エンターテイメント、誰でも一度は憧れる。

PCグラフィック、写真合成、小説の下書き。

サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(11)&CG

2008-06-07 03:46:16 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(11)&CG

「アッハハハ・・・いい加減にしろ。ではまた聞くが、防犯ビデオの映像はどう説明するんだ?・・・新しいビデオにどうやって藤井綾子の姿を映したんだ。
まさか、ユリ・ゲラーみないな超能力だなんて言うなよ」と鈴木課長は笑いながら見ていた。皆も呆れた様に口元は笑っていた。
「説明は出来ませんが、一種のマインドコントールじゃないですかね。記憶を埋め込んだとか」
「いい加減にしろ、仮にそうだとして映像までは無理だ。科研に映像を調べて貰ったら、加工はされていなかった。その件は無い。では解散」。
刑事達は笑いながら二人一組のチームで出て行った。
「警部、行きましょう。あんな事を言うから笑われるんですよ」村井はニヤニヤしながら怪訝そうな佐藤を連れて捜査に向かった。

その後、何ら進展の無いまま捜査は行き詰まっていた。
そして三ヶ月、半年が過ぎて捜査本部も縮小して佐藤警部と村井刑事、望月刑事のチームの四人が捜査を続けていた。

第二章・・・そして五月・・・

影山綾乃は信州は上田出身の26才、都内のY大を卒業し、JPインシュアラ
ンスと言う大手保険会社に務めて4年。
顔立ちも良く容姿明瞭素行良し、浮いた噂など何所を探しても見当たらない。一言で言えば良い女だった。
会社の中では言い寄る男子社員は何人か居たが、綾乃には気にいった男性はなく、事毎く断り、そんな彼女をお高い女と言う者もいた。
しかし、そんな事は決してなく、少し付き合いが悪いという程度だった。
その日、もいつもの様に会社に出た。そして昼食を済ませた午後、綾乃のデスクに課長の門間享介から電話が入った。
「デスクの上にあるA4の封筒をPホテルの3302号室へ届けてくれないか」綾乃は課長のデスクを見た、するとデスクの真ん中に置かれていた。
あんなに目立つのに忘れるなんて、変な人。と思いながら。
「はい、すぐにお届けします」。綾乃は受話器を戻し、課長のデスクに行くと封筒を小わきに抱え、同僚に訳を話して会社を出た。
そしてタクシーを拾うと都内のPホテルに向かった。

課長が会っているクライアントって誰だろう、そんな思いを抱きながら15分程でタクシーはPホテルのロビーに停まった。
綾乃は会社のタクシーチケットを出した。運転手は料金を明記すると綾乃のサインを求めた。「いつも面倒で済みませんね」。と綾乃はサインして渡した。
「どうも、いつも有り難うございます。影山さん、そろそろ結婚は」。
馴染みの運転手の望月明男は冷やかす様に笑っていた。
「もうっおじさんったら、そんな相手もいないのに無理ですよ~だ」。
綾乃は笑いながら車を降りると小走りにホテルに入って行った。
そしてエレベーターを見ると大勢の客が待っていた。
あれじゃ乗れないわね、と綾乃は階段に歩いた。そして赤いジュータンの敷かれた階段を上がって3302号室の前に立った。
「コンッコンッノックした「JPインシュアランスの影山でございます。お届け物をお持ち致しました」。綾乃は一歩下がって待った。
「どうぞ、ドアは開いています」。えっ!!!・・・声が違う。
綾乃は返事の声が課長の声と違う事に戸惑った。すると、ドアが開いた。
そこに顔を出したのは、数カ月前、綾乃にしつこく言い寄っていた近藤建設の御曹司の貴雄だった。
えっ!どうしてこの男がいるの。綾乃は数歩後づさった。
「どうも。君が来てくれるとは驚きました。やだな、僕はお客ですよ。例の事はもう忘れて下さい。中に課長さんも居ますから、どうぞ」。
近藤はドアを一杯に開けて中を見せた。綾乃はホッとした表情を見せると近藤の後に続いて部屋に入った。

サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(10)&CG

2008-06-06 03:08:06 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(10)&CG

「九時頃に薬の売人が早乙女弁護士を恐喝して、麻薬取締官に恐喝の現行犯で捕まりました」
「なんで売人が弁護士を脅したんだ?・・・変だろう?・・」
「それがですね、警部も行ったんでしょう」
「行くには行ったが話しは聞いていない」
「大井とか言う男ですが、木村の友達とかで、大井も当日野球を観ていたらしいんです、藤井さんがドームに居た事は知っているけど、彼女は事件が起きた時間にアパートに居たと警察に言うと脅して金をせびった様です」。
「アッハハハ・・・馬鹿な奴だ・・・その大井を調べるか、そう言えば、事件当日、男がアパートの周辺に居たと聞き込みがあっただろう。大井じゃないのか」
「ああ、そう言えば男が一人うろついていたとありましたかえど。大井ですかね」
「それを調べるんだ・・・帰るか、ってお前は泊まりか?・・・」
「ええ、どうぞお帰り下さい。前島さんと泊まりですから」
「分かった、前島、じゃあな」。と佐藤は村井刑事の肩をポンと叩くと出て行った。
「村井、お前は藤井綾子が本星だと思っているのか?・・・」
「このビデオを視るまでは決まりだと信じていましたけど、アリバイが犯人では無いと言っていますから・・・」
「まるで狐につままれた感じだな。その大井とか言う男は?・・・」
「ケチな売人だそうです、麻薬取締官に同期が居まして訊いたんですけど。大井は子供の頃から万引きやら無銭飲食で補導されて少年院を行ったり来たりだったそうです。それでも刑務所へは一度も入っていません。
元々気の弱い男で、未だに独身で殺しが出来るとは思えないと話していました」。
「そうか、ま、人間なんて分からないからな。あの人が・・・そんな人間が重大な犯罪を起こす時代だからな。どこをどう捜査すれば良いのか?・・・」と前島刑事は呆れた様にカップラーメンの封を開けていた。
「お前も食うか?・・・うどんだけど」と新しいカップ麺を差し出した。
「はい、頂きます」と貰うと村井はお茶の支度を始めた。

