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有休を利用して、『浮世絵ねこの世界展』に出かけてきた。女性客ばかりで、男性は私ひとりだった。休日なら、夫婦連れやカップルの姿があっただろう。
自慢の猫写真を見せると10%割引になるらしい。前に並んだ女性たちが、スマホの画面を見せていた。私には、何も聞かれなかった。まあ、猫好きに見えないことはわかっている。
この展覧会でいちばん好きな作品の一つが、国芳作「荷宝蔵壁のむだ書」(にたからぐら かべのむだがき・1847年)。
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この絵は、壁に描いたらくがき(むだ書)という設定の、当時の人気役者の似顔絵である。「天保の改革」は役者絵や遊女画を禁じ、「浮世」に生きる人間を描くことそのものを禁じた。天保年間に出された北斎の『冨嶽三十六景』や広重の『東海道五十三次』は、浮世絵に「名所絵」という新ジャンルを確立したといわれるけれど、当時は名所絵を描くしかなかったのだ。「人間」は背景のモブか、この浮世絵展の猫たちのように擬人化した動物たちとして登場させる以外になくなった。
この表現規制は、水野忠邦の失脚で、すでに緩まっていたが、版元の自主規制コードとしてはその後も続いた。この絵には、「お上」の表現規制を逆手に取った、国芳の叛骨とユーモアを感じないではいられない。「大でき、大でき」(上出来、上出来)と手ぬぐい被りで踊る化け猫が、ニャロメそっくりでいい感じだ。
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この他、面白かった絵に、『八代目市川團十郎死絵(しにえ)』があった。当時の人気役者で、巡業中の大坂で突如謎の自殺を遂げた八代目團十郎の死を知らせ、追善する作品である。三途の川を渡ろうとする團十郎を、脱衣婆(だつえば 鬼婆)や幽霊や犬や猫までが引き留めようとしている。
絵のタッチや着想などから、絵師は国芳といわれるが、無款(サインなし)である。当時、事件報道は禁じられており、瓦版と同じく無届けの無許可出版だった。しかし豪勢な多色摺りだ。訃報を知らせる瓦版は、単色摺りが主流だったというから、八代目團十郎の人気がうかがえる。
絵を見て思う。人気商売となると、鬼や幽霊や犬や猫も粗略には扱えないから大変だ。裏社会との関わりも出来てしまうわけだ。いろいろあった当代市川海老蔵も、来年、十三代目團十郎を襲名するそうだ。
明治期に流行した猫の町や猫の国を描いた子ども向けの「おもちゃ絵」を見ながら、萩原朔太郎『猫町』も、洋風の発想というわけでもないんだなと考えたりした(『猫町』自体は、札幌時計台やはりまや橋や長崎オランダ坂に匹敵する、「近代文学三大がっかり名作」だと思うけれどね。残り二作は、『死霊』と、あと何だろう?)。
撮影が可能なコーナーもある。写真は住吉大社の「初辰さん」の招き猫の土人形。今はすっかりゆるキャラ風だけれど、昔のものは顔つきも怖く野性を留めている。9月8日まで。
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