夜半、枕元の明るさに目が覚めた。夜明けの色ではない銀の光をいぶかしく思い、カーテンを開けると、木立の間に月が冴え冴えと佇んでいる。こんなにも光り輝く月あかりを見たのは初めてだった。
温もりを携えない蒼く透きとおった光は、時に冷たく妖しいと疎んじられ、時に神秘的な美しさを称えられるが、射し込むのに何のためらいもない陽の光と違い、月の光はどこか恥ずかしげにみえる。
おずおずと戸惑いながら、銀の雫となって窓辺にゆらめき、心の奥深い襞にそっと触れる穏やかな静謐は、幸せに満ちた者より不運を嘆く者に優しい。
「私だって陽の光のご機嫌に翻弄されているのですよ。それに陽が何日も見えなければ皆大騒ぎするのに、私なぞ何日姿を見せなくても、誰も気にしたりなんかしません。でも、あながた私に気づいてくれたように、きっといつか誰かがあなたに気づいてくれますよ」
月下に音を奏で、詩や物語を綴った人々は、漆黒の夜をひそやかに漂う銀糸のヴェールと戯れながら、こんなささやきを月と交わし合ったのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、月が傾いたのか、窓辺の明るさが消え、うとうとしたと思ったら、月の憂いなど頓着しない朝陽に起こされた。
きょうも一日が始まり、私は月あかりを忘れるだろう。