Human Renascence(ヒューマン・ルネッサンス)。
1. 光ある世界
2. 生命のカンタータ
3. 七三〇日目の朝
4. 青い鳥
5. 緑の丘
6. リラの祭り
7. 帆のない小舟
8. 朝に別れのほほえみを
9. 忘れかけた子守唄
10. 雨のレクイエム
11. 割れた地球
12. 廃墟の鳩
今思えば、いわゆる「トータル・コンセプト・アルバム」なんだけれど、当時の私には珍しくて、不思議な魅力に満ちたアルバムでした。《wikipediaによれば、これが日本初のトータル・コンセプト・アルバムになるらしいです。》
当時、GS(グループサウンズ)ブームの人気の頂点にあったタイガース。このアルバムをリリースした頃が全盛期だったのではないでしょうか。私の「お熱度」もこの頃がピークでした。理由のひとつには、このアルバムでは加橋かつみのヴォーカルがかなり目立っていたからではないかと…。
タイガースのメイン・ボーカルは言わずと知れた沢田研二(ジュリー)で、GSブームが去った後もトップ・シンガーとしてスーパースターであり続けますが、ターガース・ファンの中では、加橋もかなりの人気がありました。確か、このアルバムリリースの前に「廃墟の鳩」という加橋がリード・ボーカルをとるシングル曲がヒットしていました。その前には、今もタイガースの代表曲とされる「花の首飾り」でもリードを取っていて大ヒットさせています。
私は「声の高い男」に弱い(!)…というか、この頃から既にそういう嗜好がはっきりしていたのか…と、我ながら感心してしまう。その後の「ファン歴」の説明がつくのですわ。
加橋は超スーパー・アイドル級グループにあっても、あんまり愛想良くなくて、つっぱった感じがした。また、当時のティーン雑誌にイラストを連載していたりもしましたね。メンバー初の自作曲(730日目の朝)を発表したのも彼だったと思います。トータルとして、何となく「アーティスト」していた。そんなところがまた、ある種の女の子たちを惹きつけていたんですよね。
このアルバムリリースの後、メンバーが渡米し、帰国した彼は髪をモシャモシャにしてサングラスをかけ、ひげを生やす…という、美少年アイドルグループのメンバーにあるまじき風情(?)で羽田に現れて驚かせました。思えば、これが69年3月、タイガース脱退への布石でしたね。
私は加橋が抜けてからというもの、次第にタイガースへの興味が失せていきました。でも、その後、GSブームの次に(数年置いて)フォーク・ブームが起こり、多くの若者を熱狂させましたが、私にはフォークは全く肌に会わず(はっきり言って不快でしかなかった)、結局、ミュージック・シーンそのものに対する興味を失ってしまいました。今思えば、タイガースが若い頃に熱狂した唯一の日本のアーティストだった…ってことになります。
さて、このHuman Renascence。「人間復興」というタイトルからもわかるように、人の生・死・愛と世界の関わりを叙事詩のように描いたトータル・コンセプト・アルバムでした。旧約聖書の世界を思わせるような宗教性もみてとれる。それでいて、ロマンティックなファンタジーでもある。
考えてみれば、GS音楽の世界では、こういうファンタジー性はひとつの属性でもあったような気がしますね。(そういえば、旧約聖書の世界を主に歌っていたマイナーなグループもありましたね。)テンプターズの「エメラルドの伝説」、ジャガーズの「キサナドゥーの伝説」(これはデイブディ・グループのカバーだったはず)。なんか「…伝説」が目立っちゃってた…。また、オックスの「スワンの涙」などもそうかな?
{いつか君が~見たいと言った~遠い北国の、みずうみに~悲しい姿~スワンの涙}
ここから浮かぶのは、やはりファンタジーの世界でした。
また、「みずうみ」っていう言葉の使用も多かったようですね。
またこの頃、外の世界では、ベトナム戦争が泥沼の様相を呈していて、反戦運動も盛んでした。日本では高度成長の真っ只中、日に日に豊かで便利な日常となっていました。
Peter Paul & Maryなどは反戦の思いを巧みな隠喩を使った歌詞世界で表現し、美しいメロディーやハーモニーに合わせて歌って支持されていました。
そういう要素とタイガースの持つ雰囲気を上手く組み合わせて創りあげた世界がこのアルバムだったと思います。この中にはメンバー自作の曲もありますが、多くの部分は周囲のスタッフのアイデアを結集して「作り上げられた」ものであったと思います。作詞・作曲の多くの部分は、なかにし礼、山上路夫、すぎやまこういち、村井邦彦が担当していました。
シンガー/ソングライターによるフォーク・ソングに席巻されていた時代は、このような、他者の手によって作られる世界はGS時代の「負の」象徴であるかのように見られがちでしたけれど、80年代になってから、このアルバムが再評価されたのは嬉しかったですね。そうですよ~!なんでもかんでも、とにかく「自作であること」に至上の価値を置いてしまったフォーク時代の○○さと言ったら!!…しつこいですね…ハイ、スイマセン。
さて、このアルバムの一曲目は「光ある世界」。ストリングスをふんだんに使った幻想的な世界です。幻想的な闇に一筋の光が射している絵が思い浮かぶ。
{ステンドグラスの輝きにも似た~あなたの微笑み~見つめながら~僕は歩く}
「ステンドグラスの輝き」ってどんなんや?
