「メアリー・ポピンズ」のシリーズを書いたP.L.トラヴァースは、1967年に行った講演のなかで、「アンデルセンやオスカー・ワイルドは、妖精物語の発明者だと思う」と述べています。ただし「彼らの物語には郷愁の要素が存在しますが、それは物語の活力を殺す働きをするものであって、真の物語であれば決してもたない要素です」と話しています。
では、トラヴァースが真の物語と考えているものは何なのでしょうか?
それは“神話”。
なのだそうです。
「もちろん皆さんはこうおたずねになるでしょう──本当に人々はいつでもそうだずねています。神話を発明したのはだれなのか、と。そして神話は真実なのだとあなたは考えるのか?
真実ですって?
真実とは何でしょうか?
私に関する限り、神話のなかのできごとが、実際に起ころうと起こるまいと、そんなことはまったくどうでもいいのです。起こらないからといって神話の真実性がそれだけ弱まるわけではありません。
というのは、何らかのかたちで、それらは常に起こりつつあるからです。
新聞をひろげさえすれば、そのなかには神話がひしめいているのが発見できるでしょう。人生そのものが、絶えず神話を再生産しているのです」(『オンリー・コネクトⅡ 児童文学評論選』岩波書店より)
「日本には禅の公案として用いられているすばらしい一句があります。それは『創られしものにあらずして呼び出されしもの』というのです。これが神話についていいうるすべてともいえるでしょう。」
トラヴァースは「メアリー・ポピンズ」は妖精物語であると位置づけています。そして、
「妖精物語とは、時間と場所のなかに落下してきた神話ともいえるでしょう」とも。
「メアリー・ポピンズ」の物語に、ときどき神秘的な予感があるのは、こうしたトラヴァースの物語のとらえ方がベースにあるからなのでしょうね。
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