ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第7話(3)

2025-02-26 20:44:01 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 一方、例の建物では怒声が響く。
「バカヤロー!
 猫1匹にどこまで好き放題やられてんだ、おめえらは!!」
 ごもっとも、としか言いようがない。
 しかしながら、あの悪戯猫にお仕置き出来るのはケイトくらいである。
 クソッ、ファイルだけ持ち去っていきやがった。
 ただの野良猫じゃねえ。
 猫の主にあの文字を解読されたら、必ずこの建物に来るはずだ。
「今夜見張りを厳重にしろ!
 必ず何かが来るぞ!」
「は、はい!」
 怒鳴っていた男は、冷や汗が流れていた。
 冗談じゃねえ。
 ここで食い止めておかねえと、あの用心棒2人のどっちかに殺されちまう。
 必死な思いなのは当然だが、世の中やっぱり甘くない。
 エルとイヴだけではない。
 冒険者カイルたちだけではない。
 ドクター・スノーが仕組んだ魔眼に魅せられた者と、
 フランソワの使い魔が撒いた種が、現場を更に混乱化していく。

 冒険者カイルたち一行は、倒した巨大蜘蛛の解体をようやく終了。
 だが長い脚が大半を占めていたせいか、
 デブ鼠ほど袋がパンパンにならなかった。
「デブ鼠ほどじゃなかったな。」
 ゴッセンが最後の袋詰めをして一息つく。
 休憩をとり、それから立ち上がって辺りを見渡すが広い。
 4方向とも壁は見えなかった。
「普通は上の階と同じ広さだと思うが、ここは違うようだ。
 シーマ、ラナ、何か気配を感じるか?」
 カイルに言われるまでもなく四方に気を配っているが、特に何も感じない。
「いや、何も無い。」
 次はミウに指示を出す。
「ディレクション(方向感知)を使ってくれ。
 とりあえず西端を目指す。」
「なんで西端なの?」
「西側にAブロックがあるからだ。
 もしかしたらAブロックに通じている扉があるかもしれない。」
「分かった。
 詠唱するね。」
 ミウがディレクションを唱えた。
 この魔法は術者の脳裏に、常に北を指し示してくれる。
 北が分かれば、他の3方向も分かるというもの。
「こっちだよ。」
「よし、慎重に行くぞ。」
 上の地下2階もだったが、ここも部屋の類が無い。
 まるで巨大な洞窟だ。
 壁が見えたところで、西側の壁を丹念に調べていく。
 しかしAブロックに通じるものは何も無し。
 アテが外れてしまった。
 次は北側の壁を調べる。
 すると少し歩いたところで、お香の香りが匂ってきた。
 何かの花を原料にしたお香なのか、とても良い香りがする。
「香りのする方向に向かうぞ。」
 すると、このフロアの北東部にあたる場所に、
 人の身長ほどの大きな石がいくつも見えてきた。
 多い。
 50基はあるのではないだろうか。
 その50基の1つ1つに、お香が供えられていた。
 石には名前らしきものが刻まれている。
「こんなところに何用かね?」
 !
 遠くから声が聞こえた。
 東側だ。
 足音がする。
 皆が戦闘態勢をとっているところに、ゆっくりと歩いてくる者がいた。
 背が高い。
 身長180は超えていそうだ。
 大柄な男は、僧侶の法衣をまとい、フードを深く被り、
 巨大な錫杖を片手で持っていた。
 そしてもう片手にはランタン。
「・・・まさか、迷宮都市伝説の墓守か。」
「迷宮都市伝説とやらは知らぬが、いかにも小生は墓守のような存在。
 ここは、何処より彷徨う者たちが行き着く場所のようでな。
 よく骸骨が転がっている。
 拙僧の事は墓守と呼んでよい。
 お主たちはどこから来たのだ?
 見たところ、死にかけているわけでもなさそうだが。」
「この上の階層から。
 巨大蜘蛛を倒してきたところだ。」
 そう言ってカイルは、袋の1つを開いて見せた。
「ほう、これは凄い。
 この墓地まではどうやって来たのだ?」
「西側の壁をつたって壁沿いに歩いてきただけだ。」
 そう答えると、墓守は軽く頷いた。
「そなたらはなかなか運が良いようだ。
 このフロアは一方通行の空間が多くてな。
 迷えば最後、死ぬまで抜けられなくなる。」
 ラナが恐る恐る聞く。
「出口はあるの?」
 そう言われ、墓守は大きな和紙を懐から取り出し、1枚差し出した。
「これを授けよう。」
 皆でそれを見て驚愕する。
「地図か!」
「・・・おい、この地図・・・!」
 いつの間にか、墓守は忽然と消え失せていた。
 辺りに気配は感じない。
 ・・・というか、声を掛けられた時も気配を感じていなかった。
「まさか、幽霊?」
 ここは剣と魔法の世界。
 もし見つけたら神聖魔法のディスペル・アンデッドで
 成仏させてあげましょうねと言われる程度のお話。
 幽霊だからといって、怯えるような事はない。
 受け取った地図は詳細だった。
 この地下3階Bブロックの一方通行まで事細かく記載されている。
 下水道からも出入り出来る箇所がある。
 そして何より驚いたのは・・・。

 毒花ペレス栽培施設への、地下からの出入り口。
 王城区域貴族エリアへの、地下の連絡通路。
 そして、地下迷宮Cブロックの存在。
 そこは、奴隷商アラクネの管轄エリアと記載されていた。

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