ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第8話(3)

2025-03-01 18:12:59 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 ケイトは、夕食後に黒猫フレイアから複製したファイルを受け取っていた。
 黒猫の影で作られているこのファイルは、
 仮に原本が焼却されるとこちらも燃えて無くなってしまう。
 なので、まだ手元にある今のうちに人形娘ドールに解読してもらい、
 それを和紙に書き記す。
「今月分の売り上げファイルって感じね。
 フレイア、書庫みたいなのは無かった?
 先月以前のファイルが保管されているような。」
 黒猫は首を横にブンブン振った。
 1階の部屋をチェックしなかった事は、おくびにも出さない。
「ないものは仕方ない、か。」
 ようやく書き終え、フーッと一息ついた。
「ケイト様、この書き上げた書面はどうなさるのでしょうか。」
 ドールに言われ、ケイトは書類をドールに手渡した。
「明日でいいから父さんに渡して。
 あと、私の人探しの件も伝えておいて。
 ニードルが一枚かんでいる案件だと。」
「承知致しました。
 今はまだエルとイヴ様に任せておきますか?」
「ええ。
 私の目的はリディアという女性を探し出す事。
 エルとイヴの二人に任せておけば、必ずあぶり出されてくるはず。
 その気配が感じ取れない内は、無闇に動く必要は無いわ。
 むしろ下手に動けばエルに邪魔者扱いされるのが目に見えてるしね。」
「奴隷とされているであろう人たちの救護は?」
「そっちは冒険者のカイルたちに一任させましょ。
 彼らにとっては一気に銀等級へランクアップするチャンスと言える。
 それだけの功績を横取りするのは可哀そうよ。
 それに万が一の事があっても、フランソワの花があるから。」
「フランソワ様の花魔術、今回は何の色を?」
「青よ。」
「敵よりも冒険者の方が驚いてしまうのではないでしょうか。」
「たぶん・・・ね。
 さて、遅いからもう寝ましょ。
 明日は色々と下準備するから、ドールにも手伝ってもらうわよ。」
「分かりました。
 お休みなさいませ。」

 冒険者カイルたち一行は、またキルジョイズの酒場で個室を頼み、
 そこで夕食&作戦会議をしていた。
 稼ぎが良かったので、今日は奮発して
 ステーキランチセットとビールを頼んでいる。
 閉じ込められ、強制的にロープで下層に降りる行為は
 ストレスだったらしく、食べる勢いが凄まじい。
 どうやらカイル以外は高いところが少々苦手らしかった。
 ある程度お腹が落ち着くと、ビールをグイッと飲んで、
 クーッと喜びの声を上げている。
 ドワーフのゴッセンは、完全にオッサンと化していた。
 テーブルの中央には例の地図を広げている。
「探索したい箇所が一気に増えたが、どうするんだ?」
 ゴッセンの声に、カイルは迷う事無く答える。
「奴隷収容フロアと書かれている、Cブロックの地下3階を目指す。
 今日出てきたマンホールから入って上流へ歩き、
 螺旋階段を使えばすぐだが、ここは無理だ。」
「なんで?」
「この扉のマークに鍵の絵が書いてある。
 鍵が掛かっているはずだ。
 奴隷収容フロアの鍵は、簡単にピッキング出来ないと思う。」
 イヴが地下2階の扉を魔鍵で開けているのだが、
 そんな事カイルたちは当然知らない。
 カイルはそう言いながら人差し指で指し示す。
「だからここ、Aブロックのコモドドラゴンを倒した先にある、
 地下4階から5階に降りる階段の途中にある隠し部屋を目指す。
 隠し部屋に設置されたスイッチを起動すれば、
 地下6階“ホーム”に隠された通路が出現する。
 その通路の先にある昇降機に乗れば、
 Cブロック地下3階の東側から侵入可能だ。
 この地図を完全に信用すれば、な。」
 皆でマジマジと地図を見つめる中、ラナが感心するように語る。
「この地図、精巧で詳細に書いてあるわよね。
 こんな大事なもの、なんで簡単に私たちに渡したんだろう。」
 シーマも頷きながら言う。
「そうだよな。
 普通なら銀貨10枚言われても文句言えない地図だ。
 それを何故・・・ん?」
 シーマが何かに気付いた。
「カイル、この右下の番号、何だと思う?」
 そこには、

 COPY No.2

 と書かれていた。
「・・・複製した2枚目の地図・・・という意味だろうか。」
「原本はあの墓守が持っているとして、
 複製した1枚目を既に誰かに渡しているって事か!」
「俺たちと同じように、ギルドに提出するのを躊躇ったのかもな。
 これだけの情報量だし、何より奴隷商アラクネの管轄エリアまで
 綿密に書かれていては、普通なら怖くなって手放す事も有り得る。」

 話しながら、カイルたちは皆同じ事を思っていた。
 この地図は、奴隷商アラクネの関係者でなければ描けない地図だと。
 あの巨漢の墓守、一体何者なのだ?

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