小説・鉄槌のスナイパー3章・NOー(92)
「ええ、いまデカ部屋からです。そうそう、昨日は話す時間がなくてお話し出来ませんでしたが、殺し屋の西崎ですがね、彼の部屋のパソコンから亀石峠の三人は殺し屋だった証拠が見付かりました。
それから、西崎はジェラルミンケースの事は知りませんでした。電話じゃなんですから、またお邪魔した時に話します」。
「そうですか。じゃあ無理しないように頑張って下さい」。京平の不安は何も可も消えた。スッキリした表情に代わっていた。電話を切ると殺し屋の事を美保に知らせた。
「亀石峠の殺し屋の事だけど・・・」と話し始めると強張った表情を見せた。
そして話が終わるころには美保の顔にも笑顔が戻り、優しい目に変わっていた。
京平以上に気にしていたようだった。
「じゃあこれで安心ね」美保は一息付いて口を開こうとすると、
「言わなくても分かる。もう仕事は止めよう。あれは別荘の地下室に封印しよう。こんな事いつまでも続けてはいられないからね」。
「うん、それを言おうかなって思っていたの。京平さん私の事良く分かっているね、嬉しい、私凄く幸せです。愛しています」。
「俺も、愛しているよ美保」。
二人は抱き合いキスした。するとチャイムがなって母美代子が帰宅した。
二人は慌てて離れると京平の唇の口紅を拭いていた。
すると、いつもは帰りの遅い父明雄のベンツがガレージに入った。二人は父を玄関まで迎えに出た。
「おやっ、ただいま。二人してどうした」。
「お帰りなさいお父さん。子供の頃はいつもこうだったじゃない」。
「そうだったね。有り難う、二人に土産があるぞ」。リビングに行くと父明雄はカバンから箱を二つ取り出した。
「開けてごらん」。二人はリボンを解いた。カルティエのペアオゥッチだった。
「お父さん、有り難う。覚えていてくれたんだね」。
「うん、結婚したら贈るって約束だったからね。大事な娘との約束を忘れるものか。京平君、改めて美保を頼んだよ」。
京平は頷いて握手した。そんな光景を母美代子はキッチンから見ていた。父と娘が真の親子に戻った。そう感じた母の目には光る物があった。
そしてその晩の夕食は母美代子自慢のジューシーなトンカツだった。その味噌だれの味は関西特有な赤味噌の甘味は美味だった。
そして食後は座敷に造られたお茶室に移り、美保がお茶を立てた。
京平は初めて知る美保の袱紗を操る優雅さ、落ち着いた身のこなしとお手並みに、作法など知らない京平にも素人かそうでないかは見分けが着く程だった。京平はただ驚いていた。
そしてお茶を出され困っていると「好きに飲んでいいのよ」。
と美保は優しく笑い掛けていた。
「そうよ京平さん、お茶は形はあるれど作法と味わうのは別物よ」。京平は頷くと右手で茶碗を持ち、両手で持つと一気に飲んだ。
「ズズッ」と吸って飲み干した。「美味しい、もう一杯」。
京平は思わずそう口に出ていた。
「アッ、ハハハハ・・・はい、でも少し待ってね。母と父の次ぎにね」。
「京平君、美保は子供の頃から母親に習っていてね、高校を卒業する頃には免許皆伝なんです。きっとペンションでも役に立ちますから、お父さんに話して考えてやって下さい」。
美保は京平を見ると「うんうん」と頷いて茶を立てていた。
こうして母と父に茶を立て、二杯目の茶を立ててくれた。そんな座敷には笑いが溢れ膝を崩して茶道の話で盛り上がっていた。
こうして美保の子供の頃の話しに話題が変わり、母はアルバムを出して来た。
生後から大学を卒業するまでの記念写真が美保の成長の記録だった。
それを見て京平は両親の愛情を一心に注ぎ込まれていた事が手に取るように分かった。
そんな大事な娘をあんな片田舎に連れて行った事で、父親の気持ちが少なからずも分かったような気がしていた。
「でも良かったね美保、こんなに優しいお婿さんに嫁ぐ事が出来て。父さん、白馬のお父さんが来て二人の事を話してくれへんかったら一生後悔する所やった。今は感謝してる。なあお母さん」。
「ほんまや、白馬のお父はん。こん人にこう言ったんへ。貴方は娘の幸せより自分が幸せになりたいんじゃないのかって。
