グラフィック合成-NO-65-
小説・半日の花嫁-(NO-6-)
「新田さん、椎野さんは凄く良い人でした。僕が病院の支払いにも困ってる事を知ると払ってくれたんです。こんな優しい人を誰が殺したんでしょう」。
そう言うと男はポケットから封筒を出して明に差し出した。
明は受け取って封を開けるとお金が入っていた。明は男を見た。NO-5
「その時に立て替えて頂いたお金です。昨日給料と遅れていた賞与を貰ったもんですから返そうと思っていたんです。そしたら今朝のテレビで殺されたって聞いて。それで・・」。
男は腕を目に充てると声を出して泣き始めたのだった。
「そうだったのか。要子の奴誰にも優しいから。山村さん、要子に直接返してやって下さい。来てくれてありがとう」。
「はい、僕が線香をあげて良いんですか。有り難うございます。新田さん、椎野さん僕に言ったんです、もっと清潔にして頭の薄い事なんか気にしないで頑張ってればきっといつかは良い人が見付かるって。
あんなに優しい天使みたいな女性を誰が殺したんですか。犯人が憎いです」。
矢部刑事たちは唖然としなが村山を解放した。明は家に上げると要子の柩の前に連れて行った。村山は涙を流しながら柩の上に両手で封筒を置き、焼香した。
「椎名さん、有り難うございました。僕は悔しいです」。村山は震えた両手を合わせ、明と良美に挨拶して寂しそうに帰って行った。
そして午後になると信州の安曇野から、他界した父親の親戚も駆け付けた。しかし、良く言う者はいなかった。安曇野を捨てて出て行ったから、とか。
殺されるような女性と付き合うからだとか、明たちは散々言われても黙って聞いていた。そして焼香を済ませるとそそ草に帰って行った。
そんな明の隣にいた母輝子は親戚が帰ると人知れず塩を撒いた
その晩、臥せっていた要子の父親もやっと起きて来た。窶れてくぼんだ目には涙が一層哀れに思えてならない明だった。
「明君、皆さん、ご面倒をお掛けして済みません。私はどうしたら良いか分からなくなりました。こんな事がまさか自分の身に降り懸かって来ようとは夢々思いませんでした」。
フ~ッと溜め息を漏らすと肩をガックリ落とし、遺影を見ていた。
その晩、明は一睡もせずに二人の線香を絶やさず、ブツブツ何か語り掛けていた。
そんな兄を支えるように芳美は寄り添っていた。
翌日。朝から読経が流れる中、しめやかに告別式が行われた。
十一時には出柩の運びとなり、要子と義母の柩は二台の霊柩車に乗せられ、葬儀場に運ばれた。
明は一人待合い室をでると、立ち登る煙突の煙りをじっと見詰めていた。
そんな兄を、芳美は待合い室の窓から見て、言い知れない胸騒ぎを覚えるのだった。
芳美が席を立つと母は娘の手を持った、そっと首を横に振って止めた。
「一人にしてあげなさい。明は一人で要子さんを見付けて来て結婚も決めたの、今度も一人で送ってやりたいのよ。明はああやって要子さんを忍んでるの」。
「うん、お兄ちゃん可哀相で」。
明は微動だもせず、じっと煙突を見つづけていた。そしてスピーカーから荼毘が終わり、集合の知らせが流れた。明は真っすぐに釜前に走った。釜から出された要子の変わり果てた姿に目を見開いて涙を流していた。
その涙が要子に落ち「ジュッ」と蒸気になって消えた。そして係の人の手でブリキの皿に入れられた。要子、僕がきっと敵を討ってやるからな。そう心に誓う明だった。
こうして葬儀はつつがなく悲しみの中で終わり、一週間が経った。
明は要子と暮らす筈だったマンションに仏壇を買うと家を出た。
警察では未だ犯人に結び付く手掛かりが掴めず苦慮していた。
そして更に時間は流れ、九月一日、突然要子の父親が明を訪ねて来た。
「明君、此れは要子が引っ越しの為に荷造りしてまだ部屋に置いてあった物です。何が入っているのか知らないが明君に渡したい」。
明は幾分顔色が良くなった義父に安心したようだった。ダンボール箱を受け取るとズッシリ重かった。
「義父さん、要子とここで数日過ごしただけです。要子は此々にベビーベットを置いてとか・・・ここに・・・」、明は声に詰まってその先は言葉にならなかった。
そして仏壇の前に座ると、じっと遺影を見詰めていた。
そんな明を見て、「明君、元気を出してくれないか。そんな明君を見たら娘も悲しむ。私も頑張るから。ではまた来ます」義父は元気を出すように涙ながらに言い聞かせた。
そして焼香を済ませると義父は部屋を見渡して帰って行った。
そして、昼になると母親と妹が食事を持ってやって来た。
