「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」
--------------------------
2012年9月に追記:
上記のリンクで開く復刊本が品切れの場合は、次のリンクをクリックして中古版を購入することができる。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23)中古版:吉田洋一」
--------------------------
「最初からこの本で勉強すればよかった。」というのが正直な感想だ。「はじめてのルベーグ積分:寺澤順」や「ルベーグ積分超入門:森真―」など手軽な入門書でおおまかなところを理解してから詳しい教科書に進もうという当初の目論見は失敗した。1965年に出版された古い本とはいえルベーグ積分の入門書としてはこの「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」だけで十分だと思われる。
アマゾンでの高い評価にもかかわらず、僕がこの本になかなか手を出さなかったのは全くもって幼稚な理由だ。「ルベーグ積分」ではなく「ルベグ積分」という古臭い書名だったからだ。いろいろ研究されているぶん新しい教科書のほうがわかりやすいだろうという先入観が災いしてしまった。
第1章と第2章でルベーグ積分の必要性、実数・点集合・函数などの前提知識を説明した後、第3章から本編がはじまる。ルベグ測度や可測函数について集合論を用いた地味な定理や証明がされた後、第5章からルベグ積分の説明がはじまる。
ルベグ積分が難しいのは、同じような定理や証明が延々と続くことと、それらが自明に思えてきてしまうため、細かい証明のひとつひとつが「果たしてこれって証明しなきゃいけないことなの?」と思えてしまうことが多いからだ。数学のほかの分野の証明で経験するような「あ、なるほど!」とか「こんなふうにして証明できるんだ!」とかいう感動がほとんどない。(僕だけなのかもしれないけれど。)
地味な証明を地道に読み進んでいくのには忍耐がいる。ルベグ積分を学ぶ目的はヒルベルト空間論など関数解析を理解できるようになるためであり、ヒルベルト空間論は量子力学の基礎理論なのだという目的意識を持ち続けることで、忍耐も少しは楽しみに変えることができる。
そんな地味な本ではあったが、僕が面白く読めたのは「付録:反例そのほか」の章だ。自明でない例というのは不思議で興味をそそられるものである。
幸いコンパクトな本であることと、全体の構成がすっきりしているのでどうにか読破することができた。僕の理解度は9割くらいだ。
より専門的に詳しく学びたい方は次の本をお勧めする。こちらも1963年に出版されたルベーグ積分の名著。ただ今回の本にも増して忍耐が要求されるので、僕は手を出すかどうか迷い中。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」
ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
今日紹介したのはこちらの本。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」
--------------------------
2012年9月に追記:
上記のリンクで開く復刊本が品切れの場合は、次のリンクをクリックして中古版を購入することができる。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23)中古版:吉田洋一」
--------------------------
2015年7月に追記:
2015年8月6日にちくま学芸文庫から復刊することになりました。
Amazonで検索する。
--------------------------
目次
第1章:序説
- 積分法と微分法
- 連続函数の原始函数
- 連続函数の定積分
- リーマン積分
- ルベグ積分
- ルベグ積分の抽象化
第2章:実数・点集合・函数
- 集合
- 実数
- 函数・写像
- 逆写像・1対1の対応
- 可付番集合
- 可付番集合のいろいろ
- 集合の結びと交わり
- 開集合
- 開集合の構造
- 閉集合
- 無限大の記号
- 数列の極限値
第3章:ルベグ測度
- 測度の問題
- 外測度
- Borel-Lebesgueの被覆定理
- 区間についての諸定理
- 外測度の定義
- 可測集合
- 可測な集合の例
- 可測集合族
- 測度
- 測度についての諸定理
- 等測包
- 零集合
第4章:可測函数
- 連続函数
- 可測函数
- 可測函数の加減乗除
- 可測函数列
- 単函数
- 単函数と特性函数
- Lusinの定理
第5章:ルベグ積分
- 正値函数の積分
- 正値函数の積分の性質
- 単函数列の項別積分
- 正値函数の和の積分
- 積分可能な函数
- 項別積分の定理
- 不定積分
- ルベグ積分とリーマン積分
- 積分と原始関数
- 積分の定義再説
第6章:微分法と積分法
- 微分法と積分法の問題