翌朝、刑事部屋では捜査会議が始まった。
「では捜査会議を始める、佐藤のチームは大井幸次を当たってくれ。事件当日アパート周辺で目撃された男かどうか当たってくれ。
前島のチームはもう一度、藤井綾子さんのアリバイを証言した人間に会って、再度証言の裏づけ。望月のチームは静岡へ行ってくれ、南弁護士の過去を洗って来い」
「課長、南弁護士の過去ってどう言う事ですか?・・・」
「彼女の父親も弁護士だったそうだ。夕べ帰ったら静岡県警に同期がいてな、小林と言う警視だが、彼から不思議な事を聞いた。
今回の事件を聞いて電話してきた。彼女の父親は早乙女大吾と言って判事だったうだ。それが10年前に弁護士に代わったそうだ。
その理由が、十年前に離婚した夫を殺しで逮捕された事案の裁判を済ませてから、突然判事を辞めたそうだ。
内容を聞くと、本件と全く同じ事件でな、仕方なく有罪の捌きを言い渡したそうだ。執行猶予付きだったそうだが。

そこからが不思議な話でな、翌年にまた同じような殺人事件が起こった。仕事もしないで酒と女、ギャンブル好きな旦那が子供の預金に手を付けた。
女房が怒って嗜めたら、殴る蹴るの暴力をした。その様子を見ていた娘が台所から包丁を持ち出して父親を刺し殺した。
警察はそう睨んで捜査を始めた。そかし、女房も娘も知らないの一点張りで黙秘を続けた。
凶器には母親と娘の諮問がベッタリ、そこへ早乙女弁護士が着いた。
今回と同様に、親子にはアリバイがあり、無罪で釈放だ。未だに犯人は挙がっていない。何かあると思わないか?・・・」
「課長はどう考えているんです、その小林警視は?・・・」佐藤は身を乗り出した。
「どうもこうもない、気になる事があれば調べる。それだけだ。佐藤は?・・・」
「サイキックなんてどうですか?・・・」その言葉に刑事たちは笑い出した。
「警部の口からサイキックの言葉が出るとは思いませんでした。じゃあ早乙女親子はそのサイキックでアリバイを作り出したというんですか?・・・」
「笑いたい奴は笑え、よく考えてみろ。当日、綾子は一人で部屋に居た事は確かなんだぞ。そこへ木村が来た。木村には不運だが、その時間には綾子以外にアパートには居なかった。何が起こっても綾子の自供が無ければ容疑者に過ぎない。
状況証拠だけで犯人と決め付けて送検した事には反省している。
そこへあの南弁護士だ。課長の話を聞いて、父親も同じ能力があったんじゃないのか。だから確定犯のアリバイを作り出せた」
NO-10


サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(9)&CG

2008-06-06 01:36:46 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・続・NO-(9)&CG

継続・・・1
課長の鈴木は顔を真っ赤にして村井刑事を見ると、みんなの顔を一望した。
「いいか、皆よく聞け、木村は殺されたんだ。佐藤警部は女房だと決め付けて捜査を進めたからこんな結果になった。信じて任せた私にも責任はあるがな。
検事はその為に地方へ飛ばされた。村井、佐藤を呼んで来い。辞表は私の所で止めてある。辞めるなら犯人を挙げてからにしろって」。
「分かりました、行ってきます」。と村井は歩き出した。そして止まった。
「課長、藤井綾子が巡回中の巡査に職質された時に着ていた服に付いていた血は木村の血です。それはどう説明が付くんですか?・・・」と思い出した様に効いた。
鈴木課長も他の刑事も、「そうですよ、説明が付きません」と口々に言いながらデスクを離れて集まってきた。
「それだ!・・・」と怪訝そうに皆の顔を見ていた。「これは仮説だが、本星がだ、綾子の野球観戦から出て来るのを待って、電車で店へ行く途中に付けたんじゃないのか。電車の中はナイター帰りの客で満員だった。
少しくらい着けられても分からないだろうからな。それに、一緒だった南薬局さんも早乙女弁護士の母親も、胸元に付いていた血痕に気が付かない筈が無いだろう。
綾子は野球観戦の後に、誰かに付けられたって事だろうな」
「ああ、そう言う事ですか?・・・では警部を呼んで来ます」と出て行った。
「課長、でも誰がそんな事までして綾子に殺人を擦り付けようとしたんでしょうか。聞き込みでも綾子に同情する人間は大勢いましたが、恨んでいる人間なんか一人も居ませんでした」。宮入刑事の言葉に他の刑事も頷いていた。
「その事は私も聞いている、だが、それを調べるのが我々の仕事だ。木村は多方面で恨みを買っていた男だ。それを洗え」と鈴木はデスクに座って書類を手にした。
そして、思い出した様に壁の時計に視線を移した。22時を回っていた。そして部下を見ていた。
「今日はもう帰れ、明日から一から捜査のやり直しだ」。
「分かりました、では失礼します」と刑事たちはデスクを片付けると帰って行った。

