撮影会の待ち合わせ場所は、JR京都駅の中央改札口前と、Yのメールで連絡があった。
当日、真理は近鉄電車で京都駅まで行き、中央階段を下りていくと、改札付近にそれらしきリュックサックを背負った数人の男女を見つけた。
携帯電話をYに入れると、その中の青いチェックのシャツに黒い野球帽を被った小柄な男が携帯を耳に当てるのが見えた。
「ああMRさんですね。今どこですか?」
「すぐ近くまで来ています。」
真理は手を挙げてその男に近付いた。
「始めまして。
私Yこと山崎です。よろしく。」
「私はMRこと真理です。
今日はお世話になります。
よろしくお願いします。」
お互いにハンドルネームしか知らなかったので、初めて本名を名乗った。
メンバーは男性二人と女性が真理を入れて二人の四人であった。
びわ湖近くの駅で、もう一人の男性が自動車で待っているとのことだ。
電車は山科駅で湖西線に乗り換え、真理が空いている席に掛けたら、すかさず山崎が横に座った。
暫くしてトンネルを抜けると、びわ湖が青い湖面を見せ始め、対岸の山々はまだ紅葉には早く、山の緑と湖の青が絵のように美しい。
そんな景色を眺めながら、真理は昔を思い出していた。
夫の敏之とまだ付き合い始めたころの夏、びわ湖畔の水泳場へ二人で遊びに来たことがあった。
泳いだり、砂浜を走って戯れたことが懐かしく蘇ってくる。
あの頃の敏之はスリムで格好良かったし、真理にいつも気を遣ってくれる優しい人だった。
ぼんやりと車窓から湖に目を向けて、思い出に耽っている真理の顔に、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
「真理さんが楽しそうで良かった。」
突然横で声がしたので、驚いて我に返った。
山崎が横にいたのを忘れかけていた。
目的の小さな駅に着いて改札を出ると、もう一人のメンバーの男性が大きな白いワンボックスカーの横に立って待っていた。
山崎が真理を紹介すると、その男性は満面の笑みを向けて言った。
「加藤と申します。
貴女のような素敵な女性に、このサークルに入って頂いて大変嬉しいです。
これからは撮影会に出てくるのが楽しみです。」
加藤は山崎と大学の同期生だったという。
山崎は色白でふっくらした顔をしていたが、加藤は背が高く痩せ形で、日焼けした精悍な顔付をしている。
二人が並ぶと小柄で童顔の山崎が随分と若く見える。
皆が乗った加藤の車は交通量のまばらな道路を走って行く。
両側に広がる田んぼは黄金色の穂をたわわにしならせて、もう収穫期が来ていることを知らせているようだ。
コンバインによる収穫作業をしているところに出くわした。
加藤は車を停め、メンバーが降りて、近くの景色をカメラにおさめている。
さすがに皆 一眼レフの立派なカメラを持っている。
真理は小さなデジカメを出すのが恥ずかしく、コンバインの作業をじっと見つめていた。
機械の前に付いている刃で刈り取られた稲が機械の中を通ると、上から横に伸びている長い筒から籾が出てきて、筒の先に取り付けられた袋に入って行く。
そしてワラが短く切られて散っていくのだ。
何だか手品を見ているようだ。
また暫く車で上り坂を走ると小さな集落に付き、その向こうに棚田が見える。
そこが目的地らしい。
それぞれに皆、構図を考えながら位置取りをして、土手や畔に三脚を立ててカメラを覗いている。
山崎が真理のそばに来て、構図の取り方やカメラの構え方などを丁寧に教えてくれる。
初めてで心細かった真理は、親切にしてくれる山崎が頼もしく感じられる。
川のほとりの空き地で、皆が輪になって会話をしながら弁当を食べた。
真理は子供の頃の遠足のように童心に返って楽しく、来て良かったと思った。
帰りはまた朝降りた駅から電車に乗ることになり、切符を買うために皆が券売機の前に寄っていたが、真理は山崎が一緒に買うというので一人離れて待っていた。
そこに車を運転していた加藤がやって来て、小声で話しかけてきた。
「真理さん、差支えなかったら今後の連絡のため、携帯電話の番号とメールアドレスを教えてくれませんか。」
急に言われて真理は迷った。
教えてむやみに何度も電話をかけられたり、メールをしてこられては困ると思い、きっぱりと断った。
「わたし、携帯の番号やアドレスは他人にはあまり教えないことにしているんですよ。
ごめんなさい。気を悪くなさらないでくださいね。」
「いえいえ、こちらこそ初めて会った人に失礼なことを言いました。」
真理は加藤が自分に興味を持っているのを何となく察していた。
加藤は明るく好感の持てる素敵な男性だとは思うが、秋絵のように付き合っている男性と特別に近い関係を作りたくはないと思う。
そんな勇気を真理は持ち合わせていなかった。
