去年の車旅の際、カーナビの案内で新潟の山中を、とんでもない道迷いをした。
以来、
高額なカーナビより、スマホの無料アプリの方が信頼出来る事が分かってきた。
そこで、赤口号にも、スマホホルダーを取り付ける事にした。
先ずは、アシストバーのビスキャップを外してと、
え、そのパンダは何だって?
カップホルダー代わりに家内が吊した、しがないペットボトル入れである。
物悲しげなパンダの瞳。
哀愁が漂う。
そう言えば・・・
このパンダに、たいそう驚いた婆ちゃんを乗せた事あったっけ。
少し長くなる。
あれはひと月ほど前の事。
日課の高良山から帰って、車を降りたところで、
「もしもし、道をお尋ねしますが。」
80年配の婆ちゃんから声をかけられた。
一番街という繁華街に行きたいと言う。
「えーとですね。あの突き当たりを左に折れて、信号から右に・・・、あのー、ここから随分ありますよ。歩けますか?」
1km以上はあると言うと、婆ちゃんは途方に暮れた様子。
聞けば、降りた駅も間違えたようで、既にここまで、3km近く歩いている。
このままほっぽり出したら、途中で倒れてしまいかねない。
「乗りなさい。送っちゃるけん。」
「いえいえ、それではあんまり。」
「よかですよ。車ならすぐやけん。」
助手席のドアを開け、車に乗る様促した。
「まあまあ、すんましぇん。本当は足と腰が痛くて痛くて。」
「では、行きますよ。あ、シートベルトば締めて。」
「有り難うござ、、、わ!!パンダ。なんで吊されとると?」
「あ、いや。それはその・・・」
道々、話をしていくうち、色んな事が分かってきた。
目指しているのは、婆ちゃんの姉の家と言う事。
携帯などは持っていない事。
なので、住所も電話番号も覚えていない事。
一番街の近くと言うのは、どうやら記憶違いらしい事。
「あら、違ってますか。それなら、駅から暫く歩いたとしか。」
「駅には南口と北口がありますよ。そこから、どのくらい歩きました?」
「さあー、それもさっぱり。」
手掛かりは西鉄久留米駅近くのマンションと言うだけ。
駅を中心にどのくらいの距離か、北か南か、更に言うなら、東も西も分からない。
雲を掴むような話になってきた。
西鉄駅を中心に、ぐるぐると回り、婆ちゃんの記憶の風景に出会うのを待つ。
「どうです?マンション名ぐらい思い出せませんか?」
「えーーーーっと・・・・・・、あ!確か〇〇マンションとかなんとか。」
「それだ!」
すぐに、スマホで検索してみた。
確かに南口から500m程の距離に、それに似た名前の建物があった。
思った通り、一番街とは丸っきり逆方向だ。
後は婆ちゃんが思い出したマンション名が、本当にお姉さんのマンションかどうか。
神に祈るしかない。
目標近くの交差点まで来ると、婆ちゃんは突然身を乗り出して、
「あ、そこの肉屋さんは憶えとります。ここ通った、通った。」
ようやく、目指すマンションを探り当てる事に成功した。
マンションの前に車を止め、
「ここでよかですか?大丈夫ですか?」
「ここに間違いなかです。あーよかった。何かお礼ばしたかバッテン。」
「よかよか。そんな事より、お姉さん、えらい待っとられますよ。」
「本当に有り難うございました。パンダちゃん 、バイバイ。」
やれやれである。
帰宅して、
「てな事があってな。」
「その人、認知症じゃなかね。何で部屋まで一緒に行ってやらんとね!!」
何故か、いたく怒られてしまった。
そんな事を、このパンダを見てると思い出されてくる。
てな話である。
取り付け完了。
そう言えば、マンションを発見出来たのも、スマホアプリじゃないと無理だったよな。
婆ちゃん、達者かなあ。