ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第10話(1)

2025-03-05 21:00:45 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 王城は、城下町全体から見てやや西寄りに位置。
 小高くなった土地を、城下町外周にあるのと同じ外壁で囲われていた。
 この囲われたエリアは王城区域と呼ばれている。
 この区域内の南西区に王宮承認暗殺ギルド“ニードル”の本部。
 南区に王城護衛団本部。
 南東部に正門と護衛団支部。
 東部に王宮魔法陣の塔。
 北東部に下級貴族居住区域。
 北区に中級貴族居住区域。
 北西区に上級貴族居住区域。
 そして西区に国内貴族区域があった。
 この西区は、城下町の外から国境の間に点在している町や村の貴族たちが
 城下町に別宅を設ける為の区域。
 国王主催のパーティーや納税報告等の際には王城に出向かねばならない為、
 この様な特殊な区域が存在した。
 滅多に立ち入らないエリアで、普段は執事やメイドしかいない。
 しかし、いつ主が訪れてもいい様に清潔さを保ち毅然とする。
 マーキュリー伯爵夫人は、愛用の馬車で早朝に乗り入れていた。
 32歳とは思えない落ち着いた容姿。
 派手に着飾る事も無く、ある程度は動きやすいビジネススーツの様な
 服装で降り立つ。
「御苦労様。
 いつ来ても素晴らしいぞよ、執事長。」
「お褒め頂きありがとうございます。
 早朝から馬車の移動、大変だったでしょう。
 お風呂と食事、どちらを先になさいますか?」
「先にお風呂から頂くかの。
 あと食事後にレグザを呼んで頂戴。」
「畏まりました。」

 メイドの一人が2階の蔵書室に行くと、
 奥の机と椅子を使って読みふけっているレグザの姿があった。
「毎度思うのですが、窓際で明かりがあるとはいえ、
 フードを深く被ったままでよく読めますね。」
 その声の後、レグザは目線をゆっくりとメイドに移し、フーッと一息つく。
 それでもメイドはレグザの顔が見えない。
 両目だけが、夜行性の動物みたいに妖しく光って見える。
「これでも視力は良い方でな。
 早朝から何かあったのか?」
「マーキュリー伯爵夫人が、朝食後顔を出す様にと。」
「何、もう着いたのか?
 確か今日の昼頃という話だったはずだが?」
「何かイレギュラーがあったのではないでしょうか。」
「・・・何も問題は無かったはずだが。
 ライガも来たのか?」
「伯爵夫人様の令で、ライガは数週間前から城下町に来ています。
 西区の例のエリアを調べ上げろと。」
「リディアの事か。
 まだ見つけられていないのか?」
「おそらくは。
 フリではないと思います。」
「分かった。
 夫人殿は食堂か?」
「今、風呂をご使用中です。
 レグザは今のうちに朝食を済ませて下さい。」
「・・・分かった。」
 俺も毎度思うのだが、メイドが凄く偉そうに感じるのは気のせいか?
 
 マーキュリー伯爵夫人が食事を終えた頃を見計らい、
 レグザが音も無く姿を現した。
「久しぶりだ。
 相変わらず、用心棒の我らは傍に付けないままか。」
「ライガから紙を数枚貰っているから、普段はこれで十分ぞよ。」
 余程特別な紙なのだろうか。
 レグザも、ああ、といった感じで納得していた。
「そんな事より、厄介な者が敵に回ったがの。」
「この国の事か?
 それは今更だろう?」
「この国の事は些事よ。
 まあ、いい加減見切りを付ける頃合いではあるがの。
 ここの女王は奴隷について悪事としか思っていないゆえ。」
「事実、悪事だ。」
 レグザの声に、夫人はニヤリとする。
「少しは腹芸と詭弁を覚えたらどうかの?」
「それに頭を使うのは、政(まつりごと)に関わるお偉いさんだ。
 で、厄介な敵とは?」
 ドクター・スノーとでも言うのかと思いきや、
 彼女の答えはもう一つ加えられた。
「ドクター・スノーと、冒険者。」
「冒険者?
 雪原の魔女はともかく・・・。」
「私の子飼いの蜘蛛が殺されたわ。
 Bブロックの存在に気付いた冒険者が侵入し、
 ファット・ラットとジャイアント・スパイダーが1日で殺されとる。
 もしかしたらCブロックの存在に気付いているかもしれぬの。」
 夫人の声にレグザは、ほお、と軽く驚いた声を上げた。
「奴ら2体を1日で倒すか。
 なかなか骨のある冒険者だ。
 で、そいつらを倒せばいいのか?」
 夫人の回答は違っていた。
「美味しそうな存在なら、私が自らお相手するわ。
 レグザはドクター・スノーの相手をなさい。
 ついでに逃亡した奴隷を回収してくる様に。」
 ここでレグザは、確認する様に一言語る。
「逃亡した少女はアメリだ。」
「む、そうなのかえ?
 ・・・もしかして、わざと逃がしたのかえ?
 西区の護衛団支部まで頑張って辿り着けば、
 病院まで運んでくれるのは目に見えているからの。」
「さて、何の事だか。」
「ここで腹芸するでない。
 にしても、レグザもなかなかの策士よ。
 ドクター・スノーを襲撃したのは申し訳なかったわ。
 彼女なら“どんな者が来ても”必ずアメリを守り抜いてくれるからの。
 それならドクター・スノーを敵に回すのは無しじゃ。」
「なら俺はやる事無しか?」
「王宮魔法陣のフィアナが黙って見ているだけだと思うのかえ?
 アメリはともかく、我らの事は確実に消しにかかるであろうて。」
「だからとはいえ、騎士団や護衛団が動くとは思えんが。」
「少なくとも、ニードルと王宮魔法陣は動くであろうよ。
 レグザはそ奴らを相手にすれば良い。」
 するとレグザからクックッと笑い声が聞こえた。
「了解した。」

 不敵な笑い声は自信か盲信か。
 そして少女アメリにはどんな秘密があるのだろうか。

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