当日、真理は近鉄電車で京都駅まで行き、中央階段を下りていくと、改札付近にそれらしきリュックサックを背負った数人の男女を見つけた。
携帯電話をYに入れると、その中の青いチェックのシャツに黒い野球帽を被った小柄な男が携帯を耳に当てるのが見えた。
「ああMRさんですね。今どこですか?」
「すぐ近くまで来ています。」
真理は手を挙げてその男に近付いた。
「始めまして。
私Yこと山崎です。よろしく。」
「私はMRこと真理です。
今日はお世話になります。
よろしくお願いします。」
お互いにハンドルネームしか知らなかったので、初めて本名を名乗った。
メンバーは男性二人と女性が真理を入れて二人の四人であった。
びわ湖近くの駅で、もう一人の男性が自動車で待っているとのことだ。
電車は山科駅で湖西線に乗り換え、真理が空いている席に掛けたら、すかさず山崎が横に座った。
暫くしてトンネルを抜けると、びわ湖が青い湖面を見せ始め、対岸の山々はまだ紅葉には早く、山の緑と湖の青が絵のように美しい。
そんな景色を眺めながら、真理は昔を思い出していた。
夫の敏之とまだ付き合い始めたころの夏、びわ湖畔の水泳場へ二人で遊びに来たことがあった。
泳いだり、砂浜を走って戯れたことが懐かしく蘇ってくる。
あの頃の敏之はスリムで格好良かったし、真理にいつも気を遣ってくれる優しい人だった。
ぼんやりと車窓から湖に目を向けて、思い出に耽っている真理の顔に、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
「真理さんが楽しそうで良かった。」
突然横で声がしたので、驚いて我に返った。
山崎が横にいたのを忘れかけていた。
目的の小さな駅に着いて改札を出ると、もう一人のメンバーの男性が大きな白いワンボックスカーの横に立って待っていた。
山崎が真理を紹介すると、その男性は満面の笑みを向けて言った。
「加藤と申します。
貴女のような素敵な女性に、このサークルに入って頂いて大変嬉しいです。
これからは撮影会に出てくるのが楽しみです。」
加藤は山崎と大学の同期生だったという。
山崎は色白でふっくらした顔をしていたが、加藤は背が高く痩せ形で、日焼けした精悍な顔付をしている。
二人が並ぶと小柄で童顔の山崎が随分と若く見える。
皆が乗った加藤の車は交通量のまばらな道路を走って行く。
両側に広がる田んぼは黄金色の穂をたわわにしならせて、もう収穫期が来ていることを知らせているようだ。
コンバインによる収穫作業をしているところに出くわした。
加藤は車を停め、メンバーが降りて、近くの景色をカメラにおさめている。
さすがに皆 一眼レフの立派なカメラを持っている。
真理は小さなデジカメを出すのが恥ずかしく、コンバインの作業をじっと見つめていた。
機械の前に付いている刃で刈り取られた稲が機械の中を通ると、上から横に伸びている長い筒から籾が出てきて、筒の先に取り付けられた袋に入って行く。
そしてワラが短く切られて散っていくのだ。
何だか手品を見ているようだ。
また暫く車で上り坂を走ると小さな集落に付き、その向こうに棚田が見える。
そこが目的地らしい。
それぞれに皆、構図を考えながら位置取りをして、土手や畔に三脚を立ててカメラを覗いている。
山崎が真理のそばに来て、構図の取り方やカメラの構え方などを丁寧に教えてくれる。
初めてで心細かった真理は、親切にしてくれる山崎が頼もしく感じられる。
川のほとりの空き地で、皆が輪になって会話をしながら弁当を食べた。
真理は子供の頃の遠足のように童心に返って楽しく、来て良かったと思った。
帰りはまた朝降りた駅から電車に乗ることになり、切符を買うために皆が券売機の前に寄っていたが、真理は山崎が一緒に買うというので一人離れて待っていた。
そこに車を運転していた加藤がやって来て、小声で話しかけてきた。
「真理さん、差支えなかったら今後の連絡のため、携帯電話の番号とメールアドレスを教えてくれませんか。」
急に言われて真理は迷った。
教えてむやみに何度も電話をかけられたり、メールをしてこられては困ると思い、きっぱりと断った。
「わたし、携帯の番号やアドレスは他人にはあまり教えないことにしているんですよ。
ごめんなさい。気を悪くなさらないでくださいね。」
「いえいえ、こちらこそ初めて会った人に失礼なことを言いました。」
真理は加藤が自分に興味を持っているのを何となく察していた。
加藤は明るく好感の持てる素敵な男性だとは思うが、秋絵のように付き合っている男性と特別に近い関係を作りたくはないと思う。
そんな勇気を真理は持ち合わせていなかった。
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