そして三十分、村井が佐藤を連れて戻った。
佐藤は申し訳なさそうに鈴木の前に来た。
「課長、申し訳ありませんでした」
「うん、ともかく辞表は返す」とデスクの引き出しを開けると封筒をだして差し出した「良いか、君の思い込みで検事は飛ばされたんだ。その汚名を晴らしてやれ。その後、続けるも辞めるも自由にしろ」
「はい、申し訳ありませんでした。それで、捜査は?・・・」
「うん、藤井綾子は話したように五時五十五分にはドームに居た。防犯カメラにハッキリ映っていた。野球が終わった時間にも三人でドームを出る姿もあった。
彼女は白だ」佐藤警部はそれでも浮かない顔をしていた。
課長はデスクの引き出しから警察官バッジと手錠を出し「これ」と渡した。
「有難う御座います。しかし参りました、あの早乙女という弁護士にはやられました。我々の先を越しているんですから。課長、可笑しいと思いませんか」
「何も可笑しくなんかないさ。容疑者は、だった藤井さんは弁護士には何も可も話していた。それだけの事だろう。それとも何か?・・・弁護士が証拠を作り出したとでも言うのか」。と呆れた様に佐藤警部を見ていた。
「・・・」佐藤は浮かない目をしてじいっと見ていた。
「納得が行かないようだな。確かに状況は藤井綾子さんが本星だと言っている。
彼女のアリバイを証言した早乙女弁護士の母親、南薬局の証言は口裏を合わせたとしよう。ゲートと売店、それから春日駅の駅員も口裏を合わせているとしよう。
では訊くが、防犯カメラに映っている藤井綾子さんはどう説明するんだ。
防犯カメラの映像も最初から準備して、これは計画殺人だとでも言う積もりか」。
佐藤はそれでも尚、解せんが行かない素振りで黙っていた。
「警部、防犯カメラのビデオは警備会社から借りて来た物で、当日、新しいビデオの封を開けてセットした物で、早乙女弁護士とも藤井さんとも全く接点はありません。課長の言う通りです」と村井刑事はデスクに行くとビデオテープを持ってきて見せた。佐藤はそれを持って見ていた。
「いい加減にしろ、彼女は無罪で釈放されたんだ・・・」鈴木の目が険しくなった。
「課長、一事不再理を狙った弁護士の策略に我々は・・・」
「まだそんな事を言っているのか。裁判官もこの映像を視ているんだ。それで無罪を言い渡した。藤井綾子の線は忘れろ、いいな!」と荷物を持って帰った。
村井、早乙女弁護士が扱った事件の調書を探してきてくれ」
「課長に言われてもう調べました。今回の様な殺人事件を扱った弁護はありませんでした。今回が初めてです」
「そうか、俺の思い過ごしか。何か引っ掛かるんだ。じゃあ明日から真犯人を探すか。それで、何か変わった事は?・・・」
NO-9

サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(8)&CG

2008-06-03 02:52:46 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(8)&CG

「なにかっこ着けているのよ。でも良い所あるじゃない。来てくれていたんだ」。

その頃、本富士署捜査本部では。

捜査員たちは納得がゆかず、帰らずにデカ部屋に集まっていた。
本件事件が発生した六月六日、午後六時半から七時。藤井綾子が観戦していたと言うナイター東京ドーム正面玄関に設置されている防犯カメラを取り寄せ、観ている。
「居たッ!・・・巻き戻せ」若い村井刑事はプレイバックさせる。
全捜査員は身を乗り出す。デカ長が指差す一点に集中する。
「やっぱり藤井綾子は犯人じゃなかのか。ドームに入ったのは午後五時五十五分。これじゃ疑う余地はないな。
この時間からアパートに戻って犯行を行って、ゲームの開始に間に合う筈が無い。藤井綾子は白だ。捜査は一からやり直しだ」。報告書を机に叩き付ける。
村井 「デカ長。じゃあ犯人はだれなんですか」。
デカ長「馬鹿者。そんなの分かるかッ!・・・」。