本当に娘や息子の幸せを考えるんやったら、結婚相手を見付けて来はったら自由にさせて祝ってやらんと、もし、万が一戻って来はったら暖かく受け止めてやるのが親じゃないんかって。
こん人、それを言われはって反論出来へんかったんへ。それでこんひと目が冷めたんへ」。
義父は何も言わず黙って頷いていた。その目は本当に優しい目をして見詰めていた。
「済みません、父がそんな失礼な事を。僕が一度失敗していますから」
「京平君、そんな事は関係ないよ。私は今まで傲慢で良かれと思っていた事は娘もお母さんも苦しめていた事が言われて分かったんですからね。
実に愚かな事をしていたと、大いに反省しています。お母さんがデパートに店を出す時は、家を出ると行った。私はその時に初めて孤独と言う物を感じました。美保は家を出てしまった。この上、お母さんにまで見放されたら、そう思った時にづっと自分のして来た事を思い返していたんだよ。
そんな時に紺野さんが突然訪ねてくれてね。そう言われた時は大きなハンマーで頭を叩かれた思いだった。
白馬のお父さんがこう言ってくれた。お父さんが許してくれなくても、私達夫婦と息子がお嬢さんをきっと幸せにしてみせると」。美保はハンカチを握り締めながら父を見て涙を流していた。
「お父さん、ごめんなさい。そして有り難う、私いま凄く幸せです。本当に我がままでごめんなさい」。
「いや、私が悪かったんだ。泣くのは止めなさい、お腹の子に悪いからね」。
「うん、でも何年振りかしら。こうして親子で話をするなんて。こうして昔の親子に戻れたのも京平さんと知り会えたからよね。京平さん、有り難う。お父さんもお母さんもお礼を言ってよね」。
「そんな事ないさ、自分はそんなんじゃないよ」。
すると義父母は畳みに手を添えて頭を下げるのだった。そして美保もまた三指を付いて両親と共に頭を下げていた。
京平は座り直すと三人の頭より低く畳みに額を付けていた。
すると「ウフッ」と美保が含み笑いを浮かべると、揃って頭を上げて目を合わせた。そして四人は大笑いしていた。その笑い声は外ににまで響いていた。
NO-92-25
「ええ、いまデカ部屋からです。そうそう、昨日は話す時間がなくてお話し出来ませんでしたが、殺し屋の西崎ですがね、彼の部屋のパソコンから亀石峠の三人は殺し屋だった証拠が見付かりました。
それから、西崎はジェラルミンケースの事は知りませんでした。電話じゃなんですから、またお邪魔した時に話します」。
「そうですか。じゃあ無理しないように頑張って下さい」。京平の不安は何も可も消えた。スッキリした表情に代わっていた。電話を切ると殺し屋の事を美保に知らせた。
「亀石峠の殺し屋の事だけど・・・」と話し始めると強張った表情を見せた。
そして話が終わるころには美保の顔にも笑顔が戻り、優しい目に変わっていた。
京平以上に気にしていたようだった。
「じゃあこれで安心ね」美保は一息付いて口を開こうとすると、
「言わなくても分かる。もう仕事は止めよう。あれは別荘の地下室に封印しよう。こんな事いつまでも続けてはいられないからね」。
「うん、それを言おうかなって思っていたの。京平さん私の事良く分かっているね、嬉しい、私凄く幸せです。愛しています」。
「俺も、愛しているよ美保」。
二人は抱き合いキスした。するとチャイムがなって母美代子が帰宅した。
二人は慌てて離れると京平の唇の口紅を拭いていた。
すると、いつもは帰りの遅い父明雄のベンツがガレージに入った。二人は父を玄関まで迎えに出た。
「おやっ、ただいま。二人してどうした」。
「お帰りなさいお父さん。子供の頃はいつもこうだったじゃない」。
「そうだったね。有り難う、二人に土産があるぞ」。リビングに行くと父明雄はカバンから箱を二つ取り出した。
「開けてごらん」。二人はリボンを解いた。カルティエのペアオゥッチだった。
「お父さん、有り難う。覚えていてくれたんだね」。
「うん、結婚したら贈るって約束だったからね。大事な娘との約束を忘れるものか。京平君、改めて美保を頼んだよ」。