- Vitaliの被覆定理
- Diniの導来数
- 増加函数と微分法
- 増加関数の導函数の積分
- 不定積分と微分法
- 有界変動の函数
- 絶対連続な函数
- 原始関数と不定積分
第7章:多変数の函数の積分
- 平面上の点集合
- R^2における測度・外測度
- 2変数函数のルベグ積分
- Fubiniの定理
- 連続写像
- 合同な点集合と外測度
- 縦線集合と積分
第8章:測度空間
- ルベグ・スティルチェス測度
- |I|gについての定理
- g可測集合とg測度
- ルベグ・スティルチェス積分
- 測度空間
- 完備測度空間
- 外測度の構成
- 可測集合と測度の設定
第9章:測度空間における集合函数
- 加法的集合函数
- Jordan分解
- 絶対連続な集合函数
- Radon-Nikodymの定理
第10章:直積測度空間とFubiniの定理
- 直積測度空間
- 完備直積測度空間
- 測度λの積分表示
- {X×Y, B, λ}におけるFubiniの定理
- {X×Y, B0, λ0}におけるFubiniの定理
付録:反例そのほか
- [a,b]でfがR積分可能ならば、fは[a,b]で有界でなければならない。
- fが[a,b]でR積分可能なとき、Ψ(x)=∫f(t)dtはfの不連続点では微分できないことがある。
- fが[a,b]で有界で、しかも原始函数をもっていても、R積分可能とは限らない。
- fnが[a,b]でR積分可能で f=lim fn が有界でもfは[a,b]でR積分可能とは限らない。
- fn(n=1,2,...)およびf=lim fnが[a,b]でR積分可能でも、lim∫fn(x)dx = ∫f(x)dxとは限らない。
- 可測でない集合
- ルベグ可測な集合はボレル集合であるとは限らない。
- fおよびgがAでL積分可能でもf・gがAでL積分可能であるとは限らない。
- いつでも lim(L)∫fn(x)dx = (L)∫lim f(x)dxとは限らない。
- 函数 f が[a,b]で微分可能でも f' が[a,b]でL積分可能とは限らない。
- fがR^2からR^2の上への連続写像のとき、開集合Gの像f(G)が開集合であるとは限らない。
- p進記法
参考書について
問の答
索引
応援クリックをお願いします!
--------------------------
2012年9月に追記:
上記のリンクで開く復刊本が品切れの場合は、次のリンクをクリックして中古版を購入することができる。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23)中古版:吉田洋一」
--------------------------
「最初からこの本で勉強すればよかった。」というのが正直な感想だ。「はじめてのルベーグ積分:寺澤順」や「ルベーグ積分超入門:森真―」など手軽な入門書でおおまかなところを理解してから詳しい教科書に進もうという当初の目論見は失敗した。1965年に出版された古い本とはいえルベーグ積分の入門書としてはこの「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」だけで十分だと思われる。
アマゾンでの高い評価にもかかわらず、僕がこの本になかなか手を出さなかったのは全くもって幼稚な理由だ。「ルベーグ積分」ではなく「ルベグ積分」という古臭い書名だったからだ。いろいろ研究されているぶん新しい教科書のほうがわかりやすいだろうという先入観が災いしてしまった。
第1章と第2章でルベーグ積分の必要性、実数・点集合・函数などの前提知識を説明した後、第3章から本編がはじまる。ルベグ測度や可測函数について集合論を用いた地味な定理や証明がされた後、第5章からルベグ積分の説明がはじまる。
ルベグ積分が難しいのは、同じような定理や証明が延々と続くことと、それらが自明に思えてきてしまうため、細かい証明のひとつひとつが「果たしてこれって証明しなきゃいけないことなの?」と思えてしまうことが多いからだ。数学のほかの分野の証明で経験するような「あ、なるほど!」とか「こんなふうにして証明できるんだ!」とかいう感動がほとんどない。(僕だけなのかもしれないけれど。)
地味な証明を地道に読み進んでいくのには忍耐がいる。ルベグ積分を学ぶ目的はヒルベルト空間論など関数解析を理解できるようになるためであり、ヒルベルト空間論は量子力学の基礎理論なのだという目的意識を持ち続けることで、忍耐も少しは楽しみに変えることができる。
そんな地味な本ではあったが、僕が面白く読めたのは「付録:反例そのほか」の章だ。自明でない例というのは不思議で興味をそそられるものである。
幸いコンパクトな本であることと、全体の構成がすっきりしているのでどうにか読破することができた。僕の理解度は9割くらいだ。
より専門的に詳しく学びたい方は次の本をお勧めする。こちらも1963年に出版されたルベーグ積分の名著。ただ今回の本にも増して忍耐が要求されるので、僕は手を出すかどうか迷い中。
「ルベーグ積分入門:伊藤清三」
ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。
ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html
ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf
今日紹介したのはこちらの本。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」
--------------------------
2012年9月に追記:
上記のリンクで開く復刊本が品切れの場合は、次のリンクをクリックして中古版を購入することができる。
「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23)中古版:吉田洋一」
--------------------------
2015年7月に追記:
2015年8月6日にちくま学芸文庫から復刊することになりました。
Amazonで検索する。
--------------------------
目次
第1章:序説
- 積分法と微分法
- 連続函数の原始函数
- 連続函数の定積分
- リーマン積分
- ルベグ積分
- ルベグ積分の抽象化
第2章:実数・点集合・函数
- 集合
- 実数
- 函数・写像
- 逆写像・1対1の対応
- 可付番集合
- 可付番集合のいろいろ
- 集合の結びと交わり
- 開集合
- 開集合の構造
- 閉集合
- 無限大の記号
- 数列の極限値
第3章:ルベグ測度
- 測度の問題
- 外測度
- Borel-Lebesgueの被覆定理
- 区間についての諸定理
- 外測度の定義
- 可測集合
- 可測な集合の例
- 可測集合族
- 測度
- 測度についての諸定理
- 等測包
- 零集合
第4章:可測函数
- 連続函数
- 可測函数
- 可測函数の加減乗除
- 可測函数列
- 単函数
- 単函数と特性函数
- Lusinの定理
第5章:ルベグ積分
- 正値函数の積分
- 正値函数の積分の性質
- 単函数列の項別積分
- 正値函数の和の積分
- 積分可能な函数
- 項別積分の定理
- 不定積分
- ルベグ積分とリーマン積分
- 積分と原始関数
- 積分の定義再説
第6章:微分法と積分法
- 微分法と積分法の問題
- Vitaliの被覆定理
- Diniの導来数
- 増加函数と微分法
- 増加関数の導函数の積分
- 不定積分と微分法
- 有界変動の函数
- 絶対連続な函数
- 原始関数と不定積分
第7章:多変数の函数の積分
- 平面上の点集合
- R^2における測度・外測度
- 2変数函数のルベグ積分
- Fubiniの定理
- 連続写像
- 合同な点集合と外測度
- 縦線集合と積分
第8章:測度空間
- ルベグ・スティルチェス測度
- |I|gについての定理
- g可測集合とg測度
- ルベグ・スティルチェス積分
- 測度空間
- 完備測度空間
- 外測度の構成
- 可測集合と測度の設定
第9章:測度空間における集合函数
- 加法的集合函数
- Jordan分解
- 絶対連続な集合函数
- Radon-Nikodymの定理
第10章:直積測度空間とFubiniの定理
- 直積測度空間
- 完備直積測度空間
- 測度λの積分表示
- {X×Y, B, λ}におけるFubiniの定理
- {X×Y, B0, λ0}におけるFubiniの定理
付録:反例そのほか
- [a,b]でfがR積分可能ならば、fは[a,b]で有界でなければならない。
- fが[a,b]でR積分可能なとき、Ψ(x)=∫f(t)dtはfの不連続点では微分できないことがある。
- fが[a,b]で有界で、しかも原始函数をもっていても、R積分可能とは限らない。
- fnが[a,b]でR積分可能で f=lim fn が有界でもfは[a,b]でR積分可能とは限らない。
- fn(n=1,2,...)およびf=lim fnが[a,b]でR積分可能でも、lim∫fn(x)dx = ∫f(x)dxとは限らない。
- 可測でない集合
- ルベグ可測な集合はボレル集合であるとは限らない。
- fおよびgがAでL積分可能でもf・gがAでL積分可能であるとは限らない。
- いつでも lim(L)∫fn(x)dx = (L)∫lim f(x)dxとは限らない。
- 函数 f が[a,b]で微分可能でも f' が[a,b]でL積分可能とは限らない。
- fがR^2からR^2の上への連続写像のとき、開集合Gの像f(G)が開集合であるとは限らない。
- p進記法
参考書について
問の答
索引
応援クリックをお願いします!
ルベグ積分入門 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2015/8/6
吉田 洋一 (著) ¥1,404
http://www.amazon.co.jp/dp/448009685X
貴重な情報を教えていただきありがとうございました!発売は8月6日ですね。
記事本文にも復刊の件、追記させていただきました。