恋愛にも運、不運があるんだな…と、切実に思う。いや、
その友人は不器用というか、タイミングが悪いと言うか…。
その男Aは、並以上のフェイス。スナックなどに行くと、
「渡瀬恒彦に似てるなんて言われたことないですか?」と、
聞かれるほど男ぶりは良かった。でも、なぜかもてなかった。
今思うに、まじめすぎて会話がつまらん、少々金に細かい、
という面はあったが、それでも女のひとりやふたり、口説けば
何とかなったのではないかと傍目には見られていた。
彼にはトラウマ的な出来事があった。昔、ポニーテールの素敵な
彼女がいて、「将来は沖縄で民宿を経営して
毎日サーフィンでもして暮らそう」と、約束していたらしいが、
同じサーフィン仲間の先輩に寝とられてしまったのだ。
ポニーテール!ポニーテール!飲み会を開くと、必ず彼はその言葉を
口にした。それから10年余り、他の女性には目もくれなかった。
しかしある時、カウンターだけの小料理屋を経営する若い女将に惚れた。
「気になる女性がいる…」と、私達友人をさっそく店に連れて行ってくれた。
その女性は小柄で可愛いタイプだったが、飲み屋を経営するだけあって、
頑張り屋さんで、会話の中にも精神的な芯の強さが垣間見えた。
Aは言った。「彼女を口説いてみるよ。もちろん、手ごたえはある。
でも店の中では野暮ったいから、帰りに食事でも誘ってみる」と…。
おお、ついに、あいつはポニーテールを吹っ切れるか!と、われわれ
友人一同は喝采を送った。
それから約一ヶ月後のある深夜だった。いつものように飲んだくれていた
我々は、常連スナックのママさんを誘って帰りにもう一杯!と、
深夜営業の居酒屋を探していた。夜中の1時過ぎだったのでいろいろ
回った挙句、「この店は初めてやけど、前から気になっていた」と、
地下にある居酒屋に入って行った。
ドアを開けた瞬間、我々は目を疑った。目の前にAと小料理屋の
ママがいたのである。「嘘!」、大阪ミナミには何千もの飲み屋があるのに、
彼がママを誘い出し、口説くであろうその時間と、その場面に遭遇
したのである。確率で言えば何千分の1であろう。いや、日にち、
時間帯のこともあるから、何万、何十万かも知れない。彼のこのツキのなさに、
嫌な予感が走った。
二人は大胆にも中央の席に座っていた。我々はすでに店に入っており、
「いらっしゃいませ」と店員さんから席を案内されている。小声で、
「なるべく端の方を頼む」と言って、こそこそと移動したが、
小料理屋の彼女に見つかってしまった。
「いいところでお逢いました!私は朝早くから用事があるから、
一度はお断りしたのですが、Aさんがほんとしつこく誘われるので、
30分だけという条件でついて来たんです。この人をそちらの
飲み会で一緒にというわけにはいかないでしょうか?」、
彼女の言葉は氷のように冷たかった…。そして友人Aは「針のむしろ」だった。
それからの友人Aはいっそう女性不信になり、今は頭も薄くなって
いよいよ女性と縁遠くなっている。その小料理屋のママは店を閉め、
誰かと結婚して子供も3人いるそうだが、当時はまぎれもなく
独身だったと言うから、彼の悩みは深刻である。
なんで?いったい俺のどこが悪いんや!なんで皆の前で大恥を
かかないかんのや!今日も飲み会でAは咆哮する!
しかし、なんであいつは、いつもモテヘンのやろか?何か、
女性の勘にさわる琴線を持っているらしい。