ポコアポコヤ

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「きのうの神さま」 凄く良かったです 西川美和

2009-08-27 | 小説・漫画他

映画「ディア・ドクター」(私は未見)の取材時に得た題材を西川美和監督が描いた短編集。最初の話以外は、お医者さんが出て来ます。舞台は田舎町がほとんど。
僻地医療が舞台になったお話は、「Drコトー」が頭に浮かびました。
「ゆれる」の小説版も凄く良かったけれど、この「きのうの神さま」もすっごく良かったです。ちょっと毒があったり、どこか虚しさとか寂しさが漂ってるお話が多くてツボです。4つ☆半

私が中でも特に特にお気に入りなのは「ディア・ドクター」でした。でも、読み終わって解ったことには、これが映画化されてるんですね? 
読みながらこの兄をつい香川照之さんをイメージしてしまったのは、「ゆれる」の影響でしょうか。なんとつるべえが、この兄を演じていると知って驚愕・・・。映画が更に楽しみになりました。

次に好きなお話は「1983年のほたる」と「ノミの愛情」です。

以下、5つのお話の概要を書いていますが、「1983年のほたる」と「ディアドクター」は、小説の中で印象に強く残った部分を色々抜粋してあげてしまっているし、ネタバレ感が一杯あるので、未読の方はご注意を!

「1983年のほたる」
田舎から出て、町の中学校を受験するが為にバスで塾に通う小学校高学年の少女。
匂坂さんという美しく成績抜群の少女に少し憧れている。彼女を「ツッキー」とあだ名で呼ぶダチョウの様な少女に嫌悪感を感じたり、塾の華やかなタイプの小倉さんに、学校の制服のブラウスをそれとなく指摘されてから、着替えて塾に通う様になった。その時佐野さんは居合わせたのに、そのかっこうをやめる気配はない。時にはえりに給食のミートソースや~~~佐野さんのはいているスカートの長さやズボンの形のやぼったさが、だんだんがまんできなくなってきた。~~学校も同じ、塾も同じ、何をするにも同じの、つがいのような親友なのだろう、と人に誤解されるのが怖かった。いっそ佐野さんがどこか全く別の町へ引っ越さないだろうか、と思ったりする。

家族や友達や村のことも見下したりなんかしてない。けれどこの先、全く変わりばえのしない人たちと、風景を見て、お姉ちゃんたちが過ごして来た後を全く同じようにたどるのは嫌だと思っている。わたしが人と違うところがあるとしたら、そんなことをここで考えているところだ。でももしかしたらそれさえも、この村の誰もが考えてきたことと同じなのかもしれない。

夏祭りでふと見かけたバス運転手の一ノ瀬時男の仕事以外の姿を見かけ、短パンから出てた足の毛むくじゃらさや、イカをほうばる時に見えた生々しい赤い歯茎などに、うろたえる少女の気持ち。

その後、希望の学校に入学し、高3になっている・・。あのツッキーとは同級生で、今では普通のクラスメートという存在になっている。ふと卒業アルバムを見ていたら、若くして突然亡くなったという一ノ瀬の姉が写っている写真を発見する。
このお姉さんの死因は何なのか・・・って気になってしまいました。自殺されたのか、事故にあったのか・・・。

「ありの行列」
漁師町の診療所に代診に来た医師の話 住宅地図には、赤い○が幾つかついていた。
セイおばあさんは「誰にも言わんから、死ぬ注射打って」という。
「もう、退屈いやや」
セイおばあさんの家には手のこんだ総菜や、孫が描いた絵などがあり、家族が彼女に良く接し愛情に囲まれているのもうかがえるのだが・・。

「ノミの愛情」
非常に優秀な小児脳外科の夫の妻。以前はバリバリの看護師だったが、結婚して仕事を辞めた。現在は一人息子にも恵まれ、リッチなお家で暮らしつつも、虚しい気持ちを抱えている。隣の家の庭につながれているゴールデンレトリバーの犬と自分を同じ様に考えてしまったりもしている。
ドキッとするセリフやシーンが一杯。西川美和監督らしさを感じました。最後の方の展開には、びっくり。
怖いけど、ぐさっと来る部分が冴えてる、抜群の出来の作品

「ディア・ドクター」
子供の頃から、兄は優秀な外科医の父へ強い憧れを抱いていた。お調子者の明るい人気者の兄と弟の僕。大人になって兄は転々と職を変え、家には全く戻って来ない。僕は結婚し子供も出来、親の近くに住んでいる。そんなある日、父が倒れた・・・。

