みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1368「影男」

2023-03-16 17:29:59 | ブログ短編

 とある学校(がっこう)に、まことしやかにささやかれている噂(うわさ)があった。それは、放課後(ほうかご)、校内(こうない)に一人でいると、どこからともなく影男(かげお)が現れるというものだ。姿(すがた)ははっきりしないが、まるで影のように忍(しの)び寄って来るらしい。いつ、誰(だれ)が言い始めて、どうして今もこんな噂がささやかれるのか? それは、今だに影男が現れているからだろう。噂では、影男は何をするでもなく、ただそばにいるだけのようだ。
 ――放課後、教室(きょうしつ)に女学生(じょがくせい)が一人でいた。時間(じかん)を忘(わす)れて読書(どくしょ)に夢中(むちゅう)になってしまったようだ。彼女は、背後(はいご)に何かの気配(けはい)を感じた。本から目を上げて周(まわ)りを見回(みまわ)すが、誰もいない。彼女は時計(とけい)を見た。もう、こんな時間だ。帰らなくては…。
 彼女は本を鞄(かばん)に放(ほう)り込むと席(せき)を立った。教室を出て廊下(ろうか)を歩く。でも、どういう訳(わけ)か下へ降りる階段(かいだん)にたどり着(つ)けない。いくら歩いても目の前には廊下が続いている。突然(とつぜん)、廊下がゆがみ始めた。彼女はふらついて倒(たお)れそうになる。
 その時だ。何かが彼女の身体(からだ)を支(ささ)えた。そして、耳元(みみもと)で声が聞こえた。
「こっちよ。あたしが逃(に)がしてあげる」
 それは女の子の声だ。でも、誰もいないはずなのに…。彼女は何かに手をつかまれ、ぐいぐいと引っ張(ぱ)られる。そして、眩(まぶ)しい閃光(せんこう)に包(つつ)まれた。彼女が目を開けると、そこは校門(こうもん)の前だった。いったい何が起きたのか? 彼女はこのことを誰にも話すことはなかった。
<つぶやき>影男は女の子か? この学校には得体(えたい)の知れないものが潜(ひそ)んでいるのかもね。
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1367「赤い糸」

2023-03-13 17:29:33 | ブログ短編

 さえ子は子供(こども)の頃(ころ)から<運命(うんめい)の赤い糸>が見えてしまう体質(たいしつ)だった。赤い糸でつながっている人たちは必(かなら)ず仲良(なかよ)しになれる。それに気づいたとき、さえ子は孤独(こどく)というものを知った。彼女には、赤い糸でつながっている人はひとりもいなかったのだ。
 さえ子も成人(せいじん)し、いろんな経験(けいけん)を積(つ)んだ。でも、相変(あいかわ)わらず誰(だれ)ともつながることはなかった。彼女は人間関係(にんげんかんけい)の煩(わずら)わしさから、転職(てんしょく)をすることにした。転職先で、彼女は同僚(どうりょう)の一人と親(した)しくなった。歳(とし)も近かったのですぐに打ち解(と)けたようだ。
 しかし、その同僚の彼女はちょっと癖(くせ)のある人だった。誰に対しても威圧的(いあつてき)なところがあって、他の社員(しゃいん)からも避(さ)けられているようだ。さえ子とは正反対(せいはんたい)の性格(せいかく)だった。どうしてこんな二人が仲良くなれたのか? それは、さえ子には見えていたのだ。その同僚の彼女には赤い糸が何本もつながっているのが…。そして、同僚の男性(だんせい)社員とも――。
 さえ子はそれとなく赤い糸の話を彼女にしてみた。すると彼女は、
「あたし、そんなの信(しん)じない。もしあったとしても、あたしだったらそんなの引きちぎってやるわ。運命はあたしが作るの。あたしの人生(じんせい)は、あたしのものなんだから」
 彼女らしい考えだとさえ子は思った。でも、運命を変えることなんて誰にもできない。それを何度もさえ子は見てきた。彼女には幸(しあわ)せになって欲(ほ)しい。いつもなら人に関(かか)わることから避(さ)けてきたが、今度ばかりはおせっかいをやいてみようかと思い始めた。
<つぶやき>どうしてさえ子には赤い糸がつながらないのか…。それは誰にも分からない。
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1366「映画三昧」

2023-03-10 17:28:25 | ブログ短編

 彼はどういう訳(わけ)か映画(えいが)の世界(せかい)に迷(まよ)い込んでしまった。いろんな映画のワンシーンに登場(とうじょう)してしまうのだ。でも、彼が演(えん)じるのは主役(しゅやく)でも脇役(わきやく)でもないエキストラだ。その他(た)大勢(おおぜい)の一人。ほとんどが引きの映像(えいぞう)なので、彼が目立(めだ)つことはまったくなかった。シーンが終われば、まったく違(ちが)う映画に飛(と)ばされてしまう。これはもうジェットコースターに乗ってるみたいに、めまぐるしく変化(へんか)していく。
 そんななか、彼は妄想(もうそう)した。「もし、主演女優(しゅえんじょゆう)と仲良(なかよ)くなったら…。映画の中で付き合うことはできるのか? これは試(ため)してみる価値(かち)はありそうだなぁ」
 そして、そのチャンスがやって来た。今度の映画の主演女優は彼が憧(あこが)れている人だった。彼女の出ている映画はすべて観(み)ているはずだが、このシーンは観た記憶(きおく)がない。もしかしたら新作(しんさく)なのかもしれない。彼は途中(とちゅう)から飛び込んだので、この映画のラストがどうなるのかまったく分からない。だからこそ、彼は主役を取ってやると意気込(いきご)んだ。
 このシーンの場面(ばめん)は何かのイベント会場(かいじょう)。屋外(おくがい)にテーブルや椅子(いす)が並(なら)んだ飲食(いんしょく)スペースのようだ。彼が座(す)っているところから二十メートルほど離(はな)れた場所に彼女は座っていた。彼と同じテーブルには女性のエキストラが座っていて、カップルということなのだろうがそんなの関係(かんけい)ない。彼は立ち上がると、彼女に向かって駆(か)け出した。途中で邪魔(じゃま)が入るかもしれないからだ。彼女のテーブルに着(つ)いたとき、彼女の姿(すがた)はそこにはなかった。
 彼は思わず叫(さけ)んだ。「しまった。このシーンは別撮(べつど)りだったんだ」
<つぶやき>この直後(ちょくご)、彼は別の映画に飛ばされたのは言うまでもない。彼は戻(もど)れるのか?
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1365「しずく188~弟」