・・・・完



サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(7)&CG

2008-06-03 02:49:43 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(7)&CG

「佐藤、お前どうして黙っていたんだ。規約違反だぞ・・・まあ早く分かったから良い様なもんだがな」。
佐藤刑事は黙ったまま頭を下げるしかなかった。
その日の夕方、藤井綾子は釈放された。玄関には娘の敦子と綾子の姉の二人が迎えに来て居た。早乙女は細かい事は言わず「良かったわね」。そう言うと帰宅した。
本郷の自宅。南は食事を済ませ、テレビを観て居る。電話が鳴り、母が出る。
「南ッ!、電話よ。・・・」
「だあれッ!」
「知らないわよ、訊いても言わないもの。男の人」。南は心当たりが無かった。テレビを切ると電話に出る
「はい。代わりました、南です」。
「弁護士さんよ、俺は見たんだがね。木村の女房が六時半ころアパートを飛び出したのをよ。聞けば無罪放免だそうだが、どうなっているんだね。少しでいいから融通して貰えないかね」。
南とドキッと背筋に冷たい物を感じた。五十代だろうか、声は掠れている。話し方は丁寧ではあるが、どこかぎこちない。
「どう言う事でしょう、ともかくお会いしてお話しだけでも訊きましょうか」。
「分かりが早いじゃないか、三十分後、春日町駅前にある喫茶店ラムーで待ってっから。少し助けてくれや。じゃあな」。
南は話器を置き、再度受話器を手にした。佐藤刑事に電話を入れる。
「佐藤刑事、早乙女です。まだお疑いならアリバイの証言者をもう一人紹介しますから、三十分後、春日駅前の喫茶店ラムーに来て下さい」。そう言うと応えも聞かずに受話器を置いた。
「お母さん、仕事の事で出掛けて来るから。一時間くらいで帰るから」。南は二階へ駆け上がる。バックを肩に出掛ける。

 喫茶店ラムー。午後六時三十分、店に入るとコーヒーを注文した。窓際の席に座り店内には若いカップルが四組、中年男性の二人連れ。背中を向けて座る中年の男。
斉藤刑事の姿はなかった。
「弁護士の早乙女さんだな」。突然背中越しに呼ばれた。電話の声と姿形が釣合わず、頬は痩けて貧弱な男であった。男はコーヒーカップを手に、南の向かいの席に移る。
「貴方ね電話くれたの」。そう言いながら藤井綾子の写真を男の前に差し出す。
男は身を乗り出す、なんだ。そんな顔をして写真に手を延ばす。
「これは木村の女房じゃねえか」。言葉とは裏腹に、写真に釘付けになる。
「それで、見たって何を見たんです?・・・」。
「エッ・・ああ、俺は木村の達で大井って言うんだけどよ。あの日の午後五時四十五分ころだったかな。春日町駅で奥さんを観たんだ。それで、そのまま東京ドームへ行った。俺もナイター観ていたから。
警も馬鹿ったれだよな。そのアリバイを証言すっから、弁護士さんよ、少し融通してくれねえかな。じゃなきゃ、アパートに居たって事にして、警に言っても良いんだがな」。
突然、隣のテーブルにいた二人の中年男性が立ち上がる。大井の隣に立つ。
「警察だ、恐喝の現行犯で逮捕する」。警察手帳を掲示する二人。
「エーッ!・・・」。大井は仰天し、逃げようとテーブルに足をぶつけ、勢い良く転んだ。胸のポケットから何かが床に落ちる。真っ白な粉が入ったビニール袋。
転んだ大井に刑事の二人は覆いかぶさる。
「なんだこれはッ!」。一人の刑事が拾い、大井の目の前に差し出した。
「申し開きがあったら聞こうか、薬だなッ!・・・覚醒剤だな」。一人の刑事が腰から手錠を取り出し。大井は頷き、観念したのか、両手を差し出した。
「弁護士さんでしたか、怪我はありませんか」。
「はい、お陰様で助かりました」。                  
「この大井と言う男は麻薬の売人でしてね。ずっと前からマークしてたんです。では後程、失礼します」。二人は麻薬取締官だった。
店内は客も少なく、大した騒ぎにはならなかった。南は運ばれて来たコーヒーに手を延ばし、ブラックで口に運ぶ。
すると、一人の男が早乙女の背中越しに歩み寄る。それは佐藤刑事である。
「どうも、観ていましたよ。あの男がアリバイの証言者でも信頼性に欠けますな。一つ忠告します、危ない真似は止した方が良いですよ。では失礼」。そう言うと早乙女の勘定書を手に、支払いを済ませて帰って行った。
NO-7-12

サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(6)&CG

2008-06-02 02:36:16 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
サブリミナル・第一章(美しい子悪魔)・NO-(6)&CG

本富士署、刑事部屋。
「失礼します。早乙女です」。
佐藤刑事はまた来たのかと言う様な、怪訝そうな顔をして歩み寄る。 
「これはこれは弁護士の先生ですか。藤井は先ほど送検しました。時期に戻りますから、まあお茶でもどうぞ」。佐藤は茶を入れて差し出す。
「それはどうも、頂きます」。と驚く事も無く、出されたお茶に手を延ばし、ゴクリと喉を鳴らす。
「佐藤さん、速まりましたね。容疑者は無実ですよ」。
ゴツンッと鈍い音がする。デカ課長が足を椅子にぶつけた音だった。痛そうに真っ赤な顔をして駆け寄った。部屋にいる刑事は一斉に視線を向けた。
「何を根拠に無実だと言うんですッ!・・・」佐藤は腕を組み、睨み付けた。
「早乙女さん、貴方なにを話したんです。貴方が接見してから一言も喋らない。確かに同情はしますよ、木村と言う男は調べれば調べるほどどうしようもない男だ。しかしね、だからって殺して良いと言う方はない」。
「ともかく恥を書かない打ちに起訴は取り下げて下さい。担当刑事と検事の汚点になりますよ。ともかく依頼人が戻れば分かります。待たせて頂きます」。
早乙女はニッコリ笑う。組んだ足を組み替える。刑事の視線は膝に注がれていた。

三十分後、第二取り調べ室。
容疑者藤井綾子は早乙女が差し入れした白のトレーナーの上下を着ている。早乙女を見るとニッコリと穏やかに微笑する。
担当検事、松沼大が正面に座る。デカ長、佐藤刑事、若い村井刑事が同席。
「さて、弁護士さんが同席しているから話してくれますね」。
綾子は隣に立つ早乙女を見上げる。早乙女は頷く。
「良いわよ、何も可も話して下さい」。早乙女は検事、刑事たちを見る。
「はい。あの日私は・・・」と、切りだす。そしてアリバイを主張する。
佐藤刑事は呆然と聞いている。検事の顔色が観る間に蒼白する。担当刑事の佐藤を睨み付ける。佐藤刑事はポカンと口を開き、額の汗を拭う。
「そんなアリバイが有るなら何故もっと早く話さなかったのかね」。
「話しました。昨日ちゃんと話しました。でも刑事さんが、そんなでたらめだ、誰が信じるんだって、取り合ってくれませんでした。お前が殺ったんだって・・・済みません先生」。藤井は両手を膝に合わせ、頭を下げる。
「もう話しても良いわよ、バッチリアリバイの証言は取れましたから」。
早乙女はバックから書類を出す。検事の松沼に差し出す。
「これは何です?・・・」怪訝そうに見上げ、眼鏡を外す。

「六日の午後六時過ぎ、藤井さんは東京ドームでナイターを観て居ました。試合開始が六時。終了したのは午後八時四十五分。試合開始から東京ドームから一歩も出でおりません。その事を知っている人達の名前です」。
検事は唯呆然と書類を見て居る。デカ長は検事に深々と頭を下げる。供述を報告しなかった事に対し、佐藤刑事を睨み付ける。
「村井、直に東京ドームへ行って裏を取れ。春日商店街の南薬局へもな」。
「はいッ」。村井は検事に頭を下げ、飛び出して行った。佐藤刑事も追うに部屋を出る。二人を追う様に廊下に出るデカ長。
「佐藤ッ!お前はいい。デカ部屋で待機してろッ!」。廊下に響く怒りの声。
佐藤刑事は力なく頭を下げ、大きく溜め息を漏らしながらデカ部屋に入った。
取り調べ室では、検事が最初から供述を求め。藤井綾子は淡々と供述を始める。
・・・・・・・・・話し終えると早乙女を見て頷く。早乙女も頷く。
「それならそうと黙秘などしないで話してくれれば・・・」検事は落胆する。
三十分も過ぎた頃、デカ長の携帯が鳴った「失礼します」と部屋を出る。
「それは本当かッ!・・」と驚きの声が廊下に響き渡った。
間もなくデカ長が戻って来る。沈痛な赴きで検事を見る。
検事は自供は真実であると確信する。
「検事、ちょっと良いですか」。
「いえ、ここで良いでしょう。アリバイは成立したんですね」。 
「申し訳ありません。犯行時間藤井さんはナイターを観ていたそうです。我々の勇み足でした。藤井さん、申し訳ありませんでした」。デカ長は深々と頭を下げた。
検事は早乙女を見ると苦笑する。カバンを持ち、黙って出て行く。
「デカ長さん、藤井さんの釈放の手続きをお願いします」。
「直ぐにします。しかし・・・」デカ長は納得がゆかない儘に部屋を出る。   
デカ部屋には、藤井綾子のアリバイの裏を取りに行った村岡が戻っていた。佐藤刑事のデスクに立ち、捜査状況を話していた。そこへデカ長が戻ってきた。
NO-6-10

小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(5)&CG

2008-06-02 02:31:58 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(5)&CG

バブル経済が破綻、会社は倒産。酒に溺れ、女や博打にのめり込んでしまった。
「敦子さん、お母さんは明日か明後日には釈放させて上げる。心配しなくて良いわよ。一つだけ約束してちょうだい。お母さんのアリバイは誰にも話さないで。弁護士として考えがあるから。叔母さんにもよ」。
「はい、母を助けて頂けるなら約束します」。じっと早乙女を見詰める。
「必ず釈放させてあげる。約束よ」。と、小指を出す。
「はい」と色白で細い小指を絡めた。
「じゃあ行くわね」と部屋を出た。

本富士署、刑事部屋。刑事は黙秘の藤井綾子に手を焼いている。
「デカ長、自供は要らないでしょう。凶器からは藤井綾子以外の指紋は検出さけていません。何も喋らないで黙秘している事が犯人だと言う事を物語っています。
それは同情はしますよ。十年も苦労させられて、ようやく別れられたら泥酔して金の無心に来て暴れた。ついカッとなって刺してしまった。それで決まりでしょう」。
「うん、動機も有り凶器も出ている、犯行時に着ていたエプロンにも害者の血痕が付着していたし。検事も行けると言っていた。送検するか」。
警察は自供のないまま、藤井綾子が本星と断定して書類送検に踏み切った。
   
春日町駅。早乙女は次なる手を打つために来ていた。そして、ホームにいる顔見知りの駅員、渡辺茂に歩み寄った。
手には藤井綾子の写真に細工を施してある。駅員は早乙女を見ると軽く敬礼し、歩み寄る。「どうも、今から仕事ですか?・・・」。
「はい、実は渡辺さんに用があって来ました。この女性知りませんか」。
藤井綾子の写真を目の前に提示する。
駅員は白い手袋をした右手で写真を受け取り、二度三度と頷いている。
早乙女は通じると分かっていても、お願い、そう願いながら念じた。
「この女性は六日の午後九時二十分に、白山方面の電車に乗った筈なんです」。
「ええ、良く覚えていますよ。六日は自分は休みでしてね。それが、病欠が出来まして、出てくれないかと電話がありまして出勤したんです。
あの日はナイターが終わって、帰りのお客さんが大勢押し寄せましてね。この女性は白山のパブ桃子で働いている藤井さんです。旦那さんが殺された事件の事ですか」
「はい、知り合いでしたか。私が弁護を」。
「そうですか、あの旦那なら殺されても仕方ないですよ。奥さん随分泣かされていましたからね、でも自分は彼女じゃないと信じています」
「ありがとう渡辺さん、近いうちに刑事が聞きに来ると思います。同じ事を話して上げて下さい」。
「ええ、勿論ですよ」とニッコリ笑顔を浮かべて敬礼していた。 
「じゃあ、お願いします」と名刺を渡し、駅を出た。

その足で東京ドームへ向かった。
午後三時、東京ドーム、正面ゲート。既にゲートが開けられていた。   
ギャザーの入ったミニスカートを着て来た事を忘れてゲートに入ってしまった。
パーッとスカートが舞い上がった。
横にいる知り合いの女性係員が、急いでスカートを押さえた。寸での所で丸見えになる所を救われた。その日に限って生足にガードルを着けて来なかった。
「幸子さんありがとう、助かったわ」。
「もう不用心なんだから、危ばかったね。でも今日はパリーグの試合ですよ」
「ううん違うの、いま担当している事件の事で聞きに来たの」。そう言いながら手帳から写真を取り出す。
大沢幸子は不思議そうな目をしてに写真を覗き込んだ。売店の広瀬加奈が走って来る。
「先輩、今日はロッテと日ハムですよ」。
「知っているわよ。そうだ、加奈も見てちょうだい」。写真を二人に見せる。
南は二人に念じた。二人は顔を上げた。
「その女性がね、六日のナイターを試合開始から終了まで観に来ていたって言うんだけど、見覚えないかな?・・・」
「あの日、先輩来なかったら南薬局さんとお母さんと一緒に観ていましたよ。お母さ んに似ているから兄弟かなって思ったくらいですから」
「私が試合開始と同時に観客席を回った時はもう居ましたよ。それに、あの日は早く試合が終わって帰りも一緒でした。・・でも何かあったんですか」。
「うん、別れた旦那さんを殺したって容疑で調べられているの。二人とも警察が聴きに来たら今の話しして上げて。じゃあお願いね」。
加奈と幸子は驚いた様に顔を見合わせる。早乙女は両手でスカートをしっかりと押さえてドームを出た。そして所轄の本富士署へ向かう。
NO-5

小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(4)&CG

2008-06-01 03:43:57 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(4)&CG

「ここで刺されたのね。無意識で刺してしまうほど前夫は嫌われていたのね。仕方ないか、十年も困らせていたんだから・・・呟く様に部屋を出る。
その足で所轄に向かい、着替えを届けた。その後、春日駅、駅前商店街へ向かう。

春日町商店街、南薬局。
「おじさん、この間はどうも。巨人今日はどうかしら」。早乙女はドリンクディス ペンサーから栄養ドリンクを取り出す。
店主は薬剤調合室から顔を出す。
「やあ、いつ見ても南ちゃんは綺麗だね。今日だって勝つさ。六日は楽しかったね、また誘うから、またお母さんとおいで」。               
早乙女はドリンクを置く、バックから藤井綾子の写真を徐に出し。そして店主に向 ける。店主は何かと写真を手に見詰めていた。
早乙女は緩やかに念じる。
「おじさん、この女性のこと覚えている?・・」顔を覗き込む早乙女。
「覚えているも何も無いよ、藤井さんだよ。たまに店にも来てくれるお客さんだよ。六日の巨人阪神戦、南ちゃん来ないからさ。お母さんが焼きそばを買いに行って、立ち観していたから連れて来てね、隣に座って貰ったんだ。子供の頃から巨人ファンだって、それで意気投合してね。今度はちゃんとおいでよ」
「うん、あの日はどうしても手が離せなくて。また誘ってね、じゃあこれ」。
とドリンク代を渡した。
「南ちゃんなら毎日でも誘うよ。いつもありがとう」。
店を出ると空車のタクシーが止っていた。「おじさん、いいですか?・・・」。
スッとドアが開き、「どうぞ、どちらまでお送りしましょう」。
「近くて悪いけど本郷まで」。
自宅では母が昼食の後片付けをしていた。娘の突然の帰宅に驚いていた。

「南ッ!・・・帰るならお昼用意しておいたのに。食べたの?・・・」
「ううんまだ、それよりさ、此の写真見てよ」。南は悪いと思いながら写真を母に 差し出す。母はエプロンで手を拭い、写真を手にする。
ごめんなさいお母さん・・・記憶の中へ入り込む。何気なく訊く。
「どう、覚えている?・・・」。
「覚えているも何もないわよ。六日のナイター、貴方が来ないから空いた席が勿体  ないでしょう。立ち観していたからお誘いしたの。
そしたら、南薬局さんのお客なんですって。確か藤井さんって言ったかしら」   完璧、南は口元を引き締めた。

