ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第11話(2)

2025-03-11 21:00:39 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 冒険者カイルたち一行は、ウェストブルッグ家から出た後、
 そのまま西区の冒険者ギルドへと顔を出す。
 今日も西区の地下迷宮に行ってきますと受付に言付け。
 自然に周囲へのアピールも兼ねていた。
 自身の命を狙ってくる同業者がいるなら、早めに始末してしまうに限る。
 普段は温厚なカイルなのに、この強かさはどこからくるのかしら。
 ラナは声に出さず思っていた。
 お気を付けてといつもの挨拶を受け、冒険者ギルドを後にする。
「受付対応していた時、俺たちの様子を窺っていた男が音も無く出て行った。
 シーマやラナと同じレンジャー系だな。」
 ゴッセンがフン!と軽く鼻息を荒くして語った。
「プレートは見えなかった。
 見せたくないタイプなら銅級かもしれん。」
 シーマもその存在に気付いていたらしく、付け足す様に語る。
「・・・たとえ相手が格下だとしても油断は禁物だ。
 計画通りに行くぞ。」
 カイルの声は、強い意志と覚悟の色が感じ取れた。
 しかし、なかなか計画通りにはいかないのが世の常である。
 
 地下迷宮に入ると、少し遅れて後を付ける様に入ってくる者たちがいた。
 シーマとラナは難なく気付く。
「あー、あたしに気付かれるタイプじゃ二流ね。」
「直ぐに仕掛けてこないところを見ると、
 俺らより先に入った者がいる可能性が高い。
 奴等が決めた場所に着いたら挟撃する気だろう。」
「シーマ、後を付けているのは何人だ?」
「・・・足音からして5人。」
「ミウ、階段を降り始めたら、例のモノを5個背後に置いてくれ。」
「はいはーい。」
 途中で襲撃してくるキラー・ラットを秒殺し、
 地下2階へ続く階段を半分くらい降りたところで、
 白くて小さな繭みたいなものを5個バラバラに置いた。
 階段を降り切り、地下2階の廊下を歩き始めたところで
 階段から叫び声が複数聞こえたが、気にもせず歩いていく。
 声が全く聞こえなくなった後、
「シーマ、後を付けてくる者はいるか?」
「いないな。
 立ち去った足音もしないから、たぶん5人全員引っ掛かったと思う。」
「よし、これで挟撃の心配はほぼ無くなったな。」

 レンジャー、ハンターと呼ばれる者たちにはお馴染みの罠、
 スパイダー・ネット(蜘蛛糸の投網)である。
 原料は蜘蛛の体内にある糸腺と呼ばれる太い器官。
 魔物のそれはもはや巨大な臓物の様で、
 ジャイアント・スパイダーの糸腺となるとかなりの数が作れるらしい。
 しかしながら、発明家でもあるキャサリンの作ったそれは、
 ラナに悪辣だと言わしめたもの。
 ただの投網で済むはずがない。
 ラナがとりあえず言うだけ言う。
「放っておいていいの?」
「大丈夫だ。
 仮に自力で脱出出来たとしても、
 その後は地上に帰る気力しか残っていないだろうからな。」

 地下3階まで降りてくると、盗賊と勘違いされても仕方のないくらい
 人相の悪い面々が通路の行く手を塞いできた。
 こちらも5人。全員男だ。
 計10人で挟撃する予定だったのだろう。
 人数的には悪くない段取りと言える。
 軽戦士が2人、僧侶が1人、レンジャーが1人、魔法使いが1人だった。
 バランスも悪くない。
 真面目にやれば良い冒険者になれるだろうに。
 カイルたちはそう思いながら、深くため息をつく。
 それを見た男共はニヤニヤしながら剣を構えた。
「もうすぐ仲間の5人がお前等の背後から来る。
 殺されたくなかったら有り金全部と女を置いていきな。
 命だけは助けてやるぜ。」
 それを聞いた女性陣がゲッとなる。
 ラナが
「サイテー。」
 と吐き捨てる様に言い、
 ミウは繭を投げるタイミングを計っているのか、無言で睨みつけていた。
 そしてずっと無言だったミリアは、どこからか酒瓶を取り出し、
 ポンッと栓を開けてグイッと一口飲んだ。
 ゴッセンがそれを見て叫ぶ。
「あーっ!
 俺のとっておきのミニボトル!」
 それを見たカイルとシーマが蒼白となる。
 ヤバイ、ミリアがキレた。
 そう思う間もなく、目の座ったミリアがズイズイと前に進む。
 右手に度数の強いボトル。
 左手に使い捨てのスクロール(魔法が込められた巻物)。
「これに耐えられたら相手してあげてもいいわよ。」
 そう言うと、残りの酒を全てブチ撒け、そこに大炎の巻物を解放した。
 一気に5人の身体全体を、酒で強化された炎が包み込む。
「ギャアアアア!!!!!」
 ミリアは断末魔などお構いなく、
 即座に得意の風の精霊魔法で炎を活性化させた。
 酸素を送り込み燃焼をより激しくさせる。
 一瞬の魔法攻撃に、敵の僧侶も魔法使いも声が出ない。
 スクロールによる魔法解放は、詠唱を必要としない必殺の不意打ち攻撃だ。
 一度きりの使い捨てアイテムだが、上手く使えば効果は絶大。
 炎が消え失せた時、立ち塞がった5人は全員が消し炭と化していた。
 その灰をミリアがギリッと踏みつける。
「ふざけんじゃないわよ、この下種が!」
「・・・・・。」
 ミウは、気が抜けた表情で投げようとした繭を静かに袋に仕舞う。
 やっぱり普段大人しい人間をキレさせるべきではないのだと、
 改めて感じたカイルたちであった。
コメント
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