――時間がない。彼女はいつも追(お)われていた。あたふたと焦(あせ)りまくって、気の休まる時がない。それにいつも空回(からまわ)りして、悪(わる)い方へと転(ころ)がっていく。これは、仕事(しごと)ばかりのことではなさそうだ。
こうなった一番の原因(げんいん)は、付き合っていた彼と別れたこと。何で振(ふ)られたのか、彼女自身(じしん)まったく納得(なっとく)していない。自分はこんなに彼のことを愛していたのに――。彼女はそのうっぷんを仕事にぶつけていたのかもしれない。自分はこんなに仕事ができて、振られるようなダメな女じゃないと。でも本当(ほんとう)のところは、彼がいなくなった心の寂(さび)しさを埋(う)めようとしていただけなのだ。
そんな時、誰かがポツリと呟(つぶや)いた。「もうやめちゃえば…」
誰が言ったのか分からない。彼女の空耳(そらみみ)なのかも…。でも、彼女には確(たし)かに聞こえたのだ。もうやめちゃえば…、って。彼女は全身(ぜんしん)の力が抜(ぬ)けてしまった。へなへなと座(すわ)り込み、勝手(かって)に涙(なみだ)があふれてきた。彼女は周りのことなど気にせずに、わんわんと泣(な)いた。
それからしばらくして、彼女は会社を辞(や)めた。三十過ぎての転職(てんしょく)は無謀(むぼう)なのかもしれない。でも、彼女は新しい生き方を捜(さが)し始めた。後悔(こうかい)はしていない。自分で決めたことだから。これからいろんなことに挑戦(ちょうせん)して、自分の道を切り開いてみせる。
<つぶやき>行き詰(づ)まったら、肩(かた)の力を抜きましょう。新しい考えが浮かんでくるかも。
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