翌六月九日、藤井親子が越す新居。
そこは、前のアパートから徒歩で十五分程度の所に位置する五階建ての公団住宅。
3階の302号室。チャイムを押す。「はい、どちら様でしょうか」。
か細い声で返って来る。娘の敦子である。
「早乙女と言います、お母さんの弁護士です」。
ドアロックが外され、ドアが開く。驚いた様に、クリッとした瞳が愛らしい。深々 と頭を下げる「どうぞ」と部屋へ導きいれる。
部屋は殆ど片付いてなく、段ボール箱が山と積まれていた。
「先生、母は本当にあの人を殺したんでしょうか」。目には涙が滲んでいる。
早乙女は手にしたシステム手帳の間から母親の写真を出す。テーブルに置く。
敦子は写真に手を延ばす。見詰める。
早乙女は、涙に訴える敦子の記憶の中へ入り込む。何気なく訊く。
「敦子さん、あの日の夕方、六時ころお母さんは?・・・」。
「はい、あの日は五時半頃まで母と片付けをしていました。それで、私はここへ帰って来ました。母は六時から東京ドームへ野球を観に行きました。
だから、刑事さんが言う六時半から七時にあの人を殺せる筈がないんです。
でも、母が殺してなくても私が殺していたかも知れません」。
「そんな事言うもんじゃないわよ。その事、刑事さんには話したの?・・」
「いいえ、叔母さんが来て警察の人にはは叔母さんが。だから会っていませんから。先生、母を助けて下さい。
母も私もあの男には散々泣かされて来たんです。父親だなんて一度だって思った事なんかありません。殺されても当然です」。
敦子は憎しみに満ちた怒りをぶつけ、険しい表情を伺わせる。
そして、十年前の事を話し始めた。それは、父親が落魄れていく有様を子供ながらに見て来た事を泣きながら語り、母の苦しみを訴えるのだった。
NO-4

小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(3)&CG

2008-06-01 03:41:21 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(3)&CG


私は無意識のまま避けていました。気が付くと、荷造りに使う紐を切る裁縫用のラシャ鋏で木村の胸を刺して居ました」。
「それからどうしたの?・・・」。
「気が付くと木村は倒れていました。急に怖くなって、そしたら娘の顔が頭に浮か んだんです。それからどうしたのか、自分でも良く分かりません。
気が付いたら、白山にあるお店の前にいました。時計を見ると九時三十分でした」。そう話すと綾子は、事の重大さに只々泣くばかりだった。       
早乙女はそんな綾子を見つめ、心ならずも苦笑いを浮かべていた。
犯行が行われたその時間、偶然にも私は母と東京ドームで巨人阪神戦の野球観戦をしていた。5対2で巨人が勝利した。                   
早乙女は、ゲーム開始時間から終了した九時までの事を思い返している。
ドームから春日町の駅まで歩き、九時半には自宅に戻った。
そこを、春日町駅から白山駅に向かったと訂正し、九時半には綾子の勤め先である、スナック桃子に着いた。早乙女は綾子の目をじいっと見つめた。
綾子は止めど無く流れる涙を拭い、キョトンと見つめたままだった。 
「藤井さん、もう一度訊くわよ。六日の午後六時から何をしていたの」。
「エッ・・今も話した様に午後六時から東京ドームで巨人阪神戦を観ていました。木村が殺されたのは午後六時半から七時だって言うじゃないですか。なのにどう して私が木村を殺せるんです。
でも、もし木村が来て口論になったら、私が殺していたかも知れません」。

完璧、これで良し。早乙女はにんまり頷く。
「藤井さん、今まで黙っていたのは何故なの?・・・」。
「あの佐藤とか言う刑事が、最初から私が木村を殺したんだろって言うから。野球を観ていたって言っても、どうせ信じてくれないと思って」。
「私は信じるわよ。いい事、いま私に話した事は私が良いと言うまで誰にも話しては駄目よ。話したら貴方を救えないかもしれないから」。
「・・・はい、分かりました」。小首を左に倒して不満げに頷く藤井だった。
「それから藤井さんの写真が欲しんですけど。それと着替えを持って来て上げます。 住所を教えて」。早乙女は手帳とペンを差し出した。
綾子は不思議そうにペンを取り、書出した。
「私の家からそう遠くないわね、後で着替えを届けますから。藤井さん、くどい様 だけど喋っては駄目よ。一日か一日半で出してあげますからね」。
早乙女は藤井綾子の手を握り、頷くと取り調べ室を出た。廊下の長椅子に若い刑事が座っていた。早乙女が出ると同時に腰を上げる。
「終わりましたか・・・それで、犯行を自供しまたか」村井刑事は自身ありげに含み笑いを浮かべていた。
「刑事さん、私は藤井さんの弁護士ですよ。依頼人に不利益になる様な事は話せま せん。守秘義務がありますからね。では失礼します」。
村井は悔しそうに見つめるが。早乙女は軽く頭を下げて見送った。
南は警察を後にした。

