たまにはフランス文学でも…。
その昔「ベルばらつながり」の(!)フランス革命関連本として、何気なく読んだ本であるが、ミーハーな田舎娘だった私には、かなり衝撃的だった。先日、再び手にして読んでみた。
『神々は渇く』は貧しく純粋な画家エヴァリスト・ガムランと彼の周囲の人々が描かれている小説であるが、フランス革命の年代記と読めないこともない。登場人物はまるで実在していたかのような錯覚に陥る。しかしながら、登場人物のほとんどは状況主義者であり、淡々と日常の生を営んでいるに過ぎない。
作者が一番思い入れを強くして描いているのは、人形師で元税理士のブロトー。彼にとってジャン・ジャック・ルソーは「くだらないごろつき」以外の何ものでもなく、ルソーの著作から形成されたような人物、つまり革命家たち、には何の愛情も共感も持っていない。無神論者で、古代ローマ詩人ルクレティウスの『物性論』をいつもポケットに持っている。享楽的でありながらも、心に迷いはなく寛大に生きている人物である。最後には「反革命を扇動した」かどで投獄され、ルクレティウスの本とともに断頭台へと消える。
ブロトーは彼の作った人形たちをこう言っている。「私は、彼らに、喜びも苦しみも感じない、いつかは死滅するだけの肉体を与えました。私は彼らに思想というものを与えなかった。私は良い神ですから。」恐怖政治については「自然は『人間の生命に何かの価値がある』なんてことをかつて教えてくれませんでしたよ。(中略)反対に価値を持たぬことを教えてくれましたよ。(中略)死刑というものは、道徳や正義ではなく、必要や利益において行われる限り正当ですよ。」と語る。
主人公のエヴァリストは正直で、高潔であるが、度量に欠ける人物である。作者はこの主人公には何の愛情も持っていない。革命裁判所の陪審員に選ばれたエヴァリストは、愛国心から、頑固で過激な激しさを発揮し、ロベスピエールの手先として恐怖政治を推進する。そして最後には、テルミドールのクーデターで自らが断頭台に送られることになる。
画家である彼は、次第にその作品も革命的思想に基づいたものが主になっていくが、彼のアトリエの片隅ある未完の作品に、彼の多くの天分と自然さが示されていた。それは、ギリシア神話の「妹のエレクトラに助けられて悩みの床に起き上がったオレステス」の描いたものだった。
オレステスの母は愛人と共謀して父を殺害した。成人したオレステスは、父の復讐は自分にとって神聖な義務であるとさとるが、母殺しにためらいを感じ、デルフォイの神殿で伺いをたてる。父の仇の2人を成敗せよとのアポロンの神託をえたため、見事に父アガメムノンの仇をうった。しかし女神たちに母殺しの罪を追及され、オレステスは半狂乱になって各地を流浪し、最後にはアポロンに命じられてアテネへむかい、裁判にかけられる。彼は母殺しをみとめるが、苦しみによって償いはすんだと訴え、それが認められた。
まるで、エヴァリストのその後の運命を暗示しているようだ。彼の処刑後、画材店でこの絵が見つけられるが、オレステスはエヴァリストとそっくりに描かれていた。しかし、生前の彼は、こういう作品を俗人どもの悪趣味であると、いい加減にあしらっていた。「彼はその種のつまらない作品にも天分の刻印を捺す術を知らなかった」
エヴァリストの恋人のエロディにとっては、恋愛もひとつの駆け引きのようなゲームであった。エロディの父と不仲であるエヴァリストとの結婚は実現しにくい。彼女は彼と秘密の関係だけを結んで、自然の創造者だけを誓約の証人に立てようかとも「悪びれずに」思いつめていた。
フランスは懐疑主義者と言われたが、彼にとっては、それは最高の賛辞だったようだ。彼の懐疑主義は情熱的で行動的であった。彼は、信じやすいということが美徳ではないと考えた。真の強さとは、なんら信ずべき理由のないものを疑ってみることにあるのではないかと。そして、「懐疑主義者」こそ「人間の中で一番の理想家」とみなした。彼は自然を抑圧するものを憎悪し、あくまでも人間と地上の生を愛したのである。
久しぶりに読んだが、昔ほどのインパクトはなかったな。プロットはよく出来ていて面白いけれども、一番抵抗を感じたのが、ブロトーに語らせすぎているところ。
最重要人物が語りすぎ…
でも、最後のシーンは切ない。
エロディの部屋の窓にはいつも真っ赤な石竹の鉢が置かれていた。それを目印にして、エヴァリストは彼女のもとを訪ねたものだった。最後には断頭台への護送馬車に身を置くことになっても、彼は最後まで大言壮語を忘れない自信家のままで通すが、エロディの部屋の下を通りかかったとき、突然彼のもとに真っ赤な石竹の花が投げられた。
彼は、その花を、触れ合うごとに自分に新鮮なエネルギーを吹き込んでくれた、あの香り高いエロディの唇のシンボルとして、影像として、愛しく思うのだった。その時、彼は幸福な思いで別離の思いに浸り、涙を流しながら、血に染まったギロチンの刃を見るのだった。
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