彼はしたたかに生きていた。彼の行動範囲(こうどうはんい)はかなり広い。確(たし)かめた人はいないが、彼はいくつものねぐらを持っていた。そして、訪(おとず)れる家ごとに違(ちが)う名前(なまえ)で呼(よ)ばれている。
彼は、首輪(くびわ)をつけられることを良しとはしなかった。確固(かっこ)たる態度(たいど)で拒否(きょひ)し、受け入れることはない。彼は人間に媚(こ)びることもしなければ、愛想(あいそ)がいい方でもない。なのに、なぜか人間たちは彼を受け入れてしまう。
彼には威厳(いげん)があった。他の猫(ねこ)とはまったく違う。彼は自分の生き方を貫(つらぬ)いていた。そんな彼でも、時には人間に寄り添(そ)うこともある。でも、よけいなことはしゃべらない。ただじっとそばに座(すわ)っているだけ。人間にとっては、それだけで充分癒(い)やされているようだ。
彼はその日の気分(きぶん)で居場所(いばしょ)を変える。自由(じゆう)気ままに生きているように見えるのだが、猫の世界(せかい)にもいろいろなことがある。彼は争(あらそ)いを好(この)まない。どんな猫や犬(いぬ)にも寛容(かんよう)だ。だが、闘(たたか)いをしかけてくる相手(あいて)には全力(ぜんりょく)で立ち向かう。
彼は知っていた。いつか自分にも訪(おとず)れる老(お)いというものを。彼は散(ち)りぎわを心得(こころえ)ていた。その時が来れば、彼は静かに自分の場所を譲(ゆず)るだろう。そして、人間たちの前からを姿(すがた)を消(け)すのだ。彼は人間に看取(みと)られることを望(のぞ)まない。最後(さいご)まで、猫としての生き方を貫き通す。猫の中の猫なのだから。
<つぶやき>感情(かんじょう)を持っている生き物は、人間だけじゃないのかもしれません。猫にも…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます