介護というには大袈裟ですが。

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寒くなると思い出だす あの人 (12)

2023-02-05 08:37:50 | 日記
浅草でのツネ師匠との最後の週末デートは、ああでもないこうでもないと、その後2時間位他愛のない話しをして終わった。
店を出たのは、まだ夜8時前くらいだったか、空は真っ暗であり、風は少しヒンヤリとしていた。
『どうします、もう一軒行きますか?』
私が彼に尋ねた。
『いや、少し疲れたから、解散しょう。』
『そうですか、わかりました。』
『今までありがとうな、これで吉原でも行けよ。』
そう言うと私にすっと一万円札を3枚手渡した。
『えっ、そんな、いいですよ。』
私が慌てて拒否すると、彼は少し怖い顔になり、『いいから、出したものは引っ込めないよ、受け取れ、お前不自由しているだろ。とっとけ。』
と半ば強引に私のポケットに一万円3枚をねじ込んだ。
そして私に彼は少し寂しそうに言った。
『あと1週間あるが、今まで楽しかった、ありがとうな。お前頑張れよ。』
『はい、ありがとうございます。』
彼は私の手をギュッと強く握ると、
『じゃな。』
と私と別れ浅草の街に消えていった。
その後ろ姿が妙に寂しくて、何かツネ師匠が遠くに行ってしまう感じがした。
『来週からも宜しくお願い致します。』
私が彼に言うと、彼は半分振り返り笑顔で手を振った。
彼と別れ、彼から貰った3万を持ち、吉原ではないが、鶯谷近辺の繁華街に行き、その日のうちに使い切った。