ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第9話(2)

2025-03-03 21:14:27 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 朝。
 柔らかく暖かい感触。
 こんなベッドで寝ていたの?
 ここはどこなの?
 薄っすらと目を開いた少女は、ゆっくりと上半身を起こした。
 体中の筋肉が痛い。
 思わず、ウッと声が出てしまう。
 無我夢中で歩き回ったからかな。
 そう思っていると、部屋の入口から女性の声が聞こえた。
「おはよう。
 体調はどうかしら?」
「ここ・・・は?」
「病院よ。
 私は貴女の主治医。」
「あ、私、お金は・・・。」
「そこは心配しなくて大丈夫よ。
 で、どうなの、体は?」
「あ、はい、筋肉痛が酷くて・・・。」
 すると主治医は少女に近付き、
「失礼するわよ。」
 と言って少女の身体を両手で触り始めた。
 冷たい。
 人の体温など微塵にも感じないその冷たさに内心驚いていると、
 パキ、パキ、と小さな音がして少女の皮膚から氷が生まれだした。
 主治医はその氷を全て取り除き、袋に入れる。
 すると、
「先生!
 痛みがすっかり消えています!
 凄い!」
「貴女の痛みの元を抽出して凍らせたの。
 もう大丈夫よ。」
 主治医がそう言って片手を上げると、
 廊下から女性の看護師が朝食を運んできた。
 耳を取り除いた柔らかいパンとスープ。
「栄養失調の様だから、しばらくまともな食事をしていなかったでしょう。
 ゆっくりと時間をかけて食べなさい。
 でないと、胃が受け付けないから。」
「ありがとうございます。
 あの、先生・・・!」
「食事が終わって落ち着いたら問診します。
 お話はその時に。」
「・・・はい!」
 少女はゆっくりとスープを味わい始めた。
 涙が出るほどに嬉しかった。

 落ち着いたところで主治医が再び部屋に入り、ベッド脇の椅子に腰掛ける。
「では、今から問診を始めます。
 答えたくない時は答えなくていいです。
 私は、この病院の第4棟院長、ドクター・スノーです。
 貴女のお名前は?」
「アメリです。」
「年齢は?」
「16歳です。」
「護衛団の方に保護される前は、どこにいたの?」
「奴隷商アラクネというところの牢屋にいました。」
「どうやって脱出したの?」
「牢屋は私一人しか入っていなかったんです。
 看守の男が食事を届けていたのですが、その男が私を犯そうと鍵を開け、牢屋に入ってきました。
 私は無我夢中で、その男の股間をおもいきり蹴って、
 開いた牢屋から逃げ出したんです。
 ・・・痛っ!」
「大丈夫?」
「・・・すみません。
 ここまでは思い出せるんだけど、
 この先を思い出そうとすると頭が・・・。」
 ドクター・スノーは、少女の額に手を当てた。
 冷たい手が心地よい。
 少女はそう思っているが、これはドクター・スノーの触診。
 部分的な記憶の隠蔽か、空白の記憶を植え付ける改竄か、
 普通に考えればそのどちらかだ。
 しかし、触診の結果はどちらも該当しなかった。
 一時的な記憶の混乱か、もしくは・・・。
「答えられなければ、答えなくていいわ。
 まだ体力が回復していないから、今日は1日ここで安静にしていなさい。」
「はい、分かりました。」

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