MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

フレデリック・ワイズマン レトロスペクティブ

2011年11月07日 01時35分16秒 | 映画
アメリカのドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマンのレトロスペクティブ「フレデリック・ワイズマンのすべて」を鑑賞するため渋谷のユーロスペースに足を運ぶ。

今回のレトロスペクティブでは、処女作「チチカット・フォーリーズ」(1967)から、近作「ボクシング・ジム」(2010)に至る、日本初公開となる8作品を含む、現在上映可能な36作品を一挙に上映することになっている。
http://jc3.jp/wiseman2011/

普段なかなかお目にかかれないワイズマン作品を劇場スクリーンで観られる大変貴重な機会である。

私の今までのワイズマン体験といえば、現在かろうじてDVDで発売されている「BALLETアメリカンバレエシアターの世界」「コメディ・フランセーズ 演じられた愛」と数年前にお茶の水のアテネ・フランセで観た「チチカット・フォーリーズ」「多重障害」、それと2009年に劇場公開された「パリ・オペラ座のすべて」のみに限られている。

今回のレトロスペクティブにも出来る限り足を運ぼうと思っているのだが、さすがにウィークデイの渋谷を訪れている余裕はなく、かろうじて本日「少年裁判所」と「霊長類」を鑑賞することができた。

フレデリック・ワイズマンは1930年生まれ。同年生まれの監督には、ジャン=リュック・ゴダール、ジョン・カサヴェテス、クリント・イーストウッド、深作欣二らがいる。
イェール大学の法学部からソルボンヌ大学の法学部、ボストン大学のロースクールを経て弁護士となるも、67年に、犯罪を犯した精神病患者を収容するマサチューセッツ州立ブリッジウォーター矯正院の内部を記録した「チチカット・フォーリーズ」を監督したことを契機にドキュメンタリー監督へ転身した。
ちなみに、この作品は、病院職員らによる患者への“非人道的”ともいえる扱い方の描写が問題視され1991年までマサチューセッツ州では上映禁止となっていた。

ワイズマンの作品は、一般的に私たちが知っているドキュメンタリー映画と違い、字幕による状況説明やナレーションが一切入らない。
したがって観客は、映画の中で描かれている出来事を、恰もその場面に実際に居合わせた当事者の一人であるかのように、きわめてリアルに追体験することができる。

さて、本日鑑賞した「少年裁判所」「霊長類」。いずれも非常にインパクトの強い作品であった。

「少年裁判所」(1973)の舞台はテネシー州メンフィスにある少年犯罪を審理する裁判所である。廊下にズラッと並んだ犯罪を犯した少年少女らを順番に法廷内に導き入れ、さながらベルトコンベアのようにポンポンと判決を下してゆく裁判官たちの姿が印象深い。しかしなんといっても驚きなのは、法廷内の様子のみならず、別室で繰り広げられる裁判官、検事、弁護士らによる協議の場にまでカメラがしっかりと入り込んでその模様を克明に記録している点だ。日本の裁判所なら絶対にあり得ないと思うが、裁判所側もよくもまあここんな密室のやりとりまで取材させたものだと驚いてしまう。
たとえば、幼女に性的虐待を加えたとして裁判にかけられている少年の処遇について「実際に彼がやっていようがいまいが、何らかの矯正が必要であることに疑問の余地はない」とか「被害者の母親もどこまで本当のことを言っているかあやしいものだ。彼女の過去の言動についても調べた方がいい」などと言ったpolitically incorrectな発言が完全にオンレコで記録されているである。

一方「霊長類」(1974)も強烈な印象を残す作品だ。
アメリカの由緒ある「ヤーキーズ霊長類研究所」で行われているさまざまな実験の模様が、その研究の目的や意義がほとんど説明されないまま次々と映し出される。
ゴリラの肛門から電極を突っ込んで、どの程度の電流を流すとゴリラが射精するのかを、科学者たちが何人もあつまって「先生!すごいです!射精しました!XXヘルツです!この黄白色は精液に違いありません!」「そうか、それは新記録だな!」などと口ぐちに言い合ったり、脳内に電極を差し込んだ猿を、飛行機に乗せて「先生!目をしばしばさせています!こいつ緊張した表情をしてます!」などと真剣にやりあったりする科学者たちの姿を目の当たりにしていると「科学の進歩とは一体何なのだろう?」と改めて自問せずにはいられなくなることは請け合いである。

ちなみにこのレトロスペクティブ、僕の故郷、金沢でも公開予定らしい。
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