京平は頷いて握手した。そんな光景を母美代子はキッチンから見ていた。父と娘が真の親子に戻った。そう感じた母の目には光る物があった。
そしてその晩の夕食は母美代子自慢のジューシーなトンカツだった。その味噌だれの味は関西特有な赤味噌の甘味は美味だった。
そして食後は座敷に造られたお茶室に移り、美保がお茶を立てた。
京平は初めて知る美保の袱紗を操る優雅さ、落ち着いた身のこなしとお手並みに、作法など知らない京平にも素人かそうでないかは見分けが着く程だった。京平はただ驚いていた。
そしてお茶を出され困っていると「好きに飲んでいいのよ」。
と美保は優しく笑い掛けていた。
「そうよ京平さん、お茶は形はあるれど作法と味わうのは別物よ」。京平は頷くと右手で茶碗を持ち、両手で持つと一気に飲んだ。
「ズズッ」と吸って飲み干した。「美味しい、もう一杯」。
京平は思わずそう口に出ていた。
「アッ、ハハハハ・・・はい、でも少し待ってね。母と父の次ぎにね」。
「京平君、美保は子供の頃から母親に習っていてね、高校を卒業する頃には免許皆伝なんです。きっとペンションでも役に立ちますから、お父さんに話して考えてやって下さい」。
美保は京平を見ると「うんうん」と頷いて茶を立てていた。
こうして母と父に茶を立て、二杯目の茶を立ててくれた。そんな座敷には笑いが溢れ膝を崩して茶道の話で盛り上がっていた。
こうして美保の子供の頃の話しに話題が変わり、母はアルバムを出して来た。
生後から大学を卒業するまでの記念写真が美保の成長の記録だった。
それを見て京平は両親の愛情を一心に注ぎ込まれていた事が手に取るように分かった。
そんな大事な娘をあんな片田舎に連れて行った事で、父親の気持ちが少なからずも分かったような気がしていた。
「でも良かったね美保、こんなに優しいお婿さんに嫁ぐ事が出来て。父さん、白馬のお父さんが来て二人の事を話してくれへんかったら一生後悔する所やった。今は感謝してる。なあお母さん」。
「ほんまや、白馬のお父はん。こん人にこう言ったんへ。貴方は娘の幸せより自分が幸せになりたいんじゃないのかって。
本当に娘や息子の幸せを考えるんやったら、結婚相手を見付けて来はったら自由にさせて祝ってやらんと、もし、万が一戻って来はったら暖かく受け止めてやるのが親じゃないんかって。
こん人、それを言われはって反論出来へんかったんへ。それでこんひと目が冷めたんへ」。
義父は何も言わず黙って頷いていた。その目は本当に優しい目をして見詰めていた。
「済みません、父がそんな失礼な事を。僕が一度失敗していますから」
「京平君、そんな事は関係ないよ。私は今まで傲慢で良かれと思っていた事は娘もお母さんも苦しめていた事が言われて分かったんですからね。
実に愚かな事をしていたと、大いに反省しています。お母さんがデパートに店を出す時は、家を出ると行った。私はその時に初めて孤独と言う物を感じました。美保は家を出てしまった。この上、お母さんにまで見放されたら、そう思った時にづっと自分のして来た事を思い返していたんだよ。
そんな時に紺野さんが突然訪ねてくれてね。そう言われた時は大きなハンマーで頭を叩かれた思いだった。
白馬のお父さんがこう言ってくれた。お父さんが許してくれなくても、私達夫婦と息子がお嬢さんをきっと幸せにしてみせると」。美保はハンカチを握り締めながら父を見て涙を流していた。
「お父さん、ごめんなさい。そして有り難う、私いま凄く幸せです。本当に我がままでごめんなさい」。
「いや、私が悪かったんだ。泣くのは止めなさい、お腹の子に悪いからね」。
「うん、でも何年振りかしら。こうして親子で話をするなんて。こうして昔の親子に戻れたのも京平さんと知り会えたからよね。京平さん、有り難う。お父さんもお母さんもお礼を言ってよね」。
「そんな事ないさ、自分はそんなんじゃないよ」。
すると義父母は畳みに手を添えて頭を下げるのだった。そして美保もまた三指を付いて両親と共に頭を下げていた。
京平は座り直すと三人の頭より低く畳みに額を付けていた。