兄は子供の頃父の働いていたカビ臭い父の研究室に行った時、いつまでも机の回りの細々とした物をまじまじと見つめたり、分厚い外国語の本の匂いを嗅いだりしていた・・。きらきらとしたまなざしで父を仰ぎ見れば見るほど、不思議に父は兄に対して背を向けるようになったように思う。朝起きて始めに声をかけられるのは決まって僕のほう。父がぼくにかける言葉は気兼ねがなくて、辛口で~~兄に対してはいつもどこかに遠慮が挟まった。
兄の死ぬほど可笑しい「青っ尻」の芸を父の前でやった時・・。
「ぼくも医者になろうかと思う」と兄が父に言った時の父の言葉と兄の反応・・・
ぼくの結婚式に28才になった兄が久しぶりに姿を見せた。数年前から医療機器メーカーに入り直して営業をやっている兄は、「病院マニアだし」と自嘲気味に言って、医者をなめきってやろうという様子が、かつての父にする思いへの反動のように思えて、ぼくには痛々しかった。
父のグラスにこなれた調子でお酌をする兄の姿がたまらなくいやだった。ぼくは不覚にもそんな日にそんな理由で涙を落とした。涙の理由は誰にも解らない。

その後も何度も職場を転じて、今は遠く離れた寒い村の小さな診療所で事務を任されている・・。そんな兄の事を想う時の父は、いつも遠いところに吹く、澄み切った風を望むような目をしていた。

ぼくは理解した。兄は、とっくに父を卒業していたのだ。
だけどそれでも、自分だけを頼りに、たった1人で卒業した、兄の人生が、さびしくて。ぼくは。
とにかく、ドツボな素晴らしい作品!! ただ、一カ所だけ、、「ぼくの嫁がベビーカーを・・」という部分だけが、私的には要らなかった気がした・・。

「満月の代弁者」小さな島で祖母を介護する30半ばの孫娘。
どうしようあと10年生きてしまったら・・サキヨにとって10年の余命はとてつもなく長いが、孫娘は女としての10年を考えると、それは一秒たりとも取りこぼせないほど貴重な時間に思えた。


きのうの神さま 西川美和 (2009年4月出版) 
直木賞候補作品に選ばれたと聞いてびっくりしましたが、確かに才能のある凄い人だ~と想います。1ヶ月ほど前に、NHKのトップランナーに出演されていて、とてもその番組も興味深かったです。
「ゆれる」の映画でガツーンと来て、「ゆれる」の原作を読んでなおさら好きになってしまいました。「フィーメール」という2005年のオムニバス映画に、西川美和さんの作品が含まれています。

「ゆれる」5つ★でした ネタバレ 映画と小説比較

「female フィメール」

映画版の感想はこちら→ディアドクター

コメント (14)    この記事についてブログを書く
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14 コメント

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Unknown (なな)
2009-08-27 20:41:15
こんばんは。
どの物語も印象に残るシーンがありました。
「ノミの愛情」の螺旋階段をピカピカに磨く妻がなんともいえません。
西川さん、いいですよね。
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こんにちは♪ (ミチ)
2009-08-27 21:09:03
映画よりも小説を先に読まれると、映画を見たときに「ああ、あのエピソードのあの人かぁ」ってすごくよく分かる気がするわ。
「ゆれる」の時と違って、映画のノベライズではないっていうところがミソ。
お綺麗で、映画を撮らせても一流、小説書かせても一流って、西川さんすご過ぎ~。
鶴瓶さんが「ただし、腹の中真っ黒でっせ」って言ってたけどね(笑)

「ディア・ドクター」は私も一番好きなお話だったわ。
親は決して弟を贔屓していたわけじゃないと思うんだけど、相性ってあるんだよね。
普通長子には気を遣うって言うし。
私も香川さんをイメージして読んだわ~。

あ、NHKの特集の海軍シリーズ。
私も熱心に見てました。(記事にもしました~)
今だから語れるというスタンスで、みなさん忌憚のない意見を交換しておられましたが、まだまだ口を濁す部分もあったよね。
そういう人はお墓まで持っていく秘密を抱えておられるのかもしれないね。
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ななさん☆ (latifa)
2009-08-28 09:25:38
こんにちは~ななさん
そうですね。どのお話にも、印象に残るセリフとシーン(映画ならここでガツンと来るショットだろうな・・・って想像が出来る)がありましたね。

そうだそうでしたね。ノミの~では、階段を磨き上げまくってましたね。
最後そういう風にそれが効いてくるとは予想していなかったので、あわっ!!と思いました。
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ミチさん☆ (latifa)
2009-08-28 09:31:46
こんにちは~ミチさん

