みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1160「しずく147~別れ」

2021-11-20 17:36:39 | ブログ連載~しずく

「ハルは、アキの幻影(げんえい)なのよ」月島(つきしま)しずくがぽつりと言った。
 水木涼(みずきりょう)がしずくに詰(つ)め寄(よ)って、「どういうことだよ。幻影って…」
「私が初めてハルの心に入ったときね、気づいたの。この娘(こ)、違(ちが)うなって…。双子(ふたご)で産(う)まれてくる能力者(のうりょくしゃ)には、たまにあるみたいなの。能力(ちから)の一部(いちぶ)が人の形(かたち)になることが…」
 日野(ひの)あまりが驚(おどろ)いて、「そんなこと本当(ほんとう)にあるんですか? だって、普通(ふつう)の娘(こ)なのに…」
「そうね、どう見たって普通の娘(こ)よ。でもね、いつか戻(もど)らないといけないの。ハルには、それが分かってた。ハルは、アキを守(まも)るために存在(そんざい)してたのかもしれないわ」
 ――ハルは、アキの手を引き寄せると微笑(ほほえ)んで言った。
「ねぇ、覚(おぼ)えてる? ママのこと。あなた、いつも悪戯(いたずら)して怒(おこ)られてたわね」
「なによ…。小さい頃(ころ)の話しでしょ。それより、早く治療(ちりょう)しないと…」
「いいのよ、もう…。私の役目(やくめ)は終(お)わったわ。あとは、あなたに任(まか)せるわ」
「ちょっと、なに言ってるのよ。ハルまでいなくなるなんて、あたし…どうするのよ」
「心配(しんぱい)ないわよ。私は、アキの中にいる。ずっと一緒(いっしょ)よ。どこにも行かないわ」
 ハルは、アキの手を強(つよ)く握(にぎ)りしめた。そして、アキの中に何かが流(なが)れ込んでいく。それと同時(どうじ)に、ハルの身体(からだ)が薄(うす)れていき、ついに消(き)えてしまった。
<つぶやき>身近(みぢか)な人との別れは辛(つら)いものです。でも、心の中にちゃんと生きてますから。
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1159「美の追究」

2021-11-18 17:41:28 | ブログ短編

 彼女は寝(ね)る間(ま)も惜(お)しんで研究(けんきゅう)に没頭(ぼっとう)していた。必死(ひっし)になって、老化(ろうか)を止める方法(ほうほう)を探しているのだ。だが、何年たってもその成果(せいか)は上がらなかった。
 彼女がなぜこんな研究にのめり込んでしまったのか。それは、学生の頃(ころ)にさかのぼる。その頃付き合っていた彼から別れを告(つ)げられたのだ。それも一方的(いっぽうてき)に――。他に好(す)きな娘(こ)ができたから別れてくれと。まさかそんなことになるなんて、彼女は思ってもいなかった。
 後で聞いた話しだが、その彼と付き合い始めたのは、さほど奇麗(きれい)でもない普通(ふつう)の娘(こ)だった。何でこんな娘(こ)に負(ま)けてしまったのか。この憤(いきどお)りが、彼女を歪(ゆが)めてしまったようだ。
 ――毎日の不摂生(ふせっせい)が彼女を蝕(むしば)み始めていた。肉体的(にくたいてき)にも精神的(せいしんてき)にもボロボロになっている。そんな時、久しぶりに学生の頃の親友(しんゆう)に出会った。親友は彼女を見つめて言った。
「どうしちゃったの? どこか具合(ぐあい)でも悪(わる)いんじゃないの」
 彼女は見る影(かげ)もなくやつれていたのだ。そう思われても不思議(ふしぎ)じゃない。
 彼女は親友を見て、目を見開(みひら)いた。学生の頃のようにつやつやの肌(はだ)をしている。それに、前は野暮(やぼ)ったい感じだったのに、今は美しくなっている。彼女は思わず訊(き)いた。
「何で? あなた、何をしたの? どうしてこんなに綺麗になってるのよ」
 親友はちょっと驚(おどろ)いたが、「ああ、そうかな? 別に、何もしてないんだけど…」
「嘘(うそ)よ。何かしてるはずだわ。でなきゃ、こんなに…。教(おし)えて…。教えなさいよ!」
<つぶやき>今からでも間に合うわよ。生活習慣(せいかつしゅうかん)を変えましょ。そして、恋(こい)をするのよ。
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1158「勇者」

