ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第11話(1)

2025-03-10 20:26:42 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 この世界には、巨大な寺院が全部で12ある。
 ここガーディア国の城下町にあるソルドバージュ寺院もそのうちの1つ。
 ガーディア国を含む巨大12国家に1つずつ配されていた。
 寺院は国の配下などではない。
 無闇に無利益な戦争を行使させない様、
 世界の目付としての役目を担っている。
 もちろん寺院には分院も多々あるわけで、
 1つ1つの寺院はどんな小さなものでも必ず登録されていた。
 登録されていない寺院はモグリという事になる。
 逆さ十字を掲げるダーク・プリーストが集う闇寺院などは典型的な一例。
 あとは登録の更新をしなかった・・・
 要は後継ぎがいなく廃れた寺院跡地がほとんどだ。

 しかし城下町西区にある古い寺院は、
 登録こそされていないが廃れた様子ではない。
 早朝、1人の法衣をまとった巨漢がここで祈りを捧げていた。
 それを終えると、寺院内の掃除。
 用意した箒は特注品なのか、
 立て掛けている2mの錫杖と同じ長さであった。
 それを悠々と使い、清掃する。
 はたきは普通のもので、位牌の1つ1つを丁寧に扱い埃を落としていた。
 そして黒いケースを手に取ると、軽すぎる事に気付く。
 蓋を開ければ、中身の十字架は消え失せていた。
「・・・他の位牌が雑に扱われていないところを見るに、
 意図して持ち去った者がいるか。」
 紛失したにもかかわらず、特に怒った様子もなく口調は落ち着いている。
「真相を究明してくれる者の手に渡っていればよいがな。」
 そう呟くと、錫杖を左手に持ち外へと出た。

 ケイトは人形娘ドールとともに喫茶店アリサへと来ていた。
 従業員用の部屋で、アリサと一緒に卓を囲んでいる。
 ショートケーキをパクリ、たまにコーヒー。
「あぁー、朝からケーキなんて至高の贅沢よねー。」
 ケイトは甘党かもしれない。
 ドールは何も言わず、上品に小さな口へ運んでいる。
 それを向かいの席で見ていたアリサは一言、
「ケイトもドールも絵になるわね。
 フランソワとエレナ女王がケイトに惚れるのも分かるわ。」
 ケイトはそれを聞いて血の気が引いた気がした。
「ちょっと、アリサ!
 勘弁してよ!!」
 アリサはクスクスと笑いながらコーヒーを継ぎ足す。
「まだ二人ともくっついてくるの?」
「相変わらずねー。
 エレナは女王だから滅多に会えない状況なのが助かっているけど、
 フランソワは隙あらば近付いてくるから油断出来ないのよ。
 それにさー・・・。」
 ケイトは、とりあえず今までの状況をアリサに話した。
 アリサがまた吹き出して笑う。
「フランソワに捕まっちゃったんだ。
 イヴはフランソワの事、よく知らなかったんでしょ。
 仕方ないわよ。」
 ケイトは何も言えなかったが、不満爆発寸前状態。
 知らないの一言で済まされるこっちの身にもなってほしいわ。
 苦虫をかみ潰したようなケイトの表情を、ドールが静かに覗き込む。
「ケイト様、アリサ様にお聞きしたい事があったのですよね?」
「え、私に聞きたい事?
 朝食替わりにケーキを食べに来たんじゃないの?」
「もちろんそれもあるけど、こっちの仕事の関係でね、
 巨漢の僧侶が寺院に登録されているか知りたいのよ。」
「巨漢のって、西区の地下迷宮に出没するって噂の?」
「そうそう。」
「西区に登録された寺院自体が無いから関連性は分からないけど、
 地方の寺院で登録されていた巨漢の僧侶の話は聞いた事あるわ。」
「地方ってどこの?」
「確か・・・マーキュリー伯爵領だったかな。」
 それを聞き、ケイトが前のめりに。
「それよ、間違いない!」
 アリサは思わずビクリとする。
「あ、そ、そうなの?
 珍しい名前だったから、なんとなく憶えてたのよ。
 ライガって名前だと思ったわ。」
「ライガ・・・うーん、あたしは聞いた事無いなー。」
「ただ、あの領地の寺院は更新登録されていないの。
 だからライガ本人がどうなったのかまでは分からない。
 ・・・最悪、破戒僧になっている可能性もあるわ。」
「破戒僧か・・・まあ、冒険者に味方してるみたいだから、
 敵にはならないと思うけど。」
 それでもケイトは何故か、嫌な予感がしてならないのだった。

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