20XX年・クエスチャン (-6-)
あれだけの人が犠牲になった後だ。学者生命に拘ってくるのにどうする積もりだ。都内NHI放送局、控え室。
神宮寺勝彦は番組を降ろされていた。助手の松永隆司と膝を交えている。
「教授、あれはまずかったですよ。教授は佐伯の論文を肯定するんですか」。
「君だって今になれば肯定せざるを得んと違うかね。
もう既に他の会員の殆どは三年半前の佐伯君の論文は正しかったと肯定的だ。この論文を読んで見たまえ」。
神宮寺は机のカバンを持つ。カチンッと金属音を鳴らしながら茶封筒を出す。
バサッと松永の前に置いた。松永は驚いた様に神宮寺を見上げた。
「・・・君もそう思ってるのと違うか・・・」。
神宮寺はうろたえ、うろうろと歩き回り、いつになくいらついている。
「教授、そんなうろたえる教授を見るのは始めてです」。
「私は何もうろたえてる訳ではない、いまこの時期を逃したらいつ発表する。
正直迷った事は確かだ。私だって鬼でも蛇でもない、君はあの惨状を見てどう思ったのかね・・・君は知らないだろうが、去年の11月の末頃から異様な状況は顕著に現れていたんだ。モンゴルの上空1万メートルに異様な磁場帯が現れては消え、消えては現れると言う現象がね」。
「エ~ッ!・・・ではこうなる事はご存じだったんですか」。松永は目を見開き、神宮寺を見詰めていた
「いや、こうなったのは全くの偶然だ。観測者も私達も一時的な現象だろうと言うのが殆どだった。12月末まで一度も異変は観測されなかったからね。
佐伯君の論文の7ページを開き賜え。全く同じ事が書かれて居る。
地軸が西に18度傾き、その事に因って貿易風の位置が変わり、大きく南にずれた時、偏西風も同時に下がる。勿論深層水の流れも変わる。
今まで地球上空に散らばって居た汚染物質が一点に集まる。そこが、唯一汚染されていないモンゴル上空だ。
そのチリが強い偏西風によって掻き乱され、分子と分子がぶつかり合って次第に磁気を持つ様になる。
それにはもう一つの要因と偶然が重なった。それはイタリアのエトナ火山の大噴火だ。噴煙には様々な鉱物の粒子が含まれている。その事も佐伯君は触れてる。勿論、君も知ってるように噴煙の中でも放電現象が起こる。
航空機のパイロットが雷雲に入った時に遭遇するという天使の光だ。それは雷雲で発生する放電現象だ。それと同じ事が噴煙の中でも発生する。
+極は-極を呼び、-極は+極を呼び、次第に巨大な磁場層を形成する。
そして、次第に宇宙から飛び来る様々な電波をも一点に吸収する様になる。
そして、紫外線や赤外線や様々な粒子を帯びた磁場層は化学変化を起こして強大なエネルギーを生み出す。自然界でだ、それも大気中で炉心を形成した一種の核融合だ。
これは大気汚染や環境汚染など様々な要因と、その時の気象状況から弾き出した素晴らしい結論だ。佐伯君はいまどうしてるのか君知ってるかね」。
「いえ、あの日以来研究室に私物を残したままそれっきりですから。でも佐伯らしいです。研究したデーターは全て持っていきましたから。今頃何処かでさっきの番組を観て笑ってるんでしょうね。それ見た事かって」。
「君はそんな風にしか考えられんのかね、私はそうは思わない。彼ならきっと連絡してきますよ。私でなくても誰かにね・・・そうだ、きっと早瀬女史になら。二人は付き合っていたんだったね」。
その後、数日で異常気候は各国に天文学的な被害を残し、跡形も無く消滅した。
国連は気象の専門化を中心に調査団を編成し、各国へ送った。我が国も数百人規模の調査団を送り出した。
被害国の国の川は全て枯れ果て、大地は荒廃し、残された家畜や逃げ遅れた野生動物の干涸びた骸が乾いた河川に累々とあるばかりであった。
或る都市に点在する家屋に来ると、何処からともなく燻製の様な匂いに誘われて一人の調査員が一軒の家に入った。
「どなたかいらっしゃいますか・・・いたら返事して下さい。調査隊です。誰か居ませんか」。返事は無く、その呼ぶ声に他の隊員が入って来た。
「斉藤さん、誰か生存者が居るんですかね。凄くいい匂いです。誰か燻製でも作ってるんじゃないですか。その家からですね」。
二人は声を掛けながら一軒の家にはいった。
匂いの元を探しながら廊下を行くと、半開きになったドアからだ。そのドアを開けた。それは地下室へと続く入り口だった。
NO-6-12
