11月24日放送『相棒』(テレビ朝日)を観た。毎回観ている。日本のドラマで、現在放送している中では気に入っている。
昨日は「かわおとこ」と題した作品であった。子供が「川おとこ」を目撃したというところから、事件の真相に迫っていく。あらすじは割愛させてもらうが、ここでの記述でなんとなく捕まえることができるのではないかとも思う。
何が面白かったかというと、1つには現代社会の問題点が描かれていること。2つには民俗学的知識の理解の仕方が優れていたという点である。
1つ目に関しては、多くの大人の行動規範が保守的であることが描かれている。産業廃棄物の流出で河川へ有害物質を流している社長は、他社の責任のように振る舞い、問題が露呈しようとすると、調査をしないような方向へと社員を向かわせようとする。皆見て見ぬ振りを決め込もうとし、現状維持と保身が行動規範となっている。
心ある若手の社員は、独自に調査をするが、事故で死んでしまう。実際は社長によって、「ことをほじくり返す」のを非難され、争う中で殺されてしまったのである。若手社員の上司が、隠れて調査を行うが、その時一人の少女に目撃され、黒い「かわおとこ」だと思われる。この上司もまた「かわおとこ」の正体と知られるのを避け、調査をしていることを隠し続ける。これもまた保身なのである。
死んだ若手の社員は、保身でがんじがらめになる社会に殺されたのである。
少女には小さい弟がいたが、母親が居眠りしている間に川に流され重体である。母親は離婚して、子供を育てている。父親は養育費を払わない。そこで昼と夜と仕事を掛け持ちしている。そのため居眠りしてしまったのである。母親は痛切に責任を感じているが、世間は母親を非難さえする。そして少女もまた責任を感じていた。なぜなら、弟の面倒を見るのがイヤだったので、嘘をついてゲームをしていたからだ。そのため仕事で疲弊している母親が、弟と遊ぶために近くの川に行き、結果重体になったからである。
弟が重体になったのは、誰のせいか。母親?少女?上司(川で危険な状態にあるのは知っていた)?母親を非難する世間?離婚した父親?それともシングルマザーが生き難い社会のありよう?
僕は全ての人に責任があると思う。そのような社会の有り様が描かれていたと思う。
そして2つ目だが、「かわおとこ」はカッパみたいなもので伝説の生き物である。こういう妖怪は民俗学によく登場する存在である。現代人の我々なら、当然信じないであろうし、架空の存在と位置付けるだろう。
しかしながら、妖怪あるいは幽霊は大人が見失ったものを見せる存在である。大人は世間のしがらみの中で、大人の見方を作り上げ、それを常識とするが、そこには見失われたものがある。なぜ子供だけに見えるのかといえば、現実をまっすぐ見る眼をもっているからである。
少女は「かわおとこ」という形で、現実の大人たちが作り上げている常識の本当の姿を感じられるのである。大人の常識に隠されているものの想像的現象が妖怪や幽霊なのである。だからドラマの中に常識的な価値観—ここでは保身であるが—を対象化するのに「かわおとこ」が現れることが必要なのである。昔話に登場する不可解な存在には、そのような意義があるのだろう。
ドラマがエンターテイメントに終始せず、考える余白があるといいのだが、最近は減ってきたような気がする。僕は観ながら、森友問題で自殺した赤木さんを思い出していた。