「お兄ちゃん、そろそろ外へ出なきゃ駄目だよ。要子さんだってそんなお兄ちゃん見たくないって言っているよ」。
「分かっている。なあお袋、店を手伝わせてくれないかな」。
NO-6-12
小説・半日の花嫁-(NO-5-)
すると何かを言いたくてならないように妹がいらついていた。そんな仕草に気付いたのか矢部刑事が芳美の顔を見た。
「妹さん、もし何かご存じでしたらどうぞ聞かせて下さい」。
「はい。お兄ちゃん、私をストーカーしてたあの男は?・・あの男だったら私達家族の事を調べていたじゃない。要子さんの事も」。
明は思い出したように顔を上げた。そして芳美を見て頷いていた。
ああ・・・と明は顔を上げた。二人の刑事は興味あり気に身を乗り出した。
「で、どんな男です。いつ頃の話ですか?・・・」。矢部刑事の声は心なしトーンが上っていた。そして芳美と明の顔を交互に見据えた。
「三ケ月ほど前の五月の始めごろです。突然店に来て私と交際して欲しいって言って来たんです。私のタイプじゃなかったし、こんな事言うと失礼ですけど、髪が薄くて身なりが汚いんです。それでハッキリお断りしたんです。
それから何回か店に来てくれて、その度に映画に誘われたりドライブに誘われたりしていたんです。それで困ってる私を見兼ねた母がお兄ちゃんに話したんです。
それで男が店に来てくれた時にハッキリ断ってくれたんです。
付き合う気はないし、汚い恰好で来ると店の客にも迷惑だから二度と来ないで欲しいって。それから暫く家の周りで見張っていて、私が買い物に行くと後ろを着けていました。
それで余りにもストーカー行為が続くものだから警察に通報したんです。
そうしたらすぐにパトカーで来てくれて、男に話していました。それからはピタッと来なくなりました。でもあんな大それたことする様には見えませんでしたけど。
でも、その男が言っていました。兄貴の女は奇麗だって、私に似ているって。その時に来てくれたお巡りさんに聞いて頂ければ男の住所は分かると思います」。
すると、矢部刑事が飯島刑事の耳元で何かを言うと席を立ち、庭に出て携帯で電話をしていた。「通報したのは一月前ですね?・・・」。
「はい、あのころ結婚式の話でお姉さん良く来ていましたから。あのもお姉さんも男の顔は見て知ってます。ねえ、お兄ちゃん」。
「うん、でもあの貧弱な男が考えられない。背は小さくてヒョロッとしていて、要子は165だぞ。その要子の首の骨を折るような力があの男にあるかな?・・・」。
要子、いったい誰に殺されたんだ、教えてくれ。明は壁の写真をじっと見詰めながら何度も無言で聞いていた。
すると、二人が式を挙げる筈だった結婚式場から担当のウェデングコーディネーターと支配人が弔問に来た
「この度はなんと申し上げて宜しいか。お力をお落としになりません様に。これは新婦様の」その中身はウェディングドレスだった。明は涙を必死で堪えていた涙が溢れだし、嗚咽した。そして震える手て柩を開けた。
「要子、お前のウェディングドレスが届いたぞ。いま着せてやるから」。周りにいた弔問客や親戚の涙を誘い、家の中から外に至るまで啜り泣く声に包まれた。
そんな中にいま話していた男が喪服姿で来ていたのだった。
良美はその男を見付けると矢部刑事にそっと伝えた。刑事はさりげなく近付くと声を掛けた。すると、男はおどおどしながら涙を流しているのだった。
矢部刑事は男を連れて家の裏に廻ると明を呼んだ。
「警察です、貴方はどう言う関係でこちらの葬儀に来たんです」。と矢部刑事は手帳を出して男に見せた。すると男は震え出した。
「ぼ僕は何も、ただ芳美さんのお兄さんの婚約者が殺されたって聞いたもんだから、そ、それで線香の一本もと思って、済みません」。
「それで、貴方の名前と住所は」?
「は、はい。村山芳幸26才です。住所は梅屋町三ー五ー十五、曙アパート201号室です。仕事は新聞配達してます」。
男はおどおどしながらもしっかりとした口調で答えると頭を下げた。そして良く見ると不精髭も剃って嫌な臭いもしなかった。
「貴方と椎野要子さんとはは全く関係ないでしょう」。
「はい、済みません。先月盲腸で椎野さんの病院に入院した時に、芳美さんをストーカーしてた事を知ってながら、こんな僕ににも凄く優しくしてくれたんです。それで外の患者さんに誘われて」。
要子が、明は初めて聞いた。自分に話せば不愉快な思いをさせると思って話さなかったんだと明は思った。
NO-5-10