記念室は湯川博士の大阪大学での研究を顕彰するべく、1953年に設立された。湯川博士に関する史料保存のほか、新しい学問を目指す人々に向けてさまざまな活動を行っている。
量子力学のまったく新しいタイプの教科書として刊行された本を「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」として記事にしたが、この本を読んだ後に古いタイプの教科書も読んで比べてみようと思っていた。どの教科書にするか迷っているうちに恰好の本が刊行された。それが今回は発売情報として紹介する「湯川秀樹 量子力学序説」という復刻本だ。
この教科書の初版が刊行されたのは1947年(昭和22年)である。この本を僕はたまたま14年前の7月に入手していた。戦後わずか2年後に刊行されただけに紙質はとても悪い。写真は「量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本」という記事でご覧いただける。
このほか古い教科書では、この他1934年(昭和9年)11月に刊行された(原著は1930年刊行)も3年前に入手している。写真は「波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯」という記事でご覧いただける。
現代までに刊行されてきた教科書は、その構成の大半がこれらのとても古い教科書の時代に骨子が出来上がっていて、その内容を踏襲している。先日刊行された「発売情報:入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として:堀田 昌寛」は、この伝統的な常識を覆したのだ。
とはいえ、湯川先生の時代、1947年にそれを求めるのはまったく無理な話。量子情報理論はおろか古典情報理論を生み出したクロード・シャノンが「通信の数学的理論:クロード・E. シャノン、ワレン・ ウィーバー」のもとになった論文を発表したのは1948年のことであり、ベルの不等式を考案したジョン・スチュワート・ベルは、1948年にクイーンズ大学を実験物理学で卒業したばかりで、彼がその不等式を発表したのは"On the Einstein-Podolsky-Rosen Paradox(EPRパラドックスについて)"という題の論文で、1964年のことである。量子テレポーテーション(量子j情報通信)の詳細な論文は、チャールズ・ベネットらによって湯川先生の没後10年以上たった1993年に発表された。
つまり1947年の時点で量子情報理論は「卵」として眠っていた。(卵以前の精子と卵子だったのかもしれない。)だから、波動関数の収縮や観測問題など初期の量子力学の謎は解決されておらず、この状況は現代の教科書や科学教養書に至るまでそのままになっていた。
このようなわけで、僕は堀田先生の教科書と湯川先生の教科書を両方とも読んで、古いタイプの教科書はどこがいけなかったのかを身をもって体験し、整理してみようと思っている。
『量子力学序説』は1947年(昭和22年2月5日発行)の初版のあと、1954年に改訂増補版(昭和29年6月15日発行)が刊行され、湯川はその序文で「調べてみると、まだ不満な点が幾つも残っているが、取敢えず吸う箇所の誤植を訂正し、44ページの説明の足りない所を補うことにした外、本文の最後に相対論的電子論に関する一章を付け加えた」(底本ママ)と書いている。その後1971年(昭和46年4月30日発行)に新装版が刊行されt、これは増補改訂版で補われた箇所が補われていない。本書はこれらの増補改訂版と新装版を底本とし、増補改訂版で補われた44ページの追加と第8章を再録した。
そのため、今回復刻した本の章立ては次のとおり。詳細目次は、橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。
第1章 量子論の発達
第2章 波動力学の概観
第3章 行列力学の方法
第4章 量子力学の基礎概念
第5章 一般理論
第6章 摂動論および衝突論
第7章 多体問題および輻射論
第8章 相対論的電子論
付録I 古典力学摘要
付録II 古典電気力学摘要
付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
付録IV 直交関数系
付録V ベクトル空間
付録VI 量子力学の参考書
付録VII 術語一覧
湯川先生のライバルの朝永先生も、1951年と1953年に量子力学の教科書のI、とIIを刊行されている。以下はその後刊行された新装版だ。もちろん堀田先生の教科書が刊行された今では「古いタイプ」の教科書である。初学者にとっては湯川先生の教科書よりも読みやすく書かれていると僕は思う。
「量子力学 I:朝永振一郎」(紹介記事)
「量子力学 II:朝永振一郎」(紹介記事)
「角運動量とスピン―『量子力学』補巻:朝永振一郎」(紹介記事)
「スピンはめぐる―成熟期の量子力学 新版:朝永振一郎」(紹介記事)
なお、堀田先生は古いタイプの教科書に書かれていがちな前期量子論について、次のようにツイートされている。
「前期量子論はまるで大河ドラマを観るような面白さがありますが、一方で、波動関数の理解が物質波から確率波、部分的に量子場へとつながって、概念の混乱が激しいのです。それを今回は思い切って整理をし、最小限の論理に必要がないものは削りました。」
関連記事:
量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf5b874acf0b81d58d4bf8d8e66c6adf
波動力學研究序説:ルイ・ドゥ・ブロイ著、渡邊慧譯
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/189f204f732ab835fb9baf720302a39d
発売情報: ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/19193db48c2ca3c17c9422d1827de6d4
量子力学 I 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7a2a6fb8e53c35ae78ee655ab68d8219
量子力学 II 第2版:朝永振一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9
「湯川秀樹 量子力学序説」
目次: 橋本幸士先生のこのツイートで公開されている。
序
改訂増補版序
凡例
第1章 量子論の発達
- 物質と電気の素量性
- 作用量子の発見
- 光の粒子性
- 原子の構造
- 対応原理と量子代数
- 物質の波動性
- 量子力学の成立と発展
第2章 波動力学の概観
- Schrödingerの方法
- 中心運動の量子化
- 非周期運動の量子化
- 古典論との対応
第3章 行列力学の方法
- Heisenbergの理論
- 角運動量とスピン
第4章 量子力学の基礎概念
- 物理量の固有値と平均値
- 微視的現象の特質
第5章 一般理論
- 量子力学的状態の表示
- 物理量の表現
- 変換理論
- 力学的法則
- 観測の問題
第6章 摂動論および衝突論
- 摂動論
- 衝突の理論
第7章 多体問題および輻射論
- 多電子問題
- 対応的輻射論
- 輻射の量子化
第8章 相対論的電子論
- Diracの波動方程式
- Diracの電子の諸性質
付録I 古典力学摘要
- LagrangeおよびHamiltonの運動方程式
- 変換理論
- 多重周期運動
- 衝突現象
付録II 古典電気力学摘要
- 電子論の基本法則
- 電子と輻射の相互作用
付録III 古典統計力学および古典量子論摘要
- Bolzmann統計
- 熱輻射の理論
- 原子構造の理論
付録IV 直交関数系
- 固有値問題によって定義された直行関数系
- 固有関数の一般的性質
付録V ベクトル空間
- n次元のベクトル空間
- Hilbert空間
付録VI 量子力学の参考書
付録VII 術語一覧
索引
復刊あとがき
中間子予想で言えば、誰も信用しない場の量子論を使ってみて結論を出す勇気がノーベル賞ものですね。
毎度、いただいたコメントの公開が遅くなり申し訳ございません。平日はまったくブログを開く時間がとれなくなっています。
そうなんです。いつの時代もそうですけれど、最先端を進む研究者は、いつでも手探りの状態です。それなのに結果が合うというのは、インスピレーション、直感のなせる業なのかと。天才がしのぎを削る競争の中で自分が信じることを発表する勇気、それを支える確信、継続する忍耐力が「賞」に結びつくのだと思いました。
先日、ワインバーグ先生と益川先生がお亡くなりになってしまいましたが、人生は短くはかないことを実感し、大きな成果を出せる研究者は本当に幸せなのだとも思いました。