2023-03-07 17:26:31 | ブログ連載~しずく

 水木涼(みずきりょう)は倒(たお)れている男の顔を見た。自分(じぶん)とそんなに変わらない。いや、自分より若(わか)いんじゃないのか、と涼は思った。アキが男の身体(からだ)を調(しら)べ始めた。足を捻挫(ねんざ)してるだけで、他には怪我(けが)はないようだ。アキはそばに立っている涼に言った。
「ねぇ、そんなとこに突(つ)っ立ってないで、どこかに何か隠(かく)してないか探(さが)してよ」
 涼は思わず、「ごめん。そ、そうだな…。分かった。探そう…」
 どっちが年上(としうえ)か分からなくなっている。涼が音楽室(おんがくしつ)を探し回っている間に、アキは男の治療(ちりょう)を始めた。涼がピアノの下から大きなリュックサックを見つけるのに時間はかからなかった。その時、音楽室に柊(ひいらぎ)あずみと神崎(かんざき)つくねが駆(か)け込んで来た。
 あずみは二人が無事(ぶじ)なのを見てホッとしたが、「もう、何してるのよ!」と思わず口から出てしまった。つくねが倒れている男の顔を見て呟(つぶや)いた。「貴志君(たかしくん)…? 何でここに…」
 あずみも覗(のぞ)き込み、「ほんとだ。こっちに来てるなんて知らなかったわ」
 アキが興味津々(きょうみしんしん)の様子(ようす)で訊(き)いた。「この人のこと、知ってるの?」
 つくねがそれに答(こた)えて、「ええ。しずくの弟(おとうと)よ。で、大丈夫(だいじょうぶ)なの? 貴志君…」
 アキは得意気(とくいげ)に、「もちろん。ちょっと気絶(きぜつ)させちゃったけど、問題(もんだい)ないわ」
 ――その頃(ころ)、川相初音(かわいはつね)と琴音(ことね)は烏山(からすやま)の近くに到着(とうちゃく)していた。しかし、登山道(とざんどう)には銃(じゅう)を持った見張(みは)りが立っていて、ここからどうするか考え込んでいるようだ。
<つぶやき>避難(ひなん)していたのに、どうして戻(もど)って来たのでしょう。姉(あね)と再会(さいかい)できるのか?
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1364「輪唱」

2023-03-04 17:35:30 | ブログ短編

 何となく付き合い始めた二人。それから二年。好きだとかそういう告白的(こくはくてき)なこともなく、今だに何となくが続(つづ)いているようだ。そろそろ先(さき)のことを考えないと…。二人とも分かってはいるのだが、何となくから抜(ぬ)け出せないでいた。
 ぎくしゃくしはじめた頃(ころ)…。彼がぽつりと呟(つぶや)いた。「合唱(がっしょう)でさぁ。輪唱(りんしょう)ってのがあるだろ。あれって、最初(さいしょ)に歌い始めたヤツが止(や)めない限(かぎ)り永遠(えいえん)に続くんだよなぁ」
 彼女は、何を言っているのか分からず、「えっ? 何が言いたいのよ」
「だからさ、合唱だよ。高校(こうこう)の文化祭(ぶんかさい)の出(だ)し物で、クラスで合唱をやることになったんだ。俺(おれ)は輪唱をやることになって。男子(だんし)だけで十人ぐらいいたかなぁ。真面目(まじめ)に練習(れんしゅう)してさ…」
「へぇ、あなたが合唱ねぇ。なんか、そういうイメージないわぁ」
「そうかなぁ…。で、本番(ほんばん)の時にさ、最初に歌い始めたヤツが何度(なんど)も繰(く)り返すんだよ。一緒(いっしょ)に歌ってたやつら、何とか止めさせようとしたんだけど…。そいつさぁ、楽(たの)しそうに歌ってんだよ。それ見てたら、こっちまで楽しくなっちゃって。結局(けっきょく)、持(も)ち時間、使い切ちゃって…。俺たちの後(あと)に歌うことになってた女子(じょし)たちからブーイングの嵐(あらし)だよ。もう、みんなで土下座(どげざ)して…。でもさぁ、いま考えてみると、あの時はほんとに…真剣(しんけん)に楽しんでたんだよなぁ。――でさぁ。俺たちのことも…そろそろ……」
「あ…、そう。分かったわ。じゃあ、別(わか)れましょ。あなたが、そうしたいなら…」
「えっ? そうじゃなくて…。ちゃんと気持(きも)ちを伝(つた)えたくて…。好(す)きです。愛(あい)してます!」
<つぶやき>気持ちは、思ってるだけでは伝わりませんから。ちゃんと口にしないとね。
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