すると「ウフッ」と美保が含み笑いを浮かべると、揃って頭を上げて目を合わせた。そして四人は大笑いしていた。その笑い声は外ににまで響いていた。
NO-92-25
小説・鉄槌のスナイパー3章・NOー(91)
「真田、じゃあ元気でな。暇があったら遊びに来てくれ」。
「はい、是非行かせていただきます。色々と有り難うございました」。そして京平は家の少し手前で車を止めると降りた。
真田は京平に手を振ると帰って行った。京平はブリーフケースを手に玄関を開けると美保が立っていた。
「お帰りなさい、もう父と母は眠っているからそっとね」。
「ただいま」。
美保は京平の手からブリーフケースを受け取ると玄関に鍵を掛け、玄関の明かりを消して二階に上がった。
そして部屋に入るとそっと京平の首に腕を回して抱き着いた。
「見逃してやったのね、きっとそうすると思った。大丈夫なの?・・・」。
「うん、まだ十九才の子供だ。車のローンが払えなくて計画したと言っていたよ。だからローンの分と二百万渡して帰した」。
「そう、じゃあ三河さん反対したでしょ」。
「少しね、でも分かってくれたよ。それから真田が美保に有り難うって伝えてくれって。全部話したんだ」。
「そう、此れで真田さんも幸子の位牌にお参り出来るわね。さあ、今夜はもう遅いからお風呂入ろう」。
二人でそおっと風呂に入ると、ベッドに入った。
そして美保は腕の中に身体を預けるように眠った。
翌日、京平と美保は一日中家で留守番をしながらゆっくり身体を休めていた。そして夕方、母が帰宅する時間にはリビングに降り、テレビのスイッチを入れてを見ていた。すると思いもしないニュースが流れた。
それは交通事故のニュースだった。始めは聞き流していた。
「ねえ、この事故死したって山下辰彦って人、夕べの男の子じゃないの」?
京平はテレビに身を乗り出して見入っていた。
すると顔写真が出た。間違いなくあの山下辰彦だった。
彼は昼過ぎに嵯峨野にある嵐山高雄パークウェイの鳥居本に近い大きなカーブを曲がり切れず、ガードレールに激突し、その反動で対向車線に入り、大型トラックと衝突して即死状態だったと言うのだった。すると、京平の携帯が鳴った。美保が出ると真田だった。
「真田です。奥さん、旦那さんから聞きました。色々有り難うございました。ご主人はいますか」。
「うん、良かったね。待って」。そして京平に代わった。
「紺野さん、夕べは有り難うございました。それで、ニュース見ましたか。山下が嵯峨野で事故って死にました」。
「うん、俺もいま見て驚いていたんだ。バカな奴だ、せっかく助けてやったのに事故って死ぬなんてな」。
「ええ。今日午前中山下から電話があって、借金払ったと知らせて来たんです。それに仕事も見付かったからって。なんか気の毒な気がしてなりません」。
「そうだったのか、まあ、此れも彼の運命だったんだ。仕方ないな」。
「はい、呆気ないですね。それをお知らせしたくて電話しました。いつまで京都とにいられるんですか」。
「うん、もう一日ゆっくりして十七日に帰ろうと思う。色々大変だったな、お前も車の運転には気を付けろよ」。
「はい、有り難うございます。じゃあ失礼します」。
京平は何とも言えない空しさを感じながら電話を切った。そして真田から聞いた事を美保に伝えた。
「なんか気の毒ね、真田さんも他人事に思えなかったでしょうね。借金も払って仕事も見付かって、此れからって時に死んでしまうなんて、私会わなくて良かった」。
「うん、悪い男には思えなかったからね。こんな事言うと不謹慎だけど、此れで心配事が消えた事は確かだな」。
「そうね」。するとまた携帯が鳴った。「きっと三河さんよ」。
と言いながら美保は携帯に出た。
「いま噂していたんです、真田さんからも電話があったばりです」。
「そうですか、山下もつまらん死に方しました。なんか気の毒でね。それで電話したんです。奥さん達はいつ戻られます」。
「はい、京平さんは十七日に戻ると言っています。代わりますね」。
「もしもし、夕べはお疲れ様でした。山下も気の毒でしたね」。
「まったくです。しかし我々の存在は闇の中です」。