2021-11-16 17:43:02 | ブログ短編

 とある国で勇者(ゆうしゃ)の募集(ぼしゅう)が始まった。魔王(まおう)の復活(ふっかつ)によって危機(きき)が迫(せま)っていたのだ。だが、募集会場(かいじょう)には数人の男しか集(あつ)まらなかった。どれもこれも、勇者にはほど遠(とお)い者たちばかりだ。そこへ、女の子が通りかかった。彼女は募集の垂(た)れ幕(まく)を見てスタッフに訊(き)いた。
「勇者って、何をするんですか?」素朴(そぼく)な質問(しつもん)だ。
 スタッフの魔法使(まほうつか)いが答(こた)えた。「それはね、魔王やドラゴンたちと戦(たたか)うんだよ」
 女の子は、岩(いわ)に突(つ)き刺(さ)さっている剣(けん)を見つけて言った。
「わぁ、綺麗(きれい)だわ。これ、ちょっと触(さわ)ってもいいですか?」
 魔法使いは暇(ひま)を持て余(あま)していたので、「まあ、かまわないけど。でも、君(きみ)には…」
 女の子は剣の柄(つか)を握(にぎ)ると、いとも簡単(かんたん)に引き抜(ぬ)いてしまった。魔法使いは驚(おどろ)いて、
「何てこった! まさか、勇者の剣が君を選(えら)ぶなんて…」
 女の子は手にした剣を魔法使いに返(かえ)して、「あたしには、ちょっと重(おも)いわ」
「そ、そうだね。…君、勇者にならないかい? 君は選ばれし者なんだよ」
「あたし、家の手伝(てつだ)いをしなきゃいけないの。食べていかないといけないから」
「もし君が勇者をやってくれたら、国からたくさんお手当(てあ)てがもらえるよ」
「でも、家の手伝いをサボったら怒(おこ)られちゃうわ」
「いや、それは大丈夫(だいじょうぶ)だと思うよ。君の両親(りょうしん)には、僕(ぼく)から説明(せつめい)してもいいんだけど…」
<つぶやき>彼女は勇者になるのか? でも危険(きけん)なお仕事(しごと)ですから、両親は反対(はんたい)するかも。
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1157「神人」

2021-11-14 17:39:22 | ブログ短編

 そいつは、「人間(にんげん)は神(かみ)になる」と言ってのけた。周(まわ)りの連中(れんちゅう)は、また始まったとばかり野次(やじ)を飛(と)ばす。いつも破天荒(はてんこう)なことばかり口にするからだ。でも、そいつの主張(しゅちょう)は、あながち間違(まちが)っていない気もする。
 そいつは言った。「神は、誰(だれ)にも見えないだろ? 人間もいずれ消(き)えてなくなるはずだ。人間は身体(からだ)という器(うつわ)から飛び出して、精神(せいしん)だけの存在(そんざい)になるんだ」
 これが、そいつの言う神ということか? そいつは雄弁(ゆうべん)になっていく。
「人類(じんるい)の進化(しんか)は、機械文明(きかいぶんめい)の発達(はったつ)によって退化(たいか)へと向かうだろう。身体的(しんたいてき)退化だ。そして、人類は機械たちに支配(しはい)されていくのだ。人間たちがそれに気づいたときは、もう元(もと)に戻(もど)せない。人間は、機械なしでは生きていけなくなるからだ」
 これは極論(きょくろん)だ。誰もがそう思った。そいつの妄想(もうそう)は取りとめもなく拡大(かくだい)していく。
「我々(われわれ)の身体は機械に置(お)き換(か)わり、いずれ脳(のう)だけの存在(そんざい)になる。そうなれば、生物(せいぶつ)としての人間はこの地球上(ちきゅうじょう)から消えてなくなることになる。でも、心配(しんぱい)することはない。我々は機械の中に存在するからだ。そして、機械たちから神として崇(あが)められるだろう。機械たちを作り出した創造(そうぞう)の神となるのだ。これによって、人類は幸福(こうふく)を得(え)ることができるはずだ」
 まったく、そいつは自分(じぶん)の言葉(ことば)に酔(よ)っているんだ。人類の幸福とは何なんだ?
「いいか。それは、調和(ちょうわ)と静寂(せいじゃく)だ。人類は無(む)の状態(じょうたい)になることで幸福を感じるんだ」
<つぶやき>何のことなんだか? まったく理解(りかい)の範囲(はんい)から外(はず)れていると思いませんか?
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1156「コピー」

2021-11-12 17:37:26 | ブログ短編

 彼は、コピーだった。本当(ほんとう)の彼はどこへ行ったのか? もう、今となっては誰(だれ)にも分からない。誰も気にする人はいないようだ。
 ――コピーの彼は、まるで機械仕掛(きかいじか)けの人形(にんぎょう)のようだった。いつものことを、いつもの時間(じかん)に――。それはまるで、毎日(まいにち)をコピペしているようだった。だから、いつもと違(ちが)うことは苦手(にがて)みたい。というか、まったく役(やく)に立たなかった。周(まわ)りの人たちもそれを分かっていて、仕事(しごと)の割(わ)り振りをしているそうだ。
 そんな彼が恋(こい)をした。彼女と出会ってからというもの、彼はおかしくなってしまった。いつもの仕事が、いつものようにできなくなった。彼の中にとても大きな矛盾(むじゅん)が生(しょう)じてしまったのだ。何をしていても彼女の顔がちらついて、自分が今している仕事のことなどかき消(け)されてしまうのだ。でも周りの人たちは、そんな彼を暖(あたた)かく見守(みまも)ることにした。おかしくなった彼に人間味(にんげんみ)を感じたのかもしれない。
 さて、彼の恋の行方(ゆくえ)はどうなったのか? 職場(しょくば)の人たちは、彼の片思(かたおも)いで終(お)わるだろうと思っていた。ところがどういう訳(わけ)か、彼は彼女と付き合うことになったみたい。彼は、彼女と付き合うことで、コピペの毎日が変化(へんか)した。彼は少しずつだが、バージョンアップを始めたようだ。もう彼のことをコピーだと言う人はいなくなった。
 ――本当の彼はどうなったのかって? きっとどこかで羽(はね)を伸(の)ばしてるのかもね。でも、早く戻(もど)って来ないと、君(きみ)の居場所(いばしょ)はなくなってしまうかもよ。
<つぶやき>もし自分のコピーがいてくれたら…。そんなこと思ったことありませんか?
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