あれだけの人が犠牲になった後だ。学者生命に拘ってくるのにどうする積もりだ。都内NHI放送局、控え室。
神宮寺勝彦は番組を降ろされていた。助手の松永隆司と膝を交えている。
「教授、あれはまずかったですよ。教授は佐伯の論文を肯定するんですか」。
「君だって今になれば肯定せざるを得んと違うかね。
もう既に他の会員の殆どは三年半前の佐伯君の論文は正しかったと肯定的だ。この論文を読んで見たまえ」。
神宮寺は机のカバンを持つ。カチンッと金属音を鳴らしながら茶封筒を出す。
バサッと松永の前に置いた。松永は驚いた様に神宮寺を見上げた。
「・・・君もそう思ってるのと違うか・・・」。
神宮寺はうろたえ、うろうろと歩き回り、いつになくいらついている。
「教授、そんなうろたえる教授を見るのは始めてです」。
「私は何もうろたえてる訳ではない、いまこの時期を逃したらいつ発表する。
正直迷った事は確かだ。私だって鬼でも蛇でもない、君はあの惨状を見てどう思ったのかね・・・君は知らないだろうが、去年の11月の末頃から異様な状況は顕著に現れていたんだ。モンゴルの上空1万メートルに異様な磁場帯が現れては消え、消えては現れると言う現象がね」。
「エ~ッ!・・・ではこうなる事はご存じだったんですか」。松永は目を見開き、神宮寺を見詰めていた
「いや、こうなったのは全くの偶然だ。観測者も私達も一時的な現象だろうと言うのが殆どだった。12月末まで一度も異変は観測されなかったからね。
佐伯君の論文の7ページを開き賜え。全く同じ事が書かれて居る。
地軸が西に18度傾き、その事に因って貿易風の位置が変わり、大きく南にずれた時、偏西風も同時に下がる。勿論深層水の流れも変わる。
今まで地球上空に散らばって居た汚染物質が一点に集まる。そこが、唯一汚染されていないモンゴル上空だ。
そのチリが強い偏西風によって掻き乱され、分子と分子がぶつかり合って次第に磁気を持つ様になる。
それにはもう一つの要因と偶然が重なった。それはイタリアのエトナ火山の大噴火だ。噴煙には様々な鉱物の粒子が含まれている。その事も佐伯君は触れてる。勿論、君も知ってるように噴煙の中でも放電現象が起こる。
航空機のパイロットが雷雲に入った時に遭遇するという天使の光だ。それは雷雲で発生する放電現象だ。それと同じ事が噴煙の中でも発生する。
+極は-極を呼び、-極は+極を呼び、次第に巨大な磁場層を形成する。
そして、次第に宇宙から飛び来る様々な電波をも一点に吸収する様になる。
そして、紫外線や赤外線や様々な粒子を帯びた磁場層は化学変化を起こして強大なエネルギーを生み出す。自然界でだ、それも大気中で炉心を形成した一種の核融合だ。
これは大気汚染や環境汚染など様々な要因と、その時の気象状況から弾き出した素晴らしい結論だ。佐伯君はいまどうしてるのか君知ってるかね」。
「いえ、あの日以来研究室に私物を残したままそれっきりですから。でも佐伯らしいです。研究したデーターは全て持っていきましたから。今頃何処かでさっきの番組を観て笑ってるんでしょうね。それ見た事かって」。
「君はそんな風にしか考えられんのかね、私はそうは思わない。彼ならきっと連絡してきますよ。私でなくても誰かにね・・・そうだ、きっと早瀬女史になら。二人は付き合っていたんだったね」。
その後、数日で異常気候は各国に天文学的な被害を残し、跡形も無く消滅した。
国連は気象の専門化を中心に調査団を編成し、各国へ送った。我が国も数百人規模の調査団を送り出した。
被害国の国の川は全て枯れ果て、大地は荒廃し、残された家畜や逃げ遅れた野生動物の干涸びた骸が乾いた河川に累々とあるばかりであった。
或る都市に点在する家屋に来ると、何処からともなく燻製の様な匂いに誘われて一人の調査員が一軒の家に入った。
「どなたかいらっしゃいますか・・・いたら返事して下さい。調査隊です。誰か居ませんか」。返事は無く、その呼ぶ声に他の隊員が入って来た。
「斉藤さん、誰か生存者が居るんですかね。凄くいい匂いです。誰か燻製でも作ってるんじゃないですか。その家からですね」。
二人は声を掛けながら一軒の家にはいった。
匂いの元を探しながら廊下を行くと、半開きになったドアからだ。そのドアを開けた。それは地下室へと続く入り口だった。
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