指揮棒が微妙に振られるために、曲の開始が合わずにオーケストラの皆が困惑したそうだ。
見るに見かねたコンサートマスターがこっそり合図をしたところ、見事に全員の息が合った。
マエストロは閉じていた目をカッと見開き、こう言ったとか。
「今のは合い過ぎだ!」
巨匠フルトベングラーに関する逸話は、ゴマンとある。
この話を教えてくれた大学の先輩は、絵に描いたようなフルトベングラーとベートーベンの信奉者だった。
あまのじゃくのわたしは、何とか対抗馬を探そうと考えた。
クラシック初心者のわたしが見つけてきたのがマーラーだった。
美しさとはかなさ、若さと諦め、きらびやかさと素朴がそれぞれ同居しているような、不思議な魅力を感じたのだろう。
納得いかない風の先輩をよそに、その後間もなくマーラー旋風が巻き起こったのだった。
おかげで今でも先輩は、合う度に「お前は天才だなー!」などと言って下さる。
たまたまなんだけど…