近日息子
落語に出てくる若旦那とくれば、道楽者か
ちょっとピントのずれた男かのどちらか。
この話の大家の息子も相当ボーッとしている。
なにしろ、芝居好きの父親に初日がいつか見てこいと言われ、
「近日開演」と書いてあるのを明日だと勘違いしてしまうぐらい。
弁当までこしらえて芝居見物に出かけた父親は
「近日開演の意味もわからないのか」と怒るのなんの、
「他人に言われるより先に物事をやるような頭のいいやつになれないのか」
と怒鳴りちらした。 すると、息子はプイと外へ出かけ、ほどなく
医者を連れて帰ってきた。事情のわからない大家が医者に尋ねると、
息子が父の様子が急に変わったと飛びこんできたのだという。
大家は息子のボケになれっこだが、事情を知らない医者は大家の脈をとり、
変わりはないので首をかしげた。
それを見ていた息子がまた外へ。帰ってくると葬儀屋やお寺の手配をしてきたという。
医者が首をひねったものだから、父親がいよいよあぶないと思い、
言われる前に行動に出たというわけだ。
一方、長屋では一同が集まって話し合いの最中。
大家の息子が葬儀の手配をしているので、てっきり大家が死んだのだと思い、
どうやって悔みにいこうかという相談だ。
何人か集まると、たいてい調子のいいでしゃばりがいるもので、「悔みならまかせてくれ」
という男が自信たっぷりに名乗りでた。それならお前が代表でと、悔やみ自慢の男を
先頭に大家の家へいき、男がおもむろに戸を開けると、なんと目の前で大家がタバコを
ふかしている。「こんちわ。あっ、さよなら」 大あわてで戸を閉めて逃げだした。
長屋に帰って相談のやり直し。みんなは大家の姿を見ていないから、タバコをふかして
いたのは大家によく似た親戚だろうと言いだす男がいて、今度はその男が悔やみを
言うことになった。 またまた大家の家へ。戸を開けるとまた大家がいる。
「このたびは・・・・・。あっ、さよなら」
逃げようとするのを大家が引き止め、事情を聞くと、家の前に忌中の札が出ているという。
カンカンに怒った父親が息子に、「馬鹿野郎。忌中の札まで出てるっていうじゃないか」
「長屋の人もあんまり利口じゃねえな」
「なんでだ」
「よく見ろ。そばに近日と書いてあらあ」
立川志の輔 古典落語100席
落語は楽しいから楽語とも呼ばれる。嘘です。すもーわん。(*’_’)
そら・あかね。