「まあそう言う事ですかね、それで三河さんはもう東京ですか?・・・」。
NO-91-22
「真田、じゃあ元気でな。暇があったら遊びに来てくれ」。
「はい、是非行かせていただきます。色々と有り難うございました」。そして京平は家の少し手前で車を止めると降りた。
真田は京平に手を振ると帰って行った。京平はブリーフケースを手に玄関を開けると美保が立っていた。
「お帰りなさい、もう父と母は眠っているからそっとね」。
「ただいま」。
美保は京平の手からブリーフケースを受け取ると玄関に鍵を掛け、玄関の明かりを消して二階に上がった。
そして部屋に入るとそっと京平の首に腕を回して抱き着いた。
「見逃してやったのね、きっとそうすると思った。大丈夫なの?・・・」。
「うん、まだ十九才の子供だ。車のローンが払えなくて計画したと言っていたよ。だからローンの分と二百万渡して帰した」。
「そう、じゃあ三河さん反対したでしょ」。
「少しね、でも分かってくれたよ。それから真田が美保に有り難うって伝えてくれって。全部話したんだ」。
「そう、此れで真田さんも幸子の位牌にお参り出来るわね。さあ、今夜はもう遅いからお風呂入ろう」。
二人でそおっと風呂に入ると、ベッドに入った。
そして美保は腕の中に身体を預けるように眠った。
翌日、京平と美保は一日中家で留守番をしながらゆっくり身体を休めていた。そして夕方、母が帰宅する時間にはリビングに降り、テレビのスイッチを入れてを見ていた。すると思いもしないニュースが流れた。
それは交通事故のニュースだった。始めは聞き流していた。
「ねえ、この事故死したって山下辰彦って人、夕べの男の子じゃないの」?
京平はテレビに身を乗り出して見入っていた。
すると顔写真が出た。間違いなくあの山下辰彦だった。
彼は昼過ぎに嵯峨野にある嵐山高雄パークウェイの鳥居本に近い大きなカーブを曲がり切れず、ガードレールに激突し、その反動で対向車線に入り、大型トラックと衝突して即死状態だったと言うのだった。すると、京平の携帯が鳴った。美保が出ると真田だった。
「真田です。奥さん、旦那さんから聞きました。色々有り難うございました。ご主人はいますか」。
「うん、良かったね。待って」。そして京平に代わった。
「紺野さん、夕べは有り難うございました。それで、ニュース見ましたか。山下が嵯峨野で事故って死にました」。
「うん、俺もいま見て驚いていたんだ。バカな奴だ、せっかく助けてやったのに事故って死ぬなんてな」。
「ええ。今日午前中山下から電話があって、借金払ったと知らせて来たんです。それに仕事も見付かったからって。なんか気の毒な気がしてなりません」。
「そうだったのか、まあ、此れも彼の運命だったんだ。仕方ないな」。
「はい、呆気ないですね。それをお知らせしたくて電話しました。いつまで京都とにいられるんですか」。
「うん、もう一日ゆっくりして十七日に帰ろうと思う。色々大変だったな、お前も車の運転には気を付けろよ」。
「はい、有り難うございます。じゃあ失礼します」。
京平は何とも言えない空しさを感じながら電話を切った。そして真田から聞いた事を美保に伝えた。
「なんか気の毒ね、真田さんも他人事に思えなかったでしょうね。借金も払って仕事も見付かって、此れからって時に死んでしまうなんて、私会わなくて良かった」。
「うん、悪い男には思えなかったからね。こんな事言うと不謹慎だけど、此れで心配事が消えた事は確かだな」。
「そうね」。するとまた携帯が鳴った。「きっと三河さんよ」。
と言いながら美保は携帯に出た。
「いま噂していたんです、真田さんからも電話があったばりです」。
「そうですか、山下もつまらん死に方しました。なんか気の毒でね。それで電話したんです。奥さん達はいつ戻られます」。
「はい、京平さんは十七日に戻ると言っています。代わりますね」。
「もしもし、夕べはお疲れ様でした。山下も気の毒でしたね」。
「まったくです。しかし我々の存在は闇の中です」。
「まあそう言う事ですかね、それで三河さんはもう東京ですか?・・・」。
NO-91-22