春日町、藤井綾子のアパート。
あう阿古から聞いたアパートは昔ながらの木造の二階屋のアパート。それが三棟並んだ真ん中の二階の角部屋である。
アパートの前には警察車両が一台、早乙女が近付くとドアが開き、若い巡査が降りて来た。二階へ上がる階段には黄色いテープが張られている。
「失礼ですがアパートは立ち入り禁止です」。
「分かっています、私は藤井綾子さんの弁護士の早乙女といいます。刑事課長の許可は貰って来ています」。早乙女は身分証を提示した。
巡査は驚いた様に敬礼し、無線を持つと確認の連絡を取った。
「失礼しました、どうぞ。ただ血だらけですから気を着けてどうぞ」。巡査は張ってあるテープを上に上げた。
「どうも」と礼をいいながらくぐる。
確かに巡査のいう通り、階段の下には夥しい血痕がドス黒く異臭を放っていた。
被害者、木村宏は室内で殺害された訳では無く、刺された後、意識が戻り、部屋から這って階段を降り、階下で息絶えたのである。
NO-3
藤井綾子の部屋。201号室。
室内には数々の段ボール箱が置かれていた。衣類と掛かれた箱を見つけ、荷を解いた。
下着の上下を二対、ブラウスとスカート、目に着いたトレーナーを袋に入れ、隣の部屋を覗いた。人型にロープが形作られていた。

NO-3

小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(2)&CG

2008-05-30 04:09:35 | 小説・サブリミナル・美しい子悪魔
小説・サブリミナル第一章(美しい子悪魔)NO-(2)&CG

私は無意識のまま避けていました。気が付くと、荷造りに使う紐を切る裁縫用のラシャ鋏で木村の胸を刺して居ました」。
「それからどうしたの?・・・」。
「気が付くと木村は倒れていました。急に怖くなって、そしたら娘の顔が頭に浮か んだんです。それからどうしたのか、自分でも良く分かりません。
気が付いたら、白山にあるお店の前にいました。時計を見ると九時三十分でした」。そう話すと綾子は、事の重大さに只々泣くばかりだった。       
早乙女はそんな綾子を見つめ、心ならずも苦笑いを浮かべていた。
犯行が行われたその時間、偶然にも私は母と東京ドームで巨人阪神戦の野球観戦をしていた。5対2で巨人が勝利した。                   
早乙女は、ゲーム開始時間から終了した九時までの事を思い返している。
ドームから春日町の駅まで歩き、九時半には自宅に戻った。
そこを、春日町駅から白山駅に向かったと訂正し、九時半には綾子の勤め先である、スナック桃子に着いた。早乙女は綾子の目をじいっと見つめた。
綾子は止めど無く流れる涙を拭い、キョトンと見つめたままだった。 
「藤井さん、もう一度訊くわよ。六日の午後六時から何をしていたの」。
「エッ・・今も話した様に午後六時から東京ドームで巨人阪神戦を観ていました。  木村が殺されたのは午後六時半から七時だって言うじゃないですか。なのにどう して私が木村を殺せるんです。
でも、もし木村が来て口論になったら、私が殺していたかも知れません」。
完璧、これで良し。早乙女はにんまり頷く。
「藤井さん、今まで黙っていたのは何故なの?・・・」。
「あの佐藤とか言う刑事が、最初から私が木村を殺したんだろって言うから。野球を観ていたって言っても、どうせ信じてくれないと思って」。
「私は信じるわよ。いい事、いま私に話した事は私が良いと言うまで誰にも話しては駄目よ。話したら貴方を救えないかもしれないから」。
「・・・はい、分かりました」。小首を左に倒して不満げに頷く藤井だった。
「それから藤井さんの写真が欲しんですけど。それと着替えを持って来て上げます。 住所を教えて」。早乙女は手帳とペンを差し出した。
綾子は不思議そうにペンを取り、書出した。

「私の家からそう遠くないわね、後で着替えを届けますから。藤井さん、くどい様 だけど喋っては駄目よ。一日か一日半で出してあげますからね」。
早乙女は藤井綾子の手を握り、頷くと取り調べ室を出た。廊下の長椅子に若い刑事が座っていた。早乙女が出ると同時に腰を上げる。
「終わりましたか・・・それで、犯行を自供しまたか」村井刑事は自身ありげに含み笑いを浮かべていた。
「刑事さん、私は藤井さんの弁護士ですよ。依頼人に不利益になる様な事は話せま せん。守秘義務がありますからね。では失礼します」。
村井は悔しそうに見つめるが。早乙女は軽く頭を下げて見送った。
南は警察を後にした。

春日町、藤井綾子のアパート。
あう阿古から聞いたアパートは昔ながらの木造の二階屋のアパート。それが三棟並んだ真ん中の二階の角部屋である。
アパートの前には警察車両が一台、早乙女が近付くとドアが開き、若い巡査が降りて来た。二階へ上がる階段には黄色いテープが張られている。
「失礼ですがアパートは立ち入り禁止です」。
「分かっています、私は藤井綾子さんの弁護士の早乙女といいます。刑事課長の許可は貰って来ています」。早乙女は身分証を提示した。
巡査は驚いた様に敬礼し、無線を持つと確認の連絡を取った。
「失礼しました、どうぞ。ただ血だらけですから気を着けてどうぞ」。巡査は張ってあるテープを上に上げた。
「どうも」と礼をいいながらくぐる。
確かに巡査のいう通り、階段の下には夥しい血痕がドス黒く異臭を放っていた。
被害者、木村宏は室内で殺害された訳では無く、刺された後、意識が戻り、部屋から這って階段を降り、階下で息絶えたのである。
NO-2-4