>映画よりも小説を先に読まれると、映画を見たときに「ああ、あのエピソードのあの人かぁ」ってすごくよく分かる気がするわ。
 楽しみ~~!!そうそう、ノベライズじゃないからこそ先に読んじゃっても平気かな?って思ったのよ。

>鶴瓶さんが「ただし、腹の中真っ黒でっせ」って言ってたけどね(笑)
 うん、そういう処も好き~
ただ、彼女の恋人になる男性は、結構キツいかも・・・。見透かされてる感じで、相当ずぼらな人じゃないと長年つき合って行けないかも(なんて余計なお世話だわん)

>あ、NHKの特集の海軍シリーズ。私も熱心に見てました。(記事にもしました~)
 これ!!
私ね、最初にそのミチさんの記事がアップされたばかりの時一度開いたの。そうしたら、私の見たその海軍の番組は書かれてなかったと記憶してるんだけど・・・私が見落としたんだろうか???このミチさんのコメント拝見してから、再度その記事を読ませてもらったら、ちゃんと書かれているのよね!?
もしかして、後から追加した部分とかは、無いのですか? でもきっと私がぼーっとしてただけなんだろうな・・・。
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映画も・・ (カポ)
2009-08-30 16:27:48
latifaさん、こんにちは♪
今日は、肌寒くてビックリ、台風も来ているんですね~、いよいよ夏も終わりでしょうか・・。

私、すでに映画で「ディアドクター」を観ているのですが、この原作は知りませんでした。
西川ファン、失格ですね^^;
早速、読んでみたいと思います。
latifaさんの感想にあった「ちょっと毒があったり、どこか虚しさとか寂しさが漂ってるお話が多くてツボです。」、これがまさに西川ワールドですよね。
キャスティングの鶴瓶さんは、ナイスキャスティングだったと思います。
それがラストで生きてきたなぁ・・と。
原作と同じラストかどうか分かりませんが^^;
今、読んでいる本を中断して読んでしまおうかしらん、あぁ、楽しみぃぃ!!
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カポさん☆ (latifa)
2009-08-31 09:28:42
こんにちは~カポさん 現在台風接近中にて、学校が臨時休校になり、この時間帯なのに、子供がいます・・。私のバイトも臨時休みにしました。
カポさんちのお庭のバラ、強風や豪雨で大丈夫かな・・と、ふと心配になりました。

わ~い!カポさんも、これ読もうって気持ちになられたとのこと。嬉しいです!!!
先に映画→次に原作ってのがベストじゃないでしょうか! 私はここ数日、映画版が見たくてたまらなくなってしまいました。
が、時既に遅し・・・。近くで上映している映画館が無い・・・。
いや、最初から無かったんですが、それでも隣の隣町くらいの距離では上映していたんです。今は、隣どころか、どえらく遠い処でしかやってない・・・

カポさんも、ちょっと毒があったり、どこか虚しさとか寂しさが漂ってるお話系がツボなのね~~ うっれし~なー!!!
カポさんの感想が楽しみです~☆
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これからも本が読みたいわ (みみこ)
2009-08-31 16:13:59
こんにちは。
大荒れの天気ですよね。
うちも子が途中で帰ってきました。
西川さんの本今回も良かったですよね。
ディア・ドクター・・・を読むと
必然的にどのように映画では描かれているのか
興味わいてきますよね。
ゆれるでも感じたけれど
父親と息子、男同士の兄弟って
微妙なものたくさんあるじゃあないですか。
女とはまた違った人間関係なのよね。
読んでいてハッとするとこいろいろありましたよね。うまいな・・・って思います。
これからも本の方でも頑張ってほしいな・・
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みみこさん☆ (latifa)
2009-08-31 19:57:47
こんばんは~みみこさん
今はもう外は虫が鳴いてる~。すっかり通り過ぎて静かになったわ。あんまり私の処では大荒れって事にはならなかったみたい。

みみこさんちは、途中で帰ってきたってのが哀しいね~行くには行ったんだね。大変だったなぁ雨の中・・・

>父親と息子、男同士の兄弟って微妙なものたくさんあるじゃあないですか。女とはまた違った人間関係なのよね。

 そうね~!それを女性が書いてるっていうのが凄いよね。それに、、作家ご本人が男性だったら書きにくかったりするのかな。
今まで女性もの(娘と母とか、姉妹とか)は見たり読むことが私は多かったんだけれど、男性ものってちょっと物珍しいというか、それほど一杯読んで来なかったせいか、とても興味深く読ませてもらっちゃっています。
また今後も西川さんの作品が楽しみです。
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TBさせてね~。 (真紅)
2009-09-07 23:11:56
latifaさん、こんにちは! やっと記事をアップできました♪
原作は映画の内容とリンクはしているのだけど、お話は全く違います。
だから、DVD鑑賞しても絶対楽しめると思うな~。
観てから、もう一度こちらを読み返したくなるかも?

