NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(14)

2010-04-12 22:50:11 | 仮想の狭間
真理が撮影会から帰宅して玄関を入ると、リビングから電話のベルが聞こえた。
夫の敏之が受話器を取ったようだ。
何と同級生のK子からだという。
夫の敏之には、今日びわ湖へK子と一緒に行ったことにしているのに。
慌てて受話器を受け取ったが、真理の心臓は張り裂けそうに動悸が打っている。
「お久しぶりね。
今日、貴女の家へ行こうと思っていたのよ。
でもちょっと野暮用が出来て行けなかったの。
最近どこかへ行った?
今日は何をしていたの?
この頃何かやっている?」
たたみかける様に次から次へと話すK子の言葉に、真理は傍にいる夫を気にして、しどろもどろの返事を返していた。
電話を切ると汗が噴き出してきた。
もう少し帰りが遅くなっていたら危ないところだった。
それにK子に野暮用が出来て、来訪されなくて助かったと胸をなで下ろした。
それにしても滅多に真理の家にやって来ることがないし、電話も掛けてこないK子が今日に限ってどうしてそんな気になったのかと恨めしくさえ思う。
夫に嘘をついて出かけたことに罰があたったのだろうか。
今日はグループで撮影会に行ったのだから、何も隠すことはなかったのにとは思うが、写真のサークルに入った経緯を夫に理解させるのは難しい。
 その夜、早速山崎からメールが入っていた。
<加藤君、真理さんが気に入ったらしいね。
さっき電話があったんだけど、「俺には携帯番号を教えてくれなかったのに、どうして君は知っているんだ。」なんて言うんだよ。
待ち合わせするのに必要だよね。
だけど僕だけが真理さんの番号を知っているのって嬉しいよ。>
真理はK子の電話のことで気が動転していて、山崎にお礼のメールを入れていなかった。
急いでお礼の言葉を送った。
自分の携帯番号を知っているだけで、単純に喜んでくれている山崎に対して、温かいものが胸に込み上げてくるのを真理は感じていた。
翌日加藤から、真理のコミュの仲間に入れてほしいと、サイトのメールで依頼があった。
山崎から真理のコミュサイトを聞き出したのであろう。
拒否する理由もないのでOKした。

 数日後、秋絵が真理の家にやってきたが、浮かない顔をしている。
「最近彼とはどうなの?」
「ええ・・少し前まではお茶をしたり、美術館巡りをしたりして楽しかったわ。」
「今は楽しくないの?」
「そうじゃないけど・・・・」
秋絵は言い淀んでいる。
「何かあったの?」
「・・・・美術館へ行った帰りに、向こうからキスをしてきたので、キスくらいならいいかなと思って2度ほどしたのよ。
だけどこの頃ホテルへ誘うのよ。
勿論断っているわよ。
それでだんだん会うのがおっくうになってきているの。」
「あら、危ないわね。
もう付き合うのは止めなさいよ。」
「そうね、でも・・・」
まだ未練がありそうな秋絵である。
「男の人って最終的にはそれが目的で近寄ってくるのかしら。」
真理の頭に山崎や加藤の顔が浮かんだ。
彼らもそんな下心があるのだろうか。
いや、あの人たちに限ってそんなことはあり得ない、と否定してみるが自信がない。
「ご主人はまだ出張が多いの?」
「そうなの。
でも来月から暫く出張がないようなので要注意よね。」
「要注意だなんて、まだ彼と会うつもりなの?
コミュサイトの中だけで付き合っていれば安心なのに。」
こんな言葉を秋絵にしている真理も、一歩踏み出してしまっている。
自分も山崎や加藤と今後撮影会で会う機会があれば、秋絵と同じ展開にならないとも限らない。
心がすでに山崎に傾いている真理だが、泥沼に踏み込むような男女の関係を望んでいるわけではない。
秋絵が以前、彼との関係を「ただの茶飲み友達」と言ったが、真理も山崎や加藤とはメールや写真を一緒に楽しむだけの間柄を続けていけたら嬉しいと思う。
秋絵のことが急に心配になってきた。
「やっぱり貴女の付き合っている彼は危険だわ。
もう会っては絶対にダメよ!」
いつになく真理の強い口調に、秋絵は驚いた表情をして真理の顔を見つめた。


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