でも、何となくspiritual
美しい曲で好きでした。サビの部分で、加橋のハイトーンのオブリガートが入るんですよ。ジュリーの声とのコンビネーションが美しかった。
次の「生命のカンタータ」。
{愛する二人が命を作るの~愛は受け継がれ、とわに生きる}
当時は、「キャー!こんなこと歌にしていいのぉ~」なんて思ってしまった曲です。ジュリーの甘い声のボーカルが嵌まりすぎていた感じ。…でも前曲の「愛の誕生」からこの曲の「生命の誕生」、テーマの連続性が新しく感じました。
次は加橋作詞・作曲の「730日目の朝」。730日=2年、タイガースのデビュー2周年を記念して作られた曲でした。加橋のハイ・トーンと岸部おさみ(現:一徳)のバス・ボーカルとの掛け合いで歌われる曲で、最初にTV(シャボン玉ホリデー)で耳にしたときは、斬新すぎて{?}だったのですが、だんだん味がわかってきた曲。「若き命の讃歌」と解釈できます。
シングルヒットした「青い鳥」はメンバーの森本太郎の自作曲。彼は昨夜のBSの番組にも、元タイガースのスポークス・パーソンとして出ていましたね。アルバムの中のこの曲はシングルとは別テイクで、森本自身で歌ってる部分があって…聴きながら、ちょっとコケタ(すいません)記憶がある。「淡い恋の思い出」がテーマ。
再び加橋のリード・ボーカルの「緑の丘」。
「緑の丘」と言う表題自体に「プロテスタントの夢」のようなイメージがあります。新大陸の緑の丘の上に教会が…のような…
{遠い昔、暗い炎に、焼かれ消えた緑の丘~…再び今は、緑に包まれ、恋人が肩寄せて、愛を語る、緑の丘~}
「平和を享受できる幸福と安らぎ」を歌っている。しかしそれは、必ずしも「恒久平和」ではないことも暗示されている。
「リラの祭り」は、南国の祭りのイメージで生命の躍動を歌った曲です。これは、リード・ボーカルがいなくて、全員のコーラスとして歌っているのが、更に曲の雰囲気をよく出している感じ。
これも加橋がリードをとる「帆のない小船」。マイナーな曲調にあわせて、運命の力に抗えない人間の苦悩を淡々と歌っています。
{何処へ行く?何処へゆく? Oh, God, tell me, God!}
こういう曲は、ツンとしたハイトーンの加橋が歌うのはいいですね、沢田だったら、情感がこもりすぎて、「物語」としての味わいが出なかったかも。
次は「別れの朝に微笑を」「忘れかけた子守唄」という「戦争」をイメージした2曲が続きます。沢田がリードを取っていますが、「忘れかけた~」では「母の心の叫び」のフレーズを加橋が担当して、ドラマティックな曲になっています。戦場へ行ったジョニー…って、その後、映画になった「ジョニーは戦場へ行った」(原題は「ジョニーは銃をとった」)のイメージと重なりますね。この曲では「母性」が歌われているのです。
{母は毎日、稽古をしてるよ、忘れかけた子守唄を~}
「稽古」なんて、今は死語に近い??でも、加橋がハイ・トーンで歌うこのフレーズは、ちょっと心に響きましたよ。
…で、突然のネタ話になりますが、友人のA子は、ここが{母は毎日、デートをしてるよ~}と聴こえちゃって…「息子が戦場に行っている間に、デートをしているお母さんって??」と、ずっと違和感があった、、と言ってたのを思い出します。ホントに、おバカなA子ちゃんでした…。
「雨のレクイエム」は岸部がリードを取っているんです。今聴くと荒削りな感じは否めないのですが、彼は歌に表情をつけるのが上手いです。このアルバムの前後に、確か明治チョコレートのパッケージを集めてタイガースのオリジナル曲のソノシート(…って分かります~??)がもらえる企画があって、その中の1曲は、岸部が人種差別をテーマにした嘆きの曲を歌っているものなんですが、それも非常にドラマティックなボーカルでした。後に俳優として大成功する彼の才能の片鱗が見えると思います。この曲は表題のとおり「死」がテーマになっています。
「割れた地球」は沢田が歌っています。地球が血を流して割けてしまう「滅亡」の世界を明快なリズムとビビッドなメロディーで表現している。沢田はライトな感じで、ナレーションのように上手く歌っていると思う。
そして、最後は「廃墟の鳩」。締めは、やはり加橋のボーカルで「人間再生」を歌います。バックに使われているオカリナの音色が、再生の希望を暗示しているかのように、澄んだ響きを聴かせます。
{人は誰も悪いことを覚えすぎたこの世界~築き上げたユートピアは壊れ去った脆くも~
誰も見えない廃墟の空、一羽の鳩が飛んでる…生きることの喜びを~今こそ知る人はみな}
この後、加橋はタイガースを脱退し、独自の道を歩み始めるのですが…どうでしょう?その後は、タイガースの中で見せたような活躍はできなかったように思うのですが。
人がトータルなテーマで作り上げたものに対して、どのような付き合いかたをするのか、どのように自分なりに解釈していけばいいのか…このHuman Renascence(ヒューマン・ルネッサンス)はひとつのヒントを与えてくれました。それは、ごくごく初歩的なものだったのかも知れないけれど…多感な時期に、このアルバムに出会えた自分はラッキーだったと思っています。今の少女たちにも、こういう出会いのチャンスが与えられているだろうと信じたいですね…。
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