私は、「ノミの愛情」が一番ガツーーンと来た。フフフ。
でも映像化して欲しい、面白いと感じたのは「ディア・ドクター」かな。
「満月の代弁者」は、ラストが感無量でしたわ。

西川美和さんって、浅香唯に似てると思う・・・、かわいいよね~、小柄で。
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真紅さん☆ (latifa)
2009-09-08 09:14:54
わ~い!読んだのね~
そうっか、原作と映画はリンクはしてるけれど、別ものなのね?
実は小説読んだら、DVDまで待って見ようと思ってた映画版を待ちきれなくなって、見に行こう!って思い立ったの。
ところが・・・・。もう気軽に行ける距離では全然上映してないのよ・・・がっくり。
こんなことなら、行っておけばよかったなあ・・・って後悔してるんだ~

ノミの愛情
ガツン~と来たよね~~!!象の背中に~~~って処は、グワグワ来ちゃった。そこ、抜き出して書こうかな?って思ってたんだけど、みみこさんちでアップされていたわん

ディアドクターを映像化してほしい・・って真紅さんが思ったってことは、映画ではそのエピソードは映像化されてないって事だよね?
ふむふむ。いや~~早く映画が見たいよぉ!!

そうだっ!!浅香唯にちょっと似てるんだ 知的で千里眼な浅香唯って処かぁ~すごいな~
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やっと来ました。 (牧場主)
2009-09-13 19:09:57
最近パソコンがどえりゃあ(大変なさま)ことになってまして、やっと来られました。

私、これが直木だっけ、ノミネートされたとき、これがとるな、って思っていたのよ。
すごく上手だから、映画、小説、映画っていうリズムで色々他の人に出来ない事をやって欲しいですね。

私はバスの運転手が出てくる「1983年のほたる」が一番面白かったんです。
その次にお兄さんが出てくる「ディア・ドクター」が好きです。
何がいいんでしょうか、う~ん、ねちっこい観察眼かな・・・
なんか、遠足行って、みんなが列で行動して花とか動物とか見てるのに、石をひっくり返して、ダンゴムシ見てるっていうか・・・
そこを見ますか、確かに興味深いですね、っていう・・・
あと、短編が上手な人の作品って読んでて楽しいです。
短編は技術がいるから、多分、映画の為に沢山スケッチみたいに書いているんでしょうね。
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牧場主さん☆ (latifa)
2009-09-14 09:30:32
こんにちは~牧場主さん
PCその後なおりましたか・・・?普段普通に動いていて当たり前の電化製品などが、壊れたりすると、ムキー!ってなりますよね。どえりゃあは、凄くその雰囲気が出る響きですね~!ちゃんと通じますよ

で、この本。
これが取るなって思われたんですか~!!
でも、小説という世界の中では、まだ初心者の西川さんにあげちゃったら(しかも映画の世界でも認められてるのに)他の星のかずほどいる作家さんが可哀想じゃないですか・・ だから、候補作に入ったって程度の方が、西川さんご本人にとっても良い様な気がする・・。認められ過ぎると、西川さんご自身にとって、それが重荷になっちゃいそうな気がして。

「1983年のほたる」
私も面白かったですよ~!ねちっこい観察眼ってのは、当たってる~。そういうの好きです!
>遠足でみんなが~ ダンゴムシ見てるって
爆笑!でも例が凄いナイス♪

そうなんですかー。短編って技術が必要なのですね? 私は長編を途中で飽きさせずに最後まで引っ張る力ってのが、小説家(文章書き)の底力って思っていたのですが、逆に短編は技術が必要なんだ~
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西川監督 ()
2009-10-13 22:19:30
映画監督だけあって、読んでいると視覚に訴えるようにその情景が浮かび上がってきました。
短編なので、人生の断片を描いていますが、その人の人生全体を感じさせるようなすばらしい作品だと思いました。
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花さん☆ (latifa)
2009-10-14 17:27:47
こんばんは~花さん
花さんも「ゆれる」が大好きなんですねー。私もなんですよ。ゆれるを見て→読んでからというもの、この西川監督という人に惹かれて色々見たり読んだりするようになりました。
今後も西川さんの作品、楽しみですね~
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