魏志倭人伝・現代語訳 28
詣書
原文其年十二月、詔書報倭女王曰、「制詔親魏倭王卑弥呼。帯方太守劉夏遣使、送汝大夫難升米・次使都市牛利、奉汝所献男生口四人・女生口六人班布二匹二丈、以到。汝所在踰遠、乃遣使 貢献。是汝之忠孝、我甚哀汝。今以汝為親魏倭王、仮金印・紫綬、装封付帯方太守仮授汝。其綏撫種人、勉為孝順。汝来使 難升米・牛利渉遠、道路勤労。今以難升米為率善中郎将、牛利為率善校尉、仮銀印・青綬、引見労賜遣還。今以絳地交竜錦五匹・絳地縐粟罽十張・蒨絳五十匹・紺青五十匹、答汝所献貢直。又特賜汝紺地句文錦三匹・細班華罽五張・白絹五十匹・金八両・五尺刀二口・銅鏡百枚・真珠・鉛丹各五十斤、皆装封付難升米・牛利。還到録受、悉可以示汝国中人使知国家哀汝。故鄭重賜汝好物也。
書き下し文その年の十二月、詣書(しょうしょ)して倭の女王に報(しら)せていわく、「親魏倭王卑弥呼に制詔(せいしょう)す。帯方太守の劉夏(りゅうか)、使いを遣わし、汝の大夫の難升米(なしめ)・次使の都市牛利(としごり)を送り、汝の献ずる所の男の生口(せいこう)四人・女の生口六人・班布(はんぷ)・二匹二丈を奉り以て到る。汝の所在は踰遠(ゆえん)なるに、乃ち使いを遣わして貢献(こうけん)す。是れ汝の忠孝、我れ甚だ汝を哀れむ。今、汝を以て親魏倭王(しんぎわおう)となし、金印・紫綬(しじゅ)を仮し、装封(そうふう)して帯方の太守に付(たく)し汝に仮授(かじゅ)す。それを種人(しゅじん)を綏撫(すいぶ)し、勉めて孝順(こうじゅん)をなせ。汝が来使の難升米・牛利は遠きを渡り、道路に勤労す。今、難升米を以て率善中郎将(そつぜんちゅうろうしょう)となし、牛利は率善校尉(そつぜんこうい)となし、銀印・青綬(せいじゅ)を仮し、引見労賜(いんけんろうし)還して遣わす。今、絳地交竜錦(こうちこうりゅうきん)五匹・絳地縐粟罽(しゅうぞくけい)十張・蒨絳(せいこう)五十匹・紺青(こんせい)五十匹を以て、汝が献じた所の貢直(こうちょく)に答う。また特に汝に紺地句文錦(こんじこうぶんきん)三匹・細班華罽(さいはんかけい)五張・白絹五十匹・金八両・五尺刀二口・銅鏡百枚・真珠・鉛丹(えんたん)各五十斤を賜い、皆装封して難升米・牛利に付(たく)す。還(かえ)り到らば録受(ろくじゅ)し、悉(ことごと)く以て汝の国中の人に示し、国家が汝を哀むを知らしむべし。故に鄭重(ていちょう)に汝に好物(こうぶつ)を賜うなり」と。
現代語訳
その年の十二月、
詣書(しょうしょ)にて
倭の女王に報(しら)せ言いました。
「親魏倭王卑弥呼に命令を下す。
帯方太守の劉夏(りゅうか)が、
使いを派遣し、
汝の大夫の難升米(なしめ)、
次使の都市牛利(としごり)を送り、
汝の献上した
男の生口(せいこう)・四人、
女の生口・六人、
班布(はんぷ)・二匹二丈を
奉りもちいて到着した。
汝の住むところは
遠く越えて来るのであるから、
すなわち使者を派遣して貢物を奉るとは、
これは、
汝の主君への忠義は、
我れ甚だ汝をいつくしむ。
今、汝を以て
親魏倭王(しんぎわおう)とし、
金印・紫綬(しじゅ)を仮し与える、
装封(そうふう)して
帯方の太守に付(たく)し
汝に仮に授ける。
それを、同一種族を安じていたわり、
孝順(こうじゅん)を為すように勉めよ。
汝が使者、
難升米、牛利は遠くから渡ってきて、
道中、勤労している。
今、難升米を以て率善中郎将とする。
牛利は率善校尉とする。
銀印・青綬(せいじゅ)を仮し与え、
呼び寄せてねぎらい、
還して遣わそう。
今、
絳地交竜錦(こうちこうりゅうきん)・
五匹、
絳地縐粟罽(しゅうぞくけい)・十張、
蒨絳(せいこう)・五十匹、
紺青(こんせい)・五十匹を以て、
汝が献ずる所の
貢直(こうちょく)に答える。
また特に、
汝に紺地句文錦(こんじこうぶんきん)・
三匹、
細班華罽(さいはんかけい)・五張、
白絹・五十匹、
金・八両、
五尺刀・二口、
銅鏡・百枚、
真珠、鉛丹(えんたん)・各五十斤
を下賜し、
皆、装封して難升米、牛利に付(たく)す。
帰り着いたなら、
書面に記して受け取り、
悉(ことごと)く以て、
汝の国中の人に示し、
我が国家が汝をいとおしんでいることを
知らしめせばいいだろう。
故に鄭重(ていちょう)に
汝に好物(こうぶつ)を下賜るのである」と。
・詣書(しょうしょ)
天子のおぼしめしを記した書。みことのりを記した書。
・制詔(せいしょう)
天子の命令を下すこと。天子のみことのり。
・生口(せいこう)
奴隷、捕虜
・班布(はんぷ)
布の名
・匹
布帛四丈すなわち二反の称。
・踰遠(ゆえん)
遠く越えて来ること。
・貢献(こうけん)
貢物をたてまつる。
・忠孝
忠はよく君に仕え、孝はよく親に仕えること。
・哀
いつくしむ。
・親魏倭王(しんぎわおう)
魏のしたしい倭国の王の意で、魏国の皇帝から女王卑弥呼に授けられた呼称。
・紫綬(しじゅ)
貴人が帯びる紫色の印のひも
・仮
かりに与える。
・装封(そうふう)
つめてとじる。
・仮授(かじゅ)
かりに授ける。
・種人(しゅじん)
同一種族のひと
・綏撫(すいぶ)
安んじていたわる。
・孝順(こうじゅん)
父母に気に入るようよく使える。
・勤労
つとめ働く。つとめ骨がおれる。
・青綬(せいじゅ)
印につける青色のひも
・引見(いんけん)
引き入れて対面する。呼び寄せて会う
・労賜(ろうし)
ねぎらって物を賜る
・絳地(こうち)
赤い色をしたもの
・交竜錦(こうりゅうきん)
蛟竜の模様のある錦
・縐粟罽(しゅうぞくけい)
こまかくちぢんだ毛織物
・張
幕などを数える数詞
・蒨絳(せいこう)
鮮やかな茜色の織物。蒨は赤の名。
・紺青(こんせい)
顔料の一。ぐんじょうの一層濃い織物。
・貢直(こうちょく)
私心のないみつぎ
・紺地(こんじ)
紺色をしたもの
・句文錦(こうぶんきん)
曲がりくねった紋のある錦
・細班(さいはん)
こまかいまだら。
・華罽(かけい)
はなやかな色の毛織物
・白絹
白い絹織物
・鉛丹(えんたん)
鉛を用いた紅色結晶性の粉末で、顔料・絵具またガラスの製造に用いる。
・録受(ろくじゅ)
書面に記して受け取る。
・鄭重(ていちょう)
ねんごろ
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参考
かくも明快な魏志倭人伝 木佐 敬久
富士房インターナショナル
倭人・倭国伝全釈 鳥越 憲三朗
